転生賢者の完璧な育成計画 〜自作のダンジョンを利用して平和ボケした人類のレベルを一気に引き上げます〜
「――おい。まさか、もう終わりか?」
距離にしておよそ二百メートル程先だろうか。
バラバラに倒壊し、ガレキの山と化した城を見て俺は一人呟いた。当然、城から返ってくる声は無い。
「……何という事だ。まだ小手調べの魔法しか使っていないぞ。これからが本番だと言うのに……」
俺はガックリと膝から崩れ落ちた。
あまりの悲しみに涙すら溢れてくる。
「うおおおおぉぉぉ!!」
俺の無念の慟哭が、漆黒の空に響き渡った――。
◇◆◇
思えば俺は昔から天才だった。
十歳の時に独自の魔法理論を打ち立て、五大属性魔法の一つである『地属性魔法』の開発に成功したのだ。
その功績を認められてか、俺は魔王を打倒する勇者の一行に加えられた。心根が英雄様な勇者達との性格的な相性は最悪だったが、幾度も死闘を繰り返しているうちに俺のレベルは大きく上昇した。
魔法の習得はレベルアップに比例する。
当時の俺は魔法の習得数から、人々に“賢者”と呼ばれ、尊敬された。だが俺自身としてはそんな事よりも己が成長し、様々な魔法を扱えるようになる事の方がずっと嬉しかった。
そして魔王を倒し、世界が平和になった直後の事だ。俺はある種の物足りなさを感じた。
あ、もう魔法の習得はできないのか。と。
次はどんな魔法を習得できていたのかな。と。
魔法の習得にはレベルを上げなければならない。だが、レベルを上げるには格上の敵と戦わなければならない。
そして、そんな死闘は魔王を倒した地点でもう――。
そんな、ちょっとした好奇心が全ての始まりだったのだ。
気づいた時には俺は、勇者達を血で赤く染めていた。そしてすぐさま『蘇生魔法』で魔王を生き返らせた。
困惑する魔王に俺は告げた。
「お前より強い奴はどこだ」と。
魔王が言うには、魔界とかいう異世界を大魔王と呼ばれる魔族が支配しているとの事だった。何とも突拍子のない話だったが、俺はあの手この手を使ってどうにか大魔王の座す魔界へと辿り着いた。
――だが、期待は裏切られた。
確かに大魔王は魔王よりもずっと強かった。だが、それさえも俺を満足させるには至らなかったのだ。
死に際の大魔王が言うには、もう少し若ければ俺なんぞ軽く消し飛ばせたらしい。期待に胸を膨らませた俺は即座に彼を蘇生し、『減齢魔法』で若返らせた。あんまり変わらなかった。
――それからはもう、繰り返しだ。
強敵の元に殴り込み、そいつの死に際に更なる強敵の所在を聞き、強敵の元に殴り込み、そいつの死に際に更なる強敵の所在を聞き、強敵の元に殴り込み、そいつの死に際に更なる強敵の所在を聞き、強敵の元に殴り込む。
だが、そろそろ限界だ。
人間の世界にも、魔界にも、天界にも、地下帝国にも、海底王国にも、天空都市にも、神界にも、他所の星にも、俺を心から満足させてくれる者はおらず、俺のレベルは999でぴたりと止まってしまった――。
◇◆◇
――そして、現在に至る。
「真・超魔界神ゼロルヴァス……。最初から期待はしていなかったが、まさか挑発の気持ちで城に向けて放った地属性魔法で死ぬとは……。お前も結局は雑魚でしか無かったか」
顔も知らぬ神に対し、俺は侮蔑の言葉を吐く。
ばちが当たるなら望むところだ。丁度次の行先に困っていた所である。
「……はぁ」
今までの俺ならゼロルヴァスの死体を瓦礫から引きずり出して『蘇生魔法』を掛け、強敵の場所を吐くまで拷問していただろう。だが、
「……なんかもう、疲れたな」
こんな事をもう四十年は続けている。
自分の名前なんて忘れたし、体力も衰えた。
人の寿命は短い。これではレベル1000に到達するよりも俺の寿命が尽きる方がずっと早いだろう。『減齢魔法』を使用するという手もあるにはあるが、体格に比例してステータスも一緒に下がってしまうので本末転倒ときた。
魔界や神界の強者達も自分の手によって討伐済み。今では何の面白みのない平和な世界になってしまっている。
もう、レベルは上がらないのだろうか。
今までの傾向からして、キリのいい数字であるレベル1000ともなると、想像を絶する魔法を習得できるはずなのだが……。何せ、敵がいない。
「……待てよ?」
ふと、頭に考えが過ぎる。
もしかして、あの魔法を使えばいけるんじゃないか? 俺はすぐに『状態確認魔法』で自らのステータスを確認する。
