109 火炎魔神 (改訂-5)
【火炎魔神】をお送りします。
宜しくお願いします!
ロード・グランデ四十七階層を歩く人影……
出血が止まらない……
早くジャンヌと合流しなければ……
床に血の痕が続く……
朝靄の中で、まぶたが重い……
…………
「……夢か……」
ヒロトは重いまぶたを片目だけ開けて見る。
マーリンはまだ眠りからさめていない。霧が濃くて先までは見通す事が出来ない。集落の奥で音がする……炸裂音?
「……アルテミス起動……魔眼連動……カウント……参……弐……壱……アクセプト」
ヒロトの脳内に、衛星軌道上からの光学カメラ映像が映し出される。更に映像を拡大していく。サーモグラフ映像に切り替え、戦術モニターと重ね合わせると、ハイ・エルフの集落の全容が見えてくる。量子電脳アップルシードが瞬時に周囲の三次元マップを作成した。
「……何だ? 赤い光点? 敵襲? 武器は……取られていない? 何かに怯えているからか?? 」
手元に魔剣サザンクロスがそのままある。魔剣の柄に嵌め込まれた魔力のこもった魔石が光を放っている。近くに強力な敵がいる事を告げていた。
「……う……なに〜。ヒロト……そんなに……激しくしたら……壊れてしまうぞ……」
マーリンもやっと起き出す。かなり寝ぼけている。顔がエロい。
「なに言ってんだ、マーリン! 起きろ! 敵襲だ! 」
ヒロトは檻の錠前を、手を翳しただけで外してしまった。そのまま赤い光点に向かって走る。
「貴様!! どうやって? 檻に戻れ! 」
ハイ・エルフの戦士から見咎められたが、ヒロトは無視して走る!
数分走り続けて、広い空間に出た。そこには多数のハイ・エルフが巨大な炎の存在と交戦していた! 焼け焦げた匂いが充満している。
「火炎魔神イーフリート?? 」
いや、あれは普通の火炎では無い?
よく見ると、黒い火炎を纏った魔神が暴れている。
足元には、これも黒い炎のサラマンダーが湧き出ている。
ハイ・エルフは氷結魔法と、光の矢で対抗しているが、力負けしている。
「おい! 何だあれは? 」
近くのハイ・エルフを捕まえて聞く。
「貴様? ここでなにを? 」
「そんな事はどうでもいい! あれは何だ? 」
「ああれは、災厄の渦の影響を受けた火炎魔神だ! ブラーム山脈の龍脈異常のせいで、地下のマグマを伝って帰らずの森の地下空間から出て来た! 」
……火炎魔神だが、闇属性も混ざっているな。
「……集え氷結の精霊、我は汝の主人にして、氷結魔法の代行者なり……」
ヒロトは魔剣サザンクロスを抜き、白羽に人差し指を添えて構える。
「……プロム リズ ファルス ルブラン、氷雪の女王よ、汝の敵を滅ぼせ! 氷結狼女王波動!!! 」
ヒロトが魔剣を火炎魔神に向けて、上段から振り抜いた! 剣先から絶対零度の強烈な波動が発動する!!
魔神が一瞬氷つくが、また動き出す。
「闇が強すぎる! どうする? 」
「妾がやる! ヒロト、援護を! せっかく良い夢じゃったのに! 」
マーリンが追いついて来た。すぐに魔法詠唱に入る。ヒロトは魔剣に氷結魔法を付与し、火炎魔神に切り込んで行く。サラマンダーを二体屠り、その剣筋を火炎魔人に浴びせる。が直ぐに再生する!
「人間! 檻にりもどれ! 」
ヒロトを拘束したあの男が側に寄ってきた。
「そんな事を言ってる場合か! 来るぞ!! 」
火炎魔神の魔法詠唱が完了しそうだ。ハイ・エルフ達が、障壁魔法で対抗する。
「……爆炎大龍壁!! 」
火炎魔神の詠唱が完了した。火炎の壁が出現し、そのから火炎龍の首が3本伸びて、ハイ・エルフに襲いかかる。
ヒロトが氷結障壁をハイ・エルフ達に施して行く。
「……光の女王よ、氷結の女王よ、御身の敵たる魔人に鉄槌を! グネス アロ ファルス バルバリアン……世界を統べる至高なるもの! 合体! 閃光氷魔縛鎖陣!!! 」
巨大な光の槍が無数に現れ、マーリンが挙げた手を振り下ろすと、一斉に火炎魔神に突き刺さり、そこから光の鎖が広がって火炎魔神を拘束する。
凄じい炸裂音と叫びをあげながら、火炎魔人が深い闇が続く谷に落ちていった。
辺りの温度が下がってゆく。
「やったか? 」
「……いや、まだ生きている。だが当分は大丈夫じゃろう」
マーリンの膝が落ちる。ヒロトは慌ててマーリンの身体をささえる。魔力を使い過ぎだ。このところ無理をさせ過ぎている。もっとマーリンに気を使うべきだと、つくづく自らの未熟を恥じる。
「すまない……外界の人よ、肩をかそう」
ハイ・エルフはエクスフィーレと名乗った。エルフは長命でなおかつ美しい。男のエルフを見ても変な気分になる。ヒロトとマーリンをハイ・エルフ集落の中心にるある静寂の広間に連れていってくれた。そしてハイ・エルフの癒し魔法のおかげでマーリンは意識を回復した。マーリンもエルフも精霊に近い存在なので、魔法の相性がいい。
「外界のお方。集落の者が、すまない事をした。 」
男はこの集落の長であった。昨日から巨大な魔の存在が地下より近づいて来た為に、集落自体が殺気立っていて、冷静な判断をかいていた様だ。
「私はアリストラス軍参謀を務めるヒロトと申します。これなるは、魔導団団長のマーリンです」
「そなたが手紙をくれたヒロト殿か。より良い返事が出来なくて済まない。あの魔神が地下空洞より現れて、里から軍を派遣する余裕が無くなってしまった」
マーリンの合体魔法でも仕留め切れない存在だ、簡単にはいかないだろう。
「災厄の渦の影響で、龍脈がおかしくなり、あの様な存在を産んでしまった……」
「ならば、奴を仕留めに行きましょう」
「手をお貸しくださる? しかし……」
「災厄の渦をグランパスに押し戻すには、あなた方の力が必要です。その為の露払いをしますよ」
【火炎魔神】をお送りしました。
災厄の渦の影響は世界を変容させる様です。
(映画 帝一の國を観ながら)




