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ICレコーダーは剣より強し! ……ただし異世界に限る!  作者: わかやまみかん
3章 時計を売って櫛を買うとか、もっと計画的に……(笑)
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第19話  ちょっと、阿呆はやめてよ! せめて可愛くアホって言って?


 

「……ねぇ、センセ? ホントにこんなのでいいの? ちゃんと物語として成立してるの?」


「……まぁ、何とかなるんじゃないか?」


「……何とかなるじゃなくて、さ? センセの仕事は、……何とか()()ことでしょ?」


 そう問い詰めながらも茉理の目は、一郎のレコーダーによって召喚された文庫本の文字列を追いかけていた。

 一郎は一郎でメモから目を離さない。

 学校の視聴覚室よりも広く、(ぜい)が極まれた豪奢(ごうしゃ)な貴賓室。

 何とも言えない居心地の悪さを感じていた小市民の二人は、ソファの端っこに並んで座ることで日常を取り戻していた。

 そんなゆるゆるの空気の中ノックがあり、ルードルと侍医が現れた。




「ジークたちがどこに行ったか知りませんか? ……彼らから何も聞かされていなくて。どうしたものかと相談していたんです」

 

 まず彼らが何かを言い出す前に一郎がそれを切り出した。

 白々しいセリフに、茉理は思わず苦笑いを噛み殺す。

 そんな彼女の心情など知る由もない侍医が神妙な顔で口を開いた。

 実は昨晩のうちに彼らの部屋を訪ね、帝国領ラスティアに名医がいることを伝えたのだと。

 是非彼を王城に連れてきて欲しいと依頼したのだという。

 それを受けて二人は夜のうちに城を抜け出したのだそうだ。

 ちなみに二人の為に国一番の名馬を手配したのは、彼の隣にしれっとした顔で立っているルードルだという。

 

「ですが我々の行動が、あちら側に知られてしまったようでして――」


 侍医は申し訳なさそうに、俯きながら言葉を発する。

 今朝、彼らの元に議会から正式な通達があったそうだ。


急遽(きゅうきょ)予定が変更になりまして、今日の正午に王位継承に関する臨時議会が開かれることになりました。……どうやらエーリヒ殿下の足が治る可能性の存在を嗅ぎつけた彼らは、医者がこちらに到着する前に決着をつけようとしているようです」


「まぁ、常套(じょうとう)手段ですな。おそらくジークムント君にもそれ相応の追手を差し向けていることでしょう。ここはお手並み拝見ということで」


 焦りまくっている侍医の横でルードルは平然としたものだった。


「ルードル殿そんな他人事のように……」


 侍医は鷹揚(おうよう)に笑う彼を睨みつけながら嘆息した。

 しかしルードルは表情を変えることはない。

 むしろこの状況を本格的に楽しむように、口の端を皮肉気に吊り上げる。


「いやいや、当然この程度の()()は見せてもらわないと、ね? ……彼らだって多少の汚名ならば平気で被れるのだと証明しなければ、我々に認めて貰えないことぐらい知っているでしょう。……国を治めるというのは綺麗事だけでは済まされないモノです。清濁(せいだく)(あわ)()む覚悟こそが責任ある為政者(いせいしゃ)としての必要最低条件ですからな」


 彼のどこか達観(たっかん)したような言い草に、侍医が歯を食いしばる。

 重苦しい沈黙の中、今まで様子を見ていた茉理は口を挟む。


「――でも、昨日のギュンターさんは私たちに対して『ルードルさんの屋敷に長々と逗留させる訳にはいかない』という感じの言い方をしてましたよ? だから彼らからしても予定の前倒しは想定外だったはずです。付け入るスキは十分――」


「いや、そうだとしても準備不足はお互いの話だ。前倒しとはいえ今までにそれなりの準備はしてきているはず。それをひっくり返すのは厳しいだろう。……さて、ルードル卿。ここからどうするおつもりで?」


 一郎の楽しむような言葉の響きに応じるようにルードルも微笑む。


「まぁ、なるようにしかなりませんな」


 その能天気な言葉とは裏腹に、彼の表情からは全て想定内の出来事だと思わせる程の余裕が感じられた。


「お二人はヴィオールからの客人として中立の見届人の役をお願いしたいのですが、よろしいですね?」


「了解しました」


 質問の(てい)を取った要請に、元よりそのつもりだった一郎と茉理は快諾(かいだく)した。



 城内にある大会議場。

 一郎と茉理がそこに入ったとき、一階の議場には百名以上の議員たちがすでに着席しており、今か今かと臨戦態勢で開始を待っていた。

 茉理と一郎は二階の招待席に案内される。

 そこには国教でもあるラフィル教会関係者もいた。

 彼らを注視するも、イザークが着ていたような親衛隊の制服は見当たらない。

 そもそも今回は悪だくみする者も存在しないということだった。――あくまで一郎の言葉を信じるならば、だが。だから教会も純粋なオブザーバとしての参加らしい。

 同じく二階にある貴賓席。こちらには王族が詰めていた。

 中央の立派な椅子は空席だが、本来は病床の王が座るべき場所だと思われた。

 その隣には第一王子エーリヒが着席しており、更にその隣はブライト公爵が、彼らの後ろの席には侍医が控えていた。

 王の席をまたいで反対側には第二王子フランツが座っている。彼は落ち着きなく周囲を見渡していた。その横には茉理が今まで顔も見ていない壮年の男性が二人。おそらく彼を推す王族だろう。

