79 怨恨連鎖 (改訂-5)
敵方の人物の正体が判明します。
召喚者とは何なのか?
災厄の渦を止める為のシステムなのか?
謎が深まる展開です。
宜しくお願いします。
「主君! そろそろ塔の最上階です」
塔の最上階には、人間が通る扉のスケールではなく、異様に巨大な物が立ち塞がった。全ての存在を否定する様な禍々しさがそこにはある。
「わかった。皆の者、装備を再確認しろ。ここから先は引き返せ無いと心得よ! 」
漆黒の鎧を身に纏った偉丈夫は盾を持たず、巨大な両刃の剣を背中に背負っている。この剣も漆黒の鞘に収まっていた。
「ははっ! 」
皆の声が静かに、そして一斉に響く。
「ゾクゾクしてきますわ〜。もう私、疼いて疼いて……」
顔を恍惚とさせながら身をくねらせる栗色の髪の女。
「セネカ! お前は黙ってろ! 」
「酷いですわ主君! こんなになってますのに〜」
そういって上下に揺れる胸を黒騎士の腕に押し付ける。
「主君! 我が娘の狼藉は親である我が身の不徳! 腹を切りまする! 」
そういって初老の魔道士は跪き、服の胸元を開けて、取り出したナイフを腹に当て様とする。
「やめてくれ! 頼むからそのノリをやめてくれ。お前らわざとやってるだろ!? 」
魔導士の杖を持った初老の男はそんな事は滅相もない! などと受け答えするが、顔は笑っている。
「天下の黒騎士にその様な戯言を。もうしませんわいな〜」
こんな連中だか腕は確かだし、よく支えてくれる。
「この塔の主を倒し最後の宝珠を手に入れる! 」
そう自分に言い聞かせて最上階の巨大な扉を押し開いて行く。
ギシギシと唸りを上げて少しづつ開く扉。
深淵の中に何が蠢く気配がある。
ズズッンンンンンンン!!
ズズズッンンンンンン!!!
「何だ!? 」
闇から現れたのは、顔が二つある巨人だった。
「我の宝物を狙う愚か者共め!! 明日の太陽など拝めると思うな!!! 」
地響きの様な声が鳴り響く!
「散開!! いつも通りだ! 一瞬で決める。神気を溜めるまで時間を稼げ! 」
黒騎士はそう皆に告げると、自分は巨人の真正面に立って、背中の大剣を抜き放つ。抜き放たれた白銀の白刃が輝き始める。
塔に入った者達は黒騎士が選抜した一騎当千の猛者ばかりが六人。
「暗き闇夜の眷属よ! マナの門を開き我が力となせ!!!! 地雷爆砕!! 」
初老の魔導士が呪文を放つ。巨人の足元から触手が伸びて絡まり、その触手が爆裂した! 巨人が堪らずのたうち回り、口から強烈な炎を吹き出す! また手にした鉄球状の巨大な武器【モーニングスター】を振り回す。
掠っただけでも大ダメージは確実だ。
「回避しろ! 回復魔法! 」
「さっさと終わらして、主君に撫で回してもらわないと〜」
「するか!! 」
「いや〜ん! 突っ込み早すぎ! 童貞ぽい〜」
そんな掛け合いをしながらセネカは2本の戦斧を巧みに操り、巨人にきつい攻撃を入れると、巨人の傷口が酸で溶けた様になる。
「私の猛毒でさっさと恍惚と行っちまいな!! 」
巨人が詠唱し始める。
「原初の魔神よ。大地の魔王よ。我は大地精霊の代行者。」
「魔法が来るぞ……耐えろ! 」
黒騎士の叫びに、皆が身構える。
巨人が鉄球に魔力を集中し、床に叩きつける。
「地礼振撃滅波! 」
塔を構成する石材が地震によって崩壊し始める。
床が跳ね上がり、皆の身体が跳ね飛ばされた。
フォーメーションが崩れたところへ、モーニングスターの凶悪な衝撃がくる。
そして間髪入れずにファイヤーブレスの攻撃が襲いくる。
「神より賜りし神聖なる城壁。天使の住う城。我ら忠実なる僕に加護を! 天城防壁!! 」
パーティーの僧侶が神聖な障壁で皆の身体を火炎から防御する。
「ヒイ、フウ、ミイ、ヨ、十束の剣よ。その神気を解き放て! 」
黒騎士の刀身がさらに輝きをまし、その身を躍らせた。
体内から巨大な気を全て刀身に乗せる。
「くらえ!! 封神鳳凰旋風断!!! 」
黒騎士の神霊力が爆発した! まさに神気とも言える力をその刀身に載せて巨人の身体を真っ二つに両断した!
