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ICレコーダーは剣より強し! ……ただし異世界に限る!  作者: わかやまみかん
3章 時計を売って櫛を買うとか、もっと計画的に……(笑)
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第25話  出た! 一郎センセ伏線多すぎ問題。



「それにしても、よく分かったモノだな? ウチの貴族たちはおろか、おそらく当事者たるフランツ殿下やギュンターさえも未だ完全には理解できていないだろうに」


 観念したような、どこか見破られるのを待っていたかのような、そんな穏やかな笑顔でルードルは語り始めた。


「まず宰相のことだが、……彼はずっと身体の弱い王に玉座を押し付けていたことを気に病んでいたからな。仮にも忠臣を自称する者が、二代続けて無理させることを良しとしていいのか、と」


 ルードルはそのときの光景を思い出していたのか、どこか(うつ)ろに壁の一点を見つめて言葉を繰り出す。


「……だから彼は私とブライト公爵の前にして宣言したのだ。エーリヒ様が玉座に就くと意思表示なされれば、命に代えても立ちはだかるすべての問題を排除しよう。……だが、もし、殿下が玉座を望まないならば、その道を(はば)むことだけは絶対にしない、と」


「ちなみに、エーリヒ殿下の()()()()行為をしたのはルードルさんとブライト公爵ってコトだよね? 宰相さんは二人から一旦距離を取った、と」


 チェリーのどこか失礼な物言いにもルードルは楽しそうに頷く。


「まさに、そういうことだな。……これは彼による事実上の中立宣言だった。こうしてエーリヒ殿下と私たちとの戦いが水面下で始まった訳だ。あとはヨハン殿の言った通りだな。城から一歩も出ない年下のエーリヒ殿下相手に、百戦錬磨(ひゃくせんれんま)のはずの我々は防戦一方。……いやはや、()()()ながら本当に恐ろしく、そして頼もしい」


 ルードルは晴れやかに笑い声をあげた。




「――それよりも、ギュンターだ。……さすがにあの告白には正直度肝(どぎも)を抜かれたな」


 ルードルはグラスを傾けながらポツリと呟く。

 声色はどこか呆れたような、そんな叱責(しっせき)に似たもの。


「……え? でもルードルさんだって、ギュンターさんが動くのは織り込み済ですよね?」


 茉理は率直な疑問を彼にぶつける。


「いや、()()じゃない。ギュンターが動くのは目端(めはし)が利く人間ならば知れたこと。……ルードル卿が驚いたのはギュンターがあの議会と言う()()()()で『医師やジークに危害を加えた』と告白したこと、だよ」


 代わりに一郎が説明する。

 ルードルはその通りだと言わんばかりに頷くと再び溜め息を漏らす。


「黙っていれば()()上手く収まるものを。きっと今頃主従ともども、エーリヒ殿下にこっぴどく叱られているのであろうな。『少しはまとめる側の都合を考えろ』、と。――あのときの殿下の渋い顔といったら! ……まぁアレはアレで金を幾ら積んでも見れるものではないな。そう考えるとある意味一番の働き見せたのは彼だとも言えるか……」


 ルードルはグラスの中身にさざ波を立てながら、クツクツと笑い出す。

 残念ながら茉理はその顔を見ていなかったが、一郎はちゃんと押さえていたようで、同じように口元を歪めていた。


「結局宰相が黒幕だと宣言し、ギュンターはただの小間使いに過ぎなかったと印象付けることに成功させた。宰相は今までの功績ゆえに不問。なしくずしにギュンターも不問。……あの場でとっさに()()()かせたホーン宰相は本当に凄いと思いますね」


 一郎の手放しの誉め言葉に、ルードルも「その通り」と大きく頷く。


「……え? 宰相って黒幕じゃなかったの?」


「「もちろん」」

 

 二人の声が揃った。


「あの失礼な発言も宰相の本意ではない。あの場を収める為の一世一代の大芝居だ。もちろんエーリヒ殿下も当然それをご存じだ。彼の芝居に合わせたに過ぎない。……彼はこの国で最も王家に忠実な能吏(のうり)にして、我が国が誇る()()だからな。誰よりもエーリヒ殿下の王位継承を願いながらも、殿下を想って『動けなかった』優しすぎる男だ。……悪辣とは一番遠いところにいる誠実な男だよ」


