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第12話  ……あ、やっぱ、出来れば今の言葉はナシの方向で



 ジークはギルドで正式にマリアたち救出の依頼を受け、決意を新たにして小鹿亭に戻った。そしてチェリーに付いていく形で16号室に直行する。

 そこではチェリーの言葉通り部屋で待機しているヨハンがいた。彼は扉に背を向ける形で備え付けの机で何かに取り憑かれたかのように一心不乱に書き物をしている。


 ――何かの研究?

 もしかしてヨハンはこの件に乗り気ではないのだろうか?


 ジークはどこか(いぶか)し気に彼を見つめるのだが、チェリーには違って見えたらしく跳ねるような駆け足で彼に近付く。

  

「センセ、首尾はどう? 何とかなりそう?」


「……あぁ、上々だ」


 チェリーの問いかけにヨハンは満面の笑みで返した。


「そっか、よかった!」


 二人は何か違う次元の話をしているようで、ジークとしてはイマイチ理解できない。

 だが研究者というのは得てしてそういう人種だと割り切ることにした。

 今は彼らのことを考えている時間がもったいない。

 

「では、早速二人の収集の成果を聞かせてもらおうか?」

  

 ヨハンは椅子から立ち上がると「よっこらしょ」とベッドに腰かける。

 当然のようにチェリーがその隣に座った。

 そんな親し気な二人を見て、ジークは少しだけ羨ましく思うものの小さく首を振って切り替えた。


 

 ジークとチェリーの二人は、まず単独行動のときに知った情報を交互に話す。

 そして先程のギルドマスターとの会話に差し掛かったところで、ようやくヨハンが身を乗り出した。

 ここからが重要なのだろうと考えたジークは先程の会話を思い出しながら、出来るだけ正確に話すことに専念する。


『――で、敵の正体はゴート国の関係者で間違いないの?』


 ジークの言葉にレイドはソファに(もた)れながらこう答えた。


『あぁ、あそこは昔からそういう国でな。……新興貴族が台頭してきてくれたおかげで随分と風通しは良くなってきているんだが――』


 レイドは表情を歪めながらも続けた。


『ただ、何分(なにぶん)その新興貴族たちは爵位(しゃくい)が低い。子爵男爵程度で侯爵伯爵を相手にするのは、ちぃとばかり荷が重すぎる。……結局『貴族の力』ってのは個々の能力ではなく、領地の広さや人口を源泉(げんせん)にした財力や軍事力に()るところが大きいからな』


 旧態依然の既得権益を(むさぼ)る有力貴族の岩盤(がんばん)穿(うが)つまでには至らないのだという。


『で、だ。伝統的にゴート貴族というのは若くて綺麗な女性を自分の周りに侍らせたがる()()があってな。俺が現役だったころも同じような事件が何度かあった。……そのたびに誘拐組織自体は潰してやったが、奴らのスポンサーでもある貴族たちにはいつも逃げられちまってな』


 彼らの息の根を止めるには冒険者の武力ではなく、政治力が必要になってくるのだとレイドは嘆いた。


『だから今回も根本的な解決は厳しいだろうと思う。……だからお前たちは出来ることをすればいい。要は()()()()()()()や他に連れ去られた娘さんたちを救い出せば成功だと考えろ。適当に誘拐組織相手に暴れてこい。もしあちらの貴族が出張ってきたら、カナンギルドが相手になるって啖呵(たんか)を切ればいい。……まぁあちらに刺し違える覚悟はないだろうから適当に尻尾切って終わりだろうがな』

 

 ニヤリと笑うレイドが男前だった。


『それと白衣の嬢ちゃん――チェリーって言ったか。……さっきはオレもイヤな言い方をして悪かった。ゴート貴族に逃げられたという苦い話を思い出して、つい八つ当たりしちまってな。……アンタはマリアのことをホントに心配してくれていたんだな。アイツは俺たちにとっても大事な家族なんだ。……だから、こちらこそよろしく頼む!』


 彼はそう言って立ち上がると、チェリーに負けない程に深く頭を下げた。




「――なるほど、大体私の想定通りだったな」


 ヨハンは何か確信を持った感じで何度も頷いた。

 ジークはそんな彼に驚くのだが、チェリーには全く動じた様子がない。

 相変わらず意味不明な二人だが本当に心強く感じられた。


「何となく相手はゴートだろうなとは思っていたんだ。あの国はそういう()()()()()が残っているからな。……そこで、私なりに今後の計画を立ててみたんだが――」


 ヨハンはそこで不自然に沈黙し、隣のチェリーを窺う。

 真っ直ぐな彼女と目が合った瞬間、視線を外し咳払いする。

 

「まずジーク、すまないが今回も君には荒事(あらごと)を頼むことになるだろう。……どうも私たちはそういう身体を張るのは不得手(ふえて)でね?」


 屈託なく笑うヨハンの隣でチェリーも微笑んだ。


「大丈夫です。むしろ望むところってヤツです。マリアを誘拐した奴らをボコボコにしてやります! ……殺しはしませんが」


 それでもマリアにもしものことがあればきっとそんな不殺(ころさず)の誓いなんて吹っ飛ぶだろうと、ジークは内心で付け加える。


「……でもさ、それって最終決戦のときだよね? そもそも例の組織とやらにどうやって接触したらいいの? アジトを探し当てて正面から突入したり裏口から潜入したりしちゃうの? ……人質取られたらキツイけど、そのときは私の魔法で何とかする、とか?」


