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嘘つき男の生存譚~ハッタリで生き残れ~  作者: 朝が来ませんように
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嘘つきの始まり

始まりは、偶然だった。





物心ついた時には、俺は王都のスラム街にいた。分かっていたのは、自分の名前と自分が大した才能もなく一人だったってこと。俺は、別段運動神経がいいわけではなく、魔法の才能があるわけでもなかった。そんなガキが、一人で生き残るのは簡単な話じゃなかった。当時、俺を拾って育てたスラムの古株の一人も簡単に殺されて毎日が生きるのに必死で、人も殺したし、盗みもした。そんな時、一人の貴族の子供がスラムに迷い込んだ。その少女は、きれいな淡い紫の髪に濃い紫の瞳そして高そうな服。整った容姿に、ふんわりとした雰囲気・・・何より印象的だったのはこの世の汚いものを見たことがないようなきれいな澄んだ瞳だった。

一目見てネルオルタ公爵家の三女だと分かった。スラム街の古株の大人たちの中では、誘拐して身代金を要求するのに持って来いの獲物になりえるのではないかと有名だったので印象に残っていた。よく家を抜け出すお転婆という話だったが本当だったらしい。

俺は好都合だと思った。こいつを利用すれば、ここから、今の現状から脱出できるのではないのかと。


「なあ、お前名前は?」


だから近づいた。


「私はフィオネ。フィオネ・ネルオルタ。あなたは誰?あなたは、ここがどこだかわかる?」


「俺の名前は、シロだ。ここは王都のはずれのまあいわゆるスラムってやつだ」


「スラム?」


フィオネは、チョコンと小首をかしげた。


「まあ、治安最悪の場所ってことだ、ところでフィオネは何をしに外に出てきたんだ?」


「実は・・・私、家出してきたの。お父様もお母様もきびしっくて、余りお外でも遊べないし、家にいると勉強やダンスなんかの習い事ばかりさせられるし・・・私だってもっと外の景色とか生活とか見てみたいの・・・それから・・・」


話を聞くとフィオネは、家出をしてきたらしく大した知識もなく、家に帰るつもりもなかった。何の警戒もなく、年が近いからか話してくれた。俺は、もう少し信用を得ようと症状の話を聞いた。



「そっか、じゃあ少し案内してあげようか?色々きれいな場所知ってるからさ」


「本当!?」


花が咲いたような嬉しそうな顔で、フィオネは笑った。


「うん・・・それじゃあ、行こうか」


俺は、フィオネの手を取ってスラムのはずれにある抜け道からとっておきの場所に向かって走った。



スラムを抜けて、走ること十分。小さな丘についた。そこには、高さ50メートルの大木があった。


「ウァ~。大きな木!?」


フィオネは、感激したように感嘆の声を上げる。スラムができる前は人気の場所だったらしいが、今ではスラムを超えなければ来れない場所なので知る人ぞ知る名所になってしまった。


「俺につかまって」


「?何をするの」


「良いから・・・よっと」


「ひゃ!?」


不思議そうな、フィオネを抱きかかえると枝と枝をうまく使って慣れ親しんだ木を上っていく。フィオネは、驚いて目を白黒させていたので、運ぶのが楽だった。一番上の枝にたどり着き腰を下ろす。


「着いた、目を開けていいぞ」


途中で、怖がって目をつぶってしまったフィオネに声を掛ける。


フィオネは、恐る恐る目を開けると、次の瞬間には感嘆の声を上げた。


「ウァ~。きれい~」


眼下に広がるのは、王都の景色だ。丘の高さと、気の高さで王都を一望とまでいかなくて半分くらい見渡せる高さまで来れる。外に出してもらえない貴族のお嬢様には、十分刺激的だっただろう。


