137 砂漠乃狐 (改訂-5)
【砂漠乃狐】をお送りします。
宜しくお願いします。
二つある月……
その内の一つがさらに赤く見える……
創世神話には、夜の女神が、全能神ケルンから知恵の指輪を盗み出した為に、月に封印される話しがある。封印されたのは何方の月だったか……夜の女神は、全能神の力は神々に伝わる知恵の指輪だと考えた。そして指輪を盗み出し、あろう事か複製を作り出した。全能神ケルンの怒りによって、夜の女神は月に封印されたのだ。
「ナターシャ様、ロード・グランデ大迷宮周辺の化け物共の掃討はほぼ完了いたしました。現在、各国の軍勢三十万が警戒にあたっています。ですが、さらに地方から化け物がここに向けて移動しているとの報告もあり、まだ油断は出来ません」
ゴドラタン帝国近衛騎士団の団長ジークフリード・ランドルフ伯爵は、アヴァロンの艦橋からヒロトの戦略モニターとリンクさせ、報告を行った。彼は帝国で現在八人しかいない騎士の中の騎士、ナイトオブラウンズの筆頭でもある。
(……そこに居るのですか? クレイン様……何故ここまで来てしまった……母上の為か? それとも……)
ジークフリードは複雑な思いで、ロード・グランデ大迷宮の入り口を見つめた。幼少期、政争のため国を追われたクレイン皇太子をゴドラタン帝国が匿い、一時期、ジークフリード達と共に魔導を学んでいた事がある。
「ジークフリード様、アヴァロンの魔導探知に新たな敵影です。北東よりドラゴンらしき軍勢が迫っています」
「エルトリアか、わかった。アリストラス軍のカルミナ騎士団長にも連絡してくれ。第1種警戒体制! フェルミナ! アヴァロンを起動させろ! 」
「アヴァロン魔導縮退炉を起動! フライホイール回します! 」
◆◇◆
第七十階層まであと少しのところだった。六十階層を超えると極端に敵が少なくなり、逆に不気味だ。巨大な液状生命体を屠って最奥の扉を開いた。
【第一部隊】
アーサー王
クレオパトラ
ヒロト
ビリー
晴明
武蔵
「…….またこの様な空間か? 」
アーサー王は、また巨大な外界のような空間に出た。雲が流れて行く。草原があり、さらに森林が広がる。
「六十階層よりも広そうだな……」
ヒロトは、広域マップを確認して、この階層の異常な広がりに唖然とした。
「?! この反応は? 敵が来ます。かなり多い! 」
戦術マップに赤い反応が現れる。
「なんだこの数は? 師団クラスの大軍が来ます! 」
いきなり目の前の地面が炸裂した!
「砲撃だと! 何だ?!」
鉄と鉄が擦れ、地面を抉りながら進む音が響き渡る。鉄の箱の様な物が、丘の向こうから移動してくる。
「何だ? あの鉄の巨大な馬車か? いや馬はいない? 」
武蔵も九郎も混乱している。
「…….あれは……戦車だ。ハーケンクロイツ! ナチス・ドイツだと?! 」
鉄の箱が光ったと思った瞬間、ヒロトの目の前の地面がはぜる!
「いかん! この空間から一時撤退する! 急げ! 」
ヒロトはとどまろうする九郎を引っ張って後退する。戦術モニターには赤い光点がどんどん増えてくる。一向はこの空間から出て、第六十九階層まで後退を余儀なくされた。
◆◇◆
「あれは何だにゃ〜?! 」
ビリーもやっと一息ついて、ヒロトに問いかける。
「……あれは、二十世紀の兵器だよ。第二次世界大戦でドイツが使用した殺戮兵器ティーガーE型戦車。58口径8.8mm弾を92発搭載した化け物だ」
「第二次世界大戦?? って世界規模の戦争が起こるのですか? 」
晴明は呪符魔術結界を施しながら、興味津々で聴いている。
「現世では総司の生まれた時代以降、2回の世界大戦を経験したんだよ。連合側と枢軸側に分かれてね。ドイツは枢軸側だった。あのティーガーは東ヨーロッパ戦線やアフリカ戦線で猛威をふるった化け物的な兵器だ……この光点の数を見ると、機甲師団だな……」
「なら奴ら、その軍隊ごと転生させたのか? すげーなあ、鉄の塊が動くのか」
九郎も何処となく楽しそうだ。
「あれは第十装甲師団だった。となると指揮している男は、ロンメルか……名将だよ……もう何が出て来ても、驚かなくなった自分が嫌になるな……」
「いつもながらのうんちく、有難いがどうするのじゃ? 」
クレオパトラもうんざりしている。
エルヴィン・ロンメル。第二次世界大戦時、枢軸側のドイツの陸軍元帥。戦車を機械化軍の主力とし、東ヨーロッパ戦線、アフリカ戦線を転戦し、イギリスのチャーチル首相から、ナポレオン以来の、戦術の天才と評された。二つ名は【砂漠の狐】、アドルフ・ヒトラーのナチス党には生涯入らず、高潔な軍人を貫いた。ベルリンからのユダヤ人部隊の捕虜を全て殺害する命令書を焼き捨て、最後まで騎士道を重んじた。最後はヒトラー暗殺計画に関与した疑いで、自殺を強要された。
【砂漠乃狐】をお送りしました。
(映画 プライベートライアンを観ながら)
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