66 異界流転 壱-1 (改訂-5)
【異界流転 壱-1】をお送りします。
宜しくお願いします。
「お父さま。最後の我儘をお許し下さい」
少女は片膝をついた姿でそう呟いて鎧の立像を見上げた。
聖堂の中央に跪き、女神に祈りを捧げる。
「誓いは破られました。私は皇女として彼の地に行き新たな儀式を執り行います。兄上の悪業を止めねばなりません」
ドラゴンを象ったステンドグラスから降り注ぐ優しい光に少女の姿が浮かび上がる。
髪を結い上げているその姿は凛としている。
硬い決意を固めた顔がそこにあった。
あの優しい兄が何故外道に落ちたのか?
一緒にロイドヘブン城の中庭で遊んだ事が思い出される。
優し過ぎたのだろうとはわかるが、理解はしたくなかった。
覚悟はして来た筈だ。
「私は兄の代わりに皇王の位に上がります。皇國の民を導く義務が御座います」
涙を堪えてぐっと唇をつぐむ。
眼下の先にある山脈。その先にある神託の杜の空は暗く沈んでいた。その先にある未来が暗く閉ざされたかの様に。
◆◇◆
広大な草原を旅するマント姿の冒険者は何気なく空を仰いだ。このデジタル空間で構成された太陽の日差しに目を細め、遠くを行く、渡り鳥を見つめる。
「気のせいか?……」
「昨日からアクセスが妙におかしいな」
目の前の空間に、ステータス画面を呼び出しコンソールを操作する。
「ネットが寸断される? 」
ヒロトは六年近くソロでの旅を続けている。寂しさが無い訳ではないが、それ以上に他人と旅する事への不安が勝る。
人間嫌いなのだ。
コンソールを操作しながら後の予定を思う。VRMMOファイヤーグランドラインのフィールドではリアル世界の自分をそのままアバターに反映させる事が可能な為、髪が伸びると、アバターの髪も伸びる。全く違う容姿を採用する者も居れば、ヒロトの様に自分自身を再現する者も多くいる。少し栗色の髪が伸び過ぎて、少し切りたいと思った。
「もうそろそろ時間だ。見舞いに行かないと……」
昨夜、病院で寝たきりの妹にあまり時間が残されていない事を知った。妹の為なら何でもするが奇跡でも起きないと無理だと知った。気晴らしに始めたこのゲームにもやはり心ここにあらずと言う感じだ。
「オートマッピングも所々おかしいな。一度ログアウトするか……」
今はこのストームスレイヤーの天空に浮かぶナン大陸の東に位置するロザリオ王国に居る。
王国に足を踏み入れて四日目でシステムエラーが発生し、そこからどうもおかしい。先日、大規模な戦場を迂回して山岳地帯を抜けるルートを取ったが、何故かシステムとの繋がりがおかしくなる。本来ある筈の道がマップから消えていたのだ。
「システム・ログアウト! 」
何も変化が無い。ステータスを開いて確認して行く。コンソールを操作した瞬間酷い頭痛に襲われた。目の前に乱れたステータス画面が現れて見慣れない紋章が浮かび上がる。
「?!! うっ! 」
体からよろけて片膝をついた。
「なんだ?! 何か別の映像が流れ混んで? 」
目の前に祈りを捧げる少女の姿が映し出された。
青空から突然光が降り注ぎはじめる。
するとヒロトの存在が始めから無かったかの様に忽然と姿を消した。
◆◇◆
憂さ晴らしに四条で酒でも飲もうかと考えて屯所を出たは良いが、生来方向音痴な為に三条あたりを迷いながら歩いている始末。艶やかな長い髪で髷を結い上げて、ただ歩いているだけなのに道ゆく女性達がみな一様に振り向く。いつもの事だが、みな女性達は顔を赤らめて、その男を見つめている。
