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第19話  ね? ウチのセンセって、ホントにバカでしょ?


 しばらくして茉理たち()()は二部屋に分けられた。

 二十人以上いる組と七人しかいない組が作られ、部屋も別々。

 マリアと茉理は同じ組に振り分けられ、そこにはアインも入っていた。

 商家の姉妹が見当たらないことを考えれば、彼女たちとは離れてしまったらしい。

 何かあったときの為に出来れば目の届く場所にいて欲しかったけれど、荒事(アラゴト)に巻き込まれないよう動いてくれればいいとこっそり願う。

 広々とした、むしろ寒々(さむざむ)とした部屋で、茉理たち七人は思い思いの場所に落ち着いた。

 悲壮感漂わせた綺麗な女性たちが俯いてその時を待ち続ける中、茉理とマリアはソファに身体を寄せ合って座り、世間話をしながら適当に時間を潰す。

 そんな彼女たちに、離れた場所で一人いたアインが近付いてきた。


「こちらの綺麗な娘さんはチェリーの知り合いなのかい?」


「……そうだよ、マリアっていうの。ホント()()だよね?」


 茉理は今ネタバレしてしまうのは危ないと思い、取り合えずこんな感じでお茶を濁す。

 

 ――まぁ、こんな偶然あるはずないんだけどさ?


 マリアも言葉少なに頷く感じで、芝居に合わせた。

 茉理は強引にそれで押し通すつもりだ。


「なるほど。……それは、ホント凄い偶然だね?」

 

 アインは誰が見てもそうと分かる作り笑いでマリアに会釈すると、素っ気ない言葉で返してきた。

 お互いがお互いを探り合っている感じに、気詰まりな沈黙が続く。

 周囲にいた女性たちも別のところで張り詰めてきた雰囲気に身を固くしていた。

 茉理は慌てて空気を変えることにする。


「それにしても何か変な振り分け方よね? あっちはたくさんいて女の子たちの座る場所もないだろうに、こっちはガラガラじゃない? ……もうちょっと何とかならなかったのかな?」


 あからさまな話題変更だったが、アインもどこか嬉しそうな顔でそれに乗ってきた。


「――これは主催者の方針だろうね。前半は数と勢いで勝負。後半は質で勝負ってね? 彼らにとって本番はあくまで後半の私たち。ここで一気に値を吊り上げるんだよ。そうやってヤツらは()()を出す」


「……あぁ、なるほど」


 茉理は何となくだが納得する。

 要するに『カワイイ子組』に入ったということらしい。

 その中でも茉理、マリア、アインはラストの組に入っていた。


 ――つまりトップ3ってコトよね!?


 茉理はニマニマとした笑みを頑張って押し殺す。


「……アンタ、ずっと思っていたけどさ。随分と余裕だよね?」


 アインは険しい表情で茉理に顔を寄せると、低めの声で囁いた。

 どうやらニマニマを殺し切れていなかったらしい。

 彼女の表情を窺えば、何かを見定めるかのような鋭い眼光。

 茉理はその怖い顔に少しビビったが、ここで負ける訳にはいかない。

 一郎の、あの性格の悪さを前面に出した笑みを見せつけてやる。


「……そういうアインだってさ、何か()()()()()()()()んじゃないの? ……もしかして、こういうのって慣れてたりする?」


 茉理は暗に主催者とグルなんでしょと尋ねた。

 そんな彼女の棘のある一言にマリアが顔を上げ、小さく首を振り「……青」とだけ答える。

 茉理はその意味を正確に受け取った。


 ――アインは青いマーク。

 つまり(アカ)ではないってコト?

 ……少なくとも()はだけど。

 そして『()()()()』である、と。


 茉理は了解したという意味を込めてマリアの手を握った。 



 いよいよ後半組の中でもラストの組の登場になった。

 茉理たち三人が満を持してステージに立つと、会場は既に温まっていたらしく客席にいた人間が喝采を上げる。少なくとも人身売買と言う後ろ暗いことをしている人間の集まりには見えなかった。


 ――まぁ、これもセンセの演出なんだろうけどさ?

