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83 インターバル (改訂-5)

前線の後退を余儀なくされたアリストラス軍。

反抗作戦前のひと時。

最後の召喚者も登場します。

では、宜しくお願いします!

 (ハコ)……


 (ハコ)……(ハコ)……


 何かを入れる物?


 何かを隠す物??


 何かを仕舞う物???


「この中にはな……主人の恥ずかしい物が入っておる……」

 ヴァルフは真面目な顔でいきなり爆弾発言を掘り込んでくる。



「はは恥ずかしい物?! 」

 幼いセネカの瞳は爛々と光を帯びる。


「そうじゃ! 主人が我が家にやってきた頃にの〜、それはそれは、恥ずかしい事があっての〜、口に出すのも恥ずかしいわい」

ヴァルフは、勿体つけて確信には触れない。



「この匣を開けるには、ある程度強力なモンスターを倒し、その神霊力を注ぎ込む必要がある。ほ〜ぅれ。ここの宝石の色が、青から赤に変わったら神霊力が満タンになって、蓋が開く」



 この話を聴いた十歳になったばかりのセネカは、これ以降この匣を開ける為にモンスターを倒して倒して倒しまくったが、低級モンスターを幾ら倒しても埒があかない。

 死ぬ思いでサイクロプスやワーウルフを倒しても、チビッとしか色が変わらない。



「こんだけ〜?! 」



 あれから七年、やっと真赤に色が近づいて来た。

先日のカロッサの塔の双頭の大地巨人を倒して、あと少しで願いに届きそうだ。



「満貫成就!! もう少しよ! もう少しで我が主に私の足を舐めさせて あ げ る ! あふぅ〜」

 想像するとセネカは体をくねらせて、腰がもじもじしてくる。切ない表情を浮かべながら……



◆◇◆




「お兄ちゃん?! 」



「お兄ちゃん!! 」

 ユイが立ち上がった? 大丈夫なのか? ユイ!? そんなに胸が大きいかったっけ?? 



「ほら! 起きて! ヒロト!……やっと目が覚めた?! 」

 たわわに実った胸を押し付ける様にユイがヒロトを揺する。

 ユイ……こんなに柄が悪かったっけ?……それに胸が……こんなにボリュームがあったっけ?



 ヒロトは薄目を開けて眩しいそうにする。

 まだ意識がはっきりしていない。



「わかりますか? ヒロトさん! 」

 晴明が何か言っているな〜……マーリン? 総司?……



「武蔵のおっさん〜、ビリーも……皆んな久しぶりだな〜」



「何言ってんの! しっかりしなさいよ! ……とりあえず、この手をどけろってーの! 」

 ヒロトがジャンヌの胸を鷲掴みにしているのを、躊躇いなくぶちのめして、払い除ける。そのおかげでまた意識が飛ぶ羽目になったが、なんとか持ち直してボヤけた頭を覚醒させる。



「……あれからどれくらい経った!!? 」

 怒った様にビリーに掴みかかる。



「まるニ日だなや! 大丈夫か? 」

 マーリンが泣き出して抱きついてきた。


「そうかニ日も…………」

 まだ頭が痛む。





 ここはトンパ村から三十デル後方に位置するヴァイアの街。軍の配置をこの街まで下げて防衛線を再構築した。

トンパ村の塹壕と同時並行でこの街の外周にも塹壕を掘り進めていた。

ゴドラタン帝国軍も今回はこの街に本陣を置く事となった。

 妖魔軍の進行で崩壊した戦線を立て直すのにアリストラス軍の特別遊撃大隊の活躍が大きく、共同戦線を敷く事となったのは言うまでもない。



「転生者は災厄の渦の生贄だよ」



 ヒロトはそう結論付けた。

 本来世界樹に帰る筈の魂が、災厄の渦に引きずり込まれている。その魂の神霊力で災厄の渦の中心が活性化している。



「神霊力が強ければ強いほど生贄としては最適だ。それは俺たちも例外ではない」



「って事はだな、俺達も生贄って事か? でも俺達はエレクトラが神託の杜で召喚したんだぜ? 」

 九郎はまだ腑に落ちないみたいだ。



「神が召喚した存在の俺達ですら、災厄の渦は利用しようとしている。俺達が頑張れば妖魔が多く死ぬ。結果的にそれは災厄の渦に貢献している事になる。逆に頑張らないと人間が死ぬ。それも結果的に災厄の渦に貢献する事になる」



