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75 兵馬疾走 (改訂-5)

 ついにライアット公国の国境で戦端が開かれる。

 押し寄せるゴブリンの斥候部隊。

 対するは国境警備隊と新たな召喚者。

 源九郎判官義経の遊撃大隊が出動する。

 そのときヒロトは何を思うのか。



「なんかザワザワしてますね……」



 マーリンは空を眺めながら呟いた。


 今朝から精霊の動きがおかしい。


 何かに怯えている様だ。


 マーリンが団長に就任した魔導団はグランパレス国境に向けて行軍しながら大規模集団魔法の術式を組み上げる作業を行なっていた。

 魔導団の頭上に幾つもの魔法陣が空中に浮かんでいて、目まぐるしく紋様が変化している。歩きながら呪文を唱え、手で印を切る者、呪文の書を読み上げる者、様々な作業をそれぞれが行なっている。



「グランパレスの更に向こう側に何かが這い出て来る様な感覚……」



 マーリンは他の魔導士とは違う神代文字を空に描きながら北の空を凝視していた。


 魔導団の後を行軍するケルン教団にいるジャンヌも同じ様に不安を感じていた。

(この感覚は神が顕現する際に似ているが、この邪悪さは魔神が復活するの? )

 教団の者達に無用な動揺を与えるので声には出さなかった。



「感覚の鋭い者なら気がつくよね……」

 ジャンヌは冷や汗が流れ落ちるのを気にする事も出来なかった。



「儂が鳥肌だと……」



「こんな感覚は初めてだ。何だ? 」

 武蔵も総司も気がついた。



「この感覚……初めて弁慶と対峙した時よりも禍々しい……鬼がでたか? 」

 九郎は馬の動揺を抑える為に馬から降りて首を撫でてやる。



「出やがったか」

 ヒロトは北の空を凝視してそう呟く。

ストームスレイヤーで手に入れた魔眼でも見通せない深き闇の底に蠢くなにかを。



「これがこの世界の魔ですか……京の都にも昔これと似た魔が現れた事があります」

 晴明が懐かしむ様な事を言う。その昔、京の都を騒がせた魔物を晴明と師匠筋の加茂家とで祓った事がある。冥府が開いている? これは日の本のそれと同じ冥府か?



「俺っちにはヒロト程の霊感は無いが、頭の奥でこいつはヤバいってファンファーレがなってるだよ……」

 ビリーは背中に冷や汗が止まらない。



「皆さん? どうしたんです?? 」

メイデルには何がなんだかわからない様だ。



「やばいんだよ。こりゃまずいだなや〜」



◆◇◆



 薄暗い迷宮の最下層に描かれた魔法陣の中心に無限とも思える奥行きの闇の穴がぽっかりと空いている。直径は約五十センチ程か。

 何がが闇の向こう側に蠢くのがわかる。

ヌメヌメとした蛇の様な、それでいて暗い目をしたおぞましいその何か。



「まだ四割といった感じか……」

 黒いローブを纏った男は闇の穴を見がら呟く。長時間の儀式で疲れ果てている。



「やはり宝珠が足りない。魔神はなんとか召喚出来るが、その後は駄目だな……」

 男は祭壇の横にある玉座に座り居並ぶ者達に告げる。



「宝珠の捜索を最優先。次に召喚者の抹殺」



「御意! 」

 居並ぶ七人は首を垂れる。



「闇風にアリストラス軍の召喚者共を襲撃させます」

 赤毛の男が立ち上がり自ら出口へと向かう。



「お主も行くのか? 」



「召喚者共の実力を試して参りましょう」

 男は巨大な剣を左手に持ち、緑色に光る転送魔法陣の中に消えて行った。



「精々頑張って貰うとして、私もそろそろ準備に入るとしますか……」

 銀髪の青年も立ち上がり祭壇の前に進み出る。



「猊下、幕府の動きも気になりますが、当面の相手はアリストラスとかの帝国です」



 猊下と呼ばれた黒のローブを真深に被った男こそエレクトラの兄であり災厄の渦を復活させた クレイン・ラ・サージェスである。五歳で魔導の素質を見出され、七歳で宮廷魔導士の誰よりも魔導を極める者となった。



