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71 異界流転 参-2 (改訂-5)

【異界流転 参-2】をお送りします。


宜しくお願いします!



「どの世界でもいつの時代でも悪党の会話はどこも同じ様なものだな」

 マーリンは頭の中で使い魔から四大貴族の報告を聞いた。



「あそこまでわかり易いと行動が読み易い」



 ヒロトは何やら書き留めている。兵站の物資数量を計算しているようだ。

 防衛大学の戦略・戦術理論実技ではいつもトップだった。

 シュミレーターでヒロトに勝てる者は上級学年にもいなかった。

 歴史上の戦争を考察し、その時の最善策を導き出す事が上手かった。同期や教授からはいずれ自衛軍参謀部入りは確定だと言われていた。

 父が自衛軍幕僚長を拝命したその日に妹が倒れてからは学業が身に入らなくなった。それからは父と顔を合わせるたびにいつも喧嘩になる。



「ヒロトさんは、現世では軍学校に入っていたのですか? 」

 総司は久しぶりに、着替えなどの身の回りの物を、取りに宿舎に戻っていた。



「俺の時代の日本では、身分に関係なく頑張れば学校にはいれるんだよ。そこで軍の何たるかを学ぶ」



「羨ましいな〜、私も行きたいな〜、未来の軍学か〜」


「軍学なんか基本は何百年、何千年と変わっていないよ」


「どう言う事です? 」



「情報と兵站を握った方が勝つ。総司にわかりやすくすると、例えば秀吉の大返しってあるよね」


「備中高松城(岡山県)から、山崎まで七日たらずで駆け戻って明智光秀軍を破った話しですよね? 」


「ああ、あれは明智の謀反を事前に予測していないと出来ない事なんだよ」


「事前に秀吉が知ってたんですか? 」


「ああ、現代では戦争を行うにも計算がかかせない。例えば一日に八里(一里は約四キロ)の行程を三十キロの装備を持って行くとする。これを七日繰り返すと高松城から山崎に到達する。秀吉は毛利と和睦したが、完全に軍を引いては背後を撃たれる。だから大返しに動かした軍は一万ぐらいだ。八里の距離を当時のフル装備で歩いたら、一日に二十個の御結びが必要、水も一人二リットルはいる。一万の軍だと日に二十万個の御結びがないと体力の維持が出来ない。(大日本帝国陸軍の行軍データに基づいて)米や水以外にも味噌や塩なんかも動かす」


「そうか! 」


「そう、つまり事前に手配していなかったらこれだけの物量を用意する事自体が不可能なんだ。さらにこの大返しの事を事前に摂津の国衆(いまの大阪)に先触れを出している。文面には、羽柴秀吉が主君織田信長の敵討ちの為、備中より七日で馳せ参じるとある。それにより、日和見だった国衆が羽柴軍に参陣、四万の軍勢に膨れ上がった。明智軍は約二万、これも秀吉の計算だ。さらに明智と同盟を結んでいた四国の長宗我部に対して、四国から渡れないように、事前に淡路島の城を攻撃している」


「なるほど、戦う前にすでに勝ち負けが決まっているのですね」


「ああ、だから情報と兵站こそが戦の基本であり、本質なんだ。この事を理解していた武将は殆どいない。日本の歴史上、その本質を理解していた人物の名前を上げるとしたら、楠木正成、織田信長、羽柴秀吉そして源九郎判官義経、大村益次郎、山本五十六ぐらいかな」




