92 影王風魔 (改訂-5)
【影王風魔】をお送りします。
また新たな転生者の登場です。
ゴドラタン軍と九郎との激闘も始まります。
宜しくお願いします!
血臭混じりの濃い霧の中、
視界を封じられても、黒騎士の身のこなしは、変わらなかった。
背中の大剣を抜き放ち、黒騎士を狙った衝撃波を弾き飛ばした! 衝撃波に隠れて、その死角から何かが黒騎士に飛ぶ! 黒騎士を守る家臣の騎士が素手で、それを掴んだ!
「クナイ?! 」
手裏剣の一種だった。
「卑怯な! 出て来やがれ! 」
セネカが吠えるが、答えは返ってこない。
すると、足元の影が膨れ上がり、その中から生えて来た腕にセネカは足を掴まれ、引きずり込まれそうになる。
「うわぁぁあああああ!!!!! 」
その腕に、ヴァルフが、ファイヤボールの魔法を放つが、すぐに逃げられた。らちがあかない。
地面に落ちた影が波打っている。
「影に術で魔力を付与し、異空間を作っているな」
ヴァルフが杖を影に差し込み、魔力を流し込んでみる。中の空間はかなり広い。
すると後方の木々の影から、すーーーっと、人が立ち上がった。
「黒騎士だな。貴様の宝珠を貰い受ける。貴様には無用の長物だ」
「魔導帝国の転生者か? 」
「我は、小太郎……風魔小太郎」
風魔小太郎。元々は甲賀の里の出身で、北条氏に仕える前は、甲賀三郎と名乗っていた。甲賀忍軍頭領の三雲氏は織田信長と敵対した六角氏の家臣で、織田の六角攻めの際に一年抵抗をしたが滅亡。その後、北条氏に風魔一族として抱えられたが、北条も滅亡した。最後は徳川家康暗殺を目論み、幕府転覆を狙ったが、元武田忍軍の高坂甚内に密告されて捕縛、千六百三年に処刑された。
神速の速さで黒騎士の横をすり抜けて、肩に担いだ長刃を風魔小太郎に振り下ろした!
佐々木小次郎の物干し竿と云われる長刀だ。莫大な剣圧が風魔を襲う!! 切ったと思われた身体は陽炎の様にゆらめき消えた。
「貴様が最後の召喚者か? なぜ黒騎士などと共にいる? 」
今度も後から声が聞こえてくる。小次郎は構わずに、振り向きざまに剣を下から跳ね上げる!
「燕返し!!! 」
神速の剣筋が音速を超え、空気との摩擦熱で炎を引いた。
刃先に血がついている。
「くっうう?!! 影の結界ごと切っただと?! 」
黒騎士が神気を剣に込めて、一気に地面に突き刺す!
「十束の剣よ! 草薙の剣よ! 爆ぜろ!!!! 」
その瞬間、影が膨れがり爆発した! 巨大な神気を影の空間に流し込んだのだ!
霧散した影の中から風魔小太郎の姿が現れる。
「流石は黒騎士! 噂に違わぬ神気だの。」
カッキッ!
変に曲がった首を右手で元に戻す。
「化け物め! 」
セネカは怖気が走った。人間か?
「今回は引こう……次はどうせロード・グランデ大迷宮に来るのだろう? そこで待っているぞ! 」
そう言ってまた霞の様に姿が消えていった。
「災厄の渦の転生者は必ず八人。奴もその一人か……」
黒騎士は薄暗くなった空を見上げて呟いた。
◆◇◆
遠目にも大軍だとわかる。
松明の明かりを数えれば、大体は九郎もウィリアムも、軍の規模が把握出来た。
「五万は居るな」
ウィリアムは双眼鏡を覗きながら、副長のジレに伝える。
「この平地で、十倍の敵ですよ? どうするんです? 」
森や山の中なら、十倍の敵でも、陣形を組めない敵など各個撃破出来るが、平地では難しい。
だがウィリアムも九郎もあまり気にしてない様子だった。
「ケツを蹴りに来たと言ったろ?! 」
九郎は何処までも九郎のままだ。
「諸君!! 見ろ! 奴らは大軍だと言う事に胡座をかいて、安心し切っている! 陣形を組んだ野営とはいえ、攻撃される事を、何処で否定している。 その否定は軍の緩みとなり、そして緩みは隙となる! 今からが遠足のメインイベントだ! 奴らのケツを蹴って蹴って蹴りまくるぞ! 」
皆、笑いを堪えるのに必死だった。
「隊を二つに分ける。千騎は俺と来い! 残り四千騎はウィリアムに付け! 」
五万相手に二つに分ける? ジレは頭が痛くなってきた。
「行くぞ! 我に続け!! 」
九郎は先に発進し、真っ直ぐにゴドラタン帝国第一軍に向かって疾走した!
「このまま敵の正面に突っ込むんですか?? 」
ジレは慌てるが、意に介さずに九郎は突き進む。
放置かよよよよよ!!!
ゴドラタン軍は、まさか敵が五万の軍にたった一千で突入して来るなどと考えていなかった。夕飯を煮炊きし、愚かにも音楽を奏で、酒まで振る舞っていた。
「驕れるものは久しからず! っていい言葉が浮かんだぞ! 日の本に帰ったら弁慶に教えてやろう! 」
飛ぶが如く、九郎が走る!
【影王風魔】をお送りしました。
新たな転生者が現れました。
黒騎士の話しからすると、転生者は全部で8人(暗殺教団も1人とカウント)なので、残りは2人。
(映画 ヤングシャーロック ピラミッドの謎を、観ながら)




