第五話 優と尖
「このクッションをぶん殴ればいいのか?」
バネの上のクッションを指差す。
「端的に言えばそうですね。武器を使ってお願いします。破壊の心配はありません。」
じゃあ俺からやってみるか。
「じゃあ行くぞ。」
長旅の相棒である長剣を上段に構え、振りかぶる。
精神を統一し体に流れる力を意識する。
力の流れが奔流になり、丹田を中心に渦になる。
「うおりゃぁああああ!」
掛け声とともにストライクする。
バスン!バイーン、バイーンバイーン・・・
しーん・・・・
「レオさん、攻撃力175Gですね。」
バネの下部についている黒いガラスに175と表示されている。
「高いのか低いのか分からないな。」
「一般的なハンターの平均値は100Gなのでかなり高いです。さすがここまで来れただけありますね。」
「よっし!やったぜ!」
自分なりの得意分野だからな。アレンと組むと必然的に前衛だし。
「続いて、アレンさんどうぞ。」
「わかりました。その前に一ついいでしょうか?」
アレンが前に出ながら質問した。
「なんでしょう?」
「トーキーって何ですか?」
「私の友人の名前ですね。昔の。」
「・・・・・そうですか」
トーキーすまん、俺は手加減できなかった。
アレンも長剣を構え、クッションを打つ。
「はっ!」
バスッ!バイーン、バイーン・・・
「アレンさん、攻撃力75Gです。」
アレンが軽く凹んでいる。
「まあ、そんなもんだろ、本職魔法だしな。」
「気を使われると、余計痛いんだけど。」
「まあそういうなよ。お前は優しいからな。トーキーに配慮したんだよ。」
ちょっとの優越感に浸りつつ、アンナさんに話かける。
「次はなんだ?」
「続いては体力ですね。このグラウンドを10週してもらい、掛かった時間を測定します。二人まとめて走って頂きます。」
「わかった。」
「わかりました。」
グラウンドの周りには白い線で大きな円が書かれている。おそらくこの円に従って走ればいいのだろう。
「開始10秒前、・・・・・5,4,3,2,1、スタート!」
合図と共に走りだす。
アレンには負けたくないなと思いながら走った。
競争心が働くのはいいことなのだろうか?
最初の1週も走り切っていない時に、アレンは俺の視界から消え、後方に消えていった。
そして、最後の1週あたりで俺はアレンの背中を追い越した。
「レオさん5分50秒。」
ゴールした後、地面に倒れこむ。もう暫く動けん。聞こえるのは心臓の鼓動と、バタつくアレンの足音だけだ。
「アレンさん7分20秒。」
アレンもゴールしたらしい。隣を見ると、肩で息をしている。倒れこんではいない。
「お疲れ様でした。平均値は6分30秒です。お二人が回復したら次にいきますね」
「ちょっと休憩させてくれ・・・」
しばしの休憩後、次は民家の食卓サイズの机がある、グラウンドの端に移動した。
「続いて、器用さですね。正確に体を動かせるか測定します。」
「どこでやるんだ?」
「ここです。」
目の前には机にお皿が2枚、皿は1枚が青、もう一枚が赤だ。青い皿の上には小豆が乗っている。
「青のお皿にのっている小豆を、この箸を使って、赤のお皿に移してください。2分間で何個できたかをカウントします。」
「・・・・・・地味だな。」
「四次元制御とのギャップがいいと思う。」
俺達の反応に満足しているアンナさんが進行をする。
「どちらから始めますか?」
「今度は僕からやるよ。」
アレンが席に着く。箸を構え、精神を統一させている。
「では始め。」
カカカカカカカカカッ
凄いスピードで小豆を移動させている。なんかシュールだ。箸の先が見えない。
「そこまで。」
めずらしくへばっている。
どうしてさっきの体力測定より疲れているんだ。
「ぶはっ!息するの忘れてた。」
「俺はそんなお前にいつも心配されているんだよな。」
なんか力が抜けた。やり切れない気持ちを察して欲しい。
アンナさんが個数をカウントしている。
「アレンさん160個ですね、大変素晴らしいです。」
次は俺の番か。アレンと交代する。
席について、皿と自分の距離を丁度よくなるように調整する。
「細かいやつは苦手なんだ。」
箸を構えて、集中する。
「では始め。」
「うおおおおおおおおおおおお!」
気合と共に小豆を掴む。青、赤、右、左!
目の前でアレンが大爆笑している。
俺も笑えてきた。それは妨害じゃないのか。
「そこまで。」
アンナさんが個数をカウントする。
「レオさん120個です。平均は100個ですので二人とも優れていますね。」
「やったね。」
「俺ってやればできるんだな・・・・」
地味な妨害を乗り越え、出た結果に満足する。
「じゃあ、最後の魔術力の測定場所に移動しましょう。」
無駄に力を入れすぎて、震える手を抑えながら、最終種目である魔術力の測定に向かう。
「では最後に魔術力の測定を行います。100m向こうに的がありますが見えますか?あの的に向かって貴方の最大の攻撃力を持つ魔法を放ってください。」
「じゃ、俺からいくぜ。」
「はい、始めてください。」
俺の最大の魔法は「炎の鳥」だ。そのままだが、自分には火のイメージを形にするのが得意らしい。構築時間がかかるが、制限時間は無いので問題ない。
ついでにいうと雨の日使えないのは内緒(周知の事実)だ。
空中に炎が集まっていく。炎が鳥の型をとる。
全力の魔力を込めて形成したそれを的に向かって突撃させる。
土煙が上がり、低い爆発音が覆う。
ドォォオオン!
煙が晴れると、あたり一面真っ黒焦げだ。
「うし!」
焦げた匂いの中をアンナさんが的に向かって移動している。
おそらくそのあたりにあるのだろう、測定値を確認した後、こちらに向かって帰ってきた。
「レオさん130Pです。凄いですね。全ての結果で平均値を上回っています。全部の平均を超えるのは非常に稀です。」
アンナさんは驚きの表情を隠していない。
「素直に喜んでおく。」
勿論、素養を褒められるのは悪い気はしない。
「じゃ、次は僕の番だね。」
「はい、始めてください。」
アレンが構築を始める。大気中に質量をもった塊が形成されていく。質量の塊は直径30M程もある。
アンナさんが呟く。
「凄い、あの質量を維持できるほど、高濃度で高出力の魔力を展開できるなんて・・」
そうだよな、びっくりするよな。あいつの才能は魔法に傾いている。見事な尖りっぷりだ。
そして、あいつの尖った才能は、余すことなく発揮された。合わせて、アンナさんの驚きは更に大きくなることになる。
魔力塊が収束を始めた。
「塊が、小さくなっていく?!まだ魔法がキャストされていない?!」
拳程度の大きさになった質量の塊は、そのまま的の中心に落下していく。着弾した直後、
カッ!
光が辺りを覆う。一瞬の遅れの後、ドガァアアアアアアン!という炸裂音に包まれる。
辺りの様子を確認したアンナさんが、危険がない事を確かめて、数値を確認するため走る。
「アレンさん、270P・・・」
「よし、頑張った。」
アレンは誇らしそうな顔をしている。
「ここまでの数値はなかなか見ませんね。ちなみに平均値は100です。大変複雑な制御をされていました。お二人共、素質の形は違いますが鍛錬されているのですね。」
塔までの道中で鍛えられたのが殆どだけどな。アレンのは元々だが。
そんなことよりグラウンドが半壊しているがいいんだろうか?
「これで終了なのか?」
「はい。お疲れ様でした。ロビーに戻りましょう。」