「じゃあ、どっち道、奴らの思う壺じゃない! 」

ジャンヌは段々腹が立って来た。



「この災厄の渦は、俺達人間と妖魔を殺し合わせる事自体が、目的なんだよ」

ヒロトは天を仰いだ。



「これは蠱毒(コドク)ですね」

晴明もヒロトに同意した。



「蠱毒?? 」

 ウィリアムとビリー、ジャンヌには聞きなれない言葉だ。



「蠱毒とは、古代からある呪いの一種で、瓶の中に毒虫や毒を持った動物を入れて殺し合わせるのです。百足(ムカデ)とか、蛇とか(サソリ)とかね。お互いに喰らいあって、最後に残った最強の毒虫を呪いの発動源にするんです」



 晴明は続ける。

「ヒロトがエリザベートを倒した瞬間、彼女の魂は災厄の渦に取り込まれました。その瞬間、災厄の渦の呪いの力が膨れ上がった。最上級の餌だったみたいですね〜」



「奴らはそれがわかっていて、災厄の渦に加担しているな……スパルタカスのあの壊れっぷりが証明している」

 あの怨嗟に染まった瞳を武蔵は思い出した。



「魔神が呪いなのか、それとも……明後日の午後にはエレクトラの聖堂騎士団が到着する。この話しはその時に持ちこそう」

 エレクトラの兄、クレインだったか……最後に残った呪いをどうするつもりなんだ? 世界を変革する以前に世界が滅ぶかもしれんぞ……



「この世界は呪いの(ハコ)だ……」




◆◇◆




 ロード・グランデ大迷宮の周囲に妖魔が引き寄せられる。これも災厄の渦のシステムによる物か。

 中心に近づくほど強力なモンスターが多くなる。


「黒騎士が最後の宝珠を手にしたか……」

 これで三つ巴の奪い合いになる。クラインは苦々しい思いだった。奴らが災厄の渦の主導権を握ったとて、魔神をコントロールする術は無い……



「猊下、奴の方から近づいてきます。我らはそれを待てば良いかと」

 ローブを目深に被った銀髪の男は薄笑いを浮かべながら災厄の渦の中心を眺める。



「エリザベートがああまで簡単に滅されるとは予想外だった。なんだあの召喚者は? 」

 魔導のことわりを逸脱した力だ。昔、学生の頃にエリザベートと同じ様な能力を持った敵と戦った事を思い出した。そのせいで、クラインは大切な者を失う事となった。



「普通の召喚者では無いようです。少なくとも千年前にはあの様な存在は確認されていません」

 神の悪戯か?……



「ならば四つの宝珠で儀式を始める準備にかかれ! 」



「ははぁ! 」



蘭丸(ランマル)! 次は誰がゆく? 」

 クラインは、手にした錫杖を床に突き刺し、漆黒の天井を見上げる。




◆◇◆




 暗闇と朝焼けの間の時間を有明と言う。九郎はこの朝日が登る前の静けさが好きだった。


「諸君! 我が特別遊撃大隊は○四○○をもって敵暗黒騎士団の進行に対して要撃を開始する」

 暗黒騎士団と呼称する敵騎士団が確認されてから一日がたった。

 ライアット公国軍の斥候中隊が遭遇、ほぼ壊滅の憂き目にあった。



「敵騎士団と妖魔軍を合わせた総数は既に十五万を超えている。我が部隊の任務は敵騎士団と妖魔第三軍との分断だ」

 九郎の特別遊撃大隊は、新たに三千の選抜部隊が合流し、総数は五千騎に達し、ヴァイアの街から四十デル離れた山中に集結していた。



「東のライアット国境でゴドラタン帝国軍に動きがあります」

 アリストラスの間者からの報告を副官のジレが読み上げる。

 ゴドラタン帝国軍第一軍が国境に集結中との事だった。



「またあいつら、なんか考えてやがるな〜」



「どうするんだ? 九郎」

 ウィリアムはすっかりこの部隊に馴染んでいた。



「敵暗黒騎士団と、ゴドラタン帝国軍第一軍のケツを蹴って回るぞ! では諸君! 遠足の始まりだ! 」




◆◇◆




