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ICレコーダーは剣より強し! ……ただし異世界に限る!  作者: わかやまみかん
3章 時計を売って櫛を買うとか、もっと計画的に……(笑)
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第4話  それってあのルードル家の紋章だろ?


「――()ッて~」


 ジークは襲い掛かってくる賊を一掃してから、思い出したかのように顔を(しか)めた。

 不用意に受けた一撃のせいで、シャツに血が(にじ)んでいる。

 彼は袖口をまくり上げ、傷口を直視し眉間に深い皺を作った。

 取り敢えず気休め程度にはなるだろうと舐めてみる。

 口の中に広がるのは錆びた鉄の味。

 それを大量の唾液と一緒に飲み込み、ジークは軽く微笑んだ。

 別に感情の選択を間違った訳ではない。

 血の味が大好きというヘンタイでもない。


「だが、それがいい! ……なんてね?」


 本来ゲーム内でキャラクターがどれだけ血を流そうとも、『ユーザー』は痛みなど感じないモノだ。

 このセカイを除いては。



 カナンから少々距離のある、商業自治区最大の都市アイジス。

 ジークは久しぶりにここで仕事をしていた。

 護衛任務をこなした後は近隣都市への配達任務。

 その道すがらにある砦を拠点にしている賊の討伐任務もついでに請け負う。


「――はい、達成の確認をしました。もう少しでランクがB+に上がりそうですね」


 ジークは笑顔のギルド受付嬢から報奨金を受け取ると、その朗報に身を乗り出した。


「あとどれぐらいで!?」


「……ん~っとですね。……今回の賊討伐をあと二回ぐらいかな?」


 その返事に彼は大きく頷く。


「じゃあ、せっかくなのでやってしまおうかな?」


 どうせこのセカイにいる間は時間は進まない。

 あとは自分の気力次第。

 だが受付嬢は申し訳なさそうに俯くのだ。


「……それなんですけれど、今回はジークムントさんが頑張って片付けてくれたおかげで、もう中位ランカーの仕事は残っていないんですよね」


「……そうですか」


 どうしたものかと相談しようにも、相棒のマリアは今回別行動。


 ――というよりも、単純に僕だけがログインしているだけ、か。

 彼女には彼女の生活がある訳だし。

 きっと僕のようにこのセカイに逃げ込むことなく、現実世界で真っ当に生きているんだろうな。


 ジークは少しばかり負い目を感じながらこっそり溜め息を吐くと、受付嬢に礼を告げて建物を後にした。



 ジークムント――明神(みょうじん)悠一(ゆういち)は今日も相変わらずこのセカイに入り浸っていた。

 高校入学祝いで買ってもらった念願のゲーミングパソコン。

 さっそく人気のオンラインRPG『グロリアス・サーガ』をダウンロードした。

 無理に課金しなくても定額料金さえ払えば思う存分楽しめることがウリのこのゲームに、彼はハマりにハマった。

 現実で思い通りにいかない鬱憤(うっぷん)をこのセカイにのめりこむことで発散していた。

 そんなある日彼は、画面端にひっそりとあったとあるアイコンをクリックするだけで、このセカイに入り込むことが出来ると知った。

 それも自身が作成したキャラクターであるジークムントとしてだ。

 キャラを鍛えれば鍛えるほど彼自身も強くなった。

 しかも現実世界での時間は一秒たりとも経過しないという驚きの仕様。

 好きなだけこのセカイを満喫することができた。

 悠一はジークムントとなり、この架空世界の空気を思いっきり吸い込み、風を感じながら大地を駆け抜けた。

 それは生まれて初めて知る『生きる喜び』だった。


 

 そんな感じでこのセカイを満喫していたジークは、マリアというキャラクターと知り合い意気投合した。

 やがてお互いがこのセカイの住人ではないと知り、秘密を持つ者同士でパーティを組むに至る。

 二人の相性は抜群で、面白いように仕事が上手くいった。

 お互いが特に約束することもなく、だけど示し合わせるようにして合流し任務を受ける。

 それはちょっとしたデートのような感覚で。

 現実世界ではわずか三ヵ月のことだが、このセカイでは二年目に突入していた。



 ジークは拠点であるカナンに戻り、その足で冒険者ギルドに向かった。

 どうせならランクを上げて区切りのいいところで現実に戻りたい。

 そんなことを考えながら、掲示板で自分に合う仕事を探していると声がかかった。


「おお、ジーク! 丁度良かった。小鹿亭まで行かにゃならんかと思っていた」


「……レイドさん」


 声の主は顔馴染みのギルドマスターであるレイド。

 彼が奥の部屋から顔だけをひょこり出していた。

 カナンギルド所属の冒険者は全員彼の弟分妹分だと言っても過言ではない。

 人望もあるし、面倒な事態になれば自分が出張って腕ずくで話をつけることもある。緊急任務で対応できる人間がいなければ自分で動くことさえあった。

 そんな武闘派のマスターが、古傷だらけの顔に笑みを張り付けて手招きしていた。

 若手のジークに拒否権などない。

 彼は誘われるままに、奥の部屋――通称『魔界』へと足を踏みいれた。

 


