77 ライアット公国攻防戦 (改訂-5)
さていよいよ災厄の渦の除幕。
人界軍と妖魔軍との激闘が始まる。
押し寄せる妖魔の軍勢。
ヒロトは遂にその能力を解放させるのか?
ライアット公国攻防戦のスタート!
「ウィリアム・マーシャルだ」
騎士はヒロトに手を差し出した。その手を握り返してヒロトは驚く。
「ウィリアム・マーシャルってイングランド騎士の?! 」
ウィリアム・マーシャル。イングランドのヘンリー王に見出され十二歳のときにフランスのノルマンディーで騎士の叙勲を受け、馬上槍試合で四百戦無敗。その当時の馬上槍試合は試合とはいえ死ぬ事もあり、負けると全ての財産を没収される過酷な試合だった。
その後、テンプル騎士団に入団して二度の十字軍遠征に参加。数々の武功を挙げ、平民ながらイングランドの軍務伯にまで上り詰めた。
「? ……そんなに俺って有名か? 」
「歴史が好きなもんで……」
「歴史??? ……まあいいか。宜しく頼むぜ」
まずいな武蔵のおっさんに見つかったらまた、勝負しろ! とかって言い出しかねん……ステータスを見るとレベル93 聖騎士とある。
その夜、予想通りの反応を武蔵がした為に、ヒロトと総司の二人がかりで割ってはいった。ビリーと九郎は笑っているだけでなにもしてくれない。ジャンヌと晴明は晩飯を食べるのに忙しくてはなから無視している。
結局マーリンが凍結魔法を使って二人を凍らせて終わった。もう無茶苦茶だよ……
「これで九人か〜」
ビリーが鳥のモモ肉を頬張りなかがら呟く。
「最後の締めはどんな人かな? 」
ジャンヌが興味深々だ。
「史上最高のお笑い芸人とかどうだにゃ? 魔神を笑い死にさせたりして」
「私は史上最高のコックがいいわ。美味しい物をもっと食べたい! 」
「どうすんだよ。この氷は溶けるのか? お前ら笑ってないで手伝えよ」
あ〜あ。託児所かここは?
マーリンはスッキリしたのかジャンヌの横に座って晩飯を頬張り出した。
「あら。この鶏肉美味しいわね」
「でしょ〜。スパイスが決めてよ! 」
ジャンヌは自分で作った訳でもないのに妙に偉そうだ。そんな会話をしていると。武蔵が自力で凍結魔法から脱出した。遅れてウィリアムも脱出し始める。
「俺の方が先に脱出したぞ! 俺の勝ちだ! 」
「俺の氷の方が分厚かったぞ。俺の勝ちだ! 」
同類か……
武蔵はどこか嬉しそうだ。自分とまともに話すこのウィリアムの事を気に入っているふしがある。
宮本武蔵。本名新免武蔵。十三歳で初めて武芸者と決闘し、二十九歳までに六十数回真剣の戦いで無敗。京の都で将軍家指南役を務めた吉岡一門五十数名と、当時最強と言われた吉岡清十郎を一人で打ち倒し、巌流島での佐々木小次郎との一騎打ちはもはや伝説である。
父親の新免無ニが関ヶ原の戦いで東軍だった黒田家の家臣筋だった為、黒田官兵衛(のちの黒田如水)の九州征伐軍に参加した記録がある。
日本史上最強の武芸者。
「ったく……どうでもいいよ。それよりマーリン! 魔法の準備はどう? 」
ヒロトもテーブルについて鶏肉を頬張りだす。
「空を見てみ! 」
「?! 」
ヒロトは天幕から外に顔だけ出して空を見上げる。満点の星空だ。村の上空に巨大な魔法陣が浮かんでいる。
「準備は整ったわ。あちきの最後の詠唱で発動する」
魔法陣に込められた魔力量が半端なかった。ゴドラタン帝国軍が合流するタイミングで発動させ帝国に対する抑止にする。
「俺の食いっぷりの方が上だな」
「いいや! 俺の食いっぷりの方が上だ! 」
◆◇◆
ライアット公都からかなり北の地域に位置するトンパ村の朝はとても寒く、夜露が霜に変わり、辺りを覆う。
その日の早朝に、アリストラス軍が駐留するトンパ村にライアット公国軍が合流した。
アリストラス軍六万に対してライアット軍は三万だ。広く国境や各町と公都の警備に軍を割かねばならず遠征軍に参加するのは三万で精一杯だった。
この軍にゴドラタン帝国軍五万が合流する。
パルミナ連合軍は明日には後詰としてライアットの公都に到着。トーウル王国からも軍が発した。
それに対して妖魔の軍勢は索敵部隊からの報告ではすでに二十万を超えてまだまだ増える様相だった。
「ヒロト。行くぞ」
「は! 」
シリウスと共にヒロトはライアット公国軍の天幕に行き今後の案件を詰めなければならない。
敵の第一陣も集結しつつある。
当初はゴブリンやオークだけとの事だったが、索敵部隊の報告だと昨夜のヘルハウンドやオーガなども存在する様だ。
「昼前にはゴドラタン帝国軍の部隊が合流する。その合流と同時に集団広域魔法を発動させ先制攻撃する」
いまもその魔力を内包した魔法陣が空に浮かんでいる。
実に一千人近い魔導士とマーリンが魔力を十五日間込め続けて完成させた物だ。
「その後、我が前衛三軍が展開、その後に我が主力と貴公のライアット軍が並行展開する」
「敵の先遣隊を屠った騎馬軍は? 」
ライアット公国軍のブロス将軍は軍略杖を大きく広げた国境地域の地図を指し示しながらヒロトに聞く。