「……あった。『転生魔法』と『作成魔法』」
◇◆◇
「――人間界なんて久しぶりだな」
何年ぶりかも分からない人間の世界。
故郷に戻ってきたにも関わらず、俺の心が安らぐ事はなかった。むしろ、魔王がいなくなって平和になったこの世界はとても退屈だ。魔法の探求以外にはまるで興味が無くなってしまった自分に少し悲しくなる。
「……さて、この辺でよいか」
俺が立っているのは見渡す限り何も無い荒野。
危険な魔物が多く住んでいるせいで家の一軒も建てられない死の大地。ラスティマ荒野だ。
四十年近く経ってもその異名は変わっていないようで、人間基準で見るとそこそこ危険な魔物が辺りをうろついている。最も、『隠蔽魔法』で姿を隠した俺には全く気づいていないようだが。
さて、ここに来た目的はただ一つだ。
「ダンジョンを作ろう」
俺は『格納魔法』を発動する。無数のアイテムを異空間に保管できる魔法だ。
その中から俺が取り出す物は様々な世界で手に入れた選りすぐりのアイテム達。武器が殆どだが虫眼鏡等の小道具、石のようなガラクタもある。
「お、勇者の剣か。懐かしいな」
もちろん、全ての始まりであるこの剣もある。
今となっては下から数えた方が早い中途半端な性能の剣だが、人間界においては未だ屈指の切れ味だろう。
「うむ。こんな所か」
過去の冒険に思いを馳せながら目の前に並べたアイテムは全部で九十六個。
数え間違いがなければ、これでぴったりのはずだ。続けて勇者の剣に『作成魔法』をかける。
数秒の時間の後、俺は『鑑定魔法』でその状態を確認した。
「よしよし、『火属性魔法』が付与されているな。成功だ」
『作成魔法』
任意の道具に、術者の習得している魔法を付与する魔法だ。そうして完成した魔道具は、素養の無い者でも魔法を行使できる奇跡のアイテムとなる。
この作業を、俺はひたすら繰り返した。
俺が今までに習得した九十六種の魔法を、同数の選りすぐりのアイテムに付与する。『作成魔法』の特性上、発動する度に自分が弱体化していくがそんな些細な事は気にしない。
むしろ、これから起こる出来事に胸の高鳴りを抑えられずにいた。
――そして四時間後。
「よし、ちゃんと九十五個あるな」
全ての魔道具の性能を『鑑定魔法』で確認し、最後に残った金の虫眼鏡に『鑑定魔法』を付与する。
これで96個。目的の数が揃った。
今の自分に残された魔法は3つ。道具に付与できない『作成魔法』、始まりの魔法である『地属性魔法』、そして今回の計画のキモである『転生魔法』だ。
ここまで来れば、計画は九割終了だ。
次に俺は、『地属性魔法』でラスティマ荒野にちょっとした地殻変動を起こした。ちょっとしたと言っても、それなりに精密な作業だ。大地を自在に操作できる魔法を地底の奥深くにまで使用し、大規模な“ダンジョン”を作成するのだから。
「む、やはり凄い揺れだな」
地盤が崩れない事に気を使ってはいるが、それでもやはり揺れを消す事はできない。人里から遠く離れたラスティマ荒野だが、それでも遠方の街は今頃大騒ぎだろう。
先程作成した魔道具達も地面に吸い込まれるように消えていく。もちろん、これも狙い通りだ。彼らにはダンジョン内の“トレジャー”になってもらう。性能が優秀な物ほど、奥底に設置するよう意識する。だが攻略できないダンジョンに価値はない。適度な難易度になるようにその辺りは細かく調整した。
「……よし、完成だ。」
一時間の後、ダンジョンは完成した。
ダンジョンを構成する土にありったけの魔力を込めたので、数百年後には地上より遥かに強い魔物達が生態系を形成するはずだ。
それまでに侵入者が入らないよう入口も作っていない。まぁ数百年もあれば何かがきっかけになって誰かがダンジョンを見つけてくれるだろう。
「ふふふ、ふははははははっっ!!」
思わず笑いが止まらなくなる。
これで下準備は完了だ。『転生魔法』で俺が数百年後の世界に転生した時、人間界のレベルはダンジョンの恩恵で大きく跳ね上がっているはずだ。
何せ“賢者”の人生そのものと言ってもいい超高性能の魔道具が九十個以上もあるのだ。それだけあれば私を楽しませてくれる強者もきっと現れている事だろう。
神界や魔界ではなく人間界を選んだのも正解のはずだ。世界最強の存在である俺が人間である事がその証拠である。
