73 異界流転 四-2 (改訂-5)
【異界流転 四-2】をお送りします。
宜しくお願いします!
その時、総司の大隊と九郎の大隊も広場に入って来た。
「壮観ですね」
総司も感無量といった面持ちだ。
「この感じ久しぶりだな〜壇ノ浦以来だな〜。総司っちは戦ははじめて? 」
九郎は馬の手綱も持たずに簡単に乗りこなしている。
「こんなに大規模のは初めてです」
「初陣はワクワクが止まらないよ〜」
「話しは変わるけど、あの銃士大隊のビリーだっけ? 異国の人。あれも大分ヤバいね。戦い慣れしてるよ。あの銃って言う武器も凄いんだろ? 」
「ライフル銃なら一般兵士でも岩に穴を穿つとか」
「すげーな。俺も一丁貰おっと……ってあの異様な雰囲気の連中はなんだ? 」
「魔導団ですよ。全員が魔導士です。マーリンが団長に就任しました」
「あの氷結チビ女の部隊か! どうりで寒気がしたと思った」
九郎はそんな悪態をつきながら身震いした。
「今回の遠征の最初の一撃は魔導団からの大規模集団魔法との事です」
「よくわからんが、兎に角すげーのをかまして、その隙に騎馬が雪崩れ込むって事だよね」
上手く行けばだけど……裏をかかれる事もあるよね。
「とにかくビリーと合流しましょう。ヒロト達も居るし」
◆◇◆
中央の壇上に各騎士団の団長が上がる。
皇國の主だった面々が一堂に会している。
マーリンと宮廷魔導士のスターズ、ジャンヌとケルン教団の者達、そしてこの日戴冠する事となるエレクトラ。
「これより戴冠式を執り行う」
リアンカ大司教が厳かに話しだす。
エレクトラと大司教の周りを騎士団から選抜された者が二十名で円陣を組み各々が剣を高く両手で天に掲げる。
「エレクトラ・リ・サージェス」
巻物を取り出してエレクトラの本名読み上げる。
「はい! 」
「そなたは今日この日をもってアリストラス皇國の第十四代皇王となる。エレクトラ・リア・サージェス・アリストラスを神の名の元に襲名する事に依存はないか? 」
「ありません」
「そして、そなたは今日この日をもってアリストラス超帝国継承権第一位の【白銀の巫女】を襲名する事に依存はないか? 」
「ありません」
「では誓いの為、この剣と王冠を受けられよ」
「は! 」
エレクトラは大司教より王冠を被せて貰い、両手で皇王の印となる剣を受け取った。
「新しい皇王の誕生だ! 」
シリウス騎士団長が歓迎の意を皆に伝える。
「皇王万歳! 」
「アリストラス皇國万歳!! 」
一斉に騎士や兵士達、国民達も声を上げる。
その民衆の声援がある程度収まったのを見計らい、エレクトラはその口を開いた。
「いま皇國は災厄の渦に晒されている。伝承にある千年前の規模よりも更なる大規模な闇の勢力がグランパレスに進行中だ! 」
エレクトラの声は広場によく通った。今までの口調とは打って変わって威厳のある声だった。
「かつて世界を救いたもうた十剣神に引けを取らない方々が異世界より召喚された。なかにはケルン神のこの世界での転生体であるジャンヌ様もおられる」
民衆から驚きの声が上がる。
「我らは他国の軍と合流し、グランパレスとの国境を目指す。また第二、第三の軍を起こしこれに備える」
エレクトラは一呼吸置き、あたりを見渡す。
世界はエレクトラの次の言葉を待つ様に静まり返っている。ただ熱量だけが上がっている感じだ。
「この戦いで多くの友、同胞、家族が命を落とすだろう。だがこの戦いに世界の全てがかかっていると皆に伝える。この戦いに勝たなければ全ての人類の未来が闇に閉ざされる」
民衆、貴族、兵士の区別なくエレクトラの言葉に吸い込まれ固唾を呑んでいる。エレクトラは兄が異才を放っていた為に、その影に隠れて目立たない存在だったが、間違いなくアリストラス皇國の歴史の中で五本指に入る名君だろう。
「だが必ず我ら人類は勝つ! 勝って未来を生きる! その為に皆の力を私に授けて欲しい。授けてくれるなら共に私も戦場に立って戦う! 」
更に民衆から響めきが起こる。
「陛下御自ら?! なんと御いたわしい」
年老いた兵士が涙を流す。
「前皇王陛下になんと申し開き出来ようか?! 我も戦うぞ! 」
別の貴族が声を上げる。
「皇女様を……いや皇王陛下を戦場に送り出すなどと、大恩あるにも関わらず、我らアリストラスの民が今こそ立ち上がらねばいつ御恩をお返しできるのか?! 」
名も知らぬ民が加勢を上げる。
熱が舞い上がる。
そしてエレクトラは声を張って叫ぶ。
「我も命を捧げる! 皆の命をくれ! 人類の敵を殲滅する! 」
その手にある剣を高く掲げてた!