 そこにあったのは絶大なる信頼。

 彼らが重ねてきた歴史を垣間見た感じがした。




 茉理が真相に感心していると、一郎が性格の悪そうな笑みを浮かべた。


「おっと、実は()()で終わらないんだな。この件の背景を考えれば、別のモノも見えてくると思えないか? ……ホラ、現在病床の王が王位に就くことになった()()だよ」


 彼が言いたいのは弟であるブライト公爵に決まりそうなところを、凄腕四人が工作して現王の即位にこぎつけたという話だ。


「……つまりセンセは()()も今回と同じ構図だったと言いたいのね?」


 茉理は大きく息を吐いた。


 ――出た! 一郎センセ伏線多すぎ問題。


 ルードルも「そこまで分かったのか」と小さく溜め息を漏らした。


「あぁ、宰相、当時の王弟ブライト公爵、そしてリオン国重鎮ルードル親子。優秀な彼らがやっとのことでひっくり返すことができたという、アレだ。……つまりエーリヒ殿下の父である現王は今回のメンツに宰相までも加えた陣営を敵に回しても、あと少しのところまで追い詰めることが出来る程()()()()()()()()()だった。……それを前提にして考えると?」


「……そっか! すべての切っ掛けになった『議会で決めろ』っていうのは病床の王の言葉だったんだよね!? つまり王は自分に似た長男に『やれるものならやってみろ』と機会を与えたんだ!」


「そういうことだな」


 ルードルは観念したかのように小さく同意した。




「この件が開始されると分かったその夜、宰相が私たちを呼び出した。優しい彼は王を玉座に縛り付けたことを悔やんでいた。激務が王の命数をすり減らしたのだと。……だから今回は中立でいたいと悲痛な顔で頭を下げて来たよ。私としても彼を追い詰める気などなかったので了承した」


「だから今回はルードルさんとブライト公爵だけで、ということですね?」


「助っ人としてジークムント君を(から)め手に使わせてもらったがね。……結果的に一番効果的だったのは彼が連れてきた貴方の言葉だった、と。……感謝している」


「いや殿下には申し訳ないことをしましたね」


 言葉とは裏腹に一郎から笑顔だ。

 

「正直エーリヒ殿下はジークムント君の叫びを聞いた瞬間に勝ちを確信しただろうな。ただでさえ今回の対抗馬であるフランツ殿下は玉座に意欲的なのだ。……アレには流石の私もしてやられたと(ほぞ)を噛んだよ。まさかこちらの駒をあのような形で使われてしまうとは」


「でもセンセが美味しいところを持って行った、と」


 茉理が引き取った言葉に、オッサン二人がニヤリと笑った。




「ちなみにルードルさんは、もしウチのセンセがあんなことを言い出さなかったとしたら、どういう風にエーリヒ殿下を王位につけていたんですか?」


 やや呂律が怪しくなり始めた茉理の質問に、ルードルは顎をさすりながら微笑む。


「あの場で考えていたことは、単純にフランツ殿下の能力不足の提示ぐらいだな」


「……意外と普通ですね?」


 彼女の失礼な物言いにも彼は笑顔を崩さない。


「結局エーリヒ殿下は、言い方は悪いが楽をしたいだけなのだよ。……その辺りは病床の王とそっくりだな。別に王も宰相が言う様に激務で命を縮めた訳ではない。それは侍医も断言しているぐらいだ。身体が弱いと言っても、こちらは一昼夜を馬に乗って行軍することを要求している訳ではない。きちんと体調管理して貰っている。それでも病には勝てなかったという話しだ」


「そんな言い方! エーリヒ殿下の仕事量って()()()()()でしたよ!? 病人なのにちょっとひどいんじゃないれすか?」


 茉理はエーリヒのベッド近くに積まれていた書類の量を思い出し、両手を大きく広げる。

 酔っ払いの相手は慣れているのか、ルードルは気にすることなく笑顔を見せた。

 そしてやわらかい口調で答える。


「まぁ、確かにエーリヒ殿下身体が弱いし長時間の執務は控えて貰っている。だけど殿下の能力ならばあの程度の量なら片手間でやってしまえるんだよ。――あの方は()()()()()()()優秀でね。……それに、もしエーリヒ殿下の身体に(さわ)る量の仕事だったら、侍医の彼が黙っちゃいないよ?」


「……まぁ、……そりゃそうかもね?」


 茉理は渋々ながらそれを認める。

 彼女も侍医の人間性は認めていた。

 でもどこか釈然としない部分が残り、もやもやとした感情をお酒と一緒に飲み干した。





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