後は『転生魔法』で俺自身を数百年後の未来に飛ばすだけだ。ダンジョンが見つかるのを五百年後と仮定して、六百年程先に転生すれば間違いなく俺の求める世界になっている事だろう。
――よし。
「いざ、六百年後へ『転生』!」
魔法を唱えたその瞬間、俺の意識はまどろみという名の泥の中へと消えていった。
◇◆◇
俺の名はリヴァ・アルノーツ。
アルノーツ公爵家の長男で、歳は十三。
友達は少ないが、家族には愛されている。趣味は読書で、特に魔法理論について書かれた古書が好きだ。
容姿端麗、才色兼備、品行方正、文武両道。
そして前世は、“賢者”――。
「はぁ……、失敗したな」
俺は夕食の席で、パンを口に運びながら呟く。
それを見てか我が父、ダリオが私に問いかける。
「何に失敗したのだ? ここの所、お前は何から何まで完璧ではないか。正直父さんは驚愕しているぞ。昨日の訓練では我が家の衛兵まで倒してしまったのだろう?」
母のジナもそれに続く。
「そうですよリヴァ。勉強なんて前までからっきしだったのに急に賢くなったものだから母さんも驚いてます。何かいい事でもあったんですか?」
よっぽど機嫌がいいのだろう。
ジナが空になった俺の皿にシチューを補充する。これでもう四杯目だ。
「何でもない。むしろ何にも無さすぎて退屈なくらいだ。ごちそうさま」
「リヴァ! 残さず食べなさい!」
「母さんが増やすのが悪い」
執拗にシチューを食べさせようとする母親を振り切り、俺は自室に閉じ篭った。
さて、状況を整理しよう。
転生魔法には性格の定着に時間がかかる。故に俺が目覚めたのはこの依り代の少年、リヴァが十三歳になった時だった。
それから丸一ヶ月。俺は“リヴァ”としてここアルノーツ公爵家で生活してきた。するとある問題が発覚したのだ。
時期はいい。多少のズレはあるだろうが、概ね狙いの時代に転生する事が出来た。
魔法も問題ない。三つの魔法は滞りなく使用できるし、ステータスも年齢に応じてかなり減少してはいるが、一応人間の世界では最強の範囲内だ。
問題は、この世界だ。
俺の予想ではダンジョンが発掘された事によって魔道具を取り合う大戦争が起こっているはずだった。
しかし、現実は違った。
戦争なんて起こってはいないし、そもそもダンジョンが発見されてすらいない。まさしく平和そのものだ。それどころか魔王がいなくなった事で人類にも余裕ができ、俺がいた時代よりも人間の平均レベルが大幅に下がっている。平和ボケにも程があるぞ。
おまけにダンジョンを作り出したラスティマ荒野だが、今はその真上に大都市が出来ている。
その名もロットブルク。貧民街と貴族街、真逆の二面性を持った巨大な街だ。そのロットブルクにこの家は建っている。
予想と百八十度違った展開にド肝を抜かれ、俺は再度転生を試みたが、残念な事に転生に必要な魔力は今の体では補えなかった。
「弱すぎて呆れるぞ人類……。結局、レベル上げが必要って事か」
むしろ周りに強敵がいない分、転生前より絶望的な状況だ。故に『失敗した』のである。
「……まぁ、完全に“詰み”ではないか」
部屋の四隅の燭台に灯された灯りを消し、俺は明日に備えて目を閉じた。
◇◆◇
「おはよう。父さん、母さ――
「「おはよう」」
俺が言い終わる前に、二人はすぐさま挨拶を返してくる。両親は早起きだ。何でも貴族たるもの、常に規則正しい生活を送らなけれはならないらしい。
「そういえばリヴァ。今朝騎士様達が家にやって来てな? 何でもお前に用事があるみたいだぞ。さっさと身支度を整えて聖堂に行ってこい」
「……騎士が?」
「えぇ、きっとスカウトだわ! どうしましょうダリオ、実力も家系も優秀な騎士ならきっとすぐ“英雄”になるわ」
魔王も魔神もいない世界で何が英雄だ。と心の中で呆れるが、騎士の要件というのは確かに気になる。
もし本当に要件がスカウトならば、この時代のレベルを細かく測る丁度いい機会だ。断る理由はないだろう。
「分かった。すぐに行く」
◇◆◇
正直、ロットブルクの街は綺麗だ。
魔物達の勢力が衰えており、街中をしっかり騎士が巡回しているおかげだろう。ここまで平和な雰囲気の街はどこの世界にも無かった気がする。
「まぁ、退屈すぎて欠伸が出るがね……」
子供も老人も沢山いるし、商業ストリートは昼夜問わず繁盛している。この間、ここで旅人から魔法理論の書籍を購入したがあまりのレベルの低さに愕然としたのは記憶に新しい。
そんな事を考えていると、
