142 転生地獄 (改訂-5)
【転生地獄】をお送りします。
宜しくお願いします。
両開きの扉の向こうは、更に広大な空間が広がっている。
巨大なドーム型の空間の中心に空いた漆黒の穴の、更に中心から光の奔流が天井に向かって走っていた。
「常世の祭壇じゃ……」
そう呟いたクレオパトラの顔は厳しい。
漆黒の穴の側に二人の男が佇んでいる。
その穴のそばには、黄金色の柱が建てられている。3メルデはある。
「心御柱?! 伊勢神宮の正殿に神を降ろす為に建てられた柱と瓜二つだと? 」
晴明は信じられない物をみた。
「お兄さま! ! 」
「……エレクトラか……既に起動プログラムは神の子宮にインストールされた」
クラインの様子は心ここにあらずという感じだ。何処かおかしい。瞳の焦点があっていない。
「我らが何としても止めてみせます! 」
エレクトラが決意の言葉を投げつけた。
「くくくっ! ……もう遅い。約束の刻は訪れた」
銀髪の男が邪悪な笑みをこぼしながら、独り言の様に言う。目には狂気がある。
「……貴様か? 裏で動き回る転生者は? 」
グラウスが前に出ながら男に投げかける。
「これはこれは皇帝陛下。よくぞ参られた。ただ何をしに来られたのかな? 物見遊山? それとも冷やかしかな? 」
男は純白の狩衣を纏い、首から逆十字のネックレスをかけている。
「ふざけやがって、ふざけるのは俺だけで沢山だ」
ビリーのコメントは意味がよくわからない。
「貴様が予言の書を改竄したのだな? 」
グラウスは既に戦闘体制に入っている。
「改竄? あれは私が作った書物です。改竄呼ばわりされるのは、心外ですね」
「日の本の者だな? 」
武蔵が凄んでみせる。殺気だけでも殺せそうだ。
「始まりは森蘭丸と呼ばれて居た……あの日、本能寺を抜け出し、バテレンの手引きで北九州に渡った……」
男は遥か遠くを見る様な目をして語り始める。
「森……蘭丸? あの信長の小姓か? 森家の末弟だな」
これは総司だ。
「……イエズス会のバテレンの中に古代ユダヤ魔術の秘技を使う者が居た。その力をもって我は自ら首を斬り、最初の転生をした……その名は、天草四郎時貞……」
「あの、島原の天草か?! 彼奴も死んだ筈だ? 」
武蔵は幕府軍の小倉藩預かりとして、島原の乱に参戦している。
「……名などもうどうでも良いが……敢えて名乗るなら、天草四郎時貞と名乗ろう……美しい名だろ? 」
時貞は右手で印を作る。
「その後は、鬼一法眼と呼ばれたり、アレイスター・クロウリーと呼ばれた事もあった……ただこの術には問題があった……死すと必ず転生する。本当の意味で死ねないのだ……何度転生しても、必ず最後は非業の運命を迎える……永遠と思える時の流れのなかで、数多の転生を繰り返す内に、前回の災厄の渦の波動とシンクロした事で、この世界に自ら転生した……八百年前の事だ……」
時貞の右手が更に印を変える。
「自ら?! 」
ヒロトの思考は既に核心に到達している。
「そう……この輪廻の地獄、人の世の地獄、メビウスの輪から我は逃れたい……ただ平穏が欲しいだけだ……そんな時、アリストラス超帝国が生み出した、神の事を知った。神ならばこの輪廻から逃れる術がある筈だ……」
「そんな事の為に? 」
ジャンヌには理解出来なかった。自ら招いた事ではないか。
「そんな事だと?! 二千年だ! 二千年だぞ! このままだと、まだまだ転生が続くのだ……わかるか? 貴様らに! 一千年がどうした? 貴様ら召喚者は望めば戻れるだろう? だが我は……ここから抜け出す為には、人ならざる力が必要だ……その為の災厄の渦。だがアリストラス超帝国の生み出した神を起動させるには、起動キー・デバイスが必要だ……それには超帝国の血が必要だった。だが五千年の間にその聖なる血の力は薄まってしまった……」
「……それでお兄さまなのですね……」
エレクトラは静かに聞き返す。やっと腑に落ちたのだ。兄の弱さに、この男がつけこんだのだと。
「そうだ。クラインは稀に見る才能があった。多分この五千年の間でもっとも血の力が濃い……」
クラインの様子がおかしい。なにやら呪文を口ずさんでいる。
「貴様をやれば、この芝居じみた舞台が終わるのだろ? 」
ウィリアムはゆっくりと背中の大剣を抜く。
次の瞬間、時貞が口ずさみ始めた呪文と、クラインが口ずさむ呪文がシンクロし始めた。
「……オン アボシャバイボ アリハドバ ジンバラ ハラ バリ タヤウン!! オン アボシャバイボ ……」
「光明真言?! 大日如来の呪法。密法の中心となる真言です。なぜ逆十字などを信奉する者が使えるのです? 」
晴明は驚愕した。光明真言など、最高位の僧侶で無ければ使えない聖なる真言だ。晴明は手早く印を結び、五芒星の書かれた呪符を時貞に放った! 呪符が時貞に張り付き、稲妻が時貞の身体を焼き焦がした! が、すぐに呪符が蒸発してしまった。
「くっくくっ! 我にその様な陰陽の術など効かぬ。鬼一法眼だった事もあるのだぞ……のう九郎よ」
九郎は青ざめていた。九郎はその昔し、鞍馬にいた頃に当時最強と言われた陰陽師であり、剣聖でもあった鬼一法眼から、【六韜】の奥義を学んだ事がある。
六韜とは、古代中国の兵法奥義で、全ての兵法の元となった兵法書だ。
「さあ、クラインよ! 我と共に! 」
時貞がそう言うと、クラインの身体と、時貞の身体が透ける様に薄くなり、ゆっくりと二人が重なってゆく。重なり合った瞬間、時貞の肉体に急激に力が湧き出てくる。
【転生地獄】をお送りしました。
(映画 孔雀王を観ながら)
※ブックマークを有難う御座いました。
宜しくお願いします。