「我が妹よりも、金髪の小僧の方が厄介だ。あの男の思考は読みづらい……」

 クラインは幼い頃のグラウス皇帝の顔を懐かしく思ったが、自分にまだ人としての感情が残っている事に苦笑した。



「その為の私です。彼奴を戦場に誘き寄せ抹殺します」

 銀髪の男は顔を伏せている為に表情は読めない。感情のない闇の底から湧き上がる声だ。



「黒騎士も動いている。彼奴も何を考えているのやら……」



「我らの思惑に合わせている様な動きです。ですが我ら魔導帝国の前には塵と同じ」

 伏せた顔の口元に薄ら笑いを浮かべている。



「蘭丸、そちの思う様にすれば良い」



「は! 」

 蘭丸と呼ばれた銀髪の男は転移により姿を消した。



「各々方! では状況を開始しよう」



「御意!! 」



◆◇◆



 グランパレス国境に程近いトンパ村では女子供の避難が行われていた。男達は総出で防護陣地構築の為に駆り出されている。村を中心にして周りに人が入れる穴を掘っていた。塹壕と言うそうだが何に使用するかは不明だった。またその塹壕の前には柵も構築する。

アリストラス軍の軍師よりの指示だそうだ。明日にはライアット公国軍の先遣隊が到着する。



「来る日も来る日も穴掘りか」

 男は咥えタバコでツルハシを軽々と地面に振り下ろす。



「お前さんも災難だな旅のお人」

 近くで作業をしていた農夫が声をかけて来た。



「いんいゃ。かまわね〜。何処の誰かもわからねえ俺に飯を食わせてくれた恩義がある」

 村外れの草むらで、倒れていた自分を村人は何も聞かずに介抱してくれた。



「儂らはこの土地に二百年住んどる。曾祖父のそのまた前の世代からだ。だからなかなか手放せん」



「だがもうすぐここは戦場になるんだろ? 逃げた方がいい。命あっての物種だ。グランパレスだったか? あの氷河の向こうから異様な圧力を感じる。あれは人が放つ殺気では無い。もっと別の禍々しい者だ」



「やれるだけやったら逃げるさ。あんたはどうするね? 」



「俺はこの世界の人間じゃね〜。だから元の世界に戻る方法を探しに行こうと思う。だがあんたらが逃げるまでは俺も残るさ。何かやれる事があるだろう」



「律儀な奴だな」



「俺はこれでも騎士だからな」



「益々変わった奴だ。この世界の騎士様や貴族様が泥に塗れる事なんざ見た事ないさね」



「貴族は民の奉仕によって生かされている。民が作った作物で生きてるんだよ。民が苦しんでいるならその身を犠牲にして助ける事は義務だ」



「本当に変わってるな……そんな事を言う偉いお人は珍しいさね」



 農夫は呆れ顔だ。この世界の貴族なんかは民から搾取する事をなんとも思っていない。税が納められないと娘を拐う領主までいる。



「俺の世界の貴族共も腐った奴は多々居たが、この世界でも同じか……」



 森の方で騒ぎになっている。男の叫び声が響く。国境警備隊が何かと交戦している。



「ゴブリン共が来たか」



 農夫はそう叫び、仲間を呼びに行った。自分を騎士だと言った男は農夫とは逆の警備隊がいる北門へ走った。肩には巨大なグレートソードと呼ばれる大剣を担いでいた。物凄い勢いで北門に出向き、兵士に声をかける。



「奴らか?! 」



「ウィリアムさん! ゴブリン共の斥候隊がすぐ近くまで! 」



 見晴らしを良くする為に、北門から近い森の木を五十メルデほどまで切り倒している。その開けた場所に武装したゴブリンが現れる。軽装とはいえ、明らかに武装を整えた群れだ。明らかに軍隊の様相をしている。

