第二話 受付
「いらっしゃいませ。」
「「えっ?」」
「ようこそいらっしゃいました、勇者の塔へ。外は寒いので、上がっておくつろぎください。」
どういうことだ?アレンも困惑した表情を浮かべている。
目の前には、まるで豪華なホテルのロビーのような受付に、眼鏡をかけた女性が一人座っている。
しばし動けない俺とアレンに、女性から声を掛けられた。
「ようこそ、勇者の塔へ。こちらは国で運営されている施設です。どうぞ中にお進みください。」
アレンは警戒を解いていない。もちろん俺もそのまま現状を信じる程温くはない。
「お前は誰だ?」
目の前の女性に問う。
「受付のアンナ=フルークです。」
「国で運営している?塔をか?」
「はい、そうです。どのみち、勇者の塔を登りに来たのに、塔に入られないのでは登れませんよ?」
氷に浸かった北の台地の果てに、まさかの公務員常駐施設。
普通にモンスターの巣窟だった方が分かりやすかったのだが、入らない事には話が進まないようだ。
「よし、わかった。」
アレンと目配せし、武器は下げず塔に入る。
「まずは、長旅お疲れ様でした。カウンターで受付用紙を受け取り、そちらのソファーで記入をお願いします。」
そのまま用紙を受け取り、改めてここを確認する。
まず、魔獣やモンスター等はいない。
このフロアは、しみ一つ無い白い大理石の上に綺麗な赤いカーペットがひかれている。
そして、高級そうなガラスの丸テーブルを囲んで、やわらかそうな白いソファーが並んでいる。
黄金のシャンデリアが煌めき、受付はこれまた大理石のカウンターテーブルだ。
そして扉が3つある。
受付の女性は才女が全面に出ていて、武器等の装備はしていない。
状況を総合すると、此処で戦闘が行われるとは思えない。
さすがに装備は解かなかったが、食料と水が入った重い鞄を下ろし、汚れる事を謝罪した上で、勧められたソファーに掛ける。
記入しようと落ち着いた時、猛烈な誘惑が襲う。今気が付いたが、料理特有の凄くいい匂いがする。
しばらくは旅用の簡易食しか口にしていない自分には、これ以上の誘惑はない。
そんなチョロイ自分にイライラしている所に、受付の女性から声が掛かる。どうやら神経質になっているようだ。
「記入が終わりましたら、試練のご案内をさせていただきます。その後、食事をとられて、休憩して下さい。就寝もできます。」
・・・まあ警戒は解けないが、様子を見る事にしよう。
何かを思いついたのか、アレンが受付の女性と話しに行った。
「アレンと申します。ここが国営施設であるという証拠はありますか?」
「はい。まず、カウンターに飾ってある国の営業許可書になります。」
カウンターを見ると、凄く立派な許可書が飾られている。
許可書には国名と通し番号と思われる番号が記載され、聞いたこともない人名のサインが入っていた。
ゴールドの台紙にシルバーの文字という成金趣味で構成されている。
若干、隅に追いやられているのは、センスが悪いからだろうか?
他を見たことがないので、真偽の判断がつかない。
「あなたの身分を証明できるものはありますか?」
「これが身分証です。」
これまたゴールドのプレートにシルバーで名前が記載されている。
氏名 アンナ=フルーク
従業員番号 00159
就業 水上の塔
発行年月日 1384/22/19
「これは皆様に申し上げる事ですが、受付は職務の性質から嘘が禁止されております。ですので、答えられない質問は、答えられないと回答しますので、ご了承下さい。」
「わかりました。ここから出ることはできますか?」
「はい。入ってきた扉からでることが出来ます。まだ試験は開始されておりませんので。」
扉に近づくと、普通に開いた。そして外の冷たい風が入ってくる。
「なぜ、ここに施設があるのですか?」
「それはお答えできません。」
「この塔を作ったのは誰ですか?」
「それはお答えできません。」
「ここは誰でも登れるのですか?」
「過去に重い犯罪を犯した者、加えて、国営ですので国から指定をされている者は登ることができません。」
「わかりました。ありがとうございます。」
俺には賢いアレンが何をわかったのか、さっぱりわからない。
アレンが飄々と俺の元に帰ってきてこう言った。
「なんにもわかんない事がわかったから、とりあえず受付用紙書こう。」
憎めないやつめ。