第14話 僕たちと付き合わない?
アグネスと別れた後、マリアとジークの二人は特に話し合う必要もなく、自然と先に場所を確認しておいたここミーニン市のギルドへと向かっていた。
ここまで一緒に護衛をしてきた冒険者たちはこの街のギルドで新しい仕事を探すと言っていたからだ。モートンを探すなら間違いなくそこのはずと。
アグネスの『モートンもよければ……』との仄めかしにすらならない提案の意味を二人はきちんと理解していた。
その道すがら二人は言葉少なではあるものの先程の話の感想を共有する。
「――やっぱりセシルが出てきたね。目的地が研究所なら、きっとあの二人だって」
ジークの言葉にマリアは頷く。
あの二人がこういった場を『外す』とは到底思えなかった。
そもそも指輪についている石は古代文明と関係している可能性がある。
それを研究所にいるセシルが欲しているというのならば。
ジーク同様、マリアとしても『やっぱり』という感想しかない。
これから大事な戦いが待っているのだと確信していた。
帝国全般に言えることだが、やはりミーニンの街も美しいと思った。整然としているというのが正しい表現か。……良くも悪くも。
マリアはもっとごちゃっとした街の方が好きだった。それこそ清濁併せ呑むカナンのような。
――帝国は帝国だけあって、帝国なんだろうね。
彼女は自分の中でしか消化できない、分かったような分からないような感想を抱く。
汚いモノを取り除かれた先に見える闇こそが汚く感じるのはマリア特有の感覚か。
さて、この街のギルドも立派な建物だった。
ドアを開けて一歩踏み込む二人を迎えたのは、少々ガラの悪い光景。
少々小汚いエントランスに『ホーム』を感じる。
ソファが並んでいる休憩スペースで目的のモートンを見つけた。
彼とはこの地に来るまでいろいろと話していた。
帝国やアグネス、それにセシルに対しても言いたいことが山ほどあるといった感じ。
何とかそれを抑えつけようと努力していたが。
そんなモートンならばきっと『役に立つ』はず。
敢えて口にはしないけれど、マリアとジークの気持ちはその点で一致していた。
おそらく彼がここにいるのも、そういう理由だとマリアは考えていた。
――ようするに『お助けキャラ』ってコトよね?
どうせゲームセカイの住人なのだ。
それならば罪悪感なく使うに限る。
二人は視線を交わらせ、彼の元に歩み寄った。
「次の仕事は決まった?」
早速ジークが声を掛けた。世間話のような感じで会話を始めるジーク。
このあたりの社交性はマリアがいつも目を見張るポイントだ。
仕事ならばともかく、プライベートでは人見知りに近い彼女が学びたいと思っている部分。
モートンと相棒の中年冒険者――ルイスが同時に顔を上げた。
二人ともジスタ出身ということもあって意気投合したのだと、これも道中で聞いた。
モートンにしてみれば軍関係としても冒険者としても先輩ということもあって信頼しているのが良く分かった。
ウラがありそうな雰囲気がアリアリとしていたが、目下の敵ではないと彼女のレーダーが示す。だからマリアも必要以上に警戒することは無かった。
「いや、まだだ」
首を横に振り、短く答えるモートン。
「ちょっとこの辺りの軽めのモンスター討伐任務をしながら土地勘でも掴もうかって話をしていたところでね?」
ルイスが二人の真意を探るような笑みを浮かべながら継いだ。
この辺りは流石ベテランと言った感じ。
「まだだったら、僕たちと付き合わない?」
ジークが提案する。
「……ん?」
モートンは眉をクイっと上げて続けろという表情を見せた。
それに対してジークが思わせぶりな顔をして、ソファに座ったままの二人に近づきそっと屈んだ。
「……さっき依頼を受けたんだ。……明日、アグネスの『護衛』をする」
そして思わせぶり囁くと、したり顔で頷いた。
ちょっとヨハンに影響を受け過ぎかなとマリアは懸念する。
こういうやり取りはやっていて楽しいのは分かるけれど。
――信用の部分が、ねぇ?
マリアの本音を知ってか知らずか、ジークは「……どう?」と二人を交互に見つめた。
「へぇ、彼女が護衛を、ねぇ?」
モートンが牙を見せるような笑いを浮かべた。
屈強な彼女が護衛を求める必要などない。
ましてやここは彼女の本拠地である帝国。
どう考えても誘い。
それでもモートンは絶対に乗ってくると確信していた。
……あとは相棒が乗ってくるかどうか。
最悪モートンだけでも釣れれば――。
「――中々面白そうな話だなぁ」
相棒ルイスも楽しそうな笑顔を見せて乗ってきた。
その後、待ち合わせ場所であったり目的地だったりを説明し、報酬に関してはアグネスが出せないなら(おそらく出さないとは言わないだろう)ジークたちが受け取る分を折半するなどの打ち合わせを手早く終え、両者はそのまま別れた。
マリアとジークはその足で宿を取ってようやく一息つく。
食事時間までは個室でゆっくりすることにする。
「――ふい~」
マリアは一人きりになってからベッドに寝転がった。
ジークには悪いが、ちょっと早めに一人になりたかったのだ。
彼女の頭をずっと占めていたのはアグネスのこと。
――何故かアグネスが、人間になってたんだよねぇ。
正直意味不明だった。
前回は普通の『重要キャラ』。
それがいきなり黄色マーカーになっていた。
それは自分たちと同じ現実世界の住人を意味する。
ジークやマリアのようなゲームを楽しんでいる人間なのか、それともチェリーたちのような開発側の人間なのか。
アグネスだけでなく、他にもこんな人間がいるのか。
どうしてもこれはあの白衣二人組に会って聞かねばならないことだった。
それまでは当然ジークにも内緒。
「秘密はあんまり作りたくないんだけどなぁ」
マリアは小さくぼやいた。
 