 櫓に登ったウィリアムは立てかけてあった弓を取りゴブリン目掛けて狙いを定める。すると矢尻が発光し始め、そして思いっきり矢を放った。神霊力の乗った矢はゴブリンの胴に大穴を開ける。先頭のゴブリンが後ろの数体を巻き込んで吹っ飛んだ。



「すげー! 流石召喚者様だ! 」

 櫓にいた少年兵が感嘆の声をあげる。



「矢を有りったけ持ってこい! 」

 


 すぐに少年兵は下に降りて矢を集めに向かう。その間、ウィリアムは三連射し八体のゴブリンを屠った。城壁に取り付いたゴブリンを警備隊の兵士が槍や石で落として行く。

 城壁といっても三メルデほどだ。下側は石造りだが上半分は木の板なので心許ない。

 少年兵が新たに持ってきた矢筒を背中に背負って、ニ本を口に咥え、さらに四連射を放つ。



「何だこの矢は? 」



 ウィリアムは手に持った矢を見る。

 矢の先が青白く光っている。



「魔法の矢だよ。村のカイ爺さんがかけた魔法さ! 」

 カイ爺さんとは村に一人だけいる老魔導士で、昔はライアット公国軍の魔導士だったそうだ。

 ウィリアムはその矢を溢れ出たゴブリンの群れに向かって放つ。

 ゴブリンに命中した瞬間、巨大な爆炎と化して炸裂した。



「すげーなこれ! これが魔法か! 」

 魔法の矢はあと二十本ほどある。



「まだこの矢を作れるか? 」



「いま爺さんが魔力を込めてるけど直ぐには無理だよ」



「そうか。わかった。これはいざと言う時に使うとしよう」



 爆炎が収まりかけるとまたそこにゴブリンの別の一団が入ってきた。



「きりがないな。一度降りて俺は下で戦う」



 ウィリアムは大剣を手にとってそのまま城壁の上から飛び降りざま下にいたゴブリンを二体、斬って捨て、城門の前まで行き剣を地面に突き立てる。



「ここを通りたければ、俺を倒せ! 傷をつけれたら褒めてやる! 」



 ウィリアムは不敵な笑いを浮かべた。



◆◇◆



「国境のトンパ村に敵の斥候隊を確認」



 連絡兵からの報告にヒロトは直ぐに指示を出す。



「九郎! 」



「わかった! 我が部隊は先行して敵斥候隊を殲滅する。一番槍をつけた者には褒美をだすぞ! 」

 九郎の遊撃大隊から歓声が上がる! 全員が一斉に騎乗する。



「全隊! 出撃する!! 」



 騎士で構成された遊撃大隊二千騎が地響きをたてながら出撃した。誰も遅れる者などいなかった。短期間だが九郎の凄じい練兵について来た猛者どもだ。



「ライアット公国軍との合流を急ぐぞ! 補給隊は遅れても構わん」



 ヒロトは戦闘管制モニターを凝視しながら細かく指示を出す。



「メイデルさん。パルミナ連合王国からの返答はどうです? 」

 いきなり話しを振られたメイデルは少し慌てるがヒロトはいつもの事だと思いいたる。




「パルミナからの先触れでは先発隊は明後日にはライアット公国の国境を越えます」



「遅いな。わざとか……」



「最初の戦闘は厳しいとわかっているからだなや〜」

 ビリーはしみじみ言う。

 パルミナ連合王国は十二の小国の上に幕府と呼ばれる政治を司る組織がある。

 日本の幕府制度とは少し趣きが違う様だ。



「寄り道できればライフルで威嚇でもしてやったのにな……」

 恐ろしい事を平気で言う。



「陣を動かす! 」

 北の空の雲行きは雨模様だなと晴明は思った。








 毎回10ページごとに投稿しています。

 出来るだけストーリーに差し支え無い様にしているつもりですが、見苦しいところが有ればご勘弁。

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