117 推理乃渦 (改訂-5)
【推理乃渦】をお送りします。
宜しくお願いします!
少女が井戸の水をポンプを使ってくみ上げる。
街に人の姿が戻り始めている。
商店も、ちらほら開き始めて、日常を再開しようと皆必死だった。
航空戦艦アヴァロンがヴァイアの街に到着して一夜が明けた。まだ街の混乱は収まっていないが、妖魔軍を撃退した安堵感から、少し柔らかな空気が漂っている。
「部隊の再編成に四日は必要だ。それから急襲部隊の編成を行う」
九郎は慣れない戦術モニターを見ながら、部隊編成案を作成していく。ヒロトは、強襲する場合の作戦案を立案して、明後日の会議にかける最終準備に追われていた。背中の刺し傷はジャンヌのおかげで完治している。毒が塗られていなかった事が幸いした。
ヒロト、九郎、シリウス団長、カルミナ団長、ブロス将軍、パルミナ王国幕府軍からは近衛騎士団のリカール団長が共同で立案に立ち会っている。
「我が軍の命令系統は、正直ズタズタにされている。今回は特例として、各軍の命令系統を統一する事をお願いしたい」
これはブロス将軍からの提案だった。ここまで来たら国や軍の面子よりも、災厄の渦を乗り越える事が重要との判断だった。そして、今回の災厄の渦では他にも懸案事項がある。ゴドラタン帝国皇帝、そしてパルミナ連合王国征夷大将軍、この二人も災厄の渦が収束した場合、現世に帰される可能性が高い。その場合の国政をどうするかを、本国と調整を始めているが、当然難航している。帰らないと言う選択肢もある。それはこの世界に彼らを、召喚した女神ケルンとその時点が来たときに、どの様に本人が話しをするかによる。
立案は深夜まで及んだ。ヒロトが作った六十五件の草案を再検討し、件数を削っていく。
「……あ〜あ……参ったな。こう言うのは性格にあわないな〜机上の空論だよ」
九郎は夜食の肉饅頭にかぶりつきながら、ぼやく。更にぼやく。
「気持ちはわかるよ。状況が変化したら現場の裁量でやるしかないからな。でも手始めは皆が納得した形で始めないとね」
「そりゃ〜理解はしてるんだけどさ〜」
戦は生き物だ。その時々で変化する。その瞬間が来れば、死ぬかもしれないし、生かされるかも知れない。
「……静は元気かな……」
ふっと、九郎は思い人の顔が浮かんだ。
◆◇◆
クレオパトラの幕舎では、砂漠特有の果実の甘い香がした。ナツメヤシの実のドライフルーツや、マンゴーなどだ。
「この地域の気候は、妾の故郷に似ておる。このナツメヤシの実などは、懐かしいのう」
クレオパトラはそう言ってナツメヤシの実を一口齧り、ワインで流し込んだ。
「陛下……陛下はどうお考えでしょう? 」
グラウス皇帝は、ワイングラスをもて遊びながら、そのグラス越しにクレオパトラを見る。
「今回の災厄の渦は、確かにおかしい。前回も転生者はおったが、今回の様に災厄の渦の生贄などでは無かった。召喚者の安倍晴明なる者が言うには、災厄の渦の術式の中に、日の本の国の呪術的要素が織り込まれた形跡があるとか……」
「何者かの介入があると? 」
「……わからん。前回の転生者は全て死に絶えた。そして、この世界に残された召喚者は妾とお主、そしてあの男だけじゃ」
「黒騎士ですか? しかし、あの男は……」
「そうじゃ……こんなややこしい術など使えぬわ」
クレオパトラはさらにワインをグラスに注ぎ入れ、グラウスにも注ぐ。
「ならば……誰が? 」
「前回の災厄の渦。召喚者と転生者双方で、日の本の国出身者は、神武、楠木正成、織田信長の三人。だがこの中に魔術、妖術の使い手はおらん」
「……まだ我らの知らぬ何かがある様ですね……」
「そういえば、お主はどうするのじゃ? 」
「……私は現世には戻りません。もし災厄の渦を止めて、その見返りを手にしても、それは使わずに置いておきます。それが有ればまた千年後でも、元の現世に戻れますし……」
「国の為か? それとも? 」
「……妹の為です……」
「……良い答えじゃ! 」
クレオパトラとグラウスはお互いにワインを飲み干した。
◆◇◆
晴明は半分眠りながら、考えていた。夢と現実を行き来しながら、考えを纏めている。……この世界の魔導術式に、日の本の呪術が混ざっている……これは古神道……出雲の流れだが……少し違う……イザナギ流……
……だがそれだけでは無い……マーリンさんや、ジャンヌさん……さまざまな要素……西洋魔術か?……混ざっている……そして、邪悪だ……
……それにもっとこの世界とも現世とも違う要素……こんな術式を人間が作れるのか??
晴明は、そのまま眠りに落ちていった。
◆◇◆
広大な天井の奥行きは果てしなく高い。外は吹雪だがこの聖なる空間には関わりのない事だった。古代アリストラス語の静かな詠唱が聖堂に響き渡る。北方六カ国の中心に位置するグランドロア聖教を司るここグランパレスの秘められた場所だ。
「……システムが鳴動している。どつやら本当に始まる様じゃな」
真紅の衣を纏った美しい髪の女性が祭壇での詠唱をやめた。
「では災厄の渦が始まると? いったい誰が? 」
「アリストラス直系の血脈であろう。だが水先案内人がいるようじゃ。我らもその時の為に準備せねばなるまいな」
「は! 我らグランドロア教団は時を司る紅蓮の巫女であらせられる貴女様の為に……」
紅蓮の巫女と呼ばれた女性は真紅のローブを靡かせながら、聖堂を後にした。
【推理乃渦】をお送りしました。
作戦発動までカウントダウンです。
(映画 スティングを観ながら)
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