◆◇◆




「そういえば今朝はなにやら皇都の商人と会っていたようじゃな?なにを今度は画策している? 」



「画策とか言われたら、なんか悪巧みしてるみたいじゃないか? 」



「違うのかえ? 」



「この世界の主食は麦、米、豆と色々ある。皇国は米だね。それを騎士団の名目で買い占めてる」



「そんなに米が必要か? 」


「いいや。今は必要ない」


「なら何故? 」


「後々必要になる様に誘導している」


「? よくわからんな」 


「市場の米を買い占めたら、市場からは米が無くなるよね」


「うむうむ」


「米が無くなったら市場での相場は高くなる。貴族はその相場札を買って投資しているから一旦は儲かる。さらに儲けようと、更に投資するように仕向ける」


「うむむむ? 」


「その後で買い占めた米と軍が溜め込んだままの米の在庫を市場に放出する。するとどうなる? 」


「?? まるるら? どうなる? 」


「米相馬は暴落する」


「成る程。貴族が持っている相場札は価値が無くなる」



「これから刈り入れ時期になる。いまから買い占めに入れば秋には面白い事になる」

ヒロトは悦にいった顔になる。



「やはりお主は恐ろしいの〜」



「これから別の商人と会ってくる。やるなら早い方がいい。厄災の渦は動いているからね」





 エレクトラの執務室でヒロトは更に複雑な計算をこなしていた。これから大商人が訪ねてくる。

 その為の資料を作成しているが、あとは話しの後だなと台帳を閉じた。するとドアをノックする音がして、まだ若い男が恭しく入ってくる。

(歳の頃は二十台半ばか?それで三大商家の当主の一人か。俺より少し上かな)


 礼儀正しい青年はエレクトラから勧められた椅子に腰をかけて丁寧に挨拶した。



「プレイトウ商会のカノン・プレイトウです」



「ご足労願いありがとうございます。ヒロトと申します」



 ヒロトが先に話しを始めた。

 エレクトラが紅茶を入れてくれる。

 アリストラス皇國の名産品でその中でも一級品だ。本来は外国への輸出品に使われる。



「皇王家からの御用命とあらば、いつでも馳せ参じます」



「単刀直入にお聴きします。いまお手元にある米を売って頂きたい」



「米をですか? いかほど? 」

 訝しむ気持ちを抑えてカノンは聞き返す。



「手持ち分を全て。あと国外にある在庫も全て」



「価格操作をなさるお考えか? 」

 驚きはあるが予想の範囲内と言う顔だ。



「流石に切れ者との噂は本当ですね。その通りです」



「なら止めて置いた方がよいです。利益にはなりませんよ」



「利益にはなりません。それは重々承知です」

 ヒロトは紅茶のカップを手に取り一口頂く。



「なら買い占める理由は? 戦争に備える? または誰かに……損をさせる?……」

カノンは考え込んで、黙り込んでしまった。



「まさか後者ですか? 誰を? 」



「四大貴族」

 チェスの相手でも指名するぐらいの気軽さで話しをする。


「本気ですか? 」

 カノンは絶句した。腰が少し椅子から浮いている。



「三大商家の貴方がこちら側に来て頂ければ勝算はある」



「相場札で損をさせて大貴族の力を削ぐお考えか?! 」

 下手をすれば、反乱事になりかねない。


「米を買い占めるのは我らの勝手。損をするのは、奴らの勝手」



「本気なのですね。何故私なのです? 」



「貴方が若いからです。変えたいでしょう? この世界を」



「貴方になら出来ると? 災厄の渦が始まったこのタイミングで? 」



「人も人の世界も脅威が目の前にまで来ないと目が覚めない。このタイミングだからこそ良いのです……それに、既に戦争は始まっていますよ」



「……軍が後盾ですか? 軍が保有する米の量は? 」



「四百万クルーズ」



「四百万? 私の予想の倍もあるのか。成る程、貴方は市場の事をよくご存知のようだ。私が居なくても実行されたのでは? 」



「そこまで愚かではないですよ」



「わかりました。その話し乗りましょう! 」



「我らの話しに乗る限りはとことんやって頂きます。そうですね〜四大貴族を潰す気でやります。もう降りる事は出来ませんよ」

 そう言ってヒロトはカノンに握手を求めた。



「冗談の様な事をさらりと言う。いいでしょう。残りの大商家も引き込みます」


 カノンもその握手を受ける。

 意外と気が合うようだとエレクトラは思った。


「市場に米を放出した後で今度は適正価格で軍が米を買い取ります」



「その時の必要量は? 」



「これに纏めてあります」

 紙の束をカノンは受け取り中身をパラパラと読み進める。



「素晴らしい。ここまで細かく計算されているとは。この米の輸送も商会にやらせて貰えませんか? 」



「初めからそのつもりですよ」



「貴方とは上手くやって行けそうだ。今後ともプレイトウ商会をご贔屓に……ただ、一つだけ……」

 カノンは少し躊躇いながら口を開く。


「はい? 」



「スターズ閣下ですが……今件をご存知ですか? 」



「いいえ」



「そうですか……ならいいのです。ただ、あの御仁には気をつけて下さい。あの御仁は【神巫】のお役目がある。その為、皇國に被害が出ると判断されたら、敵になるやも知れません」



