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勇者の塔  作者: 正十郎
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第三話 規約


改めて受付用紙を見ると、氏名の他にいくつかの記入事項がある。


年齢、身長、体重、動機、特技、勇者の塔に入ったことがある知人の有無、出身、結婚、年収、、、最後の二つ関係あるのか?


「記入できました。」


「ありがとうございます。内容を確認させていただきますね」


アレンの用紙と合わせてアンナさんが回収していった。


受付用紙

氏名 レオ=ドクトル

年齢 19才

身長 180cm

体重 70kg

動機 お金とロマン

特技 剣と火魔法

勇者の塔に入ったことがある知人 なし

出身 シマダ国クレオ村

結婚 未婚

年収 300万


受付用紙

氏名 アレン=ハート

年齢 19才

身長 176cm

体重 66kg

動機 親友が病気にかかったから

特技 魔法

勇者の塔に入ったことがある知人 なし

出身 シマダ国クレオ村

結婚 未婚

年収 320万



「はい、お受け付け致しました。レオ=ドクトル様と、アレン=ハート様ですね。このままこの塔の説明をさせていただきます。質問があったら、お答えしますので、その都度止めてくださいね。まず、名称ですが、正式名称を水上の塔といいます。まあ、忘れて貰ってかまいません。」


いいのかよ。と心で突っ込んでおく。


「この塔はムルカス国に委託され、国家に属する従業員によって運営されています。塔の建立目的は未だ申し上げられませんが、塔を登り切ったあかつきには、もれなく最強の力がついてきます。」


なんかのオマケみたいに言うな。と再度心で突っ込んでおく。


アレンが質問をした。


「最強の力ってどんなものなんですか?」


「特に難しくはないです。個人として大変強くなります。世の中なにがあるかわからないので絶対とは申し上げられませんが、国軍に単独で意見できる程度には強くなるでしょう。」


アレンは信じていないようだ。目が平になっているからわかる。


「一騎当千ですか。ちなみに、今まで何人位の人がこの塔に挑戦しているのですか?そんなに魅力的なら凄い数の人が来ると思うんですけど。」


アンナさんが、回答に困った様子で、少し考えたあと話し出した。


「例えば、あなたが驚異的な力を持っている大陸の人間の総数を知っているとします。」


「はい?」


「それを勇者の塔の頂上到達者と仮定した場合、その数字を伝える事で一般試験で言うところの合格率が計算できるようになります。それは試験の難易度をある程度把握できることになりますので、お答えできません。」


「なるほど、ごもっともです。」


確かに。どれだけ難しいかの指標があるだけで、選択式の回答だったら逆もあるかもと思うもんな。


「まあ答えられる範囲としては、はっきりとした対価も分からないのに、こんな北の果てまではるばる氷の大地を突っ切って来ませんね、普通の人は。ですが夢を持った若者は少なくない・・・という事にしておきましょう。」


アンナさんはすっと目を細めてアレンを見る。アレンはその視線を反射するように俺を見る。なんだこのいたたまれない感じは?


「脱線してしまいましたが、続けますね。武器の携帯は各自所有のものを持ち込んで結構です。フロアの階数は申し上げられませんが、1フロアの広さは一キロ平方程度あります。それぞれの階にテーマがあり、私のような受付がいます。各フロアでは、受付の指示に従って下さい。」


「受付の人は見れば分かるのですか?」


「はい、受付はこの塔と空を模倣したバッチを着けています。あとはフロアを移動したら受付にでるようになってますので、問題なくわかると思います。」


空を表す青い背景に白いオブジェのバッチがカッコいい。


金と銀の成金趣味とは違う。


「また、この塔は一人づつ登っていただきます。複数人で対応する必要があるフロアもありますが、その時は集まったメンバーで対応いただきます。お知り合いのパーティーは不可です。ですので、お二方は一旦ここでパーティーを解散して頂き、進んでもらいます。」


一応、思うところは色々あるが、試験がこういうものとあれば仕方ないので頷いておく。


「ここが大事なポイントですが、受付は試験官を兼ねていますので、被試験者を次のフロアに案内してもよいか判断する権利があります。受付が、勇者に不適切と判断した場合、次のフロアに進めない事があります。何か質問はありますか?」


「フロアの中で、他の試験者と会うことはありませんか?また、会ったら共闘してもよいのですか?」


「単独で行う予定の試験については、他の試験者と会うことはありません。ですので共闘することも考慮しなくて結構です。」


「わかりました」


ちょっと俺も興味が湧いたので尋ねてみる。


「試験官に不合格にされても、無理矢理登ったらどうなるんだ?」


「この塔には、時間をいじる魔法がかけてありますので、四次元空間をさまようことになります。時間感覚が狂った中で、正気を保つのは難しいので、あまりおすすめはしませんね。」


