78 暗黒魔法 (改訂-5)
ついに火蓋が切られた災厄の渦。
物量に物を言わせる妖魔軍に対して、ヒロトも隠した実力の一端を見せ始める。
その時、闇からアリストラス軍を見つめる眼差しがあった。
静寂が森林の中を渡ってくる。
人は闇と静寂を切り開いて文明を作って来た。
その闇から人類は滅ぼされようとしているのか?
大地を震わす音……音……音……
大地を踏み躙る足……足……足…………
その刻が来た。
真っ赤な無数の光の渦が移動してくる。
妖魔達の目の光だ。
「紅が八で、黒が二! 」
増設された物見櫓から監視当番の兵士が叫ぶ。
「紅が多すぎて黒が見えない! 」
グランパレス側の森をさらに三百メルデほど切り開いて戦闘に適した地形を作りあげている。その開けた場所へ妖魔がとうとう入って来た。
途方もない数の妖魔軍の進軍に兵士は恐怖を覚える。
「動いた! 始めるぞ!! 」
ヒロトは村の中心の天幕で戦術モニターを見ながら伝令兵に伝える。
「マーリンに伝達。広域集団魔法の一撃を合図として全軍を動かす」
「ビリーに伝達。銃士大隊は待機」
村の周囲に掘られた塹壕に待機する銃士達は緊張を押し殺して敵の軍団を注視する。
「あいわかった! 」
マーリンは本陣からの指示を受け取り広域集団魔法の最後の詠唱に入る。
「……天上の至高なる雷帝。白銀の矢をつがえし弓の王。我らを犯す敵を殲滅する為、その大いなる力を貸し与えん……」
「天弓波動砲!!! 」
まだ薄暗い闇夜の天空に、突然巨大な光の輪が幾重にも重なり現れる。その光の輪を中心にルーン文字がまわりを彩り、そしてその文字が光の輪に吸い込まれ集約されて行く。
光の輪の中心に、圧縮されたルーンの力が光の玉となり、それが進軍する妖魔軍の中心地に、超高速で撃ち出された!
紅い無数の光の中に着弾し、時間が止まった様な感覚の後に凄じい爆発と衝撃波が発生した!
核兵器に匹敵する力が炸裂する。
「対ショック防御!! 何かにつかまれ!! 」
その衝撃波がアリストラス軍にも届き、荒れ狂う力に兵士達は必死に耐えた。
「うぐぐぐっぅぅ……!! 」
嵐が止んでみると妖魔の軍勢の中心に巨大な穴がポッカリと空いていた。
「四割は削れたか。上出来だ! 」
ヒロトはモニター越しに晴明へ新たな指示を出す。
「敵先方を引きつけて銃士大隊の一斉射撃を行う! 」
晴明が伝令の式神を飛ばす。そして、晴明も別の術式を発動させる。
「……ヨイヤ ヤミヤ ケガレ ハラエ タマエ」
晴明が呪文を唱え始めると、いきなり地面から、あの世と、この世の境目にある冥府門が浮き上がってくる。その門の扉が左右にゆっくりと開き出すと、その中は漆黒の暗闇だった。その暗闇の奥から何かが、這い出てくる。体長は二十メルデはある翼の生えた大蛇が襖から飛び出して、天空に舞い上がる。
「龍の眷属達よ! 我らの敵を討ち滅ぼせ! 」
一匹ではなく、次々と十二匹の大蛇達が、天空に舞い上がり一斉に妖魔軍に襲いかかった!
