表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/92

74 貴族連合軍戦役 (改訂-5)

 【貴族連合軍戦役】をお送りします。

 これから長い災厄の渦の戦いの始まりです。

 どうぞお付き合い下さい、

「日頃の行いのおかげかにゃ〜? 」



 ビリーは朝から腹の調子が悪かった。

 ヒロトが考案した簡易トイレの世話になりっぱなしだ。出だしから汚い話しだが行軍となるととても重要な事だった。

 簡易トイレは分厚い紙で出来ていて使用後はそのまま捨てる事が出来た。



「朝からグレートトードの姿焼きなんか食べるからですよ。それも丸ごと1匹! 」

 副官のメイデルが即突っ込みをいれる。



「散歩ついでに折角捕まえたんだから、勿体ないだなや? 」

 最近はめっぽうメイデルに甘えっぱなしだ。



「物には限度がありますよね〜」

 晴明は横から話しに割り込みたくて仕方がない様だ。



「何にもしないおめ〜に言われたくない」



「私は常に頭脳労働してますよ〜。式を飛ばして偵察したりね。」

 晴明は心外だと言わんばかりにオーバーな身振りをする。



「式? 使い魔の様な物ですか? 」

 メイデルは興味深々だ。好奇心が旺盛なのだろう。 



「実際に存在する動物などを使うわけではありません。紙で作った擬似生命とでも言いましょうか」

 マーリンの使い魔とは根本的に違う様だ。呪符魔術とも言う。


「この国の魔法体系に無い術ですね。面白い」



「メイデルさんは魔法に興味が? 確かに神霊力が貴方は高い」



「私は下級の騎士家の生まれでしたので、自然に家を継いで騎士になるよう育てられました。でも剣の方はからっきしで……でも物心ついた頃から魔法の基礎が扱えて嬉しかったんです」