「おぉおおお!!! 」
広場の熱気が最高潮に達する。
「やるじゃね〜か。お嬢ちゃん」
武蔵らしい感想だった。ヒロトも同意見だった。エレクトラに対するイメージが変わった瞬間だった。
「士気は最高潮だ。あとはこれを保ったまま流れに乗れるかどうかだな」
そこへプレイトウ商会のカノンが声をかけて来た。
「私の影からの報告では大貴族どもはマイル公爵を中心に謀反。賊はグレールー平原に布陣する構えです。相馬札が効いたようですね」
「愚か者共め。こうも予想通りの行動をされると逆に疑いたくなる。だがこれで門閥貴族共を一掃し、この国の意思統一が可能だ」
「我慢すると言う事の意味すら解さない連中です」
「彼奴等は自らの特権が永遠に続く物だと思い込んでいる。努力なくして手に入れた物など幻想に過ぎない事を、身をもって知らしめてやろう」
二人でかなり悪い顔をしている。
ヒロトは共の者に、シリウス騎士団長のいる壇上に走らせた。シリウスからエレクトラに詳細が伝わる。
「マイル公爵と、他三名の貴族連合が謀反を起こした。彼奴等は災厄の渦の魔神どもの配下に取り込まれた様だ」
エレクトラが兵士達に激を飛ばす。
また群衆に響めきが走る。
「心配はいらぬ。我が最強の軍のよい腕試しだ! 彼奴等を薙ぎ倒し、災厄の渦の前の露払いとする! 」
さらに大きな歓声が巻き起こる。
「これで条件は揃った。グレールー平原はゴドラタン帝国の国境に近い。奴らも固唾をのんで状況を見ているだろう。大貴族共を粛正しゴドラタン帝国を服従させる為の贄とする」
ヒロトさん。怖い方だ。だからこそ利害が一致すれば信用できる。
「火薬の製造も滞りなく。三千挺は月内には配備させます」
「マーリンの使い魔からの情報だと、敵の先方はニ週間後にライアット公国の国境に到達する。ギリギリだな。あと五千挺を追加発注してくれ。銃士隊の育成は? 」
「銃士の育成も滞りなく。銃の扱いは剣の修練に比べて比較的に楽です。十日も有ればマトに当たる様になります」
カノンも銃をたいそう気に入った様だ。
「例の物も間に合うかい? 」
あとから鍛冶工廠に持ち込んだ武器の事だ。ヒロトのシステムAIの保管庫に収納されていた武器。
「あれはライフルより機構が複雑ですので何とも言えません。工廠の職人をフル稼働させていますが、機構が難しく熟練者でなければ厳しい作業です」
「ドワーフとは話しがついた。南部の工廠へは明後日には出立してくれる」
「それはありがたい。ドワーフならば全員が最上の熟練者です」
「エルフ族はまだ様子見だな。俺が後で行って話しをつける必要がある。彼らの魔法戦闘力は必要だ」
ヒロトはまだ戦力の充実に頭を悩ませている。
「兵糧の輸送状況は? 」
「ライアット公国の公都に集積所を設けて、そこから国境の砦に送り出しています」
カノンが明細をめくりながら報告する。
「集積場をアリストラスとパルミナとの国境近くにも作ろう。ロイドヘブンからパルミナまでの街道に設置した砦の進捗は? 」
「現在十二の砦が稼働中。さらに十五の砦を造成中です」
ヒロトはまだ足りないと言いたげだ。
「皇都の周りにも砦を十は必要だ」
「手配します……あと一つだけ……この戦、勝てますか? 」
「勝てない戦など始めからやらないよ」
「それを聞いて安心しました。では! 」
カノンは細かな事は書面をヒロトに渡して、その場を後にした。まだまだ後方支援の準備がある。
本来一般兵は戦の時だけ雇われるが、それをヒロトは職業軍人として募集した。要するに専門職としたのだ。すると農家の四男や三男が大挙して応募してきた。農家の四男や三男は家を継ぐ事が出来ない。それならば軍人になって一旗挙げようと考えた者達が大挙したのだ。これはその昔、織田信長公が行った軍事改革を参考にした事だった。
「私はビリーの大隊に入ります。武蔵殿はソウジの大隊に入って頂けますか? 」
「ああ。そうさせて貰う。儂と飛び道具は合わんからな」
そういって武蔵もその場を後にした。
そうこうしていると軍が徐々に動きだした。
先鋒右翼は、カルミナ団長の娘ライラの、黒豹騎士団が受け持ち、その後の先鋒左翼をソウジの大隊が受け持つ。このソウジ隊にはドワーフ族から選抜された戦士団も族長自ら率いて途中で加わる予定だ。元々ドワーフは採掘や鍛冶仕事に長けた種族だが戦となれば戦斧を振るい無類の戦闘力を発揮する。
ビリーの大隊は先鋒中央に入る。
その後に九郎の騎馬大隊が遊撃隊として入り、さらにその後方にシリウスの軍が主力として続く。シリウスの軍にはマーリンの魔導団とジャンヌのケルン聖堂教団からの選抜隊が合流する。
帝都の防衛には北方軍の白虎騎士団がこれにあたる。
中央軍の聖堂騎士団はエレクトラと共に第二陣として後詰に入る。
「手始めの相手が同胞の貴族とは……嘆かわしい」
謀反を起こした貴族の中には共に机を並べて学問を学んだ者達もいる。
エレクトラは悲しみを噛み殺して耐えていた。
「陛下。彼奴等はこの状況下で己が利益を優先させる俗物です。平和な時はそれでも構いませんが、非常時では全ての仇になります」
カルミナ騎士団長はエレクトラを慰める。
「わかっているのです。もう少し強くならねば……」
為政者は苦渋の決断を強いられる時がある。それに大衆を先導し、自らの意志で戦に行く様に誘導した。国を守る為とは言え、私はとても卑怯だと思う。
「ヒロトならば上手く事を収めてくれましょう。シリウスもおりますし……では陛下、お時間です」
そう促されたエレクトラは前にでた。
「全軍、出陣じゃ! グランパレスで会おう! 」
軍楽隊のファンファーレが先発隊の歩みを後押しする。
全ての軍、民衆から大歓声が起こった。
広場から続く街道沿いの建物から紙吹雪が舞い散る。
兵士達の家族が涙を堪えながら見送ってゆく。
この長く険しい戦いの始まりであった。
【異界流転 四-2】をお送りしました。
ありがとうございます。