97 怪僧登壇 (改訂-5)
【怪僧登壇】をお送りします。
宜しくお願いします!
月光に照らされた美影身は、
闇より現れた使者に殺気を穿つ。
武蔵は脇差に手を添えて、男を睨みつけた。
凄じい殺気を飛ばすが、男は平然と武蔵を見返す。首から下げた逆さ十字のロザリオを右手に掴み、
「召喚者か。邪魔立てするならば滅するまで……」
男は左手をゆっくりと水平に上げ、掌を武蔵に向ける。
武蔵もそれに合わせて刀を抜き、刀身を後ろに向けて身構える。武蔵がいきなり構えをとる事自体が、この相手の異常さを物語る。
男の掌には逆十字の刺青があり、それが発光を始めた。咄嗟に武蔵は右へかわす!
武蔵のいた場所に逆十字の焼き跡が出来き、その周囲が爆散した。
何をしたのか?
「おかしな術を使うのう? 」
そう言いつつ、武蔵は神霊力を刀身に乗せた一撃を袈裟斬りに叩き込む!
すると、男の体に届く前に、なにかの力で弾かれた!
だが、男の腕に斜めの裂け傷が出来る!
「ふん……差し詰め、空間を斬る刃か……全てを相殺できんとはな……」
男の傷は直ぐに再生してしまう。
更に武蔵が踏み込んで、衝撃波を伴った横殴りの凄じい斬撃を放つが、それも左に飛んでかわしてみせる。
その男の着地点に向かって、白刃の軌道が三日月の線を描きながら男の身体に吸い込まれる。ウィリアムが肩口から男を真っ二つに切り裂いた! 地面がその衝撃で爆散する!
「?! それでも再生するか? 」
左右に断ち切れた身体同士から触手が生えて、お互いを繋ぎ合わせ再生する。
「主は仰せられた。人に生きる世界は無いと。主は仰せになられた。人に向かう未来は無いと……」
男は指を上下左右に動かし、逆十字を切る。
「下賤な者共には、これでもくれてやろう」
その途端、男を中心に黒い球体空間が広がって行く。その空間に触れた瞬間、武蔵もウィリアムも弾け飛んだ!
「な、なんだ今の衝撃は?! 」
神霊力の防御が無ければ死んでいた。
「ふむ。幻魔球に触れても、バラバラにならんか。流石に召喚者だけあって神霊力が強いな」
更に男が手を翳そうとすると、男の足元に光輝く五芒星が浮かび上がり、男を拘束する。
「うぐぁぁがあ!! なんだ? 」
いつの間にか、男の後方に晴明が立っていた。複雑な印を結び、五芒星に魔力を込める。
「オン シャバイボハラ ヒニマドラ ジンバハラバリ タヤウン! 貴方を封じさせて頂きます! 」
「貴様、東方の野蛮な術師め! 」
男は逆十字を切り、何事かを唱えると、晴明の五芒星を囲む様に、六芒星が浮かび上がる!
「晴明印の力を相殺した?! 貴方、何者です?! 」
「我は、アナスタシア様に仕える僧、ラスプーチン」
グレゴリー・ラスプーチン。祈祷僧侶。十九世紀末からロシア帝国で暗躍し、アナスタシア大公妃に取り入り、ロシア皇帝と謁見。当時病弱の王太子の命を祈祷により救ったとされ、皇帝の寵愛を受けた。その類稀なる霊力により、帝国を裏から操ったとされ、ロシア帝国崩壊の引き金を引いた怪僧として、暗殺された。
「晴明、どけ!! 」
武蔵が渾身の神霊力を込めた一撃をラスプーチンの心臓を目掛けて放つ! が、大きく空いた穴は直ぐに塞がってしまう。
「心臓の替えなど、幾らでもある……?! 」
「なら、その心臓を全て破壊したらどうなる? 」
いつの間にかヒロトが側まで来ていた。ヒロトが右手に持った魔剣サザンクロスの白羽に人差し指を添えて、呪文詠唱を始めた。
男の周囲に四角いキューブの様な結界が引かれ、閉じ込められる。ウィリアムが援護とばかり、ラスプーチンに真空の刃を叩き込む! 外からの攻撃は結界を素通りする様だ。
「……四海の王よ、天界の主人よ、冥界の魔王よ、グロアクラ ビラ ザドナ! その四肢は深き物の贄なれば……冥界爆鎖障壁!!! 」
ヒロトが最後の詠唱を終えて、ラスプーチンに翳した左手から閃光が走り、結界の中が黒い爆炎に包まれた!!
結界の中は激しい連鎖爆発が起こり、最後は亜空間に吸い込まれる様に消えて無くなった!
「……奴め、吸い込まれる前に跳躍したな? 」
「ヒロト! なんだ今の奴は? 」
九郎と総司も、敵をあらかた片付けて追いついて来た。
「ラスプーチン……ロシア帝国の亡霊だよ。あんなのまで転生してるのか……」
もう明け方近かった。長い一日になりそうだ。エレクトラが無事だった事がなによりだと、ヒロトは安堵した。
敵の襲撃は想定していたが、相手が転生者となると、これからも油断出来ない。やはりこっちから、ロード・グランデを急襲する事を急ぐ必要がある。
朝日に照らされ、その暖かさを護りたいとヒロトは願った。
【怪僧登壇】をお送りしました。
残りの転生者はあと一人。
あの最強の男が転生しています。
(映画 タワーインフェルノを、観ながら)




