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第7話  なんでレコーダーに吹き込んだ通りの展開になってるのよ? 

 

「――ふむ、ちょっと考えをまとめたいな」


 一郎は懐からレコーダーを取り出して電源を入れる。

 確かそれでマイクパフォーマンスもどきをしているうちにこのセカイに来たのだと、茉理が苦々しい記憶を頭に浮かべ始めた矢先、到底聞き捨てならない一言を耳にする。

 

「……『突如ゴッドヘルに放り込まれた一郎と茉理は、このセカイで生き残る為、装備の必要性を感じ、簡単な仕事を請け負うことにした』、と。」


「ちょっと待って! だから何でそんな勝手に決めるの? 簡単な仕事はともかく、装備とかは絶対にいらないって!」


 なし崩しに外堀が埋められつつある状況に、茉理は断固として異を唱える。

『譲れない部分は絶対に譲らない』。

 それが一郎を相手にするときの鉄則だった。


「取り合えずさ、今日は初日なんだから肩の力を抜いてさ、適当なお店をチャチャッと取材して遅くならないうちに帰ろう? ……ホラ、みんなも心配するだろうし」


 現実的な案を提示(なだ)めにかかるのだが、一郎は得意げに胸を張って首を振る。


「その辺りは何の問題ないんだよな。……実はこのセカイで何年過ごそうとも現実世界では一秒たりとも進んでいないんだよ!」


「なんだって!!! ……って、そんな都合の良いセカイなんてズルくない?」 


 アテが外れた茉理はがっくりと肩を落とす。


「何言ってるんだ? その都合の良さこそがラノベのラノベたる所以(ゆえん)ってモンだろう?」


「……あ! 今この瞬間、絶対に世界中のラノベ作家さんを敵に回したよ! ……バカだ。コイツ、ホンモノのバカだ! ウチの会社ってば、なんでこんな作家と契約したんだよ! センセを早くクビにしろって言うあの親切な助言をちゃんと聞いておけばよかった!」


 茉理はベッドから床に崩れ落ち、両手をついて項垂れた。



 二人が装備要る要らないでぎゃうぎゃう言い争っている最中、入口の扉が控えめにノックされる。

 茉理は深く溜め息を吐くと、ふらつきながら立ち上がった。


「…………はいはい」


 扉を開くと、そこに立っていたのは先程の二人――ジークムントとマリア。


「やぁ、ちょっといいかな?」


「どうぞどうぞ!」


 茉理は根性で愛想を振り絞って部屋に迎え入れる。

 一郎の隣に座ると、ジークとマリアには茉理のベッドを勧めた。


「いきなり訪ねて申し訳ないね」


 謝罪する彼に一郎と茉理は首を横に振る。

 そもそも彼のお金で借りた部屋なのだ。

 やっぱり返せと言われないだけマシというもの。


「謝りついでにもう一つ話があるんだけど。……実は今さっき飛び込みの仕事が入ってさ。別に命の危険はない簡単な仕事なんだけど、人手が足りなくて困っているんだ。……あいにく今日中に動ける人たちが周りにいなくてね。これも何かの縁だから、君たちに声を掛けてみようかと思って。……どうかな?」


 ジークは困った顔で茉理と一郎の顔を交互に窺う。

 一郎は溜め息を一つすると、頷いた。

 

「……正直、今日はゆっくりするつもりだったが、あの『疾風迅雷』からのお誘い。詳しい話も聞かずに断る訳にもいかないか。まずはどういう仕事なのか聞かせて貰えるかな?」


 散々茉理が初日なんだから云々と言い募っても全く耳を貸さなかった一郎が、ここぞとばかりに勿体ぶって慎重に話を進める。

 その二枚舌っぷりに愕然とするのだが、彼女としてもお金を借りておきながら話も聞かないというは道理に反するような気がするのも事実。

 茉理の表情からも是の雰囲気を感じ取ったジークは神妙な顔で話し始めた。




「このカナンの街から西にコリンという村があって、そこからの依頼なんだ。……()()()()()()()って」


「……なるほど、……で、『ランク』は?」

 

 一郎の意味深な相槌にジークはあからさまにホッとした顔をする。


「『F』か『E』だと思う。二人はスティムの山を越えてきたんだろう? だったら何の問題も無いはずだよ」


 一郎は即答はせずに無言で考え込む。

 もう一息だと感じたのか、ジークは心なしか前のめりになった。


「――報酬は折半で」


「あぁ、ウチとしては助かるが本当にそれでいいのか? 君たちは英雄と呼ばれるほどの凄腕。実力差を考えると割に合わないだろうに?」


「いやいや、助けてもらうのはこっちだし。今回は報酬よりも緊急任務をこなしたということでギルドへの貸しを作れれば十分」


「…………そうか。……わかった。受けよう」

 

 その言葉にジークムントは「……よかった!」と溜め息交じりの声を絞り出す。

 ずっと硬い表情だった隣のマリアもちょっとだけホッとしたのか口元の力を緩めた。


「ありがとう! 本当に助かったよ! じゃあ、早速準備に入ってくれるかな? 僕たちは噴水広場で待っているから!」


 部屋を後にした二人は茉理たちに見送られながら軽い足取りで廊下を歩いていたのだが、何かを思い出しただろう、ジークだけ立ち止まり隣のマリアに一言二言告げるとこちらに戻ってきた。


「……もう宿賃は払ったんだよね?」

 

 その言葉に二人して頷く。


「この宿は冒険者に親切な店だけど、一度払った分は返してもらえないんだよ。だけど交渉次第では後日泊まる分をタダにしてもらえたり料理をサービスしてもらえたりは出来る。……それは僕が今から代わりにやっておくから心配しないでほしい。せめてものお詫びだよ」


 ジークはそう言って手を振り、待っていたマリアの元へ走っていった。




「――自分で出したお金なのに、申し訳ないなんて中々律儀な男だな、アイツも」


 自分で作った主人公にどこか感心した様子の一郎は彼らを見送ると、呆然と立ち尽くしている茉理の肩をポンポンと叩いた。

 そしていまだ無言を貫く彼女のことなど気にしたそぶりも見せず、首をコキコキ鳴らす。


「……それに準備つってもな、別に装備がある訳でないし、そもそもその装備を買うためにお金が欲しい訳で――」


「ちょっと! そうじゃないでしょ!」


 再起動した茉理は一郎の胸倉を掴んだ。

 何がどうなのか理解していない彼はきょとんとするだけ。

 それが更に彼女を苛立(いらだ)たせた。

 下から見上げる威圧的な視線に一郎は息を飲む。


「……何だよ?」


「何だよじゃないでしょうが? なんで()()()()()()()()()()()()()()()()になってるのよ?」


「うん? ……そうか? 気のせいだろ?」


 一郎は偶々(たまたま)だと告げるのだが、茉理は激しく首を振ってそれを否定する。

 彼女のあまりに真剣な表情に顔に何かを感じた一郎は、腕を組んで少しばかり考え、おもむろにレコーダーの電源を入れた。


「じゃあ試しに。……そうだな。……『一郎と茉理の二人が同時に振り返ると、ベッドの上にそれぞれの冒険者装備一式が無造作に置かれていた』、と」


 二人で無言のまま顔を見合わせ呼吸を合わし、茉理の「いっせいのーで!」との掛け声で同時に振り返る。

 


 そこには、あって当然の如く置かれていた。

 一郎が使うベッドには戦士が着るような鎧と盾、そして剣が。

 茉理が使うベッドには魔法使いが着るようなローブをはじめとした衣装、そして杖が。

 

 

 

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