「【神巫】とは? 」



「アリストラス超帝国に連なる四皇家、その代表たる【巫女】を補佐し、四皇家を管理するお役目が【神巫】です。【神巫】は代々特殊な能力を超帝国時代から継承し、巫女を守って来ました。今のアリストラス皇國での【巫女】は、ナディア様がお隠れになられた為、エレクトラ殿下が継承されました。本来、【皇王】と【巫女】は別々の方が成られるが、クライン殿下が出奔された為に、エレクトラ殿下がその両方を継承されます。見方を変えればスターズ閣下の権力が絶大なものとなる……」



「……成る程、助言有難うございます。心に留置ます」



「貴方なら、上手くやれるでしょう」

 二人は手を結び、同じ道を歩む決意を固めた。




◆◇◆




 その時外で騒ぎが起きていた。

 何やら騎士団の屯所で揉め事になっているらしい。



「失礼します」



「何事か? 」

 エレクトラが聞き返す。



「は! 騎士団とよそ者とが揉めており、カルミナ様がヒロトさんを呼びに行けと」



「団長が? 」



「わかりました。すぐに向かいます。カノンさん細かな打ち合わせは後日に」



「わかりました。宜しくお願いします」



 ヒロトは騎士団の屯所へ向かった。

城の北側に巨大な空間がありそこが練兵場となっている。その中央で騎士団員と2人の男がなにやら揉めている。



「つべこべ言わずに儂と立ち会えばよい」



「行きなり出てきて立ち会えとは意味がわかりません」

 総司は強気に受け答えするが、正直目の前にいるこの二人の男に底知れぬ気配を感じていた。



「お主が強いからよ。儂は強い者と闘いたい」

 二人の男の背の高い方が総司に言いよる。

 総司といえば相変わらずヒョウヒョウとした面持ちで男の話しを交わし続けている。



「総司殿、相手にする必要はない。我が騎士団は許可無く他流とは試合をしません」



「騎士団長と言うのはお主だな。ならお主が師範のような者だろう。お主が良ければ良いのではないか? 」



「だから許可など出せんと言っておろうが! 」



 何を揉めてるのか?

 ヒロトは後から近づいて行く。他意はない。試す気もサラサラ無かったが相手はヒロトの動きに過敏に反応した。



「貴公が師範か? 」



 男はヒロトに向かって行きなりそう言った。



「なんの事だ? 」

 男二人はどう見ても日本人だ。ならば二人とも召喚者か?



「惚けるな。貴公もこの男同様に只者ではない。立ち振る舞いでわかるぞ」



「ヒロトさん。二人共日本人です」



「わかっている。召喚者だな」 



「そうだお前達同様に日の本からここに飛ばされて来た」

 なら普通はその話しから始まるだろうに。



「なら同じ召喚者同士争う事は不毛だろ? 」

 ヒロトは二人に話しかける。もう一人の背の低い方は黙ったままだがこれも只者ではない。やけに古風な出立だ。そう平安か鎌倉時代あたりか?……



「俺はヒロト、こっちは総司。おっさん。名は? 」

 ヒロトもおっさん呼ばわりするともう一人の男がクッククっと笑って笑顔になった。



「お前もおっさん呼ばわりするか? 」



「儂の名は新免武蔵(シンメンタケゾウ)



 驚いた。



 この世界に来て一番驚いた。



「新免武蔵? 宮本武蔵(ミヤモトムサシ)か? マジで? 」

 ステータスを見るとレベル97 大剣士(アークソードマスター)

 かなりヤバい。



「宮本武蔵? ああの?!! 」



 総司も驚きを隠せないでいる。舞い上がっていると言っていい。


「宮本? ムサシ? ああ最近姫路の殿からそう名付けられたがまだ慣れておらん……なんでその名を知ってる?? 」



 総司がそわそわし出した。

「直ぐに立ち合いましょう! 」

 もう総司はやる気満々だ。



「そう来なくてはな! 」



 じゃあもう一人は?



