君の香りは、どこにも。
今は、高校生でも香水を付けるのが当たり前。
朝、出掛ける前に香水をつけてたら「お母さん達の頃は、女子でも香水付ける子は居なかったわ。」なんて言われる。
そんな昔話聞かされても知らない。
学校に行けば、女子はみんなお化粧してるし、香水なんか当然だし。男子も自分が楽しむために好きな香りをつけてる。運動部の男子は、汗くさいのをごまかすのにつけすぎで、ちょっとヤだなって時があるけど。男子でも女子でも、この香りは、誰だなって、すぐわかる。
そんな中で、私の彼氏は男くさい汗の匂い以外しない。甘く香る柔軟剤の匂いも、香水の爽やかな香りもしない。この香りはこの人、というものがない。彼を思い起こす香りが、本人以外には存在しない。
「他の子のみたいに、香水つければ良いのに。」
「香水がイヤなら、洗濯の時に柔軟剤入れてもらえば?」
と何度か言ってみた。
けど。
『ゴメン。汗臭いよね。俺、香水の香りが苦手で。』
『柔軟剤を入れたり、香水ほど匂わない制汗剤を付けた事もあるんだけど。実は匂いアレルギーで。洗剤も柔軟剤も、無臭のにしてもらってるんだ。』
「そっか。大変だね。」
アレルギーと言われたら、それ以上言えない。
事実、彼は香水好きで知られるクラブの先輩と話す時、必ずクシャミをして、顔を反らす。話が盛り上がって、先輩と距離が近づくと鼻をすすって、『スンマセン…。』と横を向いて鼻をかむ。香りが強いと辛そうなのが、見ててわかる。
『香りが強くなければ、平気なんだけど。先輩は大好きだし、話したいけど、香水が無理で。』
先輩と別れた後に、私にだけコソッと告げた。
でも。やっぱり。
君の近くに居ると、なんだかくすぐったい気分になる。
他の子達からする柔軟剤や香水の香りが、君からはしないから。
君を思い出せる香りがあれば良いのに。
君の香りは、どこにもない。