「仙界を守護する龍の眷属達です」
「凄じいな。これが魔法の力か」
武蔵は唖然とした。こんな力が存在する事が信じられないという顔だ。
「我々は銃士大隊の攻撃が開始された後の出撃です。味方の銃弾に当たらない様にね」
総司はこんな状況を楽しんでいる様だ。
「後ろから味方にやられたら笑えんからな」
◆◇◆
爆炎の中からオークとゴブリンの集団が大地を揺らしながら現れる。
ヒロトの戦略モニターマップに集団は六千七百体と表示されている。その後方にも八千五百体。
「流石にまだきついな……」
そう呟くとおもむろに天幕の外に出て左腕を天高く掲げ魔法の詠唱を始めた。
「北方の悪魔王、南方の悪魔王、西方の悪魔王、東方の悪魔王、四方を支配する王よ。ヨミの穢れを支配する王よ。アバドンの黒き闇より穢れの軍団を誘え。我に従え!! 」
妖魔の軍勢の中心に黒い点が発生する。その点が一気に広がり巨大な穴となる。その付近にいたゴブリンの集団がその穴へと叫び声を上げながら落ちて行く。直径は百メルデほどか。
「暗黒穢餓鬼空間!! 」
暗黒の穴の中から無数の蛇が吹き出してくる。ただ普通の蛇と違うのは全てが人の様な顔があることか。
全ての目は呪符によって塞がれている。
人面の蛇は次々とゴブリンやオークに食らいつき、穴に引きずり込んで行く。
「なんです? この魔法は? 」
晴明が驚愕した。これほどの魔力を必要とする術を操れるヒロトは何者なのか? 瞬間的な神霊力のパワーはジャンヌに匹敵する。がしかしほんの一瞬でパワーが消えている??
MMORPGファイヤーグランドラインで古代魔法と呼ばれる分類だが、その中でも禁忌とされる特殊魔法だった。
命を生きたまま地獄に送り込む為の術式。
「作ったんですよ。自分流に」
「作った? 今のは地獄とこの世を強制的に繋ぐ術式ですよね? そんな簡単に作れる物なのですか? 」
魔法は万能ではない。晴明が操れる陰陽道や真言も例外なくある固有のルールに縛られている。
ヒロトが行った魔法術式はそのルールを逸脱していた。
ヒロトはマーリンの証言から火属性の魔法が得意だと考えていたが、今のは闇属性に分類される古代暗黒魔法だ。それもオリジナルの解釈で組み上げられた術式。
それに彼の魔力量はなにかおかしい……
人面の蛇は周囲の妖魔をあらかた地獄に引きずり込んでから自らも穴の深淵に戻って行った。それと同時に穴も塞がる。
「なんなの?あの魔法術式は? ヒロト……」
古代ルーン魔術とも北欧のドルイド魔術、古代バビロニア魔術とも違う。全く新しい術式だわ?! 時代は違えども同じ地球から召喚された。であれば同じ法則に縛られている筈なのに。彼は何者なの??
雑念を追払い、マーリンも新たな魔法詠唱に入る。
◆◇◆
「すげーな! ヒロトっち。こっちも準備完了だなや」
「構え! 」
メイデルの指示で一斉にライフル銃の銃口が敵集団に狙いを定める。
一呼吸の静寂。
「放て!! 」
ズドドドドドンンンンン!!!
号砲な鳴り響き、銃弾が敵集団に吸い込まれた。
白煙が辺りを包み込む。
バタバタと折り重なる様に倒れて行く妖魔達。
直ぐに後列の銃列と入れ替わり、第二射を行う。
ズドドドドドドドドドンン!!!
さらに白煙がが辺りを包み込込んだ。敵集団の進撃する足音も止まった。
「第三射待て! 」
敵が引いて行く。銃士大隊から歓声が爆発する。
「黒豹騎士団、沖田大隊は随時出撃! 敵残敵を掃討せよ! 九郎には待機命令……まだ何か居るぞ……」
戦略モニターにはゴブリンとオークの残敵と入れ替わる様に向かってくる一団がある。
数は千二百体ほど?
