81 魔人登壇 (改訂-5)
新たな真実が明るみに出ます。
災厄の渦とは何なのか?
新たな登場人物。
少しづつ確信へと近づいていきます。
宜しくお願いします。
まだ夜明け前の暗闇を疾走する軍がある。
風を切る無数の蹄の音。
一頭の龍の様なその軍の動き。
軍馬を自在に操り山の中の獣道を迷いも無く突き進む。
この男が行くところに道ができる様だ。
源九郎判官義経。幼名を牛若丸と言う。中世日本の武家社会を二分した源氏が平家に滅ぼされ、幼かった牛若丸は京の鞍馬寺に預けられる。遮那王と呼ばれ、出家する事で命を繋ぎ止めた。
奥州藤原氏により自分が源氏の本流だと聞かされ、兄と共に平家打倒を成すが、当時、兄の頼朝を陰から操る北条氏によって謀反の嫌疑をかけられ、奥州の平泉で討ち死にした。
五条大橋での武蔵坊弁慶との決闘、壇ノ浦海戦で船から船へ飛び移りながら戦った八双飛びはもはや伝説。
中世日本最強の武将である。
「そろそろ夜明けだ。敵の気配が移動したな」
九郎は軍馬を休ませる為に疾走速度を落とした。
「この辺にいた敵の気配はゴドラタン帝国軍の支配地域に移動したな」
ウィリアムも馬を休ませる為に九郎と並走する。九郎の疾走速度について来れるだけでも只者ではない。
「隊長! この後はどうするんですか? 」
副長のジレも大分疲れが出ている。この2人について行く事自体が一苦労だった。
「敵の気配が遠のいたからな〜、少し寝る! 一刻たったら起きるからな。そしたらまた嫌がらせしに出発だ! 」
と言いつつ馬から降りてすぐに近くの大木の根本に腰を下ろした瞬間、一瞬で寝てしまった。
ゴドラタン帝国軍の野営地はいきなり数万の妖魔軍に包囲された状況に叩き込まれた。
元々山の中の高地に急遽作った陣地の為、アリストラス軍ほどの備えが無い為、受身には弱い。急拵えの柵も、この軍勢には持ちそうに無かった。
「何処から湧いて来たんだ? 」
ルーカス将軍は流石に焦りを覚えた。
側近の軍師達も目の前の対応で手一杯だった。
「狼狽えるな! 後方から第一騎兵大隊を出撃させて、左周りで敵側面に突撃させろ! 」
索敵は完璧に行っていた……何故急に現れた??
「ライアット公国軍に援軍を要請しますか? 」
恐る恐る軍師の一人が進言する。
「馬鹿を言うな! 皇帝陛下に申し開き出来ん!! この程度の妖魔軍など我々だけで対処可能だ。五万の軍が無傷なんだぞ! 」
「正面の柵が破られます! 」
慌てて伝令兵が天幕に駆け込んで来た。
「なんだと!……重装歩兵を前面に。長槍歩兵で援護し持ち堪えろ! 」
なんと無様な!!