巨人の神霊力が消え、その身体も塵と化していく。すると天からゆっくりと宝珠が降りてくる。
その輝く球を手にして皆に掲げる。
「お見事です! 」
「魔導帝国軍が来る前に撤収する。他の宝物は捨ておけ」
その時外界から衝撃波が塔内部まで伝わってきた。
ガガガガガガガガッドドドドゥゥ!!
「何だ? これは? 」
「おそらくアリストラス軍の放った広域集団魔法だろう……ここまで衝撃波が届くとはかなりの威力だな……召喚者が介在すると威力が桁違いだ」
黒騎士は感心した。
「感心している場合ではありません。彼奴等は我らの敵になるかも知れませんぞ」
初老の魔導士は事の重大さがわかっている。
「ヴァルフ……大事ない。彼奴等は災厄の渦を止めると言う意味では、我らと同じ方向を向いている。だが核心部分には到達できまいよ」
「我らの目的は当初から変わらない。金髪の小僧も世界が魔に汚染される事など望むまい。皆も心得よ」
「御意! 」
「あっはあ〜。いっちゃった! 次のゾクゾクはどんな感じかしら〜」
セネカは恍惚とした表情で黒騎士の腕にまた抱きついてくる。
「…………」
◆◇◆
ナイアス大陸では生命が終わりを告げると、その魂は世界樹の根から吸収され、枝葉となり、そして新たに生まれ変わるとされている。
それは人間や獣、そして妖魔も例外では無い。神ですら死が存在し、転生する。
このグランパス外縁部では、今この世界で最も魂が飛び交う場所となった。ある程度の神霊力がなければ魂を見ることは出来ないが、ジャンヌは知覚していた。
「命が吸われて行く……」
ジャンヌは冷たい物を背中に流れるのを感じた。莫大な命の浪費。次々と生命の木に魂が吸われて行く。だが、生命の木だけでなく、それ以外にも魂を集める存在がある。生命の木に吸われる魂達は、新しい命に生まれ変わる。だが、魂を集めるもう一つの存在は、魂の再生などしない邪悪な存在だと知覚してしまった。
「なに?! この嫌な感覚は? ……魂が、生命が、嫌がっている? 」
ジャンヌは無意識に涙を流した。
戦略モニターを見つめながらヒロトは頭の中で細かい計算を行なっている。
「総司の大隊は一旦下がって休んでくれ。前線は黒豹騎士団とライアット公国軍で維持する」
ほぼ敵の第一波は沈黙した。残敵は問題ない……
「晴明、式神からの報告は? 」
「敵の第二波は約五十デル前方に集結中ですね〜。今度はもっと変な物がいますよ」
「変な物? 」
ヒロトは戦略モニターマップに敵の姿を捉えてる。赤光点は今までで最も強い集団だった。
「?! 」
今まさに後方に下がろうとした総司の大隊の右横にアラートが発生した。
「索敵に捕まらない敵? 」
「総司! 敵に捕捉されているぞ!! 」
念話を送るが返答がない。敵の不意打ちをくらって総司の大隊に混乱が生じていた。
「感知が出来なかった?! 武蔵殿! 」
「わかっている。こいつら人間だぞ! 暗殺のプロだ! 忍びか!? 」
次々に歩兵が首を切られて血の海に沈む。
ショートソードを両手に持った黒装束の一団に不意打ちを喰らわされた。各々の動きが常人を超えている。かなり素早い。
総司が数人叩き切ると目の前に大剣を掲げた赤毛の大男が立っていた。気配がわからなかった!?
「東洋人よ! 召喚者だな?! 」
「あんたは?! 」
「故あっていまは魔導帝国の将軍を拝命している」
男は大剣を右手に持ち替えて構えを取る。
総司も男のただならぬ威圧感に青眼に剣を構えた。
総司から仕掛けた。
神速のニ段突き!!