「少ないな……強敵が来るぞ! 」
ヒロトは沖田総司の大隊に向かって叫ぶ。ステータスコントロール下の士官には念じた事が遠方でも伝える事が出来る。テレパシーのようなものだ。
「心得た! 武蔵殿! 新たな敵を狩に行きます! 」
「おうよ!! 」
武蔵は額あてを結び直して襷掛けを行う。まさに決闘スタイルだ。
「銃士大隊が撃ち漏らした敵は黒豹騎士団に任せる。我らは後方より近づく新たな敵を殲滅する! 五人一組となり連携して敵にあたれ! 」
騎士団から怒号が発せられる。
「出撃!! 」
騎士1人に対して四人の兵卒が付き従い、連携して敵に対応する。これもこの世界、この時代には無かった戦法である。
中央に騎士が位置取り、その左右を盾と片手剣を持った兵、その後方に槍を持った兵が続く。
総司はバラバラに逃走するゴブリンやオークは無視して前方から来る一団を遠目に見つけた。
「あ、あれはオーガです。その中にミノタウロスも混じっている! 」
副団長のルナールが叫ぶ。
「問題ない! デカ物は私と武蔵殿が相手をする! 皆はオーガを狩れ! 」
そう言って一目散に総司はミノタウロスへ向かって行く。
「新撰組一番隊隊長 沖田総司! 故あってこの世界に介入致す! 」
名乗りを上げた瞬間に神速の踏み込みで距離を詰めて、ミノタウロスの左胸に一撃を放つ!
剣が貫通し、すぐさま抜き取って右へ旋回する。ミノタウロスが堪らす戦斧を振り回すが、それを掻い潜り今度は右足を切り上げた!
一瞬で1体を行動不能にし、次のミノタウロスへ向かって行く。
対照的に武蔵はゆっくりと歩みを進める。
ただこの戦場にて、武蔵ほどの殺気を帯びた存在はなかった。
その殺気に当てられたミノタウロス六体が武蔵に向かってくる。
武蔵が刀を抜き、無造作に近づいていく。ミノタウロスニ体が同時に戦斧を凄じい速度で振り下ろすが、紙一重でひらりとかわしてみせた。
武蔵一寸の見切りと呼ばれる技だ。額に米粒を付けて、相手との距離を見切ってその米粒だけ切らせたという記述が残っている。
六体のミノタウロスの間をすり抜けざまに刀を横薙ぎに振るうと一呼吸で六体全ての胴体を真っ二つにして見せた!
「刀が軽い! これが神霊力の影響か! 」
さらに刀を水平に振ると、それだけで衝撃波が発生する。
「武蔵殿! 凄い! あれが【一寸の見切り】と【流水】か! 」
総司は武蔵の動きを見て、自分の体捌きにまだまだ余分な動きが多いと感じた。
「必ず追いついてみせます! 」
そう言いながら三体のミノタウロスを屠った。
「凄じいな! 皆の者! 団長と武蔵殿に続け! 二人が開けた穴を広げて行くぞ! 」
ルナールも負けじとミノタウロスに向かって行く。そこへ天空から光の矢が降り注いだ!
マーリンの放った魔法の矢だ。
「神は代償を求められない。神の子らの命を守り給え、安息を与え、邪悪を退け給え……」
ジャンヌが祈りを捧げると傷ついた兵達がどんどん癒されて行く。一人二人ではなく軍勢その物を癒している。
まさに神懸かり的な力だった。
「さすがジャンヌ様。我が主よ! 」
ケルン教団の神官兵達はジャンヌの余りにも強大な神霊力に感服しきっている。
「我が子らよ我らが軍に祈りを捧げよ! 我が呼吸に合わせよ! 」
ジャンヌの身体から巨大な神霊力の光が漏れ出している。
その暖かい波動に涙を流して歓喜する者もいる。
◆◇◆
「アリストラスめ! 強力な駒を揃えているな」
背中から大剣を外し、地面に突き刺しながら赤毛の男は呟いた。
「前面にいる騎士どもの側面を食い破る! あと銃という飛び道具との距離を取れ」
「俺は召喚者と正面からやる! お前達は……わかっているな」
赤毛の男が、周りに傅く黒ずくめの集団に話しかける。
「我が主よ。我らが闇風の仕事はただ一つで御座います」
「タイミングは任せる! 」
ついに開戦しました。
前振りが長いと突っ込みされそうですが、初心者なのでご勘弁を!
初戦もまだまだこれからです。
一読した頂ければ幸いです。
(映画 裏窓を観ながら)
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