 メイデルはそう言うと掌を上に向けて呪文を呟く。

すると掌に炎が浮かび上がった。



「成る程。素養が御ありですね。訓練してみますか? 」


「え? 教えて頂けるのですか? 」

 満面の笑みで乗り出してくる。



「手が空いた時にならいいですよ。ただし私の術は陰陽道。魔術、魔法とは少し違う為、基礎しかお教え出来ませんが……」

 口を、扇子で覆い。どこまでも優雅に受け答えする。



「やった! 嬉しいです。ありがとうございます! 」

 心底嬉しいそうだ。子供の頃からの念願が叶った。



「おうおう。2人して楽しそうだなや〜。俺っちなんか蚊帳の外だなや〜」

 いじけてしまった様だ。妙に絡み出す。


「どうしたんですか隊長? 」

 ニヤニヤしながらメイデルが逆にいじる。


「ふん〜だ! 」

 ビリーは器用に馬上で横になって寝てしまった。




◆◇◆




 なだらかな平野は何処までも続くかと思われたが、だんだん緩やかな傾斜が始まり丘を登り始めた。朝靄の中から黒豹騎士団から伝令の早馬が来た。


「なになに……貴族連合のほにゃららが、丘向こうの平原にはにゃほにゃらら……」

 伝令文を読むが、ビリーが寝ぼけて何を言っているのか判別出来ない。



「貸してください! 」

 メイデルが戯れて伝令文を横取りした。

 中身を一通り見て理解したと伝令兵に伝えた。



「黒豹騎士団が出した偵察隊からの報告では、既に貴族連合の布陣は完了しているが、そこからの動きが無いとの事です」

 貴族連合総数一万五千が平野に布陣している。



「妙だな……各中隊に伝達。フォーメーションを組みながら丘まで移動。そこに布陣するだよ……ふぁ〜、ねむ」

 メイデルに睨まれるが、全く気にしてない。



「敵が丸見えだなや〜」

 丘の上に軍を布陣させ、臨戦体制にはいる。


「普通なら丘に部隊を配置するか本陣をこの丘に置きます」

 メイデルも呆れている。



「悪い軍隊なんかないです。悪いのは指揮官ですね〜。逆に罠かと思っちゃったりしますよね〜」

 晴明も呆れ顔だ。



「式鬼を使って撹乱しますよ」



 晴明が素早く懐から呪符を出して印を結び、呪文を唱える。


 オンソワカ ラドラマダ ハニマドバ……


 すると手元の呪符が勝ってに敵陣の上空まで飛んで行き、そこから四方八方の地面に飛び散る。

 呪符が張り付いた地面から赤黒い腕が生えてきた。式鬼と呼ばれる半霊体が湧き出してきて兵を襲い始める。



「便利な術だなや〜! 」

 いきなり陣地に化け物が湧き出して来て混乱をきたした。



「使い魔と言うよりも召喚魔法に近いですね」

 メイデルは本当に嬉しそうだ。



「第一から第三中隊まで威嚇射撃用意! 」

ビリーが珍しく威厳あるセリフを言う。

 一斉にライフル銃の横列が作られていつでも攻撃できる準備が整う。訓練の賜物だった。






「ななんだ?! この化け物は何処から出てきた? 」



 貴族連合の兵士達は恐慌をきたした。

 何もない何処からいきなり手が生えて来て異形の怪物が湧き出てくる。



「マイル公爵。敵の襲撃です」

 騎士の報告に幕舎には衝撃が走る。



「何だと? 慣例違反だ。」



 慣例とは古来より戦を始める前にお互い一人づつ代表の騎士を出して戦の日時を取り決める事である。があくまでも慣例であって絶対ではなくルールも無い。



「騎士の風上にもおけん連中ですな」

 貴公子だと言わんばかりの青年が相槌を打つ。



「彼奴等は猿と同じです。所詮は庶民から寄せ集めた下賤の者共。騎士などではありません」



「蘭丸殿の言う通りだ。各部隊に伝令し体制を整えさせろ。遅れた部隊は厳罰に処す! 」

 慌てて兵が伝令に走り去る。


(これで大量の神霊力が消費される。マイル公爵には踊れるだけ踊って貰おう……だがあの敵術師、以前の報告には無かったな。新たな召喚者か。ただ圧倒的に先方が強い。このままではすぐに制圧されて死人が予定よりも少なくなるな……)

 蘭丸と呼ばれた青年はこの直ぐ後で姿を忽然と消した。




「さあ始めようか。」

 ビリーは気怠そうにそう呟く。


「全体、一斉射用意! ……放て! 」



 一斉にライフル銃が火炎を噴いた!

 威嚇とは言え凄じい轟音と煙を吐く。

 騎馬主体の貴族連合は阿鼻叫喚の状態に陥った。

 黒豹騎士団が突撃を開始した。敵指揮官を捕縛する為だ。



「周囲に索敵。別働隊がいないか確認」



 ヒロトは目の前の空間に表示された戦場マップを眺めながら細かく指示を出す。マップ上に敵の軍勢の勢力と味方の軍 勢の勢力が数値で表されている。

 赤色が敵方、青色が味方の様だ。

 面白い事に戦意喪失すると赤が黄色に変る。



「後ろの山岳にゴドラタン帝国の密偵が潜んでいる筈だ。圧倒的火力と機動力を見せつけなければならない」

 状況を開始してから約三十分が経過した。

 戦意消失した敵部隊には一切手を出さないが、反抗する部隊には容赦なく攻撃を加える。すると赤色の光点がどんどん消失していく。



「魔物と戦いながら人間に足元をすくわれない様にしなければならないとは……」

 メイデルがため息をつく。



「そろそろ降伏勧告をお願いします。敵戦力十五%ダウン。これ以上は戦力の浪費でしかない」



「そもそも、四大貴族の中に、諭す者がおられなかったのでしょうか? 」



「貴族が諭されたぐらいで、自我を抑えられるものか。それが出来るならこんな事にはなっていない。これは皇國が、一千年以上続いたからこその弊害さ。この国のシステムが古すぎるのさ」