「貴方の名は? 」



 恐る恐るヒロトは聞いた。



(ミナモト)九郎判官義経(クロウハンガンヨシツネ)……硬っ苦しいから九郎でいいぞ」


 ヒロトは呆然となった……

 ステータスはレベル95 大将軍(アークジェネラル)


 エレクトラ、何てビッグネームを呼んでんだよ。

 数秒頭が動かなかった。能天気な総司が羨ましい。


「総司。待て待て待て早まるな」

 冗談じゃない。ヤバすぎる。



「打ち合えば直ぐに仲良くなれますよ! 」



「そう言う問題じゃない! 」



「お主とは後程相手になる。そう急ぐな」

 武蔵は嬉しいそうだ。



「急いでない! 」



 二人はそれぞれ構えを取った。木刀だからといって武蔵の一撃が伝承通りならただでは済まない。

 総司は下段に、武蔵はダラリと腕を下げたまま。

 (これが構え? 後の先というやつか……)

 総司はいつもと違い動かない。いや動けない。冷や汗がとまらない。

 (本気の土方さんと同じ剣気だ! )



「小僧! 凄いな。儂の気を当てて普通に立って居られる。その歳で大した修羅場を潜っているな」



「小僧は心外ですが、正直怖いです。私の知り合いにも同じ気を放つ人がいますがそれより怖い……」



「ほー。そんな奴がおるか。立ち会いたいものだな。怖いなら止めるか? 」



「ご冗談を。こんな好機はなかなか無い」



「そうかならば行くぞ! 」



 そう言った途端、無造作に武蔵が前に出る。



 一歩。



 二歩。



「きぇぇぇえええええ!!! 」 



 総司が気合と共に突きを放つ!

 武蔵を衝撃波が襲った。

 それを交わして横から薙はらうが、その射程圏内からすでに総司は離脱している。



「後の先を更に交わすか。凄いのう」



「凄いのは貴方です。三段突きが簡単にかわされた……」 



 総司と武蔵は動かなくなった。

 総司が速度を一段上げる。高速の動きで翻弄すべくさらに加速する。

 武蔵の足を、狙った一撃を刀で止められその返す刀で総司を薙にかかる。

 風圧だけで総司の身体がぶれるがそれも交して武蔵の死角に入ろうとする。



「何という闘いか……」

 カルミナ騎士団長は二人の闘いに身震いした。

 こんな人間が存在するのか?



「小僧! もうやめにしよう。十分だ。俺はお前みたいな奴がいる事がわかっただけで満足だ。だがお前はまだ完成しちゃいない。そうだなあと五年。そう五年後に今度は真剣でやろう」

 武蔵は、刀を肩に担ぐ様にして、戦闘態勢を解除した。


「本当ですか? 」



「ああ。約束だ」



「わかりました。一旦引きます。絶対ですからね! 」



「あと、ヒロトと言ったか。どうする? 」



「どうするもなにも、貴方と闘うだけの獣を内に住まわせていませんよ」

 ヒロトはお手上げという風にジェスチャーを行った。



「上手い言い方だな。わかった。一旦は引こう。だが落ち着いたら立ち会え! 」

 武蔵はそう言って屈託無い笑顔で答えた。



「で、お前はどうするのだ? 」

 そう言って九郎に向き直った。



「面倒臭いから今回はやめです」



「食えん奴だな。クックク……」



 エレクトラもカルミナ同様に戰慄を覚えた。

 これが召喚英雄……そしてあと三人で十人。




【異界流転 参-2】をお送りしました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 日本の剣豪、英雄が一同に会して熱い展開でした。それぞれの人物の性格がしっかりと、立っていて心地よく読めました。 ヒロトの計画もこの世界では大きな計画で楽しみです。
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