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MOVICAL JAM  作者: シチテンバッテン
1/1

MOVIE1:世界のサマちゃん

【 STORY】

ある日、大学生のダニエルのもとへ一本の電話が入る。電話の相手は学友であるジム。彼は怯えた声で、ダニエルに尋ねる。


「サマラを知ってるか?」


都市伝説の類だろうと一笑に付すダニエルであったが、ダニエルのもとにその影は迫っていた・・・。



「よお、ダニエル」


夏の暑い夜のこと。ダニエル・シュンペーターは、地元の大学へ通う20歳の若者だった。一人暮らしをするダニエルのもとへ、大学で一緒のクラブに所属するジムから電話がかかってきたのは、もう夜8時を回ろうかという時だった。

 

ダニエル自身も大学から戻ってから夕飯も食べ終わり、のんびりと自宅でくつろいでいたところであったので、なんともはた迷惑なことだとは思った。かといって「どんな時間に電話してくるんだ」というほどの時間でもなく、また、ダニエル自身も特に何をする用事もなかったので出てやることにしたのだった。


「なんだよ」


気心もそれなりにしれた仲なので、ダニエルはやや面倒くさそうに聞き返すと、ジムはなんだか妙に神妙な口ぶりで話し始めるのである。


「お前、しってるか? サマラの話」


随分と唐突である。


「サマラ? 誰だよ、お前がナンパしてフラれた女とか。最近、キャシディに振られたばっかだってXYZに載せられてたぞ。また別の女に告ったのか?」


いきなり出てきた女性名に、ダニエルはすぐに思い当たる節があった。なんといっても、ジムのモテなさは、仲間内でも大変な評判である。確か毎月誰かに告白してはフラれていたんじゃなかったっけか。顔は決してブサイクというよりはむしろそれなりに見れる顔ではあるのだが、どういうわけか全くモテない。そして、彼がフラれたネタが、また学校内で何者かが運営している【XYZ】と呼ばれるサイトによって当たり前のように投稿されてしまう。


「まじかよ・・・また俺載せられてんのかよ」


「まあ、気にするなよ。あんなもん」


ダニエルが何の話なんだろうと考え込んでいると。


「そんなことより、サマラのことだ。最近、話題になってる亡霊なんだよ」


「亡霊?」


思わずダニエルは聞き返す。意外だったのだ。ジムとは大学に入ってからの付き合いになるので、二年ほどの付き合いになる。サッカーが好きで、ちょっとハメを外すところもあるが、いわゆるノリのいいスポーツマンだ。そんな彼から、オカルト系の話を彼から聞くことになろうとは思ってもいなかった。


「なんだ、お前。そういう系にハマり始めたのか?」


ダニエルが少しからかいの意味も込めた口調で尋ねると、ジムは明らかに声を震わせて話しはじめた。どうも様子がおかしい。


「ハマりはじめたとかじゃねえんだ。俺、もしかしたらサマラに呪われたかもしれねえ」


いつもの彼を知っているからだろうか。その彼の声の調子に只事ではないように思えた。だが、一体全体彼が何故そんな話を自分に伝える必要があるのだろう。果てもさっぱりよく分からないことだが、どうにもいつものジムの様子とは明らかに異なる調子に、ダニエルも妙な胸騒ぎがしたので話を続けるよう促した。


「ちなみに、俺はそういった関連の話。全くわかんないんだよ。ちょっと聞かせろよ」


「あ、ああ」


この後、ダニエルは自分がその混乱と恐怖の騒動に巻き込まれるなど露ほども考えていなかった。まさに他人事として、話に耳を傾けていたのである。


ダニエルに促されたジムは、訥々と語りはじめた。


「ああ。サマラっていうのは、最近都市伝説になってる亡霊の名前なんだ。午前0時に、パソコンでもスマホでもなんでもいい。ウェブを開いて、『サマラ 呪い殺し』と検索すればいい」


「なんだ、随分とまた・・・」

 

幼稚な設定だなと思ったが、その言葉をジムが遮る。


「言いたいことは分かるよ。勿論、俺だって最初は胡散臭いと思ってた。でも、この『サマラ 呪い殺し』で検索すると、確かに色んな話が出てきたんだ。一番多かったのがさ、午前0時になると、真っ黒な画面に、サマラとしか書いてないだけのページに移るんだ。その画面になった状態で殺したい人間の名前をフルネーム 生年月日を入れるんだ。そうすると、その殺したい人間を殺してくれる・・・らしい。俺もネットとかで見つけた情報なんだけどよ・・・」