「私も出るぞ! 第二騎兵は我に続け! 」
◆◇◆
朝靄の中、
アリストラス軍は戦闘態勢に移行した。大気に殺気が満ちてくる。こればかりは肌感覚でしかわからない。
「九郎からの連絡は〜? 」
晴明はまだ半分寝ている。
「まだ動かない……すでにゴドラタン軍に対して妖魔軍が総攻撃を開始している」
ヒロトは戦術モニターから目を離さずに、
「九郎の陽動で、敵第二波の正面はゴドラタン軍に向かった。我々はその側面に喰らいつく! 」
「パルミナ連合王国軍の幕府先遣隊が後方十五デルの地点まで到達。先触れが来ます。どう致しますか? 」
予想を超える大軍が集結し始めていた。
「我々が先陣を切ったのだ。次はライアット軍に花を持たせる。パルミナ軍には待機してもらえ」
戦争の序盤では、連合軍の場合、政治的な配慮も必要だ。
(くだらない事だがな……)
「ジレ! そろそろ動くぞ! 」
一斉に騎馬が動き出す。
「またゴドラタン軍の方へ移動するのですか? 」
副長のジレが問いかける。
「ゴドラタン軍を今度は援護する」
「わざと敵に包囲させておいて、今度は援護か? 」
ウィリアムも理解が及ばないみたいだ。
「俺たち二千騎を送り出したヒロトには思惑がある。たった二千騎で正面から敵とぶつかるなど、そんな愚行をヒロトは望んでいない。ヒロトが望んでいるのは撹乱だ」
「だから嫌がらせか? 」
ウィリアムは納得が行った様だ。
「あんな所で高みの見物を決め込む奴らを俺は好かん」
……まるで兄上の様だからな……
「奴らに精一杯恩を売りに行くぞ! 」
晴明は虚空を見上げながら違和感をさぐる。
「この世界の魂は世界樹へと帰り、そしてまた転生すると聞くが……この戦場で散った魂は、人も妖魔も世界樹へは帰っていない……別の何かに囚われている? 」
晴明はこの戦場に到着した時から違和感に襲われていた。自然界の法則に逆らう何か……
「魂が囚われ、そして逆流している……ヒロトが言う様にこの災厄の渦は巨大な呪いだ……だがこの呪詛の術式……覚えがある……」
ゴドラタン帝国軍の前線は崩壊しつつあった。
ヒルジャイアント、トロールなどに加えてファイヤージャイアントまでが参戦している。
ゴドラタンの重装歩兵は屈強でよく戦ったが、相手の戦力が勝り、ジリジリと押され始めた。
「隊長、下がって下さい! ここは我等が食い止めます! 」
「混戦し過ぎている。下がる所などない! 」
ジャイアントのファイヤーブレスがまさに兵達を焼き尽くそうとした時!
飛ぶ様に馬で突っ込んで来た九郎の一撃でジャイアントの足が斬り飛ばされた!
「縦に紡錘陣形で突破する!! 雑魚には構うな! 旗を掲げろ!! 」
混戦していた前線に殺到していた妖魔軍の側面から二千騎の軍勢が食い破るように突っ込む。九郎とウィリアムがまさに暴風の如く敵を斬り飛ばして行く。
「魔戦剣!! 」
力の波が妖魔をどんどん細切れにして行く!
「なんだ? その奇妙な掛け声は? 」
ウィリアムは不思議な物を見る様な顔をする。
「センスないな! 技の名前だよ。カッコいいだろ〜! 」
九郎は話しながら敵を屠りまくっている。
「おいジレ! 今のはカッコいいのか?? 」
「私に振らないで下さい……」
「何処の部隊か? 」
第二騎兵大隊で、ともに左の戦場を維持していたルーカス将軍は右から突入してきた見慣れない軍の鋭い攻撃に目を奪われた。
「双頭の鷹に蓮の葉です」
「アリストラス皇國軍か!? 」
ルーカス将軍は歯噛みした。これでは皇帝陛下に申し開き出来ん! ゴドラタンがアリストラスの助力を受けるなどと……
◆◇◆
「九郎が動いた! 」
ヒロトは戦略モニターを見ながら、九郎の動きを追う。
「九郎の動きを察知して敵の主力が引きずりだされるぞ! 全軍に通達!! 正面から押し寄せて来る! 」
晴明が言っていた変な物も来るか……
物見櫓から直ぐに伝達される。
「アンデットの大群が来る!! 」
ヒロトの戦術モニターに映った敵はゾンビやグール、骸骨騎士などを主力としたアンデットの軍約四万五千体が波の様に押し寄せて来る。死者の軍勢の中心に一際紅く輝く光点がある。これが晴明の言う変な物か?
その後から更に強力な反応が高速で現れる。
「何だ? この速度で……空を飛んで来るものがあるぞ?! 晴明! 」
「式神を飛ばします! 」
晴明が懐から呪符を取り出して空に投げる。
呪符が白い巨大な鳥になって北の空へ向かって飛ぶ!
