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ICレコーダーは剣より強し! ……ただし異世界に限る!  作者: わかやまみかん
3章 時計を売って櫛を買うとか、もっと計画的に……(笑)
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第23話  君がリオン国に起こした奇跡だ!


 紛糾(ふんきゅう)した議会も収まるところに収まった感があった。

 悠々と車椅子に腰掛ける兄エーリヒと、それを押す晴れやかな笑顔の弟フランツ、二人の王子が退場するのを全員が拍手で見送る。

 ビゼット医師と侍医がその後ろに続いた。

 今後の治療方針について二人とも積極的に意見交換がしたいそうだ。

 エーリヒの命令によって手枷(てかせ)を外されたギュンターは、議場の面々に深々と一礼し、騎士たちと職務に戻る。

 ルードル卿も()()()()が忙しいと言い残し、宰相と肩を並べて議場を出て行った。

 議会出席者の貴族たちも、先程の言い争いなど無かったかのような穏やかな笑みで議場を後にする。

 それをジークは放心しながら見ていた。


「――では、私たちも退場するとしようか?」


 案内役を買って出たブライト公爵の言葉で我に返ると、彼の先導に従い王城を後にし、言われるまま馬車に押し込まれ一路ブライト公爵邸へ。

 その間、公爵は笑顔ながらも沈黙を貫いていた。

 息子が逆賊(ぎゃくぞく)一歩手前だったことを思えば空元気なのかも知れないとジークは考えるのだが、その割に清々(すがすが)しい表情なのが気になった。




「少しだけ失礼させてもらうよ?」


 公爵は自邸のエントランスで四人にそう告げると、早々に私室に下がった。

 真剣な表情で執事に『誰も通すな』と厳命するのも忘れずに。

 残された四人は執事によって応接室に通され、しばらくここでゆっくり過ごすよう伝えられた。

 彼が退室するのと入れ替わる様にメイドが四人分の食べ物と飲み物を持ってくる。

 それを見たジークとマリアのお腹が鳴った。

 マリアが顔を真っ赤にして俯くのが可愛くて、ジークが思わず笑いを漏らすと彼女がちょっと怖い顔で睨みつけてくる。

 

「そういえばジークたちは深夜から動き通しで飲まず食わずだったんだよね? しかもギュンターと戦っていたんだよね!?」

 

「その話は食べながらにしよう」


 興味津々で身を乗り出してくるチェリーをヨハンが抑え、まずはご飯を頂くことにした。

 ジークは彼女に()かされるまま、今まで何をしていたのか順を追って話す。

 ギュンターとの一騎打ちの話になるとヨハンまでもが目を輝かせる。

 それが少し嬉しくてジークも身振り手振りを使って一生懸命話した。 




 一息ついた頃、軽いノックがあって公爵が顔を出した。

 空の食器がメイドたちによって下げられ、代わりに暖かい飲み物が五人分用意される。


「――さて、ジーク君、ウチの息子が随分世話を掛けたようだな」


「いえ、あれはただの模擬戦闘ですから大したことありませんよ?」


 その気になればギュンターは武器の持たないジークを一方的に攻撃することができたが、そうはしなかった。

 だからこそジークも何かあるのだと感じ、その場にいた全員に模擬戦闘だと宣言したのだ。


「証言が必要なら、僕だけじゃなくマリアもしてくれます」


 ジークの言葉にマリアも真剣な顔で頷く。

 ブライト公爵は「ありがとう」と深々と頭を下げ、小さく肩を震わせ始めた。

 感動の涙を流しているのかと思えば、全く違った。


「それにしても見事に鼻っ柱を折られていたな! 我が息子とはいえ、そこまで()に似なくてもいいのに!」


 議場での光景を思い出したのか、公爵は本格的に笑いだした。

 

 ――息子が処刑されていた可能性だってあるのに、随分暢気(のんき)じゃないか!?


 ジークの思いが伝わったのかブライト公爵は彼の顔を見つめて片目を瞑る。

 彼は「何から話せばいいのやら」と前置きし、少しだけ真顔に戻って四人に正対する。


「……まだ小さい頃の息子から『何故父上は王にならなかったのか?』と問われることがあってな。……そのたびに『国に忠誠を誓っているからだ』と答えることにしていた。息子の忠誠心を(やしな)いたいという気持ちからだし、()()()()()()()というのもあった」


 彼は何かを隠すような含み笑いをする。


「息子は君との戦いの際、忠義だとか忠誠だとかそのようなことを口走(くちばし)っていなかったか?」


 ジークは頷き、ギュンターとの会話を伝えた。

 先程ヨハンたちにも話したことだから思い出す手間が省けた。 

 公爵は何度も頷き、再び肩を震わせ始める。

 ジークとしては笑い事などではなく、流石ギュンターは公爵家の人間に相応しいと思うに(いた)った話なのだが、目の前の()には違ったらしい。


「きっと私との問答を通じて、息子の中で『忠臣とは』という理想形が出来上がったのだろうな。……『国にとって正しいことならば、王家を一番近くで支える公爵家の人間として泥をかぶってでも断行する』。アイツはそういった美学に酔いしれていたのだろう」


