0.プロローグ
目が覚めると、私は知らない部屋の入り口に居た。
部屋の中は6畳程の広さで、壁一面に本がぎっしりと詰められた本棚が有り、
部屋の中央から奥側には執務机が設置されていた。
その執務机の上も本やよくわからない紙の束で溢れかえっている。
執務机の前にはローテーブルを挟み、向い合せに黒いソファーが置かれていた。
「おや?いらっしゃい。人が来るなんて珍しいね。」
いつから居たのだろうか?先程部屋を見渡した際には、
居なかったとはずの初老の男性が一人、執務机の横に本を片手に立っていた。
「ああ。驚かしてしまったかな?それは失礼したね。人が来るのは久しぶりだったものでね。」
彼はそう言い、手にした本を閉じて私の方へ歩いてきた。
「そうだ。よろしければ物語を聞いていかないかい?
さぁ、そこのソファーへ座って。今、お茶とお菓子を用意しよう。」
私が何かを告げる前に彼は微笑み、ソファーを手でした。
ここが何処なのか?私は何故居るのか?聞きたいことは色々有るはずなのに、
私は何も聞けぬまま、気が付けば誘われるままにソファへと座っていた。
彼は私の対面に座ると、何もないはずの空間からティーセットとフィナンシェの乗った皿を
ローテーブルへ置いた。
「さぁ、遠慮せずにどうぞ。さて、時間はたっぷり有る様だが、どの物語にしようか
・・・そうだ!あれにしよう。」
私の前にフィナンシェの乗った皿と液体の注がれたカップを差し出すと、
彼は徐に立ち上がり一冊の本を取り出した。
特段お腹が空いていたわけではないが、私はフィナンシェを一つ取り、かじってみた・・・おいしい。
そのままフィナンシェを一つ食べ終え、紅茶を一口飲んだところで、
彼が向かい側のソファーに再び座り、優しく微笑んでいることに気が付いた。
「お口にあったようだね?よかった。さて、では物語を始めよう。」
そう言って彼は本を開き始めた。