プロローグ
「起きてください・・・・起きてください」
うるさい声が聞こえる・・・。
「後、三日。」
「どうやら、死にたいらしいですね・・・」
その瞬間、脳が危険を察知する。本能が、警鐘を鳴らす。はッ
体を起こし、思いっきり右に避ける。今まで自分がいたであろう布団は彼女の鎌でズタズタになっていた。自分があれを食らったらと思うと、ぞっとする。見慣れた翡翠色の髪と鈍く光る首輪が見える。そして、俺は文句を言わなければならないはず!
「何すんだ。殺す気か!!!」
「チィ・・・殺し損ねました」
心の底から残念そうな、従者を見て思わずこぼす。
「何でお前は朝からバイオレンスなの!?」
「いえいえ、これは主とのスキンシップですよ」
「何処の世界にこんなバイオレンスなスキンシップがあるんだ?」
「ここにあるじゃないですか、何を寝ぼけているんですか?バカなんですか?」
「お前、俺と2人の時何でそんなに毒舌なの?」
「日頃、見掛け倒しのハッタリ主の面倒を見ているツケですかね」
「・・・お前な」
こいつは、優秀なのに恐らく一番俺に対して毒舌なのだ。外では俺と同じく仮面をしていて、内心を表に出さないタイプなので最初は驚いた。
「取り合いず速く起きてください」
「ああ、すぐに行くから下で待ってろ」
「・・・二度寝しないでくださいよ」
俺にジト目の疑いのまなざしを向けてくる従者に、少し腹を立てながら返す。
「どんだけ信用ないんだよ・・・」
「ご自分の胸に手を当ててみてはいかがです?」
「・・・分かったから早く行け」
そう言って、唯一嘘で固められてない本当の俺を知る従者であるヒスイを外に出してから服を着替えて髪を整え、俺は少し感慨に浸る。
「あれから、三年か」
自分の力に気づいてからどうにかこの力をうまく使えないかと考え、嘘とハッタリを使い俺は、最強の虚像を作り上げた。
それが・・・
「「おはようございます」」
王国の裏の仕事を請け負う『黒の騎士団』の団長としての俺だ。
俺の部下である、騎士たちが並ぶ壮観な光景を見下ろしながら少し記憶をさかのぼる・・・。
俺はこの虚像を作り上げるために、まずスラムのトップになることにした。幸いなことに、俺の魔法を見たものは数多く生き残っており俺を見ると恐怖で震え上がるようになっていた。そうまさに、俺の嘘を現実にするための道具に彼らはなってくれたのだ。おかげで、彼らがいるところでは、俺は魔法を使うことができた。故に、邪魔する奴は潰して、俺はトップに居座ることに成功した。後は同じ要領だった。スラム連中の恐怖心をあおって、以下に俺が強い力を持っているかを勘違いさせそれを現実にするかというだけだった。そうして、強くなったら次は王都の貴族どもを殺して回った。理由は二つ、貴族の情報網で俺の嘘にまみれた情報を流してより俺の力を信じ込ませるため。そして、俺が殺しまわっていたのは、王国の腐敗を進行させていた、売国奴や犯罪に加担していた貴族だけだ。ここまで言えばわかるだろう。俺は、王国の中でも高い地位のものに興味を持ってもらうためにやっていたのだ。何故興味を持つか・・・当時、動くに動けなかった王国の上層部は便利な掃除屋を探していると踏んでいたからだ。
目論見はかなった。王国の膿だしを担当していた貴族がコンタクトを取ってきた。
「我々に雇われないか」と
これが、王国の裏の騎士団と呼ばれる、黒の騎士団の誕生だ。公の存在ではない物の、騎士団は王国の貴族、そして正規の王国騎士はその存在を知っている。加えてその一部は、俺の力も恐るべきものだと確信しているのだ。
ここまでたどり着くのに三年か・・・。長かったな・・・そして、もう後戻りはできない。
「諸君レルベル公爵家から依頼が来た。内容は、違法薬物を売りさばく売人の補助をしている男爵家の当主の首および協力した使用人の首だ。決行は、今夜だ。当主の首は俺がとる・・・お前らは、残りの奴らだ。各自準備をしておけ」
「「了解」」
俺は、今日も嘘を重ねる。