ダニエル自身、その手の話は、全く聞いたことがないでもない。そして大体そのオチってのは相場が決まっているものである。


「だが、殺してくれる代わりに自分の命も持ってかれる、とか何かかけがえのない物を失う的な話だろ?」


「そ、その通りだ。都市伝説によると、だけどな」


あまりに真剣な様子で、そう答えるものだから、ダニエルはなんだかおかしくて思わず笑いを堪えきれなくなり、吹き出してしまった。


「ちょ、おま、ここ笑うところじゃねえぞ!!」


ジムはダニエルをとがめるように言うが、その様子がまた滑稽だったもので、笑いを抑えるのに必死だった。何せサマラとやらの設定がどこぞの三流作家が書いたような幼稚な設定だったし、そんな設定に、これほどビビっているジムの様子がなんだか滑稽で仕方がなかったのだ。


「悪い、悪い。いや、だってお前さ。この現代社会でそんなチャチな設定のゴースト、さすがに無理があるって。1990年代だったら流行ったかもしんないけどさ。それに、お前はなんで呪われたと思うんだ? 別にお前が誰かそのサマラを使って殺そうとした相手がいるとかって話じゃないだろ?」


ジムに投げかけた疑問に、ジムは一瞬黙した。


「・・・あ、ああ。まあ、そうだけどさ」


「なんだ、お前? 今、なんか変な間があったけど?」


「い、いや。気のせいだ。少なくとも、俺は誰かを殺そうとなんてしてない。だけど、狙われてるみたいなんだ。ここ一週間ぐらいさ、立て続けに変なことが起きてんだよ」


「例えば?」


「テレビが突然ついたり、朝置いておいたものが家に戻ったらなくなってたりさ。昨晩も金縛りにあった」


地味な嫌がらせレベルである。呪い殺しという触れ込みのわりには、ジムが受けた被害が地味だ。それにちょっと考えてみると解せないことがある。


「そういった怪奇現象があるといっても、なんでそれがサマラとやらの仕業ってことになる?」


「あ、ああ。実はサマラって名前を知ったのは、『白い服の女、怪奇現象』で調べてみたんだ。テレビが勝手についた時に、白い服の女が映ったことがあってさ・・・。それで、検索にでてきたのがサマラの都市伝説だったんだよ」


そこで、ジムは一度言葉を切った。


「マジで笑っちまうよな。だけどさ、そういう、なんつうか不気味なことが日をおうごとにどんどん回数増えてんだよ。俺、マジで怖いんだ・・・」


そして、ジムのすすり泣くような声が電話ごしに聞こえてきた。


その呪い殺しのサマラとやらはどうにも胡散くささがぬぐえないが、とにもかくにもジムが怯えていて、精神的にも辛い思いをしてるということだけは電話越しながらも、ダニエルには理解できた。


しかしながら、ダニエル自身はそういった方面がからきしである。彼はどこにでもいる、サッカーに興じ、心理学を専攻しているだけの至って平凡な大学生である。ジムは自分にどうしてほしいのだろうか。


「わかったよ。何か力になれることは?」


ダニエルの問いかけに、一瞬の間が空いた。


「今晩、お前の家に泊めてくれないか? 家に帰りたくねえんだ・・・」


そういうことか、とダニエルは納得した。確かに、ジムが自分の住んでいるアパートで金縛りにあっているなら、そこに今の心理状態で住み続けるのは精神衛生上良いものではない。


「今どこだ?」


「お前んところから、すぐ近くにあるバーだよ・・・。ここなら、明日の朝まで過ごせるからさ」


そのバーは、ダニエルも毎日とまでは行かないが、それなりの回数行くバーだった。あんなところじゃ疲れも取れないだろうに。彼を不憫に思ったダニエルは言った。


「わかったよ。じゃあ待ってるからさ。何か差し入れも持ってこいよ?」


ダニエルの言葉をきくと、電話ごしでもはっきりとわかるほどに彼の声が明るくなった。


「あ、ああ。勿論だ。恩に着るよ。マジでありがとう。じゃあ後でな」

 

