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「まさか、船上から出した婚約を辞退するという内容の手紙が、居場所を見つける手掛かりになるなんてねー」
「普通は見つけられないですよ、ここは共和国のさらに端なのに。どうしてこうまでして追いかけてきたのかしら」
「ウェディングドレスや宝石を返せ、なんて叫んでたけど……」
気を失って起き上がらないジークのセリフを思い返して、ミオンはそんなことを口に出す。
「それは聞こえておりましたから。たまたま買い物から戻っていたところで、良かったです。でも、もうありませんよね、何もかも……」
「売り払ってしまったもの。どうしたものかしら、これ」
「まあ、役人に突き出すのが一番いいかと」
「そうねえ」
多分、それが一番いい。
だけど、身分がはっきりとした時に危険な目に遭うのは自分達。
そう考えたら、あまり賢い方法だとも思えない。
「縛り上げて、目を覚ますのを待ちましょうか」
「では、人を誰か雇いますか」
「冒険者辺りがいいかなあ……どこかに彼を放って来てくれるような人たち」
「なら、いっそのこと奴隷商人に売ればいいのでは?」
「……」
この侍女、とんでもないことを言い出した。
ミオンは一瞬、唖然として何も言えなくなる。
「帝国にバレたら、それこそ命がないわ……一生涯、逃げ回るなんて勘弁してよ」
「なら、目が覚めるまで待ちましょう。状況を把握してからでも遅くはないですし」
「任せるわ」
そう託すと、侍女はどこか不敵に微笑み、帯だのローブだのでジークの手足を縛りつけると、どこかに出かけて行った。
なんでこの人、私を追いかけてきたんだろ。
さっさと異母妹と結婚して、きっぱりと自分のことなんて諦めたらいいのに。
ぼんやりと縛り上げた元婚約者と時間を過ごすこと一時間弱。
侍女は数人の男たちと共に戻って来た。
「……誰?」
「奴隷商人です」
「え? 本気!?」
そう言うと、男たちの主のような怪しげな男がミオンに向かい頭を下げた。
「まあ、お任せください。戻れないところに売り飛ばしますから」
「……」
いやに目つきの鋭いその男はそう言うと、部下たちにジークを運ばせて、姿を消した。
ミオンはこれで何回目か数えるのを忘れたが、別の都市へと引っ越した。
後から風の噂で聞いた話だが、ジークが踏み込んできたその日。
彼を連れて消えた奴隷商人は、街のある場所に潜んでいた、別の少女も捕まえて海外に売り飛ばしたという。
故郷の王国から聞こえて来た噂では、侯爵家の中で起きた珍事をミオンに伝えてくれた。
婚約者の妹と肉体関係を持ったある男が、屋敷を追い出されてしまったのだとか。
一説では、その男は帝国の皇太子で、皇帝の怒りを買ってしまい、浮気相手と帝国を追放されたのだとか。
逃げた婚約者を連れ戻すまで、帝国に戻ることを許されないと命じられたのだとか。
「まあ……もう、いいわ。どうでもいい」
「そうですねえ。男って本当に役立たずですね」
それらの噂を聞きこんできた侍女がそうぼやくのを耳にして、思わずミオンは苦笑してしまった。