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第7話  ……そもそもあの二人は何者なの?



 マリアは相談している途中で、徐々にチェリーの雰囲気が変化していくのを感じていた。

 その中でジークも自分と同じで踏み込めない理由があるという、相当きわどい発言もあった。

 ……ヨハンには黙っておくようにとも。

 何故そのような事情を知りうるのかというのは、一旦横に置いておくとして。

 

 ――やはり彼女は見た目通りの明るいだけの少女ではない。


 マリアは改めてそれを痛感(つうかん)する。

 チェリーも同じ現実世界の人間なのだから、所詮この姿は仮初(かりそめ)に過ぎない。

 彼女はこういう()()()()()()()()()()を演じているだけなのだ、と。

 

 ――中身まで天然だなんて軽々しく思ってはいけない。

 そもそも私よりも年上かもしれないし。


 マリアは先程の激昂(げっこう)など初めからなかったように冷静に状況を観察していた。


 

 チェリーはマリアが自分の説得で落ち着いたのだと思ったのだろう、ホッとしたような笑みを浮かべた。


「ねぇ、マリアちゃん。一度でいいからさ、今思っていること全部彼にぶっちゃけてしまわない?」


 目の前のチェリーが微笑む。

 それはマリアとしても悪い話ではなかった。

 どうせ身を引くならば、全てを打ち明けて、そのうえで胸に抱える恋心を伝えておきたかった。

 たとえ迷惑だと思われても、そうしたかった。

 

 ――負けて悔いなし。

 

 マリアはチェリーの言葉に大きく頷く。

  

「とにかく! 今すぐでなくてもいいんだから、まずはお互いが腹を割って話す時間を作るべきよ。……もしその勇気が出ないのなら私が一肌脱ぐからさ!」


 そこからちょっとしたチェリーの説教が続いた。

 明らかに自分より幼い風貌(ふうぼう)の少女がお姉さんぶるのがおかしかった。



 二人して聖堂を出た頃には、日が傾いていた。

 道を歩く人々もどこか足早に見える。

 ゲームのセカイながら、そういうところは本当にリアルに作られているとつくづく感心させられた。

 隣のチェリーが「う~ん」と伸びをして微笑む。


「……もうこんな時間かぁ、ずいぶん話し込んじゃったね?」


「その……ごめんなさい」


 思わず謝罪するマリアに、チェリーが芸人らしさ溢れるリアクションで手を振る。


「いやいやいやいや、マリアちゃんが謝る必要なんて全然ないって! その、私が柄にもなく説教しただけで、何かこっちこそゴメンね。ちょっと熱入っちゃってさ」

 

 彼女は申し訳なさそうに、それでいてちょっと照れたような笑顔で舌を出す。

 二人して大通りに出たのだが、マリアは少しだけ一人になりたかった。


「……あ、そういえば買い物があったのを思い出しました」


 ちょっと露骨(ろこつ)過ぎたかとマリアは心配になるが、思いが通じたのかチェリーは微笑んで気を利かす。


「そう? じゃあまた明日ね!」

 

 彼女は小さく手を振って雑踏の中に紛れていった。




 マリアは行く当てもないまま夕暮れの通りを歩いていた。

 頭にずっと巡り続けていたのは、先程のチェリーとの会話。

 ジークもマリアと同じように抱えているものがあるのだと、確かに彼女はそう言った。 


 ――私はこのセカイに逃げてしまいたいと思うことで、こうやって入り込むことが出来た。

 ……ジークもそうなの?

 そもそもこのセカイはそういう逃げ道として用意されたセカイだったりして?

 

 マリアはそこまで考えて、違うと頭を振った。

 ヨハンとチェリーはそうではない。

 

「……そもそもあの二人は何者なの?」


 それはマリアがずっと頭の隅で考えて続けていたことだった。

 チェリーもヨハンもイロイロと知りすぎているのだ。

 ……ジークとマリアの事情以外にも。

 そして先だって彼女が口にした『仕事』という言葉。

 あれはマリアの中で決定的だった。


 ――チェリーちゃんたちは、このセカイを満喫しているように見せていただけで、本当はこのセカイがちゃんと機能しているかを確かめていたのかもしれない。


 思えば、マイル村の一件に始まり、セリオ教主国と教皇直属親衛隊の件。

 そしてリオン王国の王位継承。

 彼らと一緒にいると立て続け大きな話が飛び込んできた。

 確かにジークと一緒にいるとそういう話は多いのだが、ヨハンとチェリーと一緒のときはその比ではない。

 

 ――まるで彼らが呼び込んでいるみたい。


 では彼らがこのセカイでそういうトラブルを生み出す黒幕的な存在なのかと言われればそうではない。

 なぜなら彼らはマリアと同じ現実世界の人間だからだ。

 でも彼らと一緒にいるといろいろな()()()()遭遇(そうぐう)する。

 それらを考えたときに思いつくのは一つ。


 ――もしかして、あの二人は……。


 そんなことを考えていたのが問題だったのだろう。

 頭のレーダーで複数の赤い丸が、猛スピードで(せま)っているのを彼女は完全に見逃していた。

 

 


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