「――お、貴族のおぼっちゃまかな? 私、旅芸人なんだけどさ。ちょっと見ていかない? ほぉら、楽しいよ〜?」
突然背中をポンポンと叩かれる。
鈴の音のような綺麗な声だ。振り返ると、奇抜な格好をした女性が俺に風船を渡してきた。
メイクと衣装で目立たないが中々の美女だ。もしかしたら素顔で活動した方が集客率は高いかもしれない。
しかし風船か。“賢者”としてもリヴァとしてもそういう歳ではないが……。一応受け取っておくか。
そして、一言忠告だ。
「おい、教会証が見えているぞ」
「え、まじで!? うわ、ホントだ!」
大きくはだけた胸元から、聖職者の証であるネームタグがはみ出ていた。恥ずかしいのかキャラ作りかは分からないが、お姉さんがわたわたとオーバーなリアクションをする。うん、十中八九このお姉さんはシスターか何かだ。
こういう副業もやらないと儲からないくらい教会は貧乏という事なのだろうか?
宗派こそ違ったが、俺の時代の聖職者は皆が己の仕事に責任感を持っていたのだが……。
まぁ、この街が平和な証拠だな。悪い事だ。
「では」
「え、ちょ、私の芸見ていかないの!? 待って! せめてお金だけでも置いていってよ〜」
◇◆◇
「……ここか。思ったよりでかいな」
聖堂に到着した。
ここは騎士や神父、シスター達の所属する組織、“聖焔教会”の支部だ。故に警備も厳重で、平和な街でもここだけは重々しい空気を放っている。
「おぉ、お前さんがリヴァ・アルノーツか」
建物の荘厳さに呆気にとられていると、再び背後から声を掛けられる。振り返ると、齢八十になろうかという老齢の男が杖をついてこちらを見ていた。
「あなたは?」
「儂はここの支部長のガストラですじゃ。歓迎するぞ、風船の坊や」
ガストラの言葉に急に恥ずかしくなった俺は、ここまで持ってきた風船に爪を立て、割った。
◇◆◇
さすがは教会といった所だろうか。
聖堂内には何処からともなく賛美歌が流れてきており、何となく落ち着いた雰囲気にさせてくれる。
騎士達の訓練場や宿舎に始まり、聖職者達の個室や礼拝堂まで完備されているところを見ると、聖焔教会という組織の規模の大きさをはっきりと感じられる。
「随分大きい建物ですね」
「ふぉふぉふぉ、支部の中では二番目に大きい所ですからなぁ。本部に見慣れてしまえばこんな建物は家の生え変わる子ヤギが如くですじゃ」
ガストラがよく分からない例えをする。
だが、これより更に上か。本部の一番強い騎士とかだったら少しは骨があるだろうか? 無いんだろうな。
「ここですじゃ」
俺がガストラに案内された場所。
それは、地下に広がる巨大な訓練場だった。光源は無数に立てられている燭台の松明のみで、不気味な雰囲気が漂っていた。
「また訓練場ですか。ここはそんなに騎士の育成に力を入れているのですか?」
「いやいや、違いますじゃ。ここは――」
ガストラが地面を杖でコンコンと叩く。
すると、暗がりから十数人の騎士達がゆらりと現れた。いずれも鎧と剣で武装しており、悪意のある視線を俺に向けていた。
「……ガストラさん、これは――
「――処刑場ですじゃ! 今じゃ! “大地の魔女”を捕らえぃ!!」
「「はっ!」」
もはや話し合いをするつもりは無いのだろう。
四方から騎士達が剣を手に俺に襲いかかる。
「《地柱》」
即座に魔法を唱える。俺の周りの土が柱のように隆起し、騎士達の攻撃から身を守る。
「――何のつもりだ?」
周囲の柱を崩し、俺は語気を荒げる。
捕らえよと言った辺り殺す気はないのだろうが、もし俺の正体がバレたのならこいつらは始末しないと後々面倒になる。
「ふぉふぉ……。その歳で四方からの攻撃を防ぐか。『鑑定の奇跡』で見た以上の力、やはり魔女の力かの?」
「魔女?」
確か、先日商業ストリートで買った本に書いてあったな。うろ覚えだが、確かこの世界のパワーバランスを保つため、常に“三人”際立った魔法の力を持つ者、魔女が現れるとかなんとか。
あまりにも記載されている魔女の力がしょぼかったんで気にもしていなかったが、どうやら俺はそれと間違えられているらしい。
「“命の魔女”は既に聖焔教会の手中、ここで更に“大地の魔女”を捕らえたとなれば教会における儂の立場も急上昇じゃ。ふぉふぉふぉ」
「そうか」
凄まじい人違いをしているガストラ。
だが、今の言葉で俺は悟る。
――“計画”を実行するなら、今じゃないか?