「遊撃大隊として自由裁量でやらせます」
「そんな事で大丈夫なのかね? 」
「指揮官の源九郎判官義経と言う男は自由にやらせた方がその力を発揮します」
「英雄殿がそうまで仰るなら我がライアットも依存はない」
「ゴドラタン軍も自由裁量を主張して来た。戦が始まり次第、こちらの動きには合わせてやると言ってきよった」
シリウスは苦々しく思う。
「あの魔力量の広域魔法なら二〜三万のゴブリンやオークは殲滅できるでしょう」
「補給物資もライアット公都に集積中です。そこから補給路沿いに築いた砦も問題なく」
そのとき外から伝令兵が天幕に入ってきた。
「伝令です。ゴドラタン帝国軍が東二十デルの地点に集結。陣を立てました」
「ご苦労! 」
「いよいよだな」
シリウスは厳しい視線を周辺地図に落とし、ふと娘の顔が思い浮かんだ。
◆◇◆
総司は頭が痛かった。
今朝からライラ騎士団長がいきなり乗り込んで来て団員に稽古をつけているのだが、本人は手加減しているつもりだが、次から次に団員がぶっ倒れて運ばれて行く。
召喚者の噂を聞いて、手合わせする為に稽古を理由に来た様だ。
「この団の者共はこの程度か? 次! 」
総司が出て行ってライラの相手をするのは簡単だが、相手も騎士団長という要職にある手前、変に打ちのめす訳にも行かない。どうした物かと悩んでいると後から武蔵に声をかけられた。
「えらく威勢のいい姐ちゃんだな」
「黒豹騎士団のライラ騎士団長です。急に来られて稽古をつけてやるって言って聞かないんですよ」
「お前が叩きのめしてやればいいではないか? 」
「相手は騎士団長です。面子を潰したら後で面倒な事になりますよ」
「軍を預かる手前、お前も立場があるしな。どおれ拙者が相手をしてやろう」
「それも相手の思う壺ですよ」
総司はウンザリした。
「な〜ぁに大丈夫だ。稽古をつけるだけだからな」
どこで覚えたのか武蔵は総司にウインクして見せた。
「ライラ騎士団長殿! そこもとがお相手いたす」
「其方は召喚者か? 願っても無い。稽古をお願いする! 」
ライラはしてやったりと言う顔をした。
稽古場に使う村の広場中央で二人は対峙する。
ライラは木刀を青眼に構えた。
右手に木刀を持った武蔵はだらりと両手を下げなんの構えも取らない。
「それが其方の構えか……」
(何だ? 隙だらけの筈が……まったく隙がない?? )
ライラは背中に冷や汗をかいた。まるで猛獣の前に裸で立たされた様な感覚だった。いままで幾多の騎士団員と相対したがこんなプレッシャーは初めてだった。ライラの足が無意識に後に下がる。
(私が後ろに下がった!? なんなんだこの男は? )
その瞬間、武蔵の身体が大きくなった様な幻を見た。
「?! 」
ライラは身体の力が抜けて木刀を握る手にも握力が入らなくなった。その瞬間、武蔵がライラの木刀の切先に右手に持った木刀を軽く叩きつけると、ライラは木刀を簡単に弾かれ落としてしまった。
「それまで! 」
「ま、……参りました……」
ライラは呆然として何が起こったのか直ぐに理解出来なかった。
「この私が全く動けなかった……」
「いやいや、そこもとは儂の気を当てても倒れなかった。普通の騎士団員ならそれだけで腰が砕けて倒れとる」
何という実力差があるのか。こんな男は始めてだ……アリストラス最強……いやこの世界最強の男か、
「惚れました! 私を貴方の妻にして下さい! 」
総司もまわりの騎士団員もドン引く!
ライラさんの目が乙女になってる……
ライラ団長がしなだれてる……
「なななにを……儂は武芸者だ妻は娶らん」
「貴方の武芸の邪魔はしません。時折愛でて頂ければそれで構いません。身も心も貴方の物」
ライラの豊満な胸がプルルンっと、武蔵の腕に密着して来た。
プシュー……武蔵の顔が真っ赤になり硬直。
「おおおれれは……む無理だ……」
「無理な事など有りません。身体だけの都合の良い女でも構いませんのよ。あちらに私の幕舎がありますから、いま直ぐにでも子作りを! 」
ライラが振り向くと武蔵は遠くに走って逃げる何処だ。
「武蔵様!! 待って下さい〜!! まって〜! 」
普段からモテまくる総司には武蔵の態度が理解出来ない。
「お似合いなのにな〜」
◆◇◆
「アリストラス軍より伝令」
「読め! 」
「00:00より大規模広域魔法を発動! 同時にアリストラス前衛軍の進軍を開始。連動されたし! 」
報告を受けたゴドラタン第二軍団ルーカス将軍は少し考えを巡らしてから一言。
「あいわかった。貴軍の進軍に対し我が軍も連動遊撃を行うと伝えよ! 」
「はは! 」
「さてさて……召喚者の軍師殿のお手並み拝見だな。」
古来より様々な能力を備えた英雄達が虐げられた民を守る為にその身を犠牲にして闘う話しは多い。
時代劇や西部劇、果てはガ○ダムまで。
私はその古典的とも言えるストーリーにロマンスを感じるのだ。
(映画 七人の侍を観ながら)
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