「すごいね!シロ君」


枝の上で、足をバタバタとさせ大はしゃぎの、フィオネを見て少し自慢げになる。


「だろ、外では、こんな景色が見られるんだぜ」


ここまで感激されたのは初めてだったので少しうれしかった。しかし、フィオネは首を横に振り


「景色もすごいけど、ここまであっという間に上ってこれるシロ君もすごいね!」


思わず、固まってしまった。人に、褒められたのなんて何年ぶりだろう。


「ああ、凄いだろ。実はさ、俺凄い魔法が使えるんだぜ!空を飛んだり、風を操ったり。最強の風の魔法も使えるんだ」


テンションが上がってしまったせいだろう。もしくは、もっと褒めてほしくなってしまったのか、とっさに嘘が出てしまった。


しかし、フィオネはその純粋さゆえか俺の話を信じ込んでしまった。


「へぇ~。すごい~。ねえねえ、出来れば見せてよ」


そんなことを、言われてしまった。一瞬、困ったがすぐに


「ここで使うには危ないから、降りてからにしような」


そう言ってごまかした。


「う~。分かった。そろそろ、おりよ!」


よほど、魔法が見たいのかフィオネは気から降りたがった。それを見て、俺は確信した。そろそろ行けるな。


「その前に、これ見てくれない?」


そう言って、小さな宝石を取り出しフィオネの前にかざす。すると、フィオネは突然ふらつきだして意識をなくした。そのまま、木から落ちそうだったので会わってて支える。


うまくいった。俺はほくそ笑む。警戒心が薄い相手を強制的に眠らせる魔法具。昔、ある商人から擦ったものだ。


「さて、身代金なんて請求してもガキの俺じゃあ逆に殺されそうだし、奴隷賞にでも売り払いに行くかね」


フィオネを抱えたまま、スラム街に戻り、隠し通路を使って奴隷商のところに向かおうとするとそこにはスラム街の古株の一人であるジルがいた。


「よう、シロ。随分、いいえものじゃないか」


無精ひげを生やした、ジルは俺よりもはるかにデカい体で迫力がある。


「横取りする気か・・・ルールを忘れたのか」


しかし、俺は動揺を悟られぬように、精いっぱい虚勢を張る。


「ははははははは、ガキが生意気言ってんじゃねえ」


「お前は、袋のネズミなんだよ」


後ろから声が聞こえ、振り向くとそこには30人ほどのスラムの十人がいた。


「俺らなら、お前よりもうまくそいつで稼げる。大人しく渡せ。そしたら、命だけは助けてやるぜ」


どうやら、俺がフィオネに出会い、奴隷商に売り渡すところまでかぎつけていたらしい。ニヤニヤしながら、ジルたちはにじり寄ってくる・・・クソ、やばいな。この人数相手じゃ勝ちめがねえ。せめて魔法が使いたら・・・。


「で、返答は?」


「断る」


「やっちまえ!!!」


そこからは一方的で、酷いものだった。相手が、殺す気はなく刃物を持ち出さなかったのが不幸中の幸いか、一応俺の五体はある。しかし、たった三分程度で俺はボロボロにされ地面と仲良くお友達になっていた・・・。


「じゃあ、こいつはもらってくぜ」


薄れゆく意識の中、彼女の声が聞こえた。


「シロ!?シロ!?」


どうやら目が覚めてしまったらしい。


「今更起きたのかよ、嬢ちゃん」


「放してよ!」


ジルの腕の中で、ジタバタするフィオネを視界にレながらも俺は何もできないでいる。


「へへへへ、無駄だぜ。お嬢ちゃんは、今から奴隷商に売られるんだよ」


「ヒッ、助けてシロ」


目の端に涙をため、助けを乞うフィオネ・・・しかし


「はははははははは、無駄に決まってんだろ。こんなボロボロの奴に、助けを乞うなよな。こいつは魔法も使いなきゃ、剣も大して使えない、ただのガキだ。助けられるわけが、ねえ」


まったくもってその通りだ・・・俺には、俺を拾ってくれたあの人のような力はない。


「そんなことない!シロはいってた。最強の風の魔法が使えるんだって。誰よりも強いんだって!!!」


フィオネは、俺の(願い)を信じているらしい。


「プハハハハハ、聞いたかお前ら、シロの奴が魔法を使えるだとよ、笑っちまうぜ。なあ」


「「「「ハハハハハハハハ」」」」


「嘘なんかじゃないもん!!!」


笑われても、フィオネはひかなかった。出会って、ほとんど立ってないのにここまで人のことを信じるのは、人の汚い部分に触れて育ってこなかったのか、それとも彼女自身の本質なのか。


「なら試してやろうか?なあ」


そう言って、ジルは俺に足を踏み下ろした・・・瞬間、鮮血が舞った。


「は?」


ジルが、素っ頓狂な声を上げる。


さらに、風を切るような音が何回も耳に届き、何かが切れる音も聞こえた。


そして、そこから数瞬が過ぎ去った後――薄汚れた石畳に血の雨が降った。パラパラと生暖かい血飛沫が所構わず降り注ぎ、俺の顔面に不快な感触を残していく。


「ぎぃ、ああああぁぁッ!!」


 何とも形容しがたい絶叫が響き渡る。


 床に転がって苦痛に悶える男達は、揃って切り裂かれた脚から腕から、ドクドクと新鮮な血を垂れ流していた。


 赤く濁った血溜まりが順調にその規模を広め、鼻につく鉄錆の臭いが瞬く間にスラム街に蔓延していく。


「なんだこれ・・・」


俺がやったのか・・・。


「う、うわ、わぁああああああっ!」


そんなことを考えていると、誰かが叫び声をあげた。誰かが恐慌に染まった叫びを上げると、途端に場は騒然となった。


そこからはあまり覚えていない、気づけばフィオネはいなくなっており、俺の木津は治っていた。様々な謎が残った。だが・・・一つはっきりしたことがあった。俺が、彼女についた嘘が本当になったことだ。ただ、厳密に嘘が本当になったわけではない。あの時、発動した風の刃は、最強には程遠いかったし、空を飛ぶこともできなかった。だが、いちぶだけでも、嘘が具象化したのだ。これは、俺の力だと何となく理解していた。





これが、始まりだった。スラム街から始まる、(ハッタリと)(願い)(偽り)に包まれた少年の嘘つきとしての人生の始まりだった。


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