「おう。後でな」


そして、ダニエルはジムとの電話を切った。


近所のバーからここへ来るまでには、おそらく10分とかからないだろう。ダニエルはその間に、テーブルの上に用意したパソコンを起動して、彼が言う「サマラ」とやらを調べてみることにした。


『サマラ 呪い殺し』と入力すると、確かにジムが言う通り、都市伝説としていくつも噂が掲示板に書き出されていた。しかし、よく考えてみればおかしな話だ。


サマラの伝説とは、殺したい奴、そしてそいつを殺そうとしたものからも何か大切なものを持っていかれるという都市伝説。多くの都市伝説では、『その大切なもの』とやらは、命だったりするわけだが、それならばサマラの噂を広める奴など誰もいないことになる。それがこれだけ都市伝説として有名になっているってことは、いわばブギーマンのような、単なる都市伝説ってことなんだろう。当たり前と言えば当たり前なのだが。そうおいそれと亡霊などが出てもらっちゃ困る。


少し考えれば分かりそうなことにあれほど恐怖に慄いているとは。もしかすると、ジムの異変は単なる悪戯の類で、実は電話を切った瞬間、実はゲラゲラ笑っていてスマホで録画でもしていやがるかもしれない。たまたまこの都市伝説を見つけて、今回の電話を企てたのだとしたら、ちょっとばかりタチの悪い悪戯である。


しかし、あれほどまでに暗く、恐れ慄いている様子のジムなど、彼と出会ってからこの方2年間で見たこともない。ひょっとして最近何か辛いことがあって、サマラなどという話をダシに話を聞いて欲しかったのかもしれない。フラれた話も聞いたばかりだし。勿論、自分を脅かしに来るのであれば、程々に驚いてやればいい。あるいは本当に何か悩んでいるのなら、優しく話を聞いてやろう。半ばそんな悟りを開いた気持ちで、ダニエルはジムを待った。

 

そんなことを考えていた時だった。突然、電気がバチバチッと鳴り響いた。その音に続いて、今度は電気が点滅を繰り返しはじめたのである。


やがてパソコンの画面には、一切指を触れていないにもかかわらず、突然暗い森を映し出した。やがて画面最奥部から一人の白い服の女の姿が映し出されたのである。一瞬何が映し出されているのかわからなかったが、女の足取りは重く、長い髪をだらりとさげ、顔を覆っている。表情などは一切見えない。


すぐにあきらかな異常に気がついた。


ダニエルは、ホラー映画を見ている時は「早く逃げればいいのに」などと気楽なことを思っていた。だが、まさに今その場面に出くわしてみればどうだ。ダニエルの足はパソコンから離れるだけが精一杯で床にへたり込んでしまい、そこから全く足が動かない。そして、今、最も目を背けたいはずの画面から目を逸らすことが出来ない。そして、画面の中の女は憎らしいまでに、ゆっくりと、しかしながら、着実にダニエルへ向かって歩み寄っていた。



さきほどまで何気なく待っていたジムが、今この一瞬でも早く来て欲しいとどれほど心から願ったかしれない。ところが、ダニエル の微かな願いも虚しく誰も部屋へは入ってなど来ない。そして、ダニエルは声にならない声を上げながら、全くの無力なままに震えるばかりであった。 


パソコンの画面上に映し出された女は刻一刻と、着実にダニエルの方へ迫ってくる。彼はそれをただ震えて待つ以外に手段を持たなかった。


画面上の女はもう画面上ではすぐ間近までやってきていた。さきほどまでは豆粒ほどにしか見えなかった女の姿が、最早画面すべてを覆わんばかりとなっている。


そこで、女はぴたりと動きを止めた。助かった・・・のか?