 

 茉理はそんな中で客席をゆっくりと見渡した。

 前列はVIPなのだろう、身なりの整った紳士たちが身を乗り出している。

 彼らはきっと有力貴族なのだろう、だがこんな欲望にまみれた場所だと()がよく見える。彼らはキャバクラに通うエロジジイと同じ目をしていた。

 内心で溜め息を吐きながら後列にも視線を向けると、そこにいたのは腕を組んで着席している一郎。

 いつもの白衣は悪目立ちしてしまうので、彼も貴族が着るような礼服に身を包んでいる。

 これにはさすがに茉理も噴き出した。

 彼女の隣で身を固くしていたマリアも、あまりに堂々と、しかもよりによって買う側の人間に紛れて待機している一郎に苦笑する。


 ――ね? ウチのセンセって、ホントにバカでしょ?


 茉理とマリアは二人して顔を見合わせ、微笑んだ。

 実際援軍が間に合うかどうかは蓋を開けてみないことには分からなかった。

 そんな緊張感の中、しれっとした顔で客席にいる一郎の顔を見るだけで、ストンと肩の力が抜けた気がした。

 むしろ、逆に今までどれだけ力が入っていたのか気付けたぐらいだった。

 

 ――まさか、あの何を企んでいるか分からない顔に安心する日が来るなんて!


 茉理は何とも言えない感覚でステージに立っていた。




「さぁ、皆様お待ちかねの最終組でございます! まずはチェリーお嬢さん!」


 どうやら茉理のオークションから始まるらしく、一歩前に出るよう黒服の男に背中を押された。

 チェリー程の美貌をもってしても、この三人の中では前座扱いらしい。

 早速セリが始まる。

 

 ――まぁ仕方ない。

 せいぜい愛想を振りまいてやろうじゃないの!


 茉理は腹を括り、笑顔で客席を見渡す。

 怯えた顔ばかりの商品が続いた中で、ここまで堂々とした笑顔の茉理は新鮮だったらしく、どんどん手が上がり買値が吊り上がっていった。

 茉理もこのセカイのことはまだよく知らないけれど、今までの組とは比べ物にならない額が飛び交っているのは、その高揚した雰囲気だけで十分すぎる程に察することが出来た。

 司会者も気を良くしたのか客席をどんどん煽っていく。

 アインが言った通りここで大きく儲けを叩き出す算段らしい。

 そして当然のように一郎も参戦していた。


 ――センセ? ……アンタまで何やってんの?


 茉理としても失笑を禁じ得ない。

 そんな一郎の対抗馬はでっぷりとした貴族だった。

 パット見は人の良さそうな男だったが、このオークションに参加するというだけでアウト判定だ。

 当然地獄を見てもらおう。

 茉理はけしかけるように、彼に向けてウインク一つした。


 ――さぁ、アンタはせいぜい私の出番の為の役に立て!


 茉理の想いが通じたのか、でっぷり貴族は勢いよく手を挙げた。

 誰かがその上を行こうとしても、すかさずでっぷりが更に上を告げる。

 景気のいい声が飛び交い、ついには億単位になった。

 


 茉理はようやくその辺りで日本円に換算し始める。

 

 ――えっと……チェリースペシャルが一本30ベルだから、大体1ベル=10円ぐらいとして、1億ベルは…………10億円!?

 マジ?

 年末ジャンボ級じゃん!


 乱発する高値に次々と脱落していく貴族たち。

 ついにチェリーオークションは一郎とでっぷり貴族の二人だけに絞られた。


「1億5千万ベル!」


 一郎の宣言に、ついに歓声からどよめきへと変わった。

 でっぷり貴族は後に退けない。

 余裕の笑みを浮かべる茉理のことを穴が開くほど見つめ、プルプルと震えていた。


「さぁ、1億5千万ベルで終了に――」


「待て!」


 でっぷりが大声で司会者を制止する。

 そして最後の上乗せを高らかに告げた。


「……2億! いや2億5千万ベルだ!!!」


 その額に突如大歓声が巻き起こる。

 そして一郎は露骨に肩を落とし、首を振って負けを認めるのだった。


「ついに出ましたオークション史上最高値! こちらのチェリーお嬢さんは、なんと2億5千万ベルです!」


 司会者の絶叫に、客席は大拍手でもってでっぷり貴族を称える。

 茉理としてもやるからにはこれぐらいの結果を求めていたのものの――。


 ――っていうか、レコーダーでも何でも使っていいから、ちゃんと私を競り落としなさいよ、あのバカ!


 彼女は心の中で思いっきり不満をぶちまけていた。





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