第29回 「所謂おばけ怖いです」
「そんで、レベル上げだっけか?」
仕切りなおしたようにそう聞いてくるマリーに、俺は先ほどの"スキンシップごっこ"にやや辟易としながら、頷いて答える。
「ええ、まぁ」
「週頭に時間が合わなくて、レベル差ついちゃったから、今日は二人でレベル上げよって、これからハンターズギルドに行くとこだったんですよ」
疲れた顔の俺に変わって、マナが説明してくれる。
すると、マリーは
「それ、おれっちも手伝っていい?」
とか、ぴょんぴょん跳ねながら聞いてきやがるんです。
だからどいつもこいつも有りがたいんだけど・・・。
「レベルが違うじゃないですか・・・」
「えーいいじゃないか、おれっちにも一緒に遊ばせろよョー」
「だから目標を共有するにはレベル差が・・・」
「それとも、おれっちお邪魔かい?これから二人きりでキャッキャウフフするつもりなのかい?」
これには俺もマナも顔を見合わせ、どうやら承諾しなければ余計な誤解を生みそうだと観念する。
◇◆◇◆◇
そんなこんなで、今日もハンターズギルド。
そういえば、といえばそういえば。
マリーがマーケット以外の場所にいるのが、なんだか新鮮な気がする。
マーケットのヌシ的存在だと、個人的に思っていたがまぁ、彼女とて一人のプレイヤー。四六時中マーケットだけにいるというわけでもないだろう。
そんな風に考え事をしているうちに、マリーが1枚の依頼書をもって駆け寄ってくる。
「おーい、コレ!コレやろうぜ!」
まるで目当てのおもちゃを見つけて、買い物かごに入れていいか聞きに戻る子供の様だ。俺もマナも苦笑して、依頼書を覗き込む。
【犯罪阻止及びモンスター討伐依頼書】
推奨レベル:10以上
依頼目標 :ネクロマンシー阻止
指定範囲 :王都ヴァルハラ南門付近、壁外共同墓地。
概要 :A.違法魔術使用の疑いがある死霊魔術師の捕縛ないし殺処分。
B.A失敗後に共同墓地に現れることが予想されるアンデット
(ヒューマンゾンビ等)を可能な限り破壊後、離脱。
報酬額 :A.成功時銀貨1000枚
B.歩合制
「~~~~~~!!」
内容を把握したとたん、マナが身を反らすようにして依頼書から離れ、顔を青ざめさせる。
ああ。もしかして、もしかしなくてもゾンビダメな奴か。
「なっなっ。これならにーちゃんらはレベル相応だし、おれっちは無双してればいいだけだし」
気づいてないのか面白がっているのか、マリーはニコニコと俺に決断を迫る。
ちょっと怖がらせてみるのも面白いかもなー。なんて悪戯心が鎌首をもたげるが、ふと気が付くと、なんかマナが俺のシャツにしがみ付いて、涙目で首をぶんぶん振っている。
おっと、いかんいかん。
こいつの事だから、それ関連で、致命的なトラウマとか持っててもおかしくないな。さっき、笑わしてやりてぇなぁとか考えてたばかりじゃないか。
「おやっさん。折角だけど、マナがそう言うの苦手そうだ。別のにしないか」
乗り気も乗り気だったマリーはキョトンとして、そこで初めて気が付いたようにマナの方を見る。
あーなるほど!って顔してから、なぜか今度は難しい顔して、ふむ・・とか頷いてるんですが、それはいったいどういう反応?
マリーは何やら鋭い目つきになって俺の方へ向き直ると意外なことを口にする。
「いや、やっぱりこの依頼にしよう」
俺は耳を疑った。
マナの様子を見て、このアンデットミッションを強行するのは、もういじめの様なものだ。
「どういうつもりだ? おやっさん。返答次第じゃ、あんた相手でも、俺も黙っていられないぞ」
「んーんー」
おやっさんは困った顔でしばらく唸る。
その顔に悪意がない事はわかるのだが、彼女自身もどう説明しようか‥といった感じに見える。
「見たとこ、マナちゃん、グロ系あかんやつよな?」
「は、はい。できれば・・その」
マナはもうガクブルだ。
「うん、やっぱりコレやっとこ。ちょーどいいミッションだわ──って、わ!まてまてにーちゃん!話聞け最後まで!」
怖がるマナに、あくまで強行しようというマリーに、ちょっと怒りを感じて詰め寄るが、マリーはバタバタと手を振って俺を押しとどめる。
「まず最初から説明するぞ」
一つ咳払いして。
改めてマリーが弁解・・もとい、説明しようというので、仕方なく3人でいったんテーブルを囲んで説明会。
「わかってる!わかってるからそう怖い顔すんなって。おれっちも意地悪で言ってねぇよ」
「ならどういう了見です?」
「マナちゃんの怖がり様はちょっと危ないレベルだ。なんで今回は"見学"してもらおうと思う」
「???」
俺もマナも首をかしげる。
「あんな、お前さん等、アンデット怖いグロ嫌いで、この先一切出会わずにこのTWOつづけるなんざ、ほぼ不可能なんだよ。何の構えもない時に、突然遭遇して、冷静でいられる自信あんのか?」
マリーはもう、完全におやっさんモードで、少女アバターが語っているのにおっさんが大くそ真面目に説法してるように聞こえるから不思議だ。
そんで、って言っちゃ失礼だが、言ってることももっともだ。
俺は、マリーの言わんとしていることがようやく、なんとなくわかってきた。
「つまり今回の依頼で、一度経験しておいた方がいいと」
「そゆこと。でもサ、やっぱちょっとマナちゃんスゲェ苦手そうだから、こうしようと思うんだ」
「う、うん?」
マリーの話を要約すると、こうだ。
まず、3人でパーティを組んで、このゾンビミッションを受領し、依頼領域まで行く。
クエストが開始されたら、俺とマナだけ全力で、可能な限り離れた場所(具体的にはインスタンス内にも存在するヴァルハラ市城壁)まで移動する。
そして依頼自体は、マリーが単独で遂行し、俺とマナは、マリーから渡された遠視アイテムでその様子を見ているだけでよい。というもの。
そう、安全な状態を確保して、ゾンビというものがこのTWOにおいてどう表現されているのか、見せてくれるというのだ。
文字通り、アンデットモンスター見学ツアーだ。
「ううう・・・」
マナはそれでも乗り気ではなさそうだったが、俺はこの提案、乗っておくべきかと思った。
たしかに、このスーパーグラフィックスで、「ゾンビ」である。もーどんなレベルでホラー体験か想像もつかない。そしてそれが、初遭遇にして致命的状況だったなら?取り囲まれたり、回避不能なほど接近されたりしたら?
俺は俺自身も、それに耐えられるだろうかと、ぶるりと体を震わせる。
それに対する耐性・・というかリアルな俺たちプレイヤーの"慣れ"は重要な要素であると思う。
「マナ、すまん。苦手なの十分伝わってくるんだけど。これ、こないだっからさんざ問題にしてる、"俺ら弱すぎな件"とか"麻痺したら終わりな件"とかと一緒だ。嫌い嫌いで、知らないでいることは危険、だと思う」
「う、うん。わかった。わかったよぅ」
マナはなんか、半泣きのままやけくそって感じで承諾する。
「えー、なんかその、たしかにちょっと罪悪感あんだけど。えーと、れっつごー?」
尋常じゃない怖がり様に、マリーも困った顔しながらも、出発を宣言。