 男は酒を煽りながら頭を振った。この世界に来て十日ぐらい経った。

 倒れていた自分をこの酒場の女主人が助けてくれた。

 拙者が見つめ返すと、女主人の顔が妙に紅くなったのを覚えている。

 長剣を背中に下げている以外の持ち物は無かった。



「主人! 酒だ! 」



 先ほど入って来た一団は冒険者だろうか?

 騒がしい……

 鋼の鎧を着ている姿を見て思う。



「あんなので動けるのか? 」

 そう思いながら酒を飲む。



「次は何処へ向かいますか? 」

 戦士の出立の男が黒ずくめの鎧を纏う男に話しかける。



「異世界より神が伝えし伝説の武器を探す。剣、太刀、槍」

 このうち剣は既にこの男が持っている。

 何気に話しが聴こえてくる。

 伝説の武器……

 小倉にいた拙者が、何故こんな異界にいるのか?



「転生者エリザベートが討たれた。あのヒロトとか言う召喚者の若造がやったそうじゃ」

 ヴァルフは鹿肉を摘みながら感心する。



「間者の話しでは魔導のルールを無視した様な、逸脱した力だとか」

 セネカも鹿肉にかぶりついたり。



「それに東洋の顔立ちをした武芸者、名をなんと言ったかな? ……そうそう確か宮本武蔵といったか?! かなりやるそうだ! 」



 黒ずくめの男も酒を飲みながらご機嫌だ。

 何気に話しを聴いていた男の顔色が少しづつ変わってくる。

 武芸者……宮本……武蔵……ムサシ?



「武蔵だと!!? 」



 男は急に立ち上がり黒ずくめの男に詰め寄る。

「なんだ君は?? いきなり? 」



「いま武蔵と言ったな? 詳しく教えてくれ! 」

 男は更に詰め寄ってくる。



「無礼であろう? 手を離せ!! 」

 戦士の出立の男が、強引に手を掴み引き剥がしにかかる。がその手を男が逆に掴み直して、戦士を引き倒す。



「?! うっつつ! 」

 戦士が倒れた瞬間、一団が武器を取って立ち上がる。



「騒ぐな!! 」

 黒ずくめの男が皆を諌めた。

「その武蔵と言う男の関係者か? 」



「関係は無いが、知っている男だ」

 男は拳を強く握り絞める。



「召喚者だな……あんたの名は? 」



「拙者の名は岩流……そう巌流、佐々木小次郎」




◆◇◆




 ビリーは夜の帳が好きだった。

 紙煙草を咥えながら、ぼーっとしている。何か考え事をしている様でいて、なにも考えていない。駐屯地をみて回って士官の天幕に戻ってきた。

 二段ベッドが並んでいる。

 凄いいびきだ。

 毛布を跳ねた者にかけ直す。すると後からドスンっと音がする。見るとメイデルがベッドから落ちていた。



「凄い寝相だなや〜」

 メイデルのはだけた胸元を覗き込む誘惑に耐えながら、起こしてベッドに寝かそうとするが、バタバタして暴れる。



「むにゃむにゃ……ミノタウロスめ〜! 」

 またジタバタする。



「メイデル! 暴れるな! 」



「しぶといミノタウロスだな〜! これでも喰らえ! 爆裂魔法! 」

 メイデルが晴明の様に印を結び始める。



「おおい! マジか! やめろ!! 」

 ビリーは慌ててメイデルを抱っこしたまま天幕を出る。

 メイデルの印が結ばれた瞬間、眩しい閃光が発生した!



 ドカカカンンンン!!!


 爆裂した!



 黒焦げになったビリーがぶっ倒れて身体から煙が出ている。


「あれ? なんで私、外にいるの?? 」









インターバルと題した今回は、アリストラス軍の反抗作戦前のお話です。

次回は更なる転生者も登場します。

そして遂にあの男も動きます。

(映画 明日に向かって撃てを観ながら。)


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