「何処もかしこも似た路ばかりだな〜あ」
京の都に来てからもう三年が過ぎそうになっているが、未だに三条大橋と四条大橋の違いもあまりわかっていない。
お勤めの時は大概は他の隊士について行けば目的地にはつける。
どこかでセミの鳴き声が聞こえる。
総司はいま着ている羽織の柄が嫌いだった。派手にするならもう少しマシな派手さがあるのにと思う。
「たしかそこの四つ辻を曲がればだったっけ?」
どんどん目的地からはほど遠い方向へ向かって歩んでいる。明日のお勤めの場所を事前に下見しようと思ったが、段々不安になって来た。
「大体、兵助が桂を斬ってれば済んだものを……」
今年に入って隊内での謀反騒ぎや、町人から金品を騙し取った隊員の粛正、長州からの間者の追跡等々休む暇が無かった。先日も不穏分子との大立ち回りがあったばかりだ。
顔の前を影が横切る。
「な!? なんだこれ? 」
光る何か。小さい体をした女の子が頭の上を飛び回っている。
「羽がある? なんだ? 」
小さな女の子は総司を導く様に飛ぶ。それを総司が追いかける。
「昼間っから物の怪か? 」
いきなり昼間に星空があらわれ、突然光が降り注いだ。
その途端目眩に襲われて自分の存在が希薄になった気がしたが、実際に忽然と総司は姿を消した。
◆◇◆
秋も深まるこの季節が好きだった。
厳しい冬の到来に向けて収穫に忙しい時期だが1年の実りを得るとても素敵な季節。しかし英国との戦が長引く中、この村にも戦火の足音が少しづつ近づいてきた。週末のミサもいつまで続けて行けるかわからない。
その娘は村の教会の掃除に余念がなかった。最近変な頭痛がするが気にかける暇もない。
「ジャンヌ? また手伝いかね。少し自分の身も労りなさい」
「神父様は心配性ですね。私は平気ですよ」
雑巾を絞りながらジャンヌと呼ばれた少女は話し返す。
「もう十六歳になるのだろう? そろそろ良い男がおらんのかね? 」
神父はわざとらしく天井を見上げた。
「ほっといて下さい! 私はいつかオルレアンに行って成上がってウハウハな人生を送るのです! 」
ジャンヌは鼻をこすりながら嘯く。この子は黙ってさえいれば美少女で通るのにと神父は思う。
「いったいどの様に成上がるのかね?」
「それはおいおい……」
神父はあきれ顔だ。
ジャンヌは物心ついた時からよい意味で普通ではなかった。天に選ばれたと言っていい。だから逆に心配なのだ。
「やれやれ……そろそろ家に帰りなさい。ここはもう大丈夫だからね」
なんだか頭痛がする。
昨日からおかしいな……指で十字を切ってから、すぐに頭を切り替える。
「では神父様、また週末に! 」
ジャンヌは満面の笑顔で走って出て行った。
だんだん頭痛が酷くなる。森の小道を抜けるとそこは水車小屋があるはずが、広い野原にでた。
「!? な? 」
青空から突然光が降り注いだ。
ジャンヌは足を止め目をみはる。
目を瞑りまた目を開けるとそこは見知らぬ聖堂のような場所で、外に居た筈が中にいる。頭が混乱した。
◆◇◆
「う……?! 」
「あう、、! 」
ここはどこだ?
ヒロトは頭を押さえながら辺りを見渡した。
ロールプレイングゲームでよく見る魔法陣の様なものが床に書かれていて、その上に自分以外にも3人倒れている。天井は高くて聖堂の様な雰囲気だった。天井に嵌め込まれたステンドグラスから光がさしている。どうなってるんだ??
自分の服装はフルダイブMMO RPGファイヤーグランドラインの装備そのままだった。背中には魔剣サザンクロスもある。また運営のイベントだろうか?