「いや、今回おまえの魔法の出番はない。特に屋内で()()は使わせない」


 そのヨハンの断言にチェリーは露骨なまでに不機嫌さを表情で表現するが、ヨハンはそんな彼女に意味ありげな笑みを浮かべる。


「それよりもお前には()()()仕事がある!」


「……ん? ナニナニ? 出番があるなら何でもいいよ!」

 

「さすがチェリー! お前ならそう言ってくれると思ってたぞ!」


 身を乗り出したチェリーの肩を、ヨハンはがっしりと掴んで大きく頷く。

 次の瞬間彼女の顔が引き攣った。


「……え? ……あ、やっぱ、出来れば今の言葉はナシの方向で――」


 チェリーは身の危険を感じたのかちょっと引き気味だが、彼は肩を掴んだまま離さない。


「という訳で、チェリーには()()()()()()()()()()()()()()()を任せる!」

 

「「…………は?」」

 

 ジークとチェリーは大きく口を開き、そして顔を見合わせる。


「大丈夫だって。ちゃんと守ってやるから心配するな!」


 そんなことを言われてもチェリーは絶対に納得しないだろう。

 ジークはそう思いながら彼女の顔を見るのだが、彼女は神妙な顔をしたまま沈黙を続ける。

 いつもの彼女ならヨハンのボディに一発放り込んでいるところだ。


「…………ねぇセンセ? ホントのホントにマリアと私のコト守ってくれるんだよね?」


「あぁ、ここから本格的に()()するからな」


 その言葉でチェリーは納得したのか、穏やかな笑みを見せる。


「……仕方ないか。(オトリ)役が必要なんだよね? 私しか出来ないんだよね? ……じゃあ頑張る」


 彼女は信頼しきっている表情で隣のヨハンを見つめていた。

  


 細かい流れを詰める打ち合わせも終わった頃。


「……ねぇ、ジーク?」


 チェリーが固い表情でジークに問いかけた。その声色(こわいろ)にヨハンまでも目を見開く。ジークも大事な話だと直感し姿勢を正した。


「マリアはジークのことが好きだよ? ……ジークも彼女の気持ち、何となくでも気付いていたよね?」


 ジークは小さく頷いた。

 あれで何とも想われていなかったとしたら、逆に女性不信になりそうだと彼は心の中で呟く。

 

「誘拐される直前に話してたのって、そのことだったんだよね。詳しいことは話せないけどさ。……彼女は自分の境遇に負い目を感じていて、ずっと最後の一歩が踏み出せいないでいるの」

 

 ジークはその言葉にハッとした。

 負い目を感じているのはずっと()()()()だと思い込んでいた。

 

 ――でも、もし彼女()そうだったのだとしたら?


「マリアね、もうジークのことを諦めるって言ってたよ? ……自分はジークに相応(ふさわ)しくないって」


「……えッ。……そんな!? なんで!?」


 ジークはチェリーに詰め寄るが、彼女は毅然(きぜん)とした態度で首を横に振るだけだった。


「……今回の件、私はセンセを信じている。きっと全て上手く収めてくれるって。マリアも私も無事に助けてくれるって。……それでも、たとえマリアを無事に助けたとしても、彼女の()まで助けられるかどうかはジークの頑張り次第だと思う」


 ジークは彼女が何を言っているのか分からなかった。

 だけどチェリーの射すくめるような視線に尻込みして聞けない。


「……ジークはマリアのこと好き、だよね?」


「……もちろん!」


 彼は深呼吸して間を置き、そう告げる。

 想像以上に声が(かす)れていて驚くも、視線は目の前のチェリーから離さない。

 彼女は頷き、続けた。


「……たとえば、本当にたとえばの話だけど、今回の件が間に合わなくて、彼女がキズモノになってしまったとしても、それでもマリアのことを今と同じぐらい好きだって、胸を張って言える?」


 その言葉にドキリとした。

 とても少女が口にしていい言葉ではない。隣のヨハンもいきなりの彼女の言葉に目を剥いた。

 でもチェリーはそれを気にすることなく、ジークのことを真剣な目で見つめ続けている。

 有無を言わせぬ何かを感じ、ジークは背中に冷や汗をかいた。

 彼は意を決して宣言する。

 

「僕はマリアのことが好きだ。たとえ彼女が傷つけられようとも、そんなの全然関係ない! 僕は彼女自身が欲しいんだ!」


 チェリーはジークの覚悟に何度も頷いた。


「うん、合格だね。……全てが終わったら彼女にちゃんとその想いを伝えなさいよ?」


 それはいつもの彼女と違ってどこか大人びた笑みだった。

 ヨハンもジーク同様緊張していたらしく、深呼吸を一つして立ち上がる。


「取り合えず今日のところは一旦解散としよう。……ジークは事態が動くまで身体を休めるなり、武器の手入れなりそっちに時間をかけてくれ、チェリーは今から囮としての心得みたいなのを叩き込むからそのつもりで」


 その言葉にジークとチェリーは頷いた。



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