すぐさま状況を確認する。
『理由はどうあれ、もう家には帰れない』
『『鑑定魔法』に類似する力の使い手がいる』
『いい加減この時代に飽きてきた』
「……早すぎるとは思うが、もう終わりにしよう」
俺は剣戟を《地柱》でいなしながら呟いた。
「む? 防戦一方で何を終わらせるのだ?」
ガストラが顔を歪めて俺に問う。
何かって?
そんなの決まっているだろう。
「この、退屈な世界をだ――。《崩落》」
◇◆◇
《崩落》。
予め地属性魔法で作っておいた建造物を即座に破壊する応用技で、前世では俺の十八番だった技である。もちろん、今世で使ったのはこれが初めてだ。
「効果は、予想以上だったな」
岩石を宙に浮かせる地属性魔法、《飛行石》の上で俺は呟く。すぐ下を見下ろすと、ロットブルクの街は完全に消えてなくなり、ガレキだけが辛うじて街があったという証明になっている。
ロットブルクに住む殆どの人間は死んだだろうが、運が良ければ崩落に飲まれずに済んだ人間もいるかもしれない。しかし、
「おぉ、断末魔がここまで聞こえてくるな」
その希望も地中から現れた魔物によって無残に絶たれる。
突然街が崩落し、そこから見た事のない魔物が際限なく湧き続け、生き残りを殺して回る。そこに老若男女の区別はない。まさに地獄の様相がそこにはあった。
「さっさとダンジョンを見つけなかったお前達が悪い。そもそも、この時代の人間は弱すぎる」
さて、どのくらいここで見物していようか。
ずっと放っている訳にはいかない。適度な所で助けないと人類が絶滅してしまう。彼らには少しずつ強くなって貰わないと。
「よし、第一層にもいくつかの魔道具を置いてある。崩落の拍子にダンジョンの外に飛び出した物もあるようだ。それを誰かが見つけたタイミングでダンジョンを塞ぐ。よし、これで行こう」
我ながら名案だ。
こうすれば俺の作ったダンジョンの超ハイリスクハイリターンな性質が全人類に伝わる。多くの夢追い人がダンジョンに潜り、ロットブルク跡地は冒険者達の街になるだろう。
難易度こそ想定以上の物になってしまってはいるが、人間の欲や好奇心はその程度では揺らがない。
そしてダンジョンを踏破、もしくは魔道具を使いこなした者はきっと俺を満足させてくれるはずだ。
そのためなら待つぞ。
俺はいつまでも待つぞ。
強くなったら俺が殺してやる。
「ふふふ。はははははっ!」
期待に胸が張り裂けそうだ。
手間をかけた甲斐があったというものだ。
すぐ下の喧騒が、悲鳴が、断末魔が実に落ち着く。これでこそ生き物。何も無い平和な人生など人生ではない。
「では、寝るとしようか。今日は魔力の消費が多すぎた」
それにしてもいい日だ。
これなら、いい夢が見られそうだ――。
ここまで読んで頂いて感謝感激です!
ひとまず短編という事でお話はここまでになりますが、もし皆様の期待に添えたらこれを元にした長編も制作するつもりなのでもし何か気になるところ等があったらコメントお願いしますm(_ _)m