 しかし茉理は最側近で主要人物でもあるギュンターの姿を見つけることが出来なかった。


「……ねぇ、センセ? ……ギュンターは?」


 茉理は腰を少し浮かせながら一階の議場を見下ろし、その様子をメモっている一郎の耳元で(ささや)く。


「さぁな。ジークは人を殺すのを嫌がるから、死んではいないはずだぞ? まぁ詳しい話は落ち着いてから彼らに取材するが、な?」


「…………え?」


 想像を超えた一郎の返答に、茉理は思わず絶句する。


「ジークと戦うの? ギュンターさんが? なんで?」


 胸倉を掴まれた一郎は、周囲を見渡すと慌てて茉理の頭をアイアンクローで引き離す。

 そして顔を近付け、小声で説明した。


「……声が大きい。ルードルが追手の存在を示唆(しさ)していただろうが? それがギュンターだ。……この時間ならもう決着はついているだろうな」


 茉理はいきなりの急接近に耳まで真っ赤にしながらも、再び一郎に問う。


「……ジークが、勝ったんだよね?」


「あぁ、そうじゃないと話が繋がらないからな」 


「もう! 私が知らないうちにナニ急展開させているのよ!」


 茉理は彼の足を踏みつけることで怒りを示した。



 やがて臨時議会が開催が宣言された。

 当然議題は次期リオン王についてだ。

 まず第二王子フランツを推す勢力が先制攻撃を仕掛ける。

 想定通り健康上の問題での正面突破だ。

 足が不自由なことによる弊害(へいがい)、何より健康な血統を後世に継ぐという王として最も重要な部分にかけている、などと勇ましく声高(こわだか)に。

 多数派工作が成功しているのか、半数以上の議員がそれに賛意を示した。

 それに対してエーリヒ派の筆頭であるルードルは、それらをのらりくらりと(かわ)し、ときに病床の王を非難するような(きわ)どい発言をして議会を紛糾(ふんきゅう)させ、本筋から()れるよう巧妙に誘導していく。

 その老獪(ろうかい)さに非難囂々(ひなんごうごう)となり、いつしか議題はルードルの貴族としての資質を問うものへと変化していく。


「――リオン国貴族としての誇りはないのか!」


「貴様! 我が国一番の忠臣ルードル卿に何たる暴言!」


「忠臣だと? どこがだ! ……笑わせるな!」


 ルードルに厳しい言葉が放たれれば、当然その言葉に反発する者も現れる。

 おかげでどんどん本題からズレていく。

 それに気付いたものが話を元に戻そうとするも、ルードルがまた別の爆弾を落とす。

 そうして議会は混沌としていった。



 

「……なんか、ルードルさんって、この場面だけ切り取っちゃうと、完全に悪者だよね? 引き延ばす役としては最高の仕事なんだけど」


「まぁ、彼は有能だからな」


 ヒートアップだけして議論が前に進まず、退屈になってきた茉理は貴賓席に目をやった。

 罵声が飛び交う見苦しいともいえる議会を涼しい顔で見守る第一王子エーリヒ。

 それとは対照的に自分の支持者から兄を中傷され、苦悶の表情を浮かべる第二王子フランツ。


「……フランツは切ないよね?」


 茉理のポツリともらす言葉に、一郎も貴賓席を一瞥(いちべつ)した。


「……フランツは兄大好きっ子だからな。大好きな兄の身体が心配だから玉座を奪う。次男の彼がそれを奪う為には兄エーリヒが玉座にふさわしくないと証明しなければならない。証明する為にはそれを議会で(あげつら)う必要がある。……彼にとって悪夢のような時間だろうな」


「……だよね。だって憎んでいる訳じゃないんだもんね?」


 フランツがあの表情で議会を見つめているのを、兄エーリヒはどう感じているのだろうか。

 それを思うと茉理の胸が痛んだ。


「当然議会でエーリヒに『王たる資格なし』と糾弾している者だってフランツがどれだけ兄を慕ってきたのか知っている。彼に近ければ近いほど、な。……それにエーリヒの弱点を派手に糾弾したからといって得られるものなど何もない。エーリヒやルードルだけでなく王になったフランツの恨みまで買って、閑職に追いやられる可能性だってあるんだからな」


「……それでも、するんだ?」


「それがこの国の貴族の忠義の形なんだよ」


 茉理は「へぇ……」と感嘆の声を上げ、再び貴賓席に目を向けた。




「――でもさ、エーリヒってあれだけ自分のことを(けな)されているのに顔色一つ変えないよね? ……もしかしてマゾ?」


 茉理の目に、むしろエーリヒはこの光景を楽しんでいるようにさえ見えた。


「……おま、……もういいや。……彼には彼の考えていることがあるからな。そして今のところ()()彼の想定通りにコトが進んでいると言っていい。ついでに言えば、エーリヒは罵声を浴びせられたところで気に病むようなヤワな人間ではないから心配するだけ無駄だぞ?」


「そんなヒドイ言い方。それじゃまるでエーリヒは機械みたいじゃ――って、まさか! ホントにメカなの?」


 茉理は廃坑の奥で見つけた古代技術文明(ロストテクノロジー)の存在に思い当たり、目を輝かせて一郎を見つめる。


「……お前は阿呆(アホウ)か!?」


「ちょっと、阿呆はやめてよ! せめて可愛くアホって言って? ……あ、ちなみに大阪人にとってアホって半分誉め言葉みたいなモンなの」


「知るか、阿呆!」


 議会が紛糾(ふんきゅう)し、一郎と茉理も関係ないところで派手に言い争う中、それらを切り裂くように勢いよく扉が開け放たれた。

 一瞬にして議場が静まり返る。

 一郎と茉理も一旦言い合いを止めてそちらを見つめた。

 そこに立っていたのは、お待ちかねのジークムント。

 ようやく主役の登場だった。




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