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遥かなる星々の彼方で  作者: ざるchin
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第63話 救助計画

『大至急、我々をここから救い出してくれ!』


 基地司令の少尉の声は叫びに近かった。


 TY-3051基地の通信電波増幅機が破損したため、近距離のごく限られた方角にしか電波が飛ばせなくなっている現状、送信側の負担軽減の理由で基地からの通信は音声のみで映像は送られてきていない。したがってそれは主艦橋《MB》には声だけしか響かないから、聞く者には余計に悲痛なものに感じられた。


「作戦部は直ちに救助計画を策定。戦術部、船務部も協力するように」


 艦長席のレイナートはそう言って立ち上がった。そうして作戦室《OC3》に向かって歩き出す。


 基地は今のところグルグルと回転しながらアレルトメイアに向かって流されている。基地そのものは最早諦めるしかないだろうが、その中にいる兵士達はなんとしても助け出さなければならない。


 OC3の中央のデスク、その天板上は3次元の立体画像投影機になっている。そこには赤外線暗視望遠鏡で捉えた基地の映像が映し出されている。


「厄介なのはこの回転だな」


 クレリオルが呟くように言った。回転さえしていなければそれこそ如何様にも手が打てる。だがこの回転が曲者だった。


「ワイヤーでも引っ掛けて、ゆっくり減速させられればいいんですけどね」


 コスタンティアが言う。


「それが出来りゃあね」


 アロンがそれを受けて言った。


「出来ないんですか?」


 モーナが尋ねた。


「そんなに長いワイヤーなんてこの艦にはねえよ。しかも長いだけじゃなく強度も必要だ」


「艦内工場では作れないんですか?」


 アロンの言葉にさらにモーナが尋ねた。


「作れるかもしれない。だが何で引っ張るかだ」


 今度はクレリオル。


「基地は48秒で1回転している。ということは角速度は秒速7.5なる」


 モーナは少し落ち着いて考える余裕が出てきたようだった。それを聞いて情報端末で計算することもなく、驚きの声を上げた。


「という事は、ドルフィンで引っ張るとなると最低1kmは離れなきゃならない訳だから、秒速7.5km!

 これってトニエスティエの人工衛星の周回に必要な速度とほぼ同じじゃないですか!」


 イステラ連邦の主星・惑星トニエスティエの上空、衛星周回軌道に人工衛星を乗せる場合、惑星重力の関係から最低でも秒速7.8kmの速度が必要なのである。


「そういうこと。

 そんな高速で動いてる物体を外からの力で減速させようとしたらどうなる? 基地は確かに小型だがドルフィンよりは遥かにでかくて重い。ドルフィンでは力不足だってこった」


 アロンはまるで苦虫を噛み潰したように言ったのだった。

 そこで作戦部の別の士官が発言した。


「それであれば、ドルフィンまで泳がせては? もちろん命綱をつけてですが……」


 その言葉に陸戦科長のナーキアス・ビスカット少佐が目を剥いた。


「おい! 距離にして1kmだぞ! いくら強化型宇宙服とはいえそんな長距離を宇宙遊泳なんてさせられるはずがないだろう。しかも高速移動しながらだ。強化外装甲とは違うんだぞ!」


「それにそんな長距離を泳がせたら辿り着くまでどんだけ時間が掛る? たとえ一度に全員捉まらせても、万が一のことがあったら全員オダブツだ」


 アロンの言葉にクレリオルも頷いた。


「そんな危険な真似はさせられん」


 いくら強化型宇宙服とはいえ万全ではない。高速移動をするということは当然空間内の小石程度のものでも宇宙服を傷つける。ドルフィンに辿り着く前に死体に代わっているだろう。


「あれは使えません?」


 コスタンティアがナーキアスに尋ねた?