 ヒロトはもう終わりと言わんばかりにその場に腰を下ろした。状況開始から降伏勧告までたったの四十分しかたっていない。



「捕虜にした貴族連合は武装解除して一旦はロイドヘブンに送り、後詰の部隊に再編成します。貴重な戦力を失うわけには行かない」



「捕縛した貴族はどうされますか? 」

 メイデルが恐る恐る聞いた。



「彼奴等は病気なのさ……一千年以上の長き皇國の歴史が生んだ病気だ。それに対しては同情を禁じ得ない。だから釈明はさせる。だが釈明が無ければ処分する」



 メイデルはゾッとした。時々ヒロトが恐ろしく思える。正しくはあるのだろう。正しくは……ゴドラタン帝国の密偵に事の顛末を見られている為に弱腰な対応は出来ない。




「終わったな……」

 武蔵が呟く。



「桶狭間より呆気ないですね」

 総司は風に靡く髪の毛を抑えながら、武蔵の側に駆け寄った。



「平和呆けの連中なのだろ。くだらん」



「指揮官を捕縛して終わりですね。つまらないな〜」

 今回、総司は出る幕無しで不満そうだ。



「しかしあのライフルか? 凄いな。昔関ヶ原で鉄砲撃ちを見たがあれ以上だな」

 


「私がいた時代のミニエー銃よりも高性能です。」

 あのライフルよりも強力な武器を商会経由で生産させているとの噂もある。



「それにヒロトのあの指揮っぷり。戦場全体が、はなから見えているのか? 恐ろしい男だな」

 実際、何者だ??



「ある意味で土方さんより怖いかも……」




◆◇◆




「貴族連合が崩壊したか」



 金髪碧眼の男はその若さに輝く様な才能を溢れさせる出立で呟く。まだ二十歳に届かない歳だろう。

 大広間の一段高い場所。その玉座に座る男は予測が的中しても大した驚きは見せなかった。


「皇帝陛下。我が軍の位置はそのままで宜しいので? 」

 膝をつく若い士官が口を開く。



「よい。ただし第2軍はグランパレス国境警備に回せ」



「は! 」



「あとルーカスを呼べ。アリストラスとの合流は奴にやらせる」


 ゴドラタン皇帝は遠くを見つめながら手を振り士官を下がらせた。



「どう思う? ナターシャ」

 皇帝は隣に立つ女性に話しかける。

 女性も皇帝同様に金髪碧眼で煌めく長い髪が印象的だった。彼女もまだ二十歳にはなっていないだろう。



「予言の書に変更はありません……ただノイズが混じっています……」



「ノイズ? 」



「はい。予定にない因子が介在している様な……」

 皇帝は顎に指をあてがい、少し考え込んだまま遠くを見る。



「ナターシャ。予定は変更しない。ノイズが問題ならその都度調整する」



「グラウス陛下ならば大丈夫です。十剣神の末裔たる陛下に敵う者などおりません」

 ナターシャと呼ばれた少女は左手に持った杖の先端に嵌め込まれたクリスタルを覗きこんで意識を虚空へと飛ばす。

 すると脳内に崩壊した貴族連合軍の様子が映し出される。



「余りにも呆気ない戦……何者かに誘導された痕跡があります」



「黒騎士か? 」



「おそらくは……」



 ナターシャはクリスタルを覗きながら頷く。


「ノイズだろうと、黒騎士だろうと我が道を阻むならば殲滅するだけだ。トーウル王国に予定通りだと通達しろ。あとジークフリートを呼べ」



「仰せのままに……」




 今後は敵か味方かわからない勢力が次々と登場します。お付き合い下さいね。


 ※ブックマーク

 ※評価「★★★★★」をして頂けたらとても嬉しいです。


 宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう勝手にランキング
― 新着の感想 ―
[良い点] あっけなく終わった戦の描写が良かったです。実力差があり過ぎ、しかし、顔見せには良かったようにも、感じます。ここから本当の戦いが始まるのだという、雰囲気もこのあとが楽しみです。 [一言] 新…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