「強く同○」と十回唱えて下さい。
簡単な詰将棋に付いての作品です。
将太は「ふざけるな」と思いながら読んでいた本を閉じた。
少し落ち着いてからもう一度同じ頁を開くと、そこにはやっぱり『十回唱えて下さい』と書いてある。何も確認せずに終わりにはしたくない。
好奇心は人並みにある、周りには誰もいない。
騙されたと思って試してみよう、将太はその言葉を唱えた。
そして本を閉じて表紙をめくると、特に何も変わった所はない。
開いた頁を見ながらもう一度その言葉を唱え始めて途中でふと気づいた、十回唱える必要なんて無かった事に。
「あ、分かったかも」
思わず呟きながら右の頁、表紙の裏に書いてあるそれを見ながら考え込む。
そして左側の一頁目を見て「もしかしたら」と思いながら頁をめくる。
「やっぱり」
将太は夢中で頁をめくり続けた。
十回クイズの答えが問題なのか、そう思って本を閉じた。
その本の表紙に書かれていたのは・・・・・・
・・・・・・
安南将太は久しぶりの休日に近所の古書店を訪れた。
以前ここに来た時から一月以上経っているのに中身が変わらない様に見えるワゴンセールを眺めていると、安南の文字を見付けた。
名字と同じ文字が気になってその本を取り出した。
『詰将棋一手詰』
表紙に大きく詰将棋の文字と詰将棋の図が載っていて、下の方に小さな文字で
【付録:安南詰将棋】と書かれている。
詰将棋の本なのか、安南は作者の名前かな?
そんな事を思いながら表紙の詰将棋を見る。
(表紙の一手詰問題)
将太は将棋を覚え立ての初心者である。詰将棋は知っている。
一手詰なら解けるかもしれない。
表紙の詰将棋を解いてみた。
少しだけ考えると答えが分かった。
王手が出来る駒は飛車と歩だけ、割と簡単だった。
表紙をめくると表紙の裏に正解が載っていた。読み通りで楽しくなった。
そのまま隣の頁にある問題図を見た。
1問目は問題を見た瞬間に解けた。
将棋のルールを教えて貰った時に最初に覚えた頭金の王手、易し過ぎる。
2問目も似た様な問題で直ぐに解けた。
3問目は、一目では解けなかった。
パラパラとめくって見た感じでは他の問題も簡単には解けなかった。
他の詰将棋も時間を掛けて解いてみようと考えて、その詰将棋の本を購入した。
・・・・・・
家に帰って詰将棋を解いてみた、一手詰問題なので良く考えれば何とか解ける。
忙しい時間の合間に息抜きを兼ねて少しずつ解いて、一週間以上掛かって遂に最後の問題を解き終わった。
続いて付録の頁を見た。
安南詰将棋五手詰問題と、図の下に記載がある
詰将棋に似た図が載っている、詰将棋では無い何故なら王手が掛からない。
確か将棋ではこういう絶対に王手が掛からない局面をZやZと言う。
絶対に詰まない。
持ち駒が豊富にあっても王手の掛からない穴熊囲い。
持ち駒に金や飛車が無い為に王手が掛からない端玉。
持ち駒に銀や角が無い為に斜め後ろから王手出来ない玉。
そんな事を考えながら良く見ると詰将棋の下に安南将棋の説明が載っていた。
【付録 安南詰将棋】
(安南詰将棋五手詰問題)
『安南詰将棋は安南将棋の規則で玉を詰ます詰将棋です。』
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『安南将棋とは』
『安南将棋は普通の将棋を基に駒の動きに一つ制約を加えた遊戯です。』
『・ある駒の一つ後ろに味方の駒がある場合には後ろの駒と同じ動きになる。』
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説明を読んだだけでは良く分からなかったので、ページをめくると安南将棋の詳しい説明が記載されている。
隣の頁に目をやると先程の五手詰問題の図が再掲されている。
問題の下にはこう書かれている。
『安南詰将棋についての説明です。』
『安南詰将棋は安南将棋の規則で玉を詰ます詰将棋です。』
『詰将棋なので初手は王手を掛けます。簡単ですね。』
『一手目の王手は三通りです。』
『これ以降のヒント無しで解きたい場合は頁をめくらずに解いて下さい。』
・・・・・・
そのまま頁をめくると、三つの指し手が説明されていた。
『一手目の王手は以下の三通り』
2六歩
1四角
3六角
『前にある駒は後ろの駒と同じ動きになります。』
『三つの指し手に対する玉方の対応を考えて下さい。』
『一手で詰んだり、三手で詰むのは玉方の受けが間違っています。』
『解けない場合は付録の安南詰将棋一手詰を解いて練習して下さい。』
『付録の安南詰将棋一手詰は手元にありますか?』
『付録が見つからない人は縁が無かったと思って諦めて下さい。』
『諦めきれない?』
『どうしても?』
『何でもする?』
『それでは十回クイズをします。「強く同玉」と十回唱えて下さい。』
『唱え終わったらこの本を一度閉じてから表紙をめくって下さい。』
『分からない場合は更に十回唱えて下さい。』
『付録の安南詰将棋は見つかりましたか?』
『安南将棋の初心者向けの安南詰将棋一手詰です。』
『パズルとして楽しんで下さい。』
・・・・・・
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【安南将棋とは】
安南将棋は普通の将棋を基に駒の動きに一つ制約を加えた遊戯です。
・ある駒の一つ後ろの升目に味方の駒がある場合に、その駒は後ろの駒と同じ動きになる。
簡単に説明すればこれだけです。
例えを挙げてもう少し詳しく説明すると
歩の後ろに金がある場合に歩は金と同じ動きになります。
金の後ろに歩がある場合に金は歩と同じ動きになります。
後ろの駒が移動したり敵に取られて居なくなれば駒の動きは元に戻ります。
二歩と打ち歩詰め及び行き場の無い駒を打つ(指す)のも禁止です。
これらのルール自体は普通の将棋と同じです。
同じなのですが、安南将棋では指し示す内容が変わります。
・二歩の禁止
通常の将棋では二歩は持ち駒の歩を打つ場合のみ生じます。
安南将棋では盤上の歩が横や斜めに動く場合に生じる二歩も禁止です。
・打ち歩詰め禁止
通常の将棋では打ち歩で王手になるのは玉の頭の一箇所だけです。
安南将棋では打ち歩で横や斜めの位置の敵玉に王手が出来ます。
更に角や桂の後ろへの打ち歩で角や桂の動きを変えて王手が出来ます。
打ち歩による王手で詰む場合は打ち歩詰めとなり禁止です。
(盤上の歩を動かして詰ますのは良い)
・行き場の無い駒の禁止
通常の将棋では敵陣一段目の歩と香、敵陣一段目や二段目の桂は動けません。
安南将棋では桂香歩も後ろの駒により横や斜め後ろに動く事が出来ます。
安南将棋では、このルールは実質無効です。
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(表紙の一手詰正解)
正解:3五飛
一つの問題図に対して詰将棋と安南詰将棋の二つの詰め方が出来ます。
Dual problemは二重の問題と言う意味で使用しています。
十回クイズの「強く同玉」は将棋ネタですが詰将棋の正解手が安南将棋では同玉と取れる問題図を使用しています。
十回クイズにちなんで第一問から第十問迄は同玉と取れる詰将棋の本を想定しています。