「あれ、とは?」


 ナーキアスが聞き返す。


「陸戦科の所有するスペース・バイクです」


 コスタンティアの言うスペース・バイクとは、惑星洋上で使用される水上オートバイと呼ばれる物の宇宙版とも言えるものである。

 水上オートバイはいわゆる水上レジャー用の乗り物として古くからあった。かつてはウォータージェット推進を利用して水上を走らせるものだったが、現在では超伝導推進を利用している。

 スペース・バイクはほぼこれと同じコンセプトだが推進装置がイオンスラスタに置き換えられている。

 そうしてこのスペース・バイクは陸戦兵、正式には重装機動歩兵の敵施設突入用兵器である。


 重装機動歩兵部隊の運用は惑星降下目的なら揚陸艦、敵艦への突入なら突撃艦か強襲艦による。突撃艦と強襲艦はどちらも歩兵輸送用の艦だが違いは武装の有無、すなわち艦自体が武装しているか否かの違いである。

 ところで、突撃艦であれ強襲艦であれ、歩兵を敵艦に突入させて白兵戦に持ち込む場合、可能な限り敵艦に近づかないと突入自体が難しくなる。

 だが大きな宇宙艦艇がどこまで接近出来るかとなると、かなりうまくいったとしても、現実的には数百メートルが限度である。それ以上近づくと接触しかねない。接触で済めばいいが衝突となると被害が大き過ぎる。下手をすると作戦終了後帰投出来なくなる虞がある。


 そうしてその距離の移動をゆっくり宇宙遊泳なんぞしていたら直ぐに攻撃を受けて全滅しかねない。そこで歩兵部隊はスパース・バイクに乗り込んで敵艦へ接近する。

 スペース・バイクは基本2人乗りで、強化外装甲を着込んでいても、否、強化外装甲を纏って乗ることを前提にかなり大型であるから、普通の宇宙服で乗るとまるで子供が大人の乗り物に乗っているように見える。推進用イオンスラスタはもちろん爆薬も積んでいる。これは敵艦の非常用ハッチに仕掛け突入口を確保するためである。

 但しそれ以外の武装はなく、機銃ですら搭載されていない。純然たる乗り物である。

 またデブリなどが漂う空間でも搭乗者に害が及ばぬよう、かなり頑丈なカウルを持っているというものである。


「ドルフィンと基地の間をそれで往復出来ませんか?」


 コスタンティアが尋ねた。だがナーキアスは首を振った。


「大尉は肝心なことを忘れている。スペース・バイクはそこまで高速な乗り物じゃない」


「あ……」


 確かに肝心なことを忘れていた。基地とドルフィンの相対位置が固定になれば互いに静止しているように見えるが、第三者から見なくともやはり両者は動いているのであり、その間の移動には回転速度と距離を無視することは出来ない。


 手詰まり感の故にOC3が静まり返る。


「それならいっその事、本艦で受け止めたらどうです?」


 沈黙を破ってモーナが提案した。

 皆が目を丸くした。新規配属にも関わらず積極的に発言することにもだが、言い出したことが荒唐無稽に近かったからである。


「受け止める? どういうことだ?」


 クレリオルが問う。


「ええ、ですから、大きなネットか何かで……」


「ネット? そんなもんどこにある!」


 モーナの言葉にアロンが大声を上げた。


「いえ、その、ですから、ハンガー内には艦載機のオーバーラン防止用の防御ネットがありますよね?」


 リンデンマルス号の艦載機の内、戦闘機と攻撃機(雷撃機)は飛行甲板に着艦後ハンガー内に進入、そこでクレーンで吊り下げられて左右両舷の格納庫に収められる。

 ところでこの時、艦載機が十分な減速が出来なかった場合、そのままハンガー内の壁に激突することになる。それを防止するためにハンガーの内部には防御ネットが張られている。


「それを利用出来ないでしょうか?」


 モーナの案をしばらく皆で考えていたが、やがて全員が無理と判断した。


「先ず、ハンガーの出入り口のハッチは基地が入れるほど大きくない。つまりハンガー内では受け止めるということ自体が無理だ。

 艦載機が何機かで張るなんて曲芸まがいの真似は無理だし、艦載機の推力じゃ元々話にならないから数十機で引っ張ることになってナンセンスだ。

 となるとフライトデッキにでも張るしかないが、その場合支柱とかをどうするか、という問題がある。速度が速度だ、衝撃の大きさからして支柱はかなりの強度が必要になる。そいつを新たに作って、しかも艦体に設置するとなると時間が掛かる。艦体にも加工が必要になるからな」


 フライトデッキは艦載機の離発着のためのものであるから、宇宙線取り込み用の外装パネルは張られておらず、外壁(装甲)は剥き出しである。したがって他に比べれば作業はし易いかもしれないが、それでも直ぐに出来ることではない。