しかし、そうではなかった。ダニエルの淡い希望はすぐさま絶望へと塗り潰された。女はダニエルがへたり込む方へ目掛けて、あり得ない事に、画面の中から腕を伸ばしてきたのだ。 

薄氷よりも真白い手がついさきほどまでダニエルが触っていたキーボードの上に置かれた。白い服を纏った女は、右手を伸ばした女は次に左手をだした。実にゆっくりとした速度で、それでいて確実にダニエルの方へと迫ってくる。両方の腕をこちらの世界へ突き出した女はついに体を伴ってこちらへ這いずり出てくる。髪を振り乱し、そしてついにパソコンの画面を掻い潜るかのように頭もこちらへ出てきた。


「や、やめて・・・。やめて・・・くれ・・・」


思わず、ダニエルの心からの叫びが口をついて声が漏れた。ダニエルの顔は恐怖やら生きたい願望やらでぐしゃぐしゃになっていた。しかし、無情にも女の亡霊はこちらへと這いずり寄ってくることを止めず、ずるずるとこちらへ寄って・・・。


「あ、あれ?」


来ていなかった。というか、女の霊は完全に腰あたりで静止画とでもなったかのように固まっている。どういうことだろう。しかも、腰のあたりをモゾモゾと動かしている。これって、もしかして。いや、もしかしなくても。


「つっかえてる・・・?」


ダニエルが言葉を言い放ったその瞬間である。女はがばあっと顔を振り上げた。


「アンタあ!! いらんこと言わんでええねん! どつくで、ホンマに!!」


意外や意外。亡霊は顔を上げると、まだ若く少女の面影を残した女だった。目鼻立ちもくっきりしており、愛くるしささえある顔立ちである。


「あ、ああ。なんかすんません」


なんで謝ってんだ、俺!

闖入者の迫力と先程までの状態も相まってダニエルは完全に圧倒されて思わず詫びてしまった自分にいらつく。しかし、ダニエルの心の動きなど意にも介さず、パソコンに埋まってしまったままの女は独特のイントネーションで一気にまくし立てる。


「ったく腹立つわあ。今時、なに、このちっこいパソコン! なんでこんな画面ちっこいの? このパソコン使うんやったらさ、スマホでええやん! おかげで、こんなところへ送り込まれてもうて。どないしてくれるん!? 恥ずかしいて生きて行かれへんで」


普通サイズのノートパソコンなのだが。ダニエルは思わず突っ込みたくて仕方がなかった。第一、パソコンの小ささに文句を言うならば、後ろのテレビから出てきてくれればいいのになどと呑気な考えが浮かんだ。いや、それよりも来ないでいただけるのが一番なのだが。


捲し立てた闖入者は言い終えると、そしてキーボードに肘をついてため息をつくのだった。その様子は、先ほどまでの恐怖映像というよりはむしろ、仕事で疲れたOLのような哀愁さえ漂い始めていたのであった。


彼女は、「ったくほんまにやってられんわ」などため息まじりにぼやきながら、そっぽを向くも、すぐに何かを思いついたかのようにダニエルへ視線を向ける。


「ちょ! あんた、もうちょいこっち。こっち来て? なんや、なんも悪いようにはせえへんからさ」


そういって、パソコンから体半分出て来た女は俺に手でくいくいとこちらへ手招きする。


「い、いやいや。だってアンタ、俺を殺しに来たんだろ!?」


 すると、女はニカーっとなんとも快活な笑みを浮かべて、ブイサインを俺に向ける。


「殺しなんてせえへんて。全く近頃の若いもんはホンマにすぐ物騒なこといいよる。襲うだけやで?ビックリさせて、心理的にダメージを負わせるだけ。殺しとったら、あたしの噂がウェブ上にあんなに拡散されるわけないやん」


いやいや、襲っていただくだけでも十分です。そんなに明るく来られても、やられる方の気持ち考えれば、ダニエルとしてもホイホイと近づくわけにはいかないのも無理はない。

 

「安心してや。あたし、至って人畜無害やから。ちょっとびっくりさせて、あたしの噂拡散してもらえばいいから。勿論、あたしが人畜無害とかいらん情報ペラペラしゃべりよったらその時は覚悟してもらうけどな」


一瞬、サマラの瞳が鋭利な刃物のように光ったような気がしたのは気のせいか。しかし、サマラはすぐにもとの快活な笑顔にもどり、


「あ、そやそや。自己紹介してへんかったな。あたし、サマラ。ゴースト界のヴィーナス、人呼んで世界のサマちゃんや!」


そういってすかさずブイサインを繰り出す(勿論、パソコンに収まったままだが)。理解し難い理屈があったものだ。全くもって理解がおいつかない。ダニエルは呆然としていたが、しっかりしない頭から何とか一つの質問を出すことができた。