「かわされた?! 」
男は難なく総司の突きをかわし、左から横殴りに大剣を振るう。擦りもしていないが、剣圧に吹き飛ばされた。辛うじて足を踏ん張り耐えたが次々と剣圧に襲われる。
「衝撃波がくる!? 」
「我が剣をかわすか!? 大した男よ! 」
2度3度と剣を撃ち合い、お互いにかわすが、男の剣圧から生じる衝撃波に総司は堪らなく下がる。
総司は体制を整えて、身体を低くし超低空の突きを放った!
総司の持つ刀【菊一文字】の白刃が青白く輝きを増す。
「閃光剣!!! 」
青白い炎を纏った突きの衝撃が男を捉えて、男はまともに攻撃を喰らった。
爆炎の中に男のシルエットが浮かび上がる。
「?!! 」
男はゆっくりと炎の中から総司に向かって歩き出す。
「トラキアの民の痛みは、こんな炎では揺らぎはしない……我が怨みは燃はしない……わが同胞を焼き尽くした焔はこんな物ではないぞ……」
総司は生まれて初めて人間に恐怖を感じた。なんだ……こいつは……?!
「総司!狼狽えるな!! 」
横から武蔵が戦いに割って入る。
男が放った大剣の一撃を武蔵が受け止めた。
「異人の男よ。儂が相手だ」
今度は武蔵と男が睨み合う。
刮目すべきは武蔵が構えを取った事か。いや構えを取らさせたと言うべきか。
「赤毛の男よ! 名は? 」
武蔵が問う。
「我れはメディ族の族長の子。名はスパルタクス。トラキアの闘志」
スパルタクスは紀元前ローマに滅ぼされた一族の末裔。自分自身もローマ帝国で奴隷剣闘士としてコロッセオでの真剣勝負を強いられていた。トラキアの復興と奴隷解放を目指して、南イタリアのカプア剣闘士養成所を脱走。ヴェスビウス山で同じく脱走した同志達と挙兵。ローマからの追ってを返り討ちにした事で、近隣の奴隷たちも合流し数十万の軍勢となり、ローマ帝国派遣軍を数度打ち破った。
しかし膨れ上がった軍を維持できず、クラッスス軍の猛攻で敗れ、スパルタクスも戦死した。
最後までトラキアの民を思い、ローマを憎んだ古代の革命児である。
古代ローマ最強の剣闘士。
「我が同胞の怨みを思いしれ! 」
大上段から武蔵に斬りかかる。
凄じい斬撃。
だが武蔵はその斬撃を刃を滑らせて受け流す。
二人の剣戟の応酬が続く。
ここまで武蔵と打ち合える者はなかなか居ない。
「凄い!! 」
総司は悔しかった。
今の自分では武蔵とここまでやり合う事は出来ないと。
「ここまでの男は久しぶりだ! 」
スパルタクスの横殴りの剣を紙一重ですり抜け、すれ違いながら脇差を抜いてスパルタクスの胴を薙いだ。
「浅かったか。素晴らしいぞ貴様! 」
「武蔵殿が二刀を抜いた! 」
総司の感嘆の声。
「この世界では神霊力を載せたオーバースキルなる技があると聞いた。儂は舌を噛みそうな言葉だがな。どうれ見よう見真似で試してみようか」
武蔵が中腰になり大刀を肩に乗せて、小刀を鞘に納める。意識を集中て行くと白刃が発光し始める。
「成る程の。こんな感じか……総司や九郎みたいに技の名前を叫んで打つのは恥ずかしいからなにも言わんぞ! 」
そう言って無造作に剣を振り切る。
その瞬間、スパルタクスの左腕が裂け飛んだ!
何が起こったか誰にも理解出来ない。
「空間を切った!? 」
いつの間にかヒロトが側まで来ていた。
《スパルタクス。その場から引け! 暗殺教団と共に撤収せよ!! 》
闇の底から頭の中に声が響き渡る。
遂に敵方の召喚者が登場しました。
黒騎士の活躍と盛り沢山の今回です。
次回はついにゴドラタン帝国軍も動き出し急展開を告げます。今回も読んで頂きありがとうございました。
また次回も宜しくお願いします。
(映画 ヴァンパイアハンターDを観ながら)
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