124 魔軍襲来 (改訂-5)
【魔軍襲来】をお送りします。
宜しくお願いします。
深き闇の、
更に深き虚な闇の中、
蠢く者達がいる……
陽の光を渇望する事なく……
常世の祭壇の中心部の穴は安定していた。
「魂の揺り籠が破壊された。約束の時は近い……」
魔導帝国皇帝クライン・ラ・サージェスは開いた穴の深淵に魔神の姿を確認した。
「黒騎士が現れた為、これで全ての宝珠が揃いました。予定通り魔神を解き放つ為の儀式をおこないます」
ジ・ル・ドレと、ラスプーチンが杯をそれぞれ掲げる。クラインの前に膝まづいた銀髪の男が、クラインより杯を受け取り、穴の前へ出る。
これから、更に儀式は続いてゆく。
「……魂を満たした三つの聖杯を供物とする。導きあらんことを」
そう言って三人が杯を常世の穴に放り込む。その瞬間、穴から眩い光が溢れて来る。最下層から闇の波動が地上まで噴き上がる!
「……エレクトラよ。兄は誰も成した事の無い悪行を行なっている……見事兄を止めてみよ……」
転生者にはクラインの涙は見えなかった。
「蘭丸!! 新たな転生者を呼べ! アリストラスの神が降臨するまでの時間を稼げ! 」
◆◇◆
「……始まったか?! 」
いち早くマーリンは闇の波動を知覚していた。今からヒロトが黒騎士を引き合わせたいと言う。そうこうしている間に、リクリエーションルームにヒロトと、黒騎士と呼ばれる男がはいって来た。
「王よ、彼女がアンブローズ・マーリンです」
偉丈夫はマーリンと握手を交わした。
「アーサー・ペンドラゴンです」
「アーサー?! 」
マーリンは面食らった。あのアーサー? まだ乳飲児だった?
「……アーサー……アーサー王か? 」
「精霊王よ! 名付けて頂いたアーサーです。そしてエクスカリバーと引き合わせてくれた」
「……な……なんと言うこと……」
マーリンは全てを理解した。自分が召喚され、別れる時にはまだ乳飲児だったアーサーが、一千年の旅を終えて、いま目の前に居る。
「私は一千年前に、いまのエレクトラ陛下のご先祖から召喚され、前回の魔神共を封印しました。ただ完全な封印とならず、その時に受けた呪いで現世に戻れ無くなった。そして新たな災厄の渦が起こされた為に、ここへ導かれた……」
「……立派になって……」
マーリンは涙が溢れでて、前がよく見えない。では十二人の騎士とは?
「我と共に召喚された円卓の騎士達です」
部屋の外に控えていた者達を招きいれる。
「ランスロット! ガウェインに、トリスタン……皆の者……よくぞ……」
マーリンは嗚咽で次の言葉が出なくなった。その様子を外からセネカは寂しげに眺めていた。これで我ら親子の役目は終わったのかもしれないと思うと、急に悲しみが込み上げてくる。
戦略モニターにアラートが発生している。地下一○○層の深い闇に発生したアラート表示は、最上位の危険度を現していた。
「魔神が復活したな」
ヒロトはマーリン達を残して艦橋へ向かった。
「ヒロト! 奴等が復活した! 」
グラウス皇帝も感じた様だ。あの一千年前に突きつけられた刃の皮膚感覚を。
「討伐部隊を編成します。幾つかのパーティーに別れ、交互にフォローしながら侵攻します」
◆◇◆
アヴァロンの甲板の上で二人の男が向かいあう。たまたま旧知に出会い、立ち話しをしているがごとく。
武蔵から語りかける。
「……よもやこんな場所で会えるとはな……息災か? 」
「ああ、黒騎士には世話になった。あれは出来た御仁だ」
「一眼見たが、あれも只者では無いな……立ち合わんのか? 」
「拙者はお主の様に戦闘狂いではない……利にならん事はせん」
「……利か……儂との立ち合いは利になるか? 」
「ああ、お主を倒して天下一の武芸者になり、小倉藩の指南役になる」
小次郎は天を見上げて、遠くを見つめる。
二人は巌流島で立ち合う十日前に召喚された。
「……その前に、この世界で蹴りをつけんとな」
「お主に言われるまでもない。だから死ぬなよ」
そう言った途端に警報が鳴り響き、武蔵と小次郎は共に艦内に戻っていった。
艦橋に主だった者達が集められる。
「諸君! 遂に魔神が復活した。我らは討伐部隊を編成し、魔神殲滅に向かう! 」
グラウス皇帝は皆の顔を眺め、ゆっくり立ち上がる。今日と言う日に、この場に居る者達の顔には迷いなど微塵も無かった。
「ロード・グランデに巣食う者共に鉄槌を下す! 明朝○六○○より作戦を開始、各自それまで英気を養ってくれ!解散! 」
【魔軍襲来】をお送りしました。
集約された刃が敵を穿ちに行きます。
(映画 関ヶ原を観ながら)