「強度は十分確保出来たとしても、今度は防御ネット自体がそれほど大きいものではないから、こいつも新たに作る必要がある。とてもじゃないが直ぐに出来ることじゃない」


 クレリオルが言う。


「でもそれは、艦の速度によってはそこまで強度がなくても……」


 モーナが食い下がる。


「確かに相対速度を可能な限り近づければ衝撃は抑えられるから、ある程度強度は抑えられるでしょうけど、この艦の大きさを忘れないで。そんなに細かく速度を制御出来ると思う?」


 コスタンティアが止めを刺した。

 リンデンマルス号の速度をそこまで細かく制御するには主エンジンは強力すぎたし、姿勢制御用のスラスタ(ロケット式とイオン式を備えている)では非力に過ぎる。


「やっぱり無理ですか……」


 モーナが肩を落とす。


「まあ、そう落ち込むな。新人のくせに積極的で、見どころあるぜ、お嬢ちゃん」


 それまで黙っていた砲雷科長のエネシエルがビミョウな慰め方をした。

 吊り目の三白眼をさらに三角にしたモーナ、口を開こうとして、ここで初めてレイナートが口を挟んだ。


「基地を減速させることですら中々難しいようだな……。

 ところで、確か基地からの報告では外装ユニットの内、居住用は無事だという話ではなかったかな?」


「仰る通りです」


 これまた、それまで無言だったクローデラが発言した。


「それが何か?」


 クレリオルが先を促した。


「すまないが、誰かY型基地の居住用ユニットは退避用カプセルになるかどうか調べて欲しい。

 確か、緊急時には結合部分に仕掛けられた爆薬で切り離せたと思ったんだが……」


「そう言えば聞いたことがありますね」


 クレリオルも同意した。


「ただ私も記憶が定かじゃありませんが。

 誰か知っているか?」


 OC3に集合しているスタッフの中に、首を縦に振る者はいなかった。元記録部のモーナでさえそうなのだから他が知らなくてもおかしくない。

 実際に居住ユニットを使って基地から脱出したという事例が、この20年近くないことだったからである。


「士官学校でそう習った記憶があるんだけどね。X型は確実にそうなのは覚えているんだが、Y型はどうだったか記憶が曖昧なんだ」


 レイナートが再び言った。

 さすがにかつてRX-175基地に勤務していただけあってそちらは記憶に残っていた。


「大至急、技術部に問い合わせてみます」


 船務部の一人がそう言った。


 デスクの脇に埋め込まれている艦内通話装置で技術部に問い合わせると確かにそうだという返答があった。


『生命維持と食料貯蔵用は違うんですが、居住用は確かに切り離し用の爆薬が設置されてます。

 仰る通り、基地を放棄する際の退避用カプセルとして流用するためにです。なので居住用ユニットを着脱する場合は爆薬の撤去から始める手順になってますから……。

 要するに食料用も生命維持用も頻繁に取り外すけど居住用はそうじゃない。それに基地の大きさから別に退避カプセルを装備出来ないからってことですね』


 それを聞いてレイナートが頷いた。


「それなら基地の兵士を全員居住用ユニットに集合させてユニットを切り離す。切り離されたユニットはもちろん直線では移動しないだろうが、少なくとも放物線で回転じゃないはずだ。

 これならドルフィンとスペース・バイクでの収容が可能なんじゃないか?」


「そうですね。

 それに切り離しのタイミングを上手くすれば、カプセルをイステラの方角に向かって飛ばせるでしょう。

 それに基地から素早く退避出来るなら、基地が中立緩衝帯に到着するまでに破壊出来る可能性も出てきますし、アレルトメイアとの国境侵犯だなんだ、なんて無用なトラブルも発生しないでしょう」


 レイナートの案にクレリオルが賛同した。

 だがその場の全員が「基地の破壊」と聞いて神妙な顔つきになる。小型の通信基地とはいえ軍施設である以上、軍事機密であることに変わりはない。それをむざむざ他国の手に渡すことは絶対にありえない。

 ではあっても自らの手で自国のものを破壊するには抵抗感を感じずにはいられなかったのである。


「よろしい、では救出作戦はその方向で細部を煮詰めてくれ。基地の中立緩衝帯の到達まであまり時間がない。一刻を争う訳ではないが、兵士達からすれば『とにかく早くしてくれ』と思っているだろうから……」


「了解!!」

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