139 銀髪乃男……そして、(改訂-5)
【銀髪乃男】をお送りします。
宜しくお願いします。
暗い水の底……
直ぐ目の前は闇……
冷たくも寒くも無いけど、
嬉しさも喜びも無い……
暗い闇の道を、銀髪の男が二人の子供の手を引いて歩んで行く。男の子と女の子……
女の子がその手を振り解き、もう一人の男の子を問い詰める。
「お兄様! 何故なのです? なぜここまで、来てしまわれたのですか? 父上も母上も、そんな事は望んでいません! 」
「もうこの様な思いをする人々を生まない為、エレクトラ、君の為……」
「誰がその様な事を望みましたか? 私は望んでいません! 」
「私が望んだのだよ。エレクトラ、君の兄上は救世主になられるのだよ」
銀髪の男が話しに割り込んでくる。
「救世主ですって?! 誰も居なくなった世界で、どんな救世をすると言うのです?!! 」
「……もう遅い……あれは起動する……そうすれば、お前の白銀の巫女としての呪われた宿命も無くなる」
「お兄様!! 」
エレクトラは眼を覚ました。天幕の外から光が差し込んで来る。
「……また同じ夢を……私は既に白銀の巫女としての覚悟は出来ています。」
その日の午後からナターシャとマーリンの三人で、予言の書の検証を行った。
「……やはりこれは偽書だな」
マーリンはそう断じた。
「ほれ、背表紙が問題じゃ。あまり高価ではないが、宝石が幾つか嵌め込まれているじゃろ? ラピスラズリィ、ターコイズ、ブラックオニキス……この様に配置して……宝石魔法、いや魔術かの。この最後のページをみよ。この文字は古代ヘブライ語じゃ。やはり転生者か召喚者が作った書じゃな。この背表紙が視界に入ると、書の文章に疑問を持たなくなる。ある種の暗示じゃな」
マーリンはよく出来た書物だと、眼を輝かせている。
「……やはり最初から仕組まれていたと? 八百年も前に? 」
「このヘブライ語の儀式文字は、ローマカトリックの祈祷僧侶の秘術術式じゃ。問題はこっちの文字」
「なんです? この文字? 」
エレクトラやナターシャには読めない。
「漢字じゃな」
「漢字? 」
「中華の言葉じゃよ。日の本でも使う。儂はようわからんが晴明なら読めるやもしれんな……本題はここからじゃ」
「まだ何かあるの? 」
「ローマカトリックの使うラテン語であれば、お主の兄、グラウスにも読めたやもしれん、じゃがこの文字はヘブライ語じゃ。そして漢字。 要するにこの書を作った者は、ローマカトリックの正式な洗礼を受けた高位の僧侶で、日の本の出身者と考えられる。ラスプーチンの様な中途半端な祈祷僧侶ではなく、ローマ正教にもユダヤ教の知識もある、かなりの聖職者じゃ……聖人クラスかもしれんの」
「聖人クラス……」
「ここの文字が掠れて読めんが……ア……ク……トキ…ダ……やはり判別出来んの〜」
◆◇◆
ヒロトは機械化歩兵を無視して、一直線にロンメルへ向かった。ロンメル自身は術者でも剣士でも無い。彼を押さえれば軍を止められると判断した。
刀身に雷を纏わせて、戦車に雷撃剣で応戦しながら、近づいて行く。機銃でもヒロトの動きを捉える事が出来なかった。
「……ここへ来るつもりか」
ロンメルはホルスターからワルサーP38を抜き、ヒロトに狙いを定めようとした瞬間、首筋にヒロトの白刃をあてられていた。
「……何者か? 」
「ヒロト……軍を止めてくれ」
ヒロトの言葉を受け入れてロンメルが右手を上げると、全ての軍の動きが止まった。
「……なぜ殺さん? 」
「……なら何故貴方は、我らが入って来た時に、戦車砲と迫撃砲を使わなかった? 感知していたのでしょう? 」
「……この戦闘に大義は無い。我らには戦う確固とした理由がない……有るのは呪いの効果だけだ」
それを聞いてヒロトは白刃を下ろそうとしたが、逆にロンメルから嗜められた。
「刃を下げるな! 呪いの強制で、また戦闘を始めなければならない。我らを殺すか、拘束しろ! 」
ヒロトは拘束する事を選んだ。そうすればロンメルが災厄の渦の生贄になる事も防げる。
「……武人としては甘いな……だが嫌いでは無い……」
ロンメルは部下を助けてくれた事に対して礼を述べた。根っから騎士道を重んじる男の様だ。
「何とか彼らの存在を隠せるかな? 」
ヒロトは晴明と、どうすればいいか方法を考える事にした。
「この空間にはやはり、軍を引き止める為の術式が施されています。それを解除すると同時に、彼の死を偽装して奇門遁甲八陣の異空間に、いったん入って貰います」
晴明は直ぐに、この空間に施された魔法陣の外側に奇門遁甲の術式を被せるように設置していく。
「上手くすれば、災厄の渦の完成を防げるかもしれないな…… 」
確率はあまり高くないが、いまは何でも試してみるべきだった。
◆◇◆
東京都 新宿区某所
いつも着用している白衣を、純白のレザーコートに着替えて来た男は、数年ぶりに【風見鶏】の前に座った。まだあどけなさが抜けない青年の顔を見るでもなく、見る。人見知りなのだ。
「よく表に出て来てくれたね」
【風見鶏】が労いの言葉をかける。
「……世界への不愉快さより……君のぶっ飛んだ提案への興味の方が優ってしまった」
スレイン・東堂・マッカートニーは、側の美女の頭を撫でながら、【風見鶏】とは目を合わせない。
「その子がクローディアかい? 」
「ああ、この子こそ、人類史上初の完璧なアンドロイドさ」
「その力、あと七日後には役立てて貰うよ」
「……そう言えば妹もチームに居るのかい? あれが迷惑をかけて無いならいいのだけど」
「正直、苦手だがな。よく動いてくれているよ」
【風見鶏】とスレインは握手をし、お互いにクローディアを見つめた。
【銀髪乃男】をお送りしました。
(映画 髪結の亭主を観ながら)
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