「エクストラステージかなんかか? 」
オートマッピングを確認すると今居るこのホールの様な場所だけが表示されている。
「世界マップも出ない!? 」
ステータスを見るとレベル88 魔法剣士のままだった。
「ここは!?? 」
ジャンヌは頭を抱えながら辺りを見渡した。見慣れない衣服を着た者たちがあたりに蹲っている。
「なんだ?? ここは? オランダ語の本で見た様な教会か? 」
前に大阪のオランダ医の所で見た書物の中に同じ様な挿絵があった。総司は真っ先に腰の刀を確認し、周りを見渡した。もう一人、洋装をした男はまだ俯したまま動かない。
「貴方達は? 」
どう見てもフランス人では無いニ人をみてジャンヌは後ずさる。なんか警戒されてるな。
「四人がこのステージに飛ばされて来たのか? 」
ステータスを開くと、四人のステータスが連結表示された。ファイヤーグランドラインのシステムは生きている。どうなってんだ?
「レベル91? 侍大将」
ヒロトは刀を差した着物を着た和風の男を見上げた。かなりのレベルだ。ファイヤーグランドラインをスタートさせて六年、自分もかなりやり込んだがこの世界ではスキルレベルは上がりやすいが、職業レベルは並大抵では上がらない。そういえば……さっき金髪の女の子の言葉は日本語だったのか? 違和感があるが意味はわかる?……
「早く家に帰って夕飯の支度をしないと。ここは何処? 」
ジャンヌは何がなんだかわからなくて恐怖を覚えた。目の前には見たことも無い二人の男がいる。帯剣しているところを見ると二人共何処か外国の兵士かなにかなのか? でも先ほどから言葉の意味は何故かわかる……
「君は日本人だね? 私は沖田と申します。ここが何処かわかりますか? 」
やけに礼儀正しい。
「俺はヒロトだ。全くわからない。目が覚めたらここに居た……」
「貴方達は外国の人よね? 言葉は不思議とわかるけど申し合わせて私をどうする気? 」
ブロンドの髪をかき上げながらため息をついた。
「どうする?? 」
あらためて見るとこの子はかなりの美少女だ。うすいワンピースで身体のラインがくっきりしている。
「やらしい目! 」
「な、!? そんなんじゃない! 」
ヒロトは免疫が無いらしく赤面して慌てふためいた。
「ひょっとして神父様の白パンを勝手に食べたから? それとも隣のエバンの生のお尻を見てしまったから? これが天罰なのかもしれないわ! ああ〜、こんな事なら昨日の生ハムを食べとくんだった! 」
(この女は何を言ってるんだ? )
ヒロトは頭をクシャクシャっとかきながら、目の前の現実を整理し始めた。
「あ〜ああむにゃむにゃゃ」
カーボーイハットを被った男がおもむろに起きだして、呑気な声を発する。
「どこだにゃ!? 」
男は辺りをキョロキョロと見渡したて大層驚いて見せた。
元来楽天家らしく他からは平気そうに見える。
「銀行から金袋を運び出して、それから……まったく覚とらんな……」
「言葉はあんたも通じるな?! あんた名前は?」
ヒロトが話しかけると男は満面の笑みで答えた。
「ビリーだ。宜しくな! 」
初対面とは思えない軽い口調だが不快ではない。
とても気持ちの良い男だと思う。こんな異常な状況でも、妙に落ち着きがある。潜った場数が違うのかも知れない。
ヒロトがビリーと名乗る男のステータスを見ると、レベル87 銃士とある。腰に2挺の古風なリボルバー拳銃をさしている。こいつもかなり出来るな……
「私はジャンヌよ。教会で下働きをしてるの」
そう言うジャンヌのステータスはレベル108 教皇???
