膝枕
膝枕です
膝枕、それは登山家が山があれば登るように、膝があればされてみたい人間の欲望の1つ。
ここ蓮拝学園2年A組には2人の相対する生徒がいた。
片や、その膝枕を体感すれば最早普通の枕に戻る事は不可能、授業中に寝るなと豪語するあの学校指導委員の教師でさえ即堕ちした最強の膝枕少女「河咲 零(16)」
片や、睡眠時間はたったの30分、それ以上もそれ以下も眠らない絶対時間厳定、子守唄と称される現代社会教師のスロートークに欠伸1つ見せない不眠少年「天矢先 興真(17)」
この2人の実力のぶつかり合いを、生で見たいという生徒教師は数しれず!ぶっちゃけ俺も気になるゾォ!!
「という訳で文化祭でやってくんない?」
「「お断りだ・です」」
即答、まぁ当然である。何が悲しくて大衆に膝枕風景を見せねばならんのだと言わんばかりの冷たい目を、2人は先の逞しい想像力を持つ志楽 竜に向けた。
「頼むぜ!絶対盛り上がるって、いやマジで!」
どこまで執念深いのかこの少年、昼休みの内10分を土下座に使っている。
周囲の目に構うことなく色々逞しいやつである。
「ならここでやるだけでもいいから!な!?」
いい加減面倒臭くなった2人は遂に観念し、クラスルームでやることを承諾した。
「さぁぁぁてとうとう始まりました世紀の対決!実況は2ーBからやって参りました哲峪 恋小と、2ーAの目立たぬイ
ケメン女郎、久屋 凛でお送りします!!みんな、心の盛り上がりはアゲアゲかァァ!!?」
「「「ウオオオオオオオオ」」」
実際文化祭並に盛り上がっているのには双方驚きを隠せないが、とっとと終わらせたいというのが本音である。
「会場(2A教室)は既に熱狂としておりますが、今回の戦いは以下がなされると思いますか!?凛さん」
イケメン女郎と呼ばれるのには幾つか理由があるが、第一に発言がイケメンなのである。文武両道、才色兼備の優等生、その長く美しい銀髪には多くのファンがいる模様。
「なんだこの対決」
「「キャーー!!/////」」
主に黄色い声援を上げるのは女子であるが、上げる理由が全く持って理解不能である。
「だそうです!では相対する2人に意気込みを聞いてみたいと思いまっす!!」
ハイテンションな実況、恋小は軽々と机を飛び越え、2人の前に着地する。
ギャグ補正抜きで大分身体能力の高い女子であり、運動部のスカウトも甚だしい数である。が、それらを全て断り実況の道へ進んだよく分からない娘なのだ。
「眠らせれるもんならねむらせてみな(カンペ棒読)」
「眠らせちゃうぞ☆(カンペ棒読)」
「2人の凄まじい熱意が感じられますね!!ありがとうございましたァ!」
「今のどこに熱意があった」
「では早速対決に参りましょう!!ルールはこちら!」
凛ガン無視で黒板へズカズカと歩み寄る。黒板にデカデカと貼り出された画用紙には、いつ作ったんだよと言わんばかりに落書き(超高クウォリティ)の描きまくられている。その中に控えめな書き方のルールが。
「その1!死なない事!!」
(((当たり前だろォォォ!!!!)))
「その2!怪我しない事!!」
(((だから当たり前だろォォォ!!)))
「その3!10分間眠らなかったら真っくんの勝ち!!寝たら零きゅんの勝ち!!」
(((それ1にしろやァァ!!)))
「零きゅん言うな」
「さぁ開戦の〜〜......コングゥ!!」
という名のカンペンケースを机に叩きつけ、座り、そして食い入って見始めた。
ギャラリーはざっと40人程。
零は膝を折り、床に座り込む。興真もゆっくりとその頭を膝に乗せる。
男子からの殺気がとんでもない事になっているが、鈍感無比な興真には知る由もない。
5秒程たち、零は仕掛けた。素早く眠らせなければ10分間この状態なのは耐え難い恥辱。
「おおっとこれはァ!!柔らかい太ももと優しい掌のダブル温もり!!頭なでなでが決まったァァァ」
「ただ頭摩ってるようにしか見えないが」
「しぃかし真っくん表情をピクリとも動かさない!!やはり鋼鉄の瞼と言わしめる不眠協会代表、強い!!果たして眠らせることはできるのかァ!!?」
ぶっちゃけた話、実況がうるさくて眠れないのである。それ以前に、興真に眠気は1ミリたりともないのであるが。
「......これ俺が眠らないと終わらないのか?」
「多分、ね」
その会話の36秒後、興真は目を瞑った。
「うおおっとぉ!?これはぁぁぁ!!」
その様子に、驚嘆と殺気が向けられる。再び恋小は躍り出て、興真の顔にグイッと近づく。
「むぅぅ〜〜〜......」
スゥ...スゥ...と寝息を立てている。頬をぺちぺちしても反応無し。やはり30分のみの睡眠時間では足りないのか。
「寝息が規則的!!生理反応も無し!!狸寝入り確定!!」
「ちっ」
「もっと上手くやりなさいよ......」
「何でこうまでするんだ恋小よ」
凛の言うことも最もである。
因みにこの勝負は授業中にまで延び、恋小は我に帰った先生につまみ出された。
「なぁ、零」
淡々と進む授業、面白味の無い事が書かれた黒板をノートに書き写す興真は隣の零に声をかける。
周りの授業を受ける気の無い女子連中やうるさい男子のお陰で二人の会話はまるで目立たない。
「膝枕、ちょいと気持ちよかったわ。久しぶりに眠くなった気がする」
興真は実に正直である。思った事全てではないが、言っている事は全部本心なのだ。それを知っているからこそ、表情にこそ出ないが零はことさら驚いた。
「そう...それは良かった」
「また頼めるか?」
「次はぐっすり眠らせてあげるよ」
「そうかい」
淡々とした、しかし和やかな会話。誰もが求める安息の一部。
「おやおやおやおやぁ?もしかしてお2人様、脈アリですかなぁ?」
後ろから平和を脅かす不届千万な輩(竜)に、興真は顔面ストレートを打ち込む。
「......私永眠させる技術なら膝枕以外にあるけど」
「......やめとけ」
膝枕ではない気がします