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ICレコーダーは剣より強し! ……ただし異世界に限る!  作者: わかやまみかん
2章 アイツは我々十二人の中で最弱……
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第24話  それは今夜のお楽しみ!

 

「くッ、早く殺せ!」


 茉理は自分が失敗した『くっころ』を、こうも鮮やかに使いこなしてみせたイザークに、賞賛半分やっかみ半分の複雑な視線を送る。

 

「いいや、殺さない! お前にはこれから聞かないといけないことがたくさんあるんだ。……それに罪を償わず死に逃げるのを手助けするつもりはサラサラない」


 しかしながらジークは剣を突きつけながらそれを拒否。

 その堂々たる振る舞いはまさに主人公に相応しいもの。

 イザークはジークを見上げて小さく笑みを浮かべた。


「……何も話すことはない。……もはや私に名誉も何も残っていない。……この世に未練も、な!」

 

 そう言うや素早い仕草で隠し持っていた短剣を抜く。


「待て!」

 

 そう叫ぶ面々を一瞥して彼は首に突き刺す――が、何故か短剣の方が砕けた。

 困惑の空気の中、思わせぶりな含み笑いが聞こえる。

 もちろん一郎だ。

 

「……だから言ったろ? キミのような二流のすることは全てお見通しだって」


 さっきは三下呼ばわりしていたから、この戦闘を経て少しだけランクアップしたらしい。

 放心するイザークを見て、遅ればせながら神官が彼を後ろ手に縛り始めた。


「司祭様は今どちらにおられますか?」


「…………地下の特別室だ」


 彼は抵抗する気力も失せたようで、素直にマリアの問いかけに返答した。

 




「かんぱーい!」


 その後、無事司祭は神官たちの手によって地下牢から救出され、逆にイザーク一派がそこに放り込まれることになった。

 教会本部から査問委員がやってくるまで、そこに軟禁されるらしい。 

 それを見届けた後、茉理たち四人は場所を酒場に移した。

 ダースとサーシャがささやかながら祝勝会を開いてくれたのだ。

 お代は教会と軍部の機密予算から出ているので、食べ放題の飲み放題。

 狭い店とは失礼だが、決して広くはない店に今回の立役者が勢ぞろいして乾杯を繰り返す。

 

「――えーっとですね! このたび私、サーシャは冒険者を引退することになりました!」


 茉理が数杯飲み干していい感じにアルコールが回ってきた頃、いきなり彼女が椅子に登って叫びだした。


「……ダースと結婚します!」


 その一大報告に大歓声があがった。

 

「ついにダースを押し倒したのか!?」


 ベイビーの下品な(はや)し立てにも、サーシャは怒ることなく笑顔で腰に手を当てた。


「それは今夜の()()()()!」


 あけすけな予告に全員が大笑いする。

 たった一人ダースだけが頬だけでなく耳まで真っ赤にして俯いていた。

 酔いが回ったとかいうレベルの赤さではなかった。

 周りの男衆がそれを冷やかすと、彼は慌てて奥の部屋に引っ込む。

 その後ろ姿を全員が笑顔で(はや)し立てる。

「おめでとー」の大合唱の中、サーシャは上機嫌でみんなにこの店で一番高いお酒を開け、注いで回った。



 まだまだ続く喧騒の中、茉理はジェラルドの娘モニカを含めた女子四人で隅っこのテーブルで頭を寄せてガールズトークを始める。一番ノリノリだったのは意外にも最年少のモニカだった。


「ねぇねぇ、サーシャさんとダースさんって、いくつ違いなんですか?」


「……えっと、たしか、……二十二歳だと思う」


「そっかぁ! 私は二十三歳差だから、ダメってことは無さそうですね?」


 彼女から飛び出した驚愕発言に年長者三人は目を見開く。


「……もしかして、それベイビーのこと?」


 恐る恐る尋ねるサーシャに、モニカは「はい!」と満面の笑みで肯定した。


「いやぁ、アレは……仲間だからイイヤツなのは知っているけれど、ちょっと性格悪いよ?」


「……そうですか? あれはウラ社会で渡り合う為にそう見せているだけで、本当は凄く優しくて穏やかな紳士さんですよ?」


 モニカは誘拐されていた時期のことを思い出しているのか、うっとりとした上目使いで天井を見上げた。別荘で過ごしていた日々を思い出しているのは明白。

 協力関係にあった以上、ストックホルム症候群という訳ではないだろうが、その顔はもう一端(いっぱし)の恋する女性だと茉理は目を見張る。

 だがサーシャは納得できないのか、贔屓が過ぎるとでも言いたげに首を竦めた。


「……でもさ、よくよく考えるとベイビーってハラール将軍の秘蔵っ子なんだよね? だとしたら将来性は抜群だし能力も折り紙付き。……ある意味隠れた超優良物件なのかもね」


