一さんに癒してもらいましょう
Time to trip another world~暁~の時に書いた話なのですが、
ストーリーに関係ないからと没にしたものです。
でも、消し去るのも勿体ないのでシリーズの一部として短編で投降しました。
ある日の事でした。
「瑠璃、悪いが今日代理で巡察たのめるか」
「土方さん、それは構いませんがどの組ですか?」
恐る恐る確認をする。
なぜならば驚くほどに組ごとに性質が異なるのです。
だから事前に聞いて覚悟しておきたかったのです。
「ああ、そのなんだ。今日は二組頼みたい、もちろん隊は分けなくていい」
「え、二組ですか。で、何番と何番でしょうか」
土方さんが遠慮気味に言うなんて嫌だなぁ。
「二番組と・・・八番組だ」
「えっ、嘘ですよね。ははっ」
「すまん、以上だ。頼んだぞ」
・・・開いた口が塞がらなかった。
新八組と平助組、無駄な体力使わされる事で有名だ。
「一さぁーん・・」
「どうした、そのような情けない声を出して。平隊士に聞こえたらどうする」
「だってぇ、聞いてくださいよ。土方さんが今日は組長代理しろって、しかも二組引き連れて回るのですよ!しかも、しかもっ」
「どの組だ?組長が不在にしているのは」
「二番組と八番組ですよっ。なんであの二人はいらっしゃらないのですか!」
「それは、同情する。しかし副長の命であれば致し方あるまい」
「うぅぅ!・・・行ってきます」
瑠璃はガックリ肩を落として、正門へと向かった。
「副長、瑠璃が」
「ああ、帰ったら労ってやらねえとな。今日は本当にどうにもならなくてな。はぁ・・」
新八さんと平助くんは食あたりです。
なにやってんの!あの人たちはっ。
「本日の巡察は二組合同と副長より下りました。私佐伯が組長代理を務めます。宜しくお願いします」
「おっ、瑠璃殿かぁ。よろしく頼むぜ。かぁ、張り切っていきますかぁ!」
二番組のみなさんは熱い、無駄に熱い。
いや、その筋肉とかいいですから早く並んでください。
「瑠璃さんが代理なら、俺らも迷惑かけちゃいけねえし藤堂組長の顔も立てなくちゃな。へへっ」
ここの組は小柄で身軽な若者が多いためか、すぐ競いたがるのです。
腕回さなくていいからっ。
いやだよー。運動会とかじゃないからね、ほんと。
二列に並び、順調に見回りをしている。
順調に・・・ってか走らないで!
二番組と八番組はお互い負けるものかと競って歩く、ついには小走りに。
もー、いい加減にっ。
「こらぁぁ!身内で競ってどうするんですか!不逞な者たちを見落としたらタダでは済ましませんよ!」
「ひい、瑠璃殿。そんなに怒らなくても(副長に似てきたな・・・)」
「もう、頼みますから普通に巡察してください!忘れていませんか?私が副長に報告する本人ですよ!」
「あ、ああすみません。つ、つい頑張りすぎてしまって・・・」
悪い人たちではないのです。言えばこうして改めてくれます。
すごく単純、いや純粋なんです。
「瑠璃殿!あちらで喧嘩です。止めてきます!」
って、二番組!全員で行かないでくださいっ。
それを見た八番組がそわそわし始めているじゃないですかっ。
「もうっ、私が行きます。八番組は此処で待機願います!」
「はい!」
ちょ、どいて。ケンカの人数増えてるじゃないですか?
「止め!」
「二番組、拿捕!事情聞いて、ただの喧嘩なら即解放してください」
「はい!」
あっ、八番組を待たせたままでした。
そして、やっと、やっと交代の時間がきました。
帰隊するだけなのに鍛錬も兼ねてる言い出し、走って帰って来た!