「わかりました、やめときます。」


聞かなきゃよかった。やることの規模の大きさに萎縮してしまう。


続けてアレンが質問した。


「試験官が勇者に不適切とする場合は、どんな時でしょうか?」


「モラルのない行動をとったり、はたまた能力的に足りなかったり、試験官の総合評価で下されます。選ばれる試験内容にもよりますので一概には言えませんね。」


「わかりました。ありがとうございます。」


「以上で、全体的な塔の説明は終わりです。話せる量が少なくてすみません。続いて、この1階ですが、総合受付とご案内、休憩所。能力測定エリアを備えています。そして、この階に限り、不合格はありません。不適格はありますけど。」


「不適格とはなんだ?」


反射的に聞いてしまった。


「ここにたどり着く人は、結構な実力を所持しているはずです。何しろ大陸最北端ですからね。辺りの魔獣も強いですし。高貴な生まれのオボッチャンが大軍キャンプでも率いてこない限り、実力不足の人が到達できる所ではありません。」


「そうだな。身に染みてるぜ。」


「ですので、そういう稀な状況以外は通過許可を出しますということです。もちろん、国際手配犯などの直接的な不適格者はここでの休憩後、お帰り頂きます。」


「そういうことか。」


まあ、当然の範囲内という事だな。


「能力測定エリアはどんな能力を測定するのですか?」


「能力測定の項目は5つです。攻撃力、体力、器用さ、魔術力、あとは体内能力です。」


隣にいるアレンが不思議そうな顔をしている。


変わりに俺が質問をしてやろう。


「どうやって測定するんだ?」


「それは直前まで申し上げられません。説明できるのはこの位です。」


といってアンナは説明を打ち切った。


「続いて、規約ですが、とっても大事なのでサイン貰います。こちらが、規約書になります。」


一つ、塔の内部及び試練を受けている最中に知り得たことの秘密保持を約束します。


二つ、本試練は再挑戦を受付ないことを了承します。


参つ、塔のフロアを移動するタイミングでのみ、塔を降りる事ができる事を了承します。


四つ、塔を登って、力を得る事に成功しても、この塔で力を得た事を他言しない事を約束します。


五つ、上記に違反した場合、討伐者が差し向けられる事を了承します。


六つ、試練中に何があっても(死んでも)、塔関係者に異議を申し立てない事を約束します。


「すくなっ!討伐者ってなんだ!・・・・あと服従宣言もあるな。」


「要はシステム自体を秘密にしたいので、規約も最小限なのです。秘密を守れない悪い子には、塔の試練達成者にお仕置きにいってもらいます。そのあとの情報統制も楽ではないのです。まあ、口封じですね。」


サラっと最後に凄いこといったね。


誰も笑ってないぞ。


「塔のフロアを移動するタイミングでのみ、塔を降りるとはどういうことですか?」


「たとえば3階の受付担当に試験が開始する事を了承してから、試練を受けている最中に止めたいといっても、3階をやりきるまでは止められませんということです。終了次第、塔を降りる事を選択できるようになります。尚フロアの試練が終了し、受付が塔を登ることを許可した場合でも、地上に降りることができます。その場合も再挑戦できませんのでご注意ください。」


「わかりました。」


どうせ命を懸ける覚悟で此処まで来たのだから、どんな条件だろうが文句はない。

薄っぺらい規約にサインをする。


「では、施設でご休憩頂いたら、能力測定を行いますので、お声をお掛けください。お食事については、隣の部屋のテーブルに用意してありますので温かいうちにお召し上がり下さい。どちらにしても、作成するものがあるのですぐには測定できません。2時間程度以上はお休みください。」


という所で解散になった。


「とりあえず飯にする?」


「アンナさんも安全と言ってるから大丈夫だろうね。嘘つけないみたいだし。嘘つけない事が嘘じゃなければだけど。」


隣の部屋に行くと、三つ、食事の用意がされている。


受付のアンナさんもそこにいた。


「どうぞ、おかけください。私も合わせて食事を頂きます。お先に選んでいただいて、あまりを私が頂きますのでどうぞ。毒は入っていませんよ」


「そうすれば安全か。」


「いただきます。」


まず俺達が席について、あまりの席にアンナさんが掛ける。


肉という事以外は全く分からない食材だが、あまりのいい匂いで気にならない。見た目も食欲をそそるように色違いの野菜なども盛られている。


早速食事を頂くと、びっくりする位旨かった。あまりの旨さに塔の職員になる事を想像してしまう。毎日これが食べられるのかと。


公務員ってよく考えたら素敵な仕事なんじゃないかと。そんな事を考えていたら食べ終わっていた。


「いやー凄く旨かった!」


「ごちそうさまでした。」


「おそまつさまです。」


お腹が一杯になった俺達は、すっかり警戒する事も忘れ、久しぶりのベッドで睡眠を貪るのであった。


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