 茉理の品定めするかのような現実主義の言葉に、モニカが我が意を得たりと何度も頷き、バンと激しくテーブルを叩きつけて立ち上がった。


「そう、そう! 本当に()()なんですって! 今は将軍の命令でウラの仕事をしていますけれど、いつか彼の存在が表に出る日が来るはずなんです。……そうなってから参戦するぐらいなら、サーシャさんを見習って今のうちに押し倒して()()()()を作っておいた方が絶対にいいと思うんですよ!」


 茉理は含んでいたお酒を盛大に噴き出した。

 政略結婚が常の貴族とはいえ、十二歳のセリフだとは思えない。

 サーシャもマリアも目を白黒させながら周囲を確認し、いったん落ち着けと彼女の肩を押さえつけて座らせた。




「で、チェリーちゃんはヨハンさんといくつ離れているの?」


 サーシャからいきなり話が飛んできて茉理は困惑する。


「……な、なに? なんで私なの?」


「だって、マリアさんとジークさんは聞くまでもなく同世代じゃない」


「……まぁ、そうだね」


 茉理は困惑しながらも計算する。

 一郎が昭和五×年生まれで自分は平成〇年生まれだから――。


「……十六歳かな?」


「え? 意外! もっと離れていると思った!」


 確かに今の見た目なら判断すればそうかもしれない。

 チェリーは茉理と比べても十歳は若い。

 マリアも凄く驚いた感じで見ていた。

 茉理はもう少し考えればよかったと少しだけ後悔する。


「でもさ、二人ってホント自然な感じよね? 一緒にいて当然というか。それだけ歳が離れていても通じ合えるんだって、じゃあ私も大丈夫かなって。……貴方たち二人を見てそう思ったから、私も思い切って彼に告白したんだ」


 サーシャが真剣な顔で茉理の手を握る。

 瞳に涙が溢れていた。


「そう言ってもらえるのは嬉しいけれど、私ヨハンとは別に付き合ってもいないんだよ?」


 三人にはそれが照れ隠しに聞こえたのだろうか、「またまたそんなコト言って」みたいな感じで茉理の肩をつつく。


「なんだかんだ言っても、二人はいつも部屋だって一緒ですからね」


 マリアの一言にサーシャとモニカがきゃあと色めきだった。

 ここで全力で否定して空気を悪くするのもいかがなものかと考えた茉理は適当にお茶を濁す。

 こうしてセリオの夜が更けていった。



 祝勝会の熱気なんて嘘のように静まり返った屋敷に戻り、そのリビングでジェラルド=ロッサムはホッと息を吐く。

 酒場で随分と興奮していた娘のモニカもあまりの静けさに気まずくなったのか、先に寝ると告げて二階に上がってしまった。

 ジェラルドたち夫婦は寄り添ってソファに座ったまま。

 どれぐらいの時間がたったのだろうか。


「……これで終わったのだな」


 ジェラルドがポツリと呟いた。

 だがそれは二人の言葉だった。


「……はい。……もう、耐えなくてもいいのですね?」


 今のは妻の呟き。

 だが、それも二人の言葉だった。

 どちらともなく嗚咽を漏らし始めると、もう止まらなかった。

 二人は手を顔に当てて今まで我慢していたものを解き放った。

 息子を奪われた悔しさなど消えようはずがない。

 ただ、教会憎しの想いに(すが)って虚勢を張っていただけだった。


「……アレックス!」


 妻が彼らの息子の名前を叫ぶ

 彼らはずっと息子の死に向き合うことが出来なかった。


「……今までよく耐えてくれたな。……ありがとう」


「……あなたこそ。今までご立派でした」


 妻はジェラルドがどれだけ感情を押し殺して過ごしていたか知っていた。

 ジェラルドの淡々としたその後ろ姿にこそ、鬼気迫るものを感じた。

 二人は息子の仇を取ることだけを考えていた。

 息子のいないこれからのことなど考えてしまうと、気が狂いそうだった。

 二人は互いを抱きしめ、今夜初めて最愛の息子の死を受けとめた。



 そんな両親の様子をモニカは閉じられた扉越しに感じながら、彼女も静かに涙を流していた。

 二階に上がらず、ずっとそこに立っていた。

 大好きな兄の仇を取ったのにあれだけ悲しむ両親の姿が切ない。


 ――私には心の支えとなってくれるベイビーさんがいた。


 犯人を憎んで黒くなっていくモニカの心を、彼は優しい言葉で白く戻してくれた。

 兄を殺された恨みは絶対に消えることはないと怒りに震える彼女に、彼は穏やかな笑顔で何度も何度も諭した。


『恨みを消す必要なんてない。だけどそれを晴らすことだけを目的に生きていたら、達成した瞬間きっと君は人生で立ち尽くしてしまうよ』と。


『――おそらく君の両親はそうなってしまうだろう。だからそのとき、君が両親に新しい幸せを示してあげるんだ。君自身が両親の新しい幸せになるんだ。君が希望の明かりを灯してやるんだ』と。


 言葉を思い出すだけで、モニカの中で明日を生きる勇気が湧いてくるのを感じる。

 涙を拭ってから小さく「おやすみなさい」と残し、彼女は二階へと上がった。




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