毎回そうしているんだと。
「ぜぇ、ぜぇ、はぁ、はぁ」
「瑠璃殿、大丈夫ですか」
「だ、大丈夫です。引き継ぎと報告がありますから、みな先に、どうぞ」
「はい、では」
左之さんの十番組との引き継ぎを・・・
「おい、瑠璃。災難だったな、よりによって二組って」
「左之さん。土方さん酷いでしょう?お給金倍でも足りませんよっ」
「ああ、お疲れさん」
左之さんは私の頭をよしよしと撫で、巡察へ出て行った。
「副長、瑠璃です」
「入れ」
「あれ、一さんも居らしたんですか」
「ああ」
「問題はなかったか」
「ええ、市中はなんの問題もなかったですよ!市中はっ」
「お、おおそうか。ならいいぞ下れ。疲れた、だろ」
「・・・もう、あの組み合わせや止めてください」
「ああ、重々承知しているんだが、今日は不測の事態でな。すまん」
土方さんが頭を下げたっ、それくらい不測の事態だったって事なのですが。
私の苛立ちはなかなか治まらなかった。
「瑠璃」
一さんが落ち着いた声で窘める。
「分かっています。土方さん頭上げてください。ちょっと八つ当たりしたかっただけですから」
「そうか、悪いな。斎藤、この後は非番にしてやるから二人で休め」
「副長、それはっ」
「ありがとうございます」
私はさっさと副長室を後にした。
私、女ですよ?そりゃ特殊能力持ってますけど、だからって。
「瑠璃?」
「一さん、一さんの部屋に行きたいです。癒してください」
「い、癒す?」
一さんは刀の手入れをしています。ついでだと言って私の刀もしてくれます。
いつもしてくれるので、私は一度も手入れをしたことがありません。
一さんの真剣な横顔を見ているだけで、心が洗われるようです。
好きだなぁ、その横顔。
私はというと、ごろごろしながら彼のしぐさを堪能しているのです。
「瑠璃、そのように見られると・・・やり辛いのだが」
「え?気にしないでください。では、こっちでごろごろしていますから」
一さんの後ろに移動して、彼の背中を見つめる。
一さんの背中、大好きだな。
無駄のない筋肉。芸術だわ。それに左利きという特別感がなぜか女心を擽るのです。
「っ、///瑠璃、その・・・」
「はい?」
「心の声がだだ漏れ、だが」
「うそ!消せていませんでした?あれ?」
振り向いた一さんは刀を仕舞うと、私の方へ静かに近づいてきた。
「瑠璃の方が芸術的で美しいと思うが、違うか?」
「どこが・・・ですか」
「ふっ、分からぬのか。ならば教えてやらねばな」
一さんは唇が耳に当たるか当たらないかの微妙な距離で囁く。
息!息がかかっています!
「うはっ。一さんっ。くすぐったいです」
「くすぐったい、のか?これが、か?」
「んぁぁ、ちょ、ワザとですよね・・・」
私は堪らず身をよじり、一さんと距離を取った・・・
「そうはさせん」 とあっという間に右手は首の後ろを、左手は腰をがっちり抱き込み動けない。
恐る恐る、私は一さんを見上げる・・・目を細めて穏やかにほほ笑む一さん。
ああ、本当に癒しです。今日の苦労はこの一瞬にして消え去りました。
だから、もういいです!
「今日は瑠璃を労ってやらねばならんからな」
「え?もう十分ですよ」
「いや、折角の副長のご厚意だ。まだまだだ」
「でもっ・・・」
どうも、やる気スイッチが入ってしまわれたようです。
いつ押しましたっけ?
未だにそのスイッチが何処にあり、いつ入ったのか分かりません。
それはそれは、もう労っていただきましたとも。
肩から腰、足まで丁寧にマッサージされ久し振りに爆睡しましたとも。
凝り性な私には堪らなく心地よかったですよ。
あれ?これ普通は女の人が男の人にして差し上げるのではないでしょうか。
深く考えるとはやめておきます。
翌日、
「ちょっと!新八さん、平助!!食あたりとかフザけないでくださいっ」
「うおぅ、やべえ、逃げるぞ平助っ」
「おおぉぉ」
すごく、元気になった瑠璃が二人を追い回している。
それを見ている原田と斎藤は
「斎藤、瑠璃元気だな。、あいつら大丈夫か」
「ああ、恐らく逃げられんだろう」
「・・・だな」
ドタバタと煩い音が屯所内に響く、眉を寄せ副長が何事かと出てきたのだ。
「朝からなんだ、騒がしいじゃねえか」
「副長、すみません。瑠璃が新八たちを・・・」
「あ?ああ、なるほどな」
「お、瑠璃くんはいつも元気でいいな。若さは美しいじゃないか」
「あっ、近藤さん。おはようございます!」
「ああ、おはよう。にしても、瑠璃くんその二人は何かやらかしたのか」
「えっ、ふふ。まぁ」
首根っこをつかまれた二人が、引き連れらながら目の前を通る。
「ご愁傷様ぁ」と沖田がひらひらと手を振っている。
こんな風景を見ながら近藤は大笑いをした。
「仲良きことは美しきことかな。ははは!」
おしまい
くだらなくてすみませんm( )m
ただ、そんな平和は時もあったなぁ・・・と思いまして。
まだ兄妹と気付く前の話です。