戦術モニターで晴明の式神と敵の高速移動する物体がぶつかり合う。
「式神が潰された!?? 」
晴明は驚愕した。こんな事が出来る者は……
「来るぞ!! 」
ヒロトの声と同時に晴明が天幕の外へ出る。
空に浮かぶ黒い巨大な黒鳥の上に立つ人影が見える!
「あ、貴方は!? 」
「久しいな。こんな世界でまた逢えるとは……つくづく縁があるとみえる……クックク……」
「蘆屋道満、何故? 」
蘆屋道満。別名を道摩法師と言う。安倍晴明の幼少期に呪術勝負をしたが負けて晴明の弟子となる。
晴明が遣唐使として唐の国にて、白道上人より仙術の奥義を学び帰国したが、その奥義を晴明から盗み出し悪行の限りを尽くした為、晴明により誅滅された。
「儂は死んでこの世界に転生したのよ」
「死んで転生? 召喚されたのではなく? 」
晴明は懐で素早く印を結ぶ。
「儂の日の本への怨みが、災厄の渦に惹かれて転生したのさ! この世界の生きとし生けるものを滅ぼす為……生まれ変わった様に頭がスッキリするぞ! どうだお前も死んで転生してみんか? 」
道満の右手から黒い玉が溢れ落ちた。
落ちた玉から黒い影が地面に広がって行く。
「ドーマンセーマン。穢れよ奴を取り殺せ!! 」
黒い影の塊から手が伸びて晴明の足を掴んで引きずる。
「オンマリシェイソワカ!! 」
晴明が印を結んで真言を唱えると影の塊が炸裂した。
「腕は落ちておらんな。だが災厄の渦の力を得た我には及ばん! 」
さらに影が膨らみ、中から巨大な蟷螂が数十匹這い出して晴明に飛びかかる。
「影には影か! ヤソマガツ日の神、オオマガツ日の神、来たりて我に従え!! 」
刀を持った無数の式神が蟷螂を切り倒して行く。
今度は道満の左手から紅い玉が溢れ落ちる。落ちた玉から赤黒い焔が意思を持つかの様に広がって行く。
「ドーマンセーマン! 地獄の焔よ! 奴を焼き殺せ!! 」
黒い焔が晴明を襲うその瞬間、道満の頭が突然炸裂した!
「?! 奴め、威力を逸らしやがった?! 」
ビリーがライフルで狙撃したが、道満は目に見えない障壁で防御した。すぐに次弾を撃ち込む。
「魔界の魔獣リバイヤサン。木星の断層より出でよ。我が声を聞け。バアル・アドミラス ドゴスアルド、天空の矢をつがえよ! 」
「顔洗って出直して来い!!! 魔弓獣呪断層!!! 」
ヒロトが道満に向かって突き出した腕に呪禁の紋様が赤く浮かび上がり、腕の周囲の空間が歪曲して見える。掌から紫の光が道満に向かって発射された!
道満は障壁の呪文を唱え、見えない障壁を張って防ぐが、すぐに障壁は崩壊し爆発した。
爆炎の中で血塗れの道満が薄笑いを浮かべている。
「ふははははあはは!! 最高だなお前ら!! 」
「直ぐにまた逢いにくるぞ晴明! 」
そう言って黒い巨鳥に乗り、高速で離脱した。
「何だ奴は? 」
ヒロトは晴明に駆け寄って、膝をつく晴明を助け起こす。
「蘆屋道満。私の弱さが引き寄せた、あれこそ呪いみたいな者です。自らを転生者だと言っていた……死んだ者が災厄の渦に呼ばれて、この世界に転生したと……」
「死して転生した者……」
災厄の渦の儀式は死者をこの世界に導いているのか?
ならばスパルタクスも転生者……
新たな登場人物も怨みに染められた存在です。
死んだ者は災厄の渦に引かれて転生者としてこの世界に顕現すると言う事がわかりました。
次回は国境最大の激戦が始まります。
ご期待下さい。
(映画 幻魔大戦を観ながら)
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天に昇ります!