 以前はギルド関係者やジークを含めた冒険者も、尊敬するレイドの為に無給でこの部屋を掃除をしていた。

 だが片付けても片付けても数日後には無残な姿になる状況に辟易(へきえき)した皆は、もう誰一人として掃除はおろかモノを動かすこともしなくなった。

 そしていつしかここは魔界と呼ばれるようになった次第である。

 受付嬢でもある奥さんが定期的に片付けてはいるらしいが、どう見ても焼け石に水という言葉通りの光景。

 溜め息を吐くジークを笑顔で招き入れたレイドは、適当にソファに積まれた書類などをテーブルに積み上げ、空いた場所にどっかりと腰かけた。

 彼は床に転がったままの薄汚れたグラスを自分のヨレヨレになった服の袖でキュキュッと音を立てて拭き、埃のたまったテーブルに無造作に立っていたエール瓶を持ち上げた。


「適当な場所に座ってくれや」


 そう告げるとコルク蓋を歯でキュポンと瓶を開けてグラスに並々と注ぐ。

 そしてそれを喉を鳴らして流し込んだ。


「……大丈夫です。元気は有り余っていますので」


 とてもソファに座る気にもなれず立ったままで固まったジークが、その不衛生っぷりを醒めた目で見ていると、何故か彼はそれを物欲しそうな視線だと勘違いしたらしく、彼は笑顔で飲みかけのグラスを差し出す。


「いえ、僕はお酒は飲めないので」

 

 ジークが両手を振って全力で断ると、レイドは鼻で笑う。


「この()()()()()が! そろそろお前も上位ランク冒険者の仲間入りなんだろ? ボトルの一本や二本空けられないでどうする!」


 彼は口元を歪めるとグラスに残っていたエールを一気飲みした。



 このままだと話が長くなりそうなのでジークは本題に入るように促す。


「――で、何の用です?」


「……あぁ、コレだ」


 レイドは背もたれに身体を預けると、真顔で胸元から一通の手紙を取り出した。

 カナンとジークムントの名が書かれてある。

 それだけで届くというのが冒険者ギルドの価値の一つでもあり、多くの冒険者たちが結構な額の任務手数料を取られてもなお、不満を言うことなくギルドに属し続ける理由である。


 ――それよりも何故ギルドマスターである彼自らが、手紙を届けるという小間使い(まが)いのことをしなければいけなかったのか、ってコトだよね?


 それだけ重要な手紙ということは間違いないだろう。

 ジークは神妙な顔でそれを受け取ると、裏面の差出人を確認した。

 そこに名前やそれに準ずる表示などなく、ただ赤い蝋で封がされているだけ。

 だが、その封蝋の紋章に見覚えがあった。

 彼は無言のまま封を解き、手紙を開く。


「……やっぱり厄介ゴトだったか? それってあのルードル家の紋章だろ?」


 ジークはレイドの言葉に頷く。

 リオン王国の重鎮ルードル家。

 現当主は大臣の任に就いている。

 彼の長男も若いながら国内有数の商会を総帥であり、ここ商業自治区でも強い影響力を持つ。

 かつてその長男から人探しの任務を依頼されたことがあったのだ。

 その流れで父親とも面識を得て、それ以降家族ぐるみでひいきにしてもらっていた。


「おいジーク、知っているか? リオン貴族の手紙で()()()()()()()ってのは最上級の機密なんだぜ?」


 声を落とすレイドをチラリ上目使いで見つめ、大きく頷くジーク。

 レイドが自分の足でたった一通の為に小鹿亭まで足を運ぼうとした理由だった。

 彼は手紙を丁寧に畳む。


「…………どうやら王位継承問題で国が混乱しているみたいだね。……レイドさんも見る?」


 手紙を差すと、レイドは先程のジークのように全力で拒絶する。


「だから俺を巻き込むなって、バカ! まさかとは思うが、首を突っ込む気じゃねーだろうな?」


「突っ込む気なんてないってば。……すでに巻き込まれているんだよ」


 そのジークの弱々しい笑みに、レイドは高笑いする。


「確かに一国の重鎮から名指しで呼び出されて、無視できる冒険者なんざいないわな」


「……そうだよね」


 ジークとレイドは視線を合わせると、同時に溜め息を零した。



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