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第8話  いつものセンセらしく堂々と非常識一直線に生きていこうよ!


「……ウソでしょ?」


 茉理は自分から言い出しておいて、目の前の光景を受け入れられずにいた。


 ――まさか、誰かが知らない内にこっそり置いて行ったとか?

 自分たちが彼らを見送っている最中に?

 今もこの部屋で潜んでいるとか?

 そんなコト……まぁゴッドヘル(笑)だから無くもないだろうけれど。


「……なるほど。……流石にこれは疑いようがないな」


 茉理が頭の中でぐるぐると目まぐるしく仮説やら陰謀の気配やらを考えている中、一郎もようやく理解が追い付いてきたのか徐々に人の悪そうな笑みを浮かべ始める。


「これは面白いな。……『二人が装備し終わった瞬間、レベルが一気に10上がった』、と」


 一郎は再びレコーダーの電源を入れて吹き込む。

 今の言葉に茉理も我に返った。

 二人して無言で頷くと、彼女は魔法使いの衣装を握りしめてバスルームに駆け込む。

 着替えが出来るスペースで埃っぽい服をパパっと脱ぎ捨てた――のだが、ふとした違和感に襲われ、目の前の壁を見つめた。


「――え? ……あなた……誰?」


 そこにいたのは背が小さくて金色の長いストレートヘアの少女。

 茉理よりも若いのに、少しだけ大きめの胸。

 それを包むスポーツブラのような下着と揃いのショーツ。

 大きく碧い瞳が一心に彼女を見つめていた。 

 問いかけるように右手を前に出せば、その少女は同時に左手を出す。

 笑顔を作れば、ビックリするような可愛らしい笑顔を見せた。

 そこまでやって、ようやく茉理は目の前にあるのが鏡だと理解した。


「……これ、私なの?」


 現実世界の自分とはちょうど正反対の美少女がそこにいた。


 

 茉理は着替えをいったん中断し、鏡の中の少女をまじまじと見つめる。

 思えばこのセカイの一郎も、危うく惚れそうになる程の美ダンディになっていたのだ。だから自分が美少女になっていても不思議ではない。

 作中ゲーム『グロリアス・サーガ』のコンセプトは『キミの望みが叶うセカイ』。

 それを思い出した瞬間、茉理は頭を殴られたかのような衝撃を喰らう。


 ――どれだけノッポと天然パーマと三白眼をコンプレックスに感じているんだか!


 単に美形になるだけならいい。

 ジークムントもマリアも美形だったし、今の茉理もそう。


「……でも一郎センセは私と違ってそれ以外の部分はそのままだった」


 相変わらずメガネを掛けたままだし、マッチョになった訳でもなくヒョロヒョロのまま。年齢もオッサンのまま。

 地に足をつけて今の自分のちゃんと受け止めているんだなと感心する。


 ――まぁ、その代わり頭の中身が随分と現実逃避しているけれどね?


 失礼なコトを考えて口元を歪めると、目の前の美少女も同じように皮肉気に微笑んだ。


 