「教会の下働きで教皇?? それより限界突破してる? 」
かなり高レベルの僧侶だが。まったくそうは見えない……
ありえないレベルだった。
「何の事? 」
「いや。こっちの話しだ……」
正直言って驚いた。レベル108 それも教皇? 普通はあり得ない。ゲームでは無くリアル世界の普通の人間が限界突破? その歳で到達できるレベルでは無い。神がかりか……
その時、ホールに一つだけある大きな木製の扉がゆっくりと開き、そこから入って来る者がいた。一人は頭からローブを被った背の高い女性。もう1人は銀色に輝くドレスに身を包んだこれもまた女性だった。
ドレスの女性が話しかける。
「皆さん揃われました。何故この様な場所に居られるか理解しかねるかと存じます」
女性はゆっくりとした口調で語りかけて来た。
「私はエレクトラ・リ・サージェス。アリストラス超帝国皇家の末裔にしてこの神託の杜の巫女」
「貴方方をこの杜に召還したのは私です」
「召還!? 」
「ナイアス大陸が乱れる時、彼の地より英雄を召還し世界の平安を得る。それが神託の巫女たる私の使命です。我が兄が魔導に落ちて古の封印を解き魔を世に放ちました。兄が厄災の渦を引き起こしたのです。その魔を祓うために貴方方を召還したのです」
「ちょっと待てよ……俺はさっきまでゲームをしてた。これもゲーム!? 」
「ゲームと言う物がなにか理解できませんが、多分違います」
ゲーム世界では無い? なんだ? なにがどうなってる? 夢でもない……リアル世界だとでも言うのか?
「私は京の都に居て四条を歩いていた……ここは日の本では無いのか? 」
「ここはナイアス大陸の北方に位置するカイラースの町外れにある杜です」
「……不味いな。土方さんにまたどやされる……また道に迷ってしまった。明日は池田屋に乗り込む事になってるのに……」
「だがゲームのステータスを引き継いでいる……」
ステータスパネルが目の前に表示される。ゲーム世界と何ら変わっていない。だがここは明らかにおかしい。ゲーム世界では無い、いわゆる異世界だ。このまま自分のいた日常に戻れないかも知れないと考えた瞬間、背中に怖気が走った。
「あなた方の世界から召還されると、その世界での能力をそのまま反映し換算して顕現されます。魔法が使える方は魔法を、剣を使える方は剣を」
「ちょっとまてにゃ。なら何か? この世界はカリフォルニアどころかアメリカですら無い……全くの異世界で魔法まで有る?! 」
「なら何!? ドンレミどころかフランス王国ですら無いって言うの?? 何て事」
「どうすれば元の世に戻れるのでしょう? 私には大義があり、どうしても戻らなければならない」
沖田と名乗った青年は泣きそうな顔した。
チョンマゲ頭に沖田? 刀をさしてその派手な着物。。こいつあの沖田総司か?!
「新撰組の沖田総司? 」
「私の事をご存知か!? 」
「ああ、知ってる。よく年末の時代劇に出て来るよな」
「時代?? 劇? 」
有名人だな。と言う事は他の奴らも有名人……
「あんた、ジャンヌダルクか? 」
「あんた呼ばわりされる筋合いは無いけどそうよ。なんで知ってるの。益々怪しいわね」
ジャンヌは両手を交差して胸を隠す様なそぶりをする。見事に誤解されているな。いや警戒か……
ならニ挺拳銃でビリーときたら……
「あんたはビリー・ザ・キッド? 」
「よくわかっな。占い師かなんかか?? 」
伝説の沖田総司にジャンヌダルク、そしてキッドってか……そして俺は唯のニート……なんだこれ?
「私も召還された者だ」
頭から被ったローブを外すとこれまた美人のお出ましだった。十四、十五歳ぐらいか……ウェーブのかかった燃える様な紅い髪。スタイルもバッグンにいい……見た目年齢に反比例してやけに艶かしい。
「私の名はアンブローズ・マーリン。元居た世界では少しは名の通った魔術師だった」
「マーリンってあのマーリン!? アーサー王伝説に出てくる?? 」
「アーサー?! ああペンドラゴンの息子ね。まだハイハイし始めたところよ」
マーリンって確か伝説では男だった筈。女だったのか。どう見ても女子中学生だよな……
ステータスを見るとレベル91大魔導士とある。
「私は二日前に召還されていたの。詳細はエレクトラから聞いたわ。とりあえずはすぐに戻る方法が無いから仕方がないわね。」
「方法がない? 」
「そう厄災の渦とかを終わらさない限りは帰れないんだと」
「そんな〜」
ジャンヌは天を仰いでみせた。
「では少しづつご説明させていただきます」
エレクトラが話し始めたが、ヒロトは妹のユイの事が頭に浮かんで、まともに話しが頭に入ってこなかった。
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