第一話 勇者の塔
「これが・・勇者の塔・・・」
勇者の力を手にいれるため、俺はやってきた。
勇者の塔というに相応しい荘厳とした白い塔が、寒空の下にそびえ立っている。
大陸の最北端という、嫌がらせのような場所に立つこの建物。
あたり一面は氷の大地が続くのみ。
魔獣にも負けず、寒さにも負けず、ようやくここまでたどり着いた。
思い返せば、あまりに過酷な道程だった。
何度も途中で帰ろうと思い、後ろを振り返ったことも数知れない。
辛いことがある度に挫けそうな自分と戦い、弱音も吐いた。
そんな俺を支え続けてくれたのは、この旅に同行してくれた親友であるアレンだった。
横を向けばアレンも、白い塔を見つめている。
~~~~~~ 出立の時 ~~~~~~~
ちょうど2年前になるだろうか?
町と呼ばれる所から、40km程度離れている田舎に住んでいた俺は、ただ退屈していた。
もっと言えば、ありたきりな変化のない生活に辟易していた。
平坦な毎日を送る事が、自分にとって価値がないものに見えていたんだ。
俺は農業をやりながら田舎でゆっくり暮らすより、都会で夢がある生活がしたかった。
だが、騎士になるには騎士の推薦と試験が、商売で成功するには元手とコネクションが必要だ。
王であれば生まれながらに王、領主であれば成人すれば領主なのに・・・と文句を言ってもしょうがない。
とにかく何かのチャンスがないか常に探していた。
そんな時だ。行商人から面白い話を聞いた。
北の帝国に勇者の塔と呼ばれる建物が立ち、試練に打ち勝てば勇者の力を得る事ができるというものだ。
一生で3回あると言われているチャンスの1度目が到来した事を直感し、畑で農作業に精を出しているであろう幼馴染のアレンを探した。
高い作物の影に隠れているのか、見つからなかったのでかまわず大声で話し出す事にした。
「勇者の塔に行こうぜ!」
「お土産よろしく!」
そこに居たか。声の方角に揺れている作物がある。
「何言ってんだ、お前もくるんだよ!俺が誰に話しかけてると思ってんだ?」
アレンは仕事を一時中断して、顔を上げこちらを見た。
「去年亡くなった、親戚のおじいちゃんだと思いたい。」
「残念だけどお前だよ。でも、思いたいって面白いな。」
アレンはふっとため息をついた。
「まあ、冗談はいいとして、どうしてレオは勇者の力が欲しいの?」
「勇者の力で自分の生活を向上させたいからだ。脱・一般大衆だ。」
「すがすがしい位、分かりやすい答えだよね、いつもだけど。」
表情に乏しい幼馴染の目は、より一層平になっている。
「お前が来ないなら、俺一人でもいくぜ。もう決めたんだ。」
「まってよ。塔があるってのは知ってるけどさ、塔も登るの大変そうだし、行く事自体も大変だよね?しかも塔自体うさんくさいよね?」
塔については、意図的に公開している情報以外は完全に秘匿されていたらしい。
商人から聞いた話は、まとめるとこんな感じだ。
1.塔を登り、塔の頂きに達すれば、勇者の力を得ることができます。
2.塔は、各階層であなたに試験、試練を与えます。
3.塔内部の構造や、塔内部で起こったことを他言することは禁止です。
4.塔は大陸最北端、北ムルカス帝国ノーウィン地方ロックフロンティアにあります。
5.挑戦は自由ですが、すべて自己責任です。
なんと、これだけである。
「それこそロマンだろ。男の。」
「5歳位からやり直したほうがいいと思うよ。」
「それは心で思え。口にだすな。で、一緒には来てくれるのか?」
アレンは少し考えた後、凄くぶすったれた顔で
「いく。」
とだけ答えた。
あんまりにも不機嫌そうなアレンを見て、
「そんなに嫌なら、こなくてもいいぞ。」
と言った時、あいつはこう言ったんだ。
「僕にとって勇者の力はどうでもいいけど、僕にとって君は大切な友人だ。ほっとけないのを分かっててそういう事聞くんだね。」
正直、感動した。
目頭が熱くなった。
続けて、
「塔の中で夢を追って死ぬならいいだろう、でも、塔にたどり着く前に死ぬ可能性のほうが高そうで・・・」
と言われた。
正直、このやろうと思った。
目頭が熱くなった。
・・・・・といっても今では、至らない俺をここまで支えてくれたことに本当に感謝している。
~~~~~~ そして今 ~~~~~~
厳しい寒さが、俺を現実に引き戻す。
改めて観れば、氷の大地に白い塔が蒼天と相俟って、景観はとても美しい。
「さあ、行こう」
「うん」
白い塔は、近づけば近づく程輝きをましていく。
視界が一面の白に包まれる程近づいた時、塔の入り口と思われる木製の扉が目に入った。
「いくぞ!準備はいいか?」
「大丈夫だよ!」
塔の入口の大きな扉に手をかけようとしたまさにその時、
自動で扉が開いた。
「いらっしゃいませ」