第4話 センセ、バレました!!!
茉理は何があってもすぐに動けるよう、いつもより軽めの昼食を摂って聖堂に向かう。その入り口ではマリアが柱に凭れて待っていた。
相変わらず彼女の表情は硬い。
――だからなんでこんなに重苦しい空気なの?
キャッキャウフフの恋愛話じゃないの?
マリアの真剣すぎる表情に茉理も不安になる。
彼ら二人は、このセカイではイイ感じだけど現実世界ではまだ知らないもの同士という、近くて遠い関係だ。
だけど一応両想いだろうことは何となく察しているし、実際その通りだ。
ある意味一番美味しい期間のはず。
少なくとも彼氏いない歴=年齢の茉理からすれば羨むような『恋愛リア充』である。……物語の登場人物に嫉妬するつもりはないが。
ただ、何か良からぬ展開が待っていそうで、早くも彼女の胃が悲鳴を上げ始めた。
マリアは足取りの重くなり始めた茉理を先導し、通路を右左に折れて小部屋に案内する。
椅子と机、ベッドしかない無機質な部屋。
茉理は学校の宿直室を思い浮かべる。
おそらく当たらずとも遠からずだろう。
マリアは扉を閉めると茉理に机に備え付けの椅子を勧め、彼女自身はその向かいに腰掛けた。
長い沈黙に不安が膨れ上がり、その空気に耐えられなくなり始めた茉理が、取り合えず何か言うべきか逡巡し始めた頃、ようやくマリアが口を開いた。
「……その、チェリーさんにジークとのこれからの関係を相談したくて」
首を傾げる茉理をじっと見つめ考え込むマリア。
――チェリーさんときたか……。
茉理は少し居心地の悪さを感じ、椅子に座り直す。
一方マリアも何から話すべきか探っているように再び沈黙する。
息を殺して待ち続けること更に数秒。
「……実はこれはまだジークにも伝えていないことなのですが。……私は強く意識すると頭の中にレーダーのようなモノが浮かぶようになっていまして――」
――レーダーって!?
まさかマリアって電波系女子なの?
……あっ、今ちょっと上手いこと言った、私?
茉理は心の中でしてやったりのガッツポーズをするものの、今はとてもそんな雰囲気ではないので神妙な顔で頷いておく。
「その、何と言ったらいいか……。私、360度感知できるんです。……人の動きとかが。そういうスキルをもっているんです」
――スキル!?
前触れもなくラノベ用語キター!
「敵対している人物も分かるので相当優秀なスキルなんですけれど……」
イマイチ話の流れが読めず、茉理はただ頷いて話を促すことしかできない。
マリアは真剣な表情で茉理を見つめた。
「……それでですね。一般人は白い丸、重要な人物は青い丸、敵対人物は赤い丸で表示されるんです」
「されるんですって言われても……」
茉理はひたすら困惑する。
ただ、マリアの言わんとすることが、おぼろげながら理解できた。
居住まいと正すと、真っすぐな目でマリアに問う。
「……ちなみに私とセンセは……何色、なんですか?」
「…………『黄色の三角』です。……私やジークと同じ」
マリアは意を決したように告げた。
茉理はその宣告に天井を見上げる。
――センセ、バレました!!!
っていうか最初っからバレてました!!!
でもこれってセンセの責任だからね!?
キャラクターにそんな便利スキルを持たせるなんて不用意にも程があるって!
どうするの!? センセ、この先どうするの!?
もうジークたちに密着取材旅行なんて出来ないよ!?
茉理は小さく溜め息を吐くと、もうどうにでもなれと笑顔で流れに任せることにした。
そんな彼女にマリアは申し訳なさそうに白状する。
「だから、私はあなたとヨハンさんが現れたあの瞬間から、お二人がこのセカイの人間ではないと知っていました。きっと私たちと同じ現実世界の人間なのだろうな、と。……だからヨハンさんがジークにヴィオールの研究者だと話したとき、私だけはウソだと知っていました。だからずっと警戒していたんです。絶対にこの人たちにはウラがあるって。何か企んでいるんだって」
その真っすぐな視線に罪悪感が湧き上がってくる。
「……返す言葉もありません。今までずっと騙していてすみませんでした」
茉理は潔く頭を下げた。
マリアは慌てて立ち上がる。
「いえ、あの……違うんです。そういう話をしたい訳じゃなくて、ですね」
確かに最初はずっと警戒していたそうだ。
だけど心配するようなことは起きなかった。
だから疑うのを止めたのだという。
「きっかけは前回のリオンでの旅です。実はギルドマスターからお二人の監視を依頼されていました」
茉理は目を見開く。
ジークとマリアにはいろいろと見せてはいけない部分を見せた自覚はあったが、ギルドマスターの目につく程とは。
一郎が脳内で作ったセカイに訪れ、こちらが一方的に観察しているつもりだったのに、まさが自分たちが警戒対象にされているとは。
「私もジークもあの国にいる間、ずっとお二人を注意深く観察していました。あの王位継承騒動が終わったあと、二人で先にカナンに戻り、マスターにも一連のことでヨハンさんがどう動いていたのか、全て報告しました」
茉理はただ頷くしかない。
一郎があの国でやったことと言えば……。
――そういや派手に一席ぶっていたような気がする。
彼女はそれを思い出し苦笑いする。
「お二人は私たちを守る立場に居ました。とくにヨハンさんのジークに対する態度は保護者のようでした。……まるで彼の心までも守るやると言わんばかりで。本当にそんな風に見えました。……そう考えると、これまでもずっとヨハンさんとチェリーちゃんは常に私たち二人を気にかけてくれていたように思います」
確かに二人とも保護者感覚なのは間違いない。
とくに一郎はその傾向が強い。
茉理自身も何となくではあるが自覚していた。
「思えばセリオのときもそうでした。お二人は常に私たちに寄り添ってくれていました。私たちが動きやすいように、私たちが一番いいと思う収まり方を選んでくれているように思えました」
――それは気のせい。……だと思う。
あれはセンセの都合だった。
でも、もしかしたら、と茉理は思う。
「だから私は貴方たちを信じます。それを前置きとして伝えておきたかっただけなんです。……その上で、どうか私の話を聞いてくれませんか?」
マリアはようやくの笑顔で、だけど目の奥に物憂げな光を湛えつつ、きっぱりとした口調で言い切った。