 その言葉にヨハンが笑顔で続ける。


「清廉さに定評のあるフランツ殿下の部下になったことでそれが加速した、と。……無礼を承知で申し上げますと、相性が良すぎて暴走したという感じですかね?」


「いやはや、全くもってその通り!」


 公爵が大きく頷いた。


「しかしながらエーリヒ殿下があそこまで深く考えておられる方だとは思っていなかった。支持している私でさえもあの方の()を見誤っていたようだ。きっと殿下はいい王になってくださるだろう。そしてその一助として息子が側にいてくれれば言うことはない」


 ブライト公爵は晴れやかに笑い、彼らの前に布袋を置く。


「これは()()()からの心よりの礼だ。本来なら依頼者であるルードル侯爵が渡すのが筋だろうが、彼はこれから色々と大変なのでな」


 その響きに他言無用の意味が込められているのを四人はきちんと理解した。



 

 ジークたちはお暇させてもらう為、見送りのブライト公爵を伴ってエントランスへ向かう。

 廊下を歩きながらヨハンが思わせぶりに「答えにくければ答えなくて結構です」と公爵に切り出した。


「……もし、()ギュンター殿から『何故王に名乗り出なかったのか』と聞かれればどうお答えになりますか?」


 その言葉に公爵は目を見開く。

 

 ――今、ヨハンは何かの核心を突いたんだ!

 

 ジークは息を殺して彼の言葉を待った。


「……そうだな。……正直に『あの恐ろしい兄上から玉座を奪う度胸など持ち合わせていなかったから』と答えるかもしれんな」


 ブライト公爵は()()()()()()()()、絞り出すようにそう答えた。


 


 公爵の言葉が重すぎて、全員言葉少なに挨拶して屋敷を後にした。

 しばらく歩き、街の大通りに出てジークは立ち止まる。

 

 ――もしかしてエーリヒ王子は最初から自分の助けなんて必要なかったのでは?


 そんな思いが彼の頭をめぐる。


「……結局僕は何も役に――」


「そんなことはない!」


 ジークの口から何気なく漏れ出た言葉を、ヨハンが断固とした声で遮った。


「エーリヒ王子は確かに(つよ)い人間だよ。頭も切れるし王としての資質にも(あふ)れている。……だけどね。そんな彼でも傷つくんだよ? 彼だって人間なんだ! 傷つくんだ!」


 ジークは顔を上げた。

 そこにいるヨハンはいつもの皮肉気に口元を歪める彼ではなくて――。


「どれだけ優秀でも足が悪いというだけで排除しようとする議論が起きる。私には想像しか出来ないが、きっと悔しくて悔しくて仕方なかったはずだ! たとえ身体を気遣うという()()からの行動だったとしてもね?」


 ジークには心当たりが()()()()()


「生まれつき足が悪いのはエーリヒ王子の責任じゃない。それは誰もが知っているのにね。……『知っているならちゃんと()()に扱ってくれよ』と思うのはごく自然な心理だと思う」


 マリアもチェリーも神妙な顔で耳を傾けていた。


「あの議場で王位継承を論じられている間、きっとエーリヒ王子は傷つき続けていたんだろうと思う。あの優し気で穏やかな笑顔は彼が子供の頃から被り続けてきた仮面だった。それは今日皆が知ったはずだ。その奥で彼はずっと歯を食いしばっていただろうことは想像に(かた)くない。……でもね、皆が本当に知るべきは『何故彼が笑顔の仮面を被り続けていなければならなかったか』のはずだ!」


 街の賑わいが耳に入らない程の重苦しい静寂が満ちた。

 ヨハンはジークを見つめ(いた)わるような笑みを浮かべる。


「……あの場でジーク、君()()がエーリヒ王子の為に叫んだんだ。『足が動かないということは、何かの罪なのか!?』ってね。……彼が決して声には出さぬよう笑顔で飲み込みながらも、心の(うち)でずっと叫び続けていた言葉を! それを真っすぐに叫んだのは他ならない冒険者ジークムントだけだった」


 ヨハンの力強い言葉がジークの心に染みわたった。


「君が必死だったから、あんなにも必死だったから! 王子がずっと心に溜め続けていたその気持ちを代弁したから! 誰よりも王子の心に寄り添っていたから! ……()()()王子は仮面を外す決意をしたんだよ。ようやく素のままの彼を他の人間に見せる決意をしたんだよ! もし君が居なければ彼はずっと死ぬまで優しい笑みを浮かべ、その奥で傷つき続けていたかも知れない! ……あの光景はジーク、()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 ようやく報われた気がした。

 ジークは何度も頷いて、そのたびに大粒の涙を石畳に零す。

 それを三人は暖かい目で見守っていた。




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