 いつまでも鏡の中の自分に見惚れている場合じゃないと、茉理は慌てて持ってきた衣装を身に着ける。

 次の瞬間、身体に何とも言えない力が満ち溢れるのを感じた。


 「「おおおおおおおぉぉぉ!!!」」


 何とも(たと)えようがない感覚に身体が震えて叫ぶと、隣の部屋の一郎の声と重なって思わぬユニゾンとなった。


「すごい、すごいよ、()()!」


 茉理は勢いよく扉を開けて騎士姿の一郎に飛びつく。

 彼女は今日初めて彼のことを心の底から先生と呼んだ。


「じゃあさ、じゃあさ! もっともっとレベルを上げてよ! 絶対に死なないぐらいに! あとお金とかもメチャクチャたくさん用意して!」


 そうすればこのセカイで仕事する意味も無くなる。

 我ながらいいことを思いついたと思う茉理だが、一郎は渋い顔で彼女を引き離し首を横に振るのだ。


「……ダメだ。それじゃあ面白くないだろう? モノには限度ってものがある」 


「なんで!? なんで、こんなときに限って無駄に常識人ぶるの!? いつものセンセらしく堂々と非常識一直線に生きていこうよ!」


 茉理のド直球に失礼な言葉に一郎は一瞬声を詰まらせ、「……俺ってそんなに非常識に見えていたんだ」と小さく(こぼ)した。

 しかし気を取り直すと再び首を振り、断固拒否の姿勢を見せる。


「……そんな何でも望みが叶うセカイのドコが面白いんだ?」


「ホラ、世の中いわゆる『チートモノ』で溢れ返っているんですよ! もう今やそれが主流と言っても過言じゃないんですって! センセもこの流れに乗っかっちゃいましょう!」

 

 どうやら最後の一言が一郎の逆鱗だったらしく、彼は表情が歪む。

 その顔を見た茉理は()()()()()()を想像してげんなりした。




()()()! そんなクソみたいな話のドコが面白いんだって俺は言ってるんだよ! 『どこにでもいる高校生の僕が何かの拍子に死んでしまい、いきなり神様が現れて、なんやかんやあった末に労せず最強になっちゃいました。魔王を倒した後は俗世間から離れてスローライフを楽しみたかったのですが、周りが僕のことを放ってくれないんですぅ(チラチラ)。しかもいつの間にかハーレムが出来ちゃいました(テヘ)』ってか? ……ハァ!? くだらねぇな! くだらねぇんだよ! そんな都合のいい話なんざ、しょーもない雑誌裏の()()()()()()()()()()()広告だけで十分だ!」


 …………うわぁ。

 最近の風潮を全否定しやがった!

 ドン引きする茉理をよそに、一郎は更にヒートアップしていく。


「そもそも『最強』ってのはな! 歯ァ食いしばって死に物狂いで掴み取る『栄誉』なんだよ! 誰ぞにプレゼントして貰うモンでもなきゃ、子供のうちに適当に暮らしていて手に入れるモンでもねぇんだ! 一般的な高校生の知識程度で内政も戦争も何でもかんでも上手くいくなんて、セカイはそんなに甘くねぇんだよ!」


 ……えぇっと。

 取り敢えず、ウチと契約している作家まで敵に回すのはやめて欲しいかな。

 茉理は遠い目で何人かのラノベ作家さんとその担当編集者の名前を思い浮かべる。


「いいか! 苦境こそ物語の花なんだよ! 主人公たちが困難にぶち当たったとき、そこから何を掴むのか。そこにそれぞれのキャラクターの人間性が出るんだ。自分に負けて悪の道を選んでしまう者。絶対に屈しない者。……なぁ、わかるだろ? 読者は『そこ』に共感し、共鳴するんだ!」


 ――メンドくさッ! この人ホントにメンドくさッ!

 作風もこんなのばっかだから、 

『――出た! ドM展開キタコレwww』

『――主人公に対して厳しすぎるだろwww』

『――毎回毎回ピンチになる主人公。危機回避能力ゼwwwロwww』

 みたいな感じで、ネットとかでも酷評の嵐なんだよ!


 茉理はなんとも言えない香ばしい何かを見るような目つきで一郎を見ていた。




「――あんまりしつこいと『茉理は一郎のハーレムに入りたいと土下座しました』と吹き込むぞ? いいのか?」


 一郎は何か言いたそうな茉理の機先を制して、真顔のままレコーダーをゆっくりと口元へ持っていく。

 どこの大物演歌歌手を思わせる感じの風格あるマイク捌きだなという感想が脳裏に浮かぶ。――ってか、マイク捌きって何?

 と、まぁこんな感じで普段の茉理なら自分で自分にツッコむところだが、今は貞操の危機。彼女はすぐに我に返ると真顔でそっと一郎の手を押し留めた。


「「…………………」」


 真顔の二人がレコーダーを巡って膠着(こうちゃく)すること数秒。

 先に折れたのは茉理だった。

 深呼吸してから、やや強張った笑顔を作る。


「さぁセンセ! あの二人が待っていますよ? 早く行きましょう!」


「……おう」


 そうして二人で部屋を出た。



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