「どういうこと?」


自分の質問の仕方するボキャブラリーが、あまりに貧困すぎることを内心嘆くも、仕方ない。この驚天動地のシチュエーションに直面し、質問ができただけでも上出来である。


今し方高々と名乗りをあげた女も、ダニエルの心情を察してくれたようで、うーんと首を捻って、ダニエルのやっとの思いで振り絞った質問の意図を汲んで答えてくれた。


「私はな。何で自分が死んだんか分からへんねん。自分でもわけ分からんうちに死んでまったらしいのよな。で、それを確かめるまでは死んでも死にきれん。だから色んな人間に聞き込みしたいねん。捜査は足で、とはどこぞのベテラン刑事の言葉やけど、さりとてゴーストが人間様の世界でほっつき歩くなんてでけへん。そこでや。昨今はネットちゅーもんがあるやろ? ゴーストはネットを使って色んなところへ出入りすることができるって、仲間のジョニーちゃんが教えてくれてん。ただし!出入りするには一つ条件があったんよ」


ジョニーちゃんて誰だよ、と思いながらも、きっと「ジョニーちゃんはジョニーちゃんや、今度会わしたるよ」とか言われても困るので、そこはスルーしたダニエル。


「なんだ、その条件って?」


ダニエルの問いかけに、サマラは残念そうに人差し指を上げた。


「それが人の思いや。よく映画とかであるやろ、悪魔の降霊術とか。あんな感じで人間からのお呼びがかからんとこっちに来られんのよ。難儀なもんやで、全く。んで、それが誰かを幸せにしてくださいとか、そういうお願い事ならいいんやけどなぁ。残念なことに、そんな素敵なお願いはまずこんのよ。それよりも大人気なのは・・・人を呪う系や。私としては若干不本意ではあるけども、人呪う系ゴーストとして売り出して、手っ取り早く自分の死因を突き止めて成仏したいだけなんよ」


一拍おいて静かに告げたサマラの声や表情は、どこか悲しそうだった。その表情を見る限り、決して彼女は嘘をついていないように見えた。


気がつけば、電気も元通り復旧していた。先ほどまで、文字通り死ぬほど体感していた悪寒の一切が霧散していることを感じていた。


かと言って、自分が近づいて行ったら、一気に襲われちゃったり・・・。ダニエルの表情を見て何を考えているのか悟ったか。サマラはひらひらと手を振って現実を突き付けて下さった。


「もしかして、『そんな油断させといて気を抜いた瞬間に襲われるゥ』とか思ってる?? 大丈夫! 大丈夫! そんな周りくどいことせえへん。ヤレるもんなら、今この瞬間でもやれるで? ホラ」


そういうと、女の髪が一人でに浮き上がる。そして、まるで生きているかのようにダニエルの方へ向かってニョロニョロと飛び上がってくるではないか。髪の毛は、ダニエルの頭をチョンチョンと撫でてくる。生殺与奪の権がサマラに掌もとい髪の毛によってガッチリと納められていることを悟った。


「な?」


 サマラは、これまたにかーっと嬉しそうに笑った。


「わ、わかった。俺は近づいて何をしたらいいんだ?」


「物分かりが良くて大変よろしいで、あんた」

 

 そういってはウィンクをしてみせる。亡霊にお褒めに預かったところで嬉しくもなんともない。ただ、少なくとも俗に言う「マトモなコミュニケーション」ってやつは取れるようだ。


「引っ張るか、そっちから押してくれん? あ、でもアンタの気持ちを考えたら、押してもらった方がええよな。一応、アンタのことを襲いにきてるわけやし」


 もしかして、この女亡霊。意外と良いやつなんじゃ・・・?などと思いはじめていた。きっと、ファーストインプレッションが恐怖のどん底だったものだから、後はもう上がるしかないからだろう。

 

「まあ、そう言ってもらえるとありがたい。じゃあ、俺は押せばいいんだな?」


「あ、おっけ」


女も手を、パソコンが置かれているテーブルについて準備する。ダニエルは、彼女の肩にそっと手を添えてみると思ったより華奢だ。そかて、何よりもこんなにしっかり実態があるものだとは知らなかった。ダニエルは、思わず彼女が亡霊であることを忘れてしまいそうになる。





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