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狐の嫁入り  作者:
2/2

夢の続き

◇◆◇◆◇◆◇


朝、カーテンから刺すような光は目を塞ぎ、鳥の鳴き声はの耳を劈く。

いつまでも見ていたい夢のせいか目蓋が重く感じ、その夢はなぜかいつも同じタイミングで目が覚める。


「また、同じ夢・・・。」


同じ朝を繰り返す、どこにでもいる女子高校生。

学校に行く支度を淡々と済まし、この日も早めに家を出た。理由は、人ごみに流れたくはないから。


(何が楽しくて学校に行かないといけないの・・・。)


気が滅入っているのか少し目眩がする。


「行くな。」

(・・・男の声?)


突然微かに聞こえた男の声に気付いたけれど、周りには人の気配がない。

その声は、なぜか心に優しく・強く響いた。


(やさしい声・・・だったな。)


気にはなったが、とくに足取りが止まることはなかった。


◇◆◇◆◇◆


教室に入り真っ直ぐに自分の席に座って鞄の整理をしていると何とも言えない違和感を感じ・・・周りがいつも以上にソワソワして落ち着かないのが分かった。自分は机の整理も終え、先生が入ってきたであろう少し開きかけた教室の扉へと目線を変える。


(違和感の正体はこれか。)


目線の先には、いつも一人で教室の扉をくぐるはずの担任だが今日はすぐ後ろに生徒を一人連れていた。


「転校生を紹介する!仲良くするように。」

「・・・。」

「名前を言って。」

「・・・宮ノ 狐。(みやの こん)」


彼の印象は、色白・・・茶髪=不良。彼への第一印象は、不良っぽい人の一言で決まった。

自分は、あまり他人というものに興味がないという自覚がある。別に悪いことではないだろう。なんて考えている間に話はどんどん進んでいく。


「じゃあ、宮ノの席は・・・んっ?」


先生の話の途中で彼は教室の後ろへと動き出した。

一番後ろの列に空きがないことは見れば誰でもわかる。しかし、転校生は何の迷いもなく一番後ろに座っている自分の目の前まで来て足を止めたのだ。突然の出来事に何が起こったか理解できない自分は不覚にも彼を直視できずにうつむく。初対面であるはずの彼は確かに自分を見ている。


(え・・・何・・・?!)


隣の席の・・・なんだっけ。まあ、いい。

それから転校生は、隣の席の男子を睨むような視線を送りながらこう言い放った。


「かわれ。」

(さっきまでソワソワしていた空気が一転し・・・凍りついく。)


彼の形相に怖気づいてしまったのか言葉を投げられた子も反応を返すのに一苦労なようで、コクンと軽く頷いただけだった。席に落ち着いた転校生は、さっきの形相とは裏腹に私の顔をしっかりと捕えてニッコリと笑って見せた。


(あっ・・・。)


とても整った容姿をしていて思わず見とれてしまう。自分を捕えた彼の瞳は、少し濃く青みがかっている。それからしばらく彼は、横目で見ている私から目を離そうとしない。


(何この状況・・・。)

「な・・・何か用ですか?」


「いや。」


声を掛けると少し困ったような妙な顔をしながら、あまりに簡単な返答が返ってきたもので少し驚いた。


「あ、あんまり・・・見ないでください・・・。」


「ん・・・。」


予想とは違って、さらにニコニコしながらやっと視線を外してくれる。


(なんか、変な人に好かれたかな。)


そんな失礼なことを考えていると1時間目の授業の始まりを告げる鐘が鳴った。


◇◆◇◆◇◆◇


放課後、来た道に沿って帰る帰り道。自然と出る困惑と動揺が混ざったため息。

さっきから、背後からの気配が気になって仕方がない、正体は例の転校生。

後ろを向いたら逃げるだろうと思い彼に焦点を合わせるのだが・・・浅はかな私の考えは裏切られ、彼はうろたえるでもなく私から目を離そうとしない。正直かなり奇妙な状況が数秒続いた。

あまりにも真っ直ぐ見つめてくるものだから自分の方が耐えられなくなり、顔を真っ赤にして前を向いて歩き出した。


(笑えないよ。)


何処までもついてくる転校生に困りはて、心の中で小さくつぶやいた。


(ストーカー?困った・・・これじゃあ家に真っ直ぐ帰れないな。)


人をつけ回して何がそんなに面白いのだろうと考えながら、彼を振り払うため思いつくだけの手段を実行してみる。


人ごみ⇒自分が人酔い・・・失敗。

コンビニ⇒距離を詰められ・・・失敗。

全力疾走⇒思ったよりも足が速くて・・・いや私がおそい?・・・失敗。

(もう!)「なんですか!??」


ちょっとイライラしてきた私は、思わず叫んでしまいハッとした。

普段、感情を表に出さないものだから、自分がこんなにも取乱したこと事態に混乱する。

少し間をおいてから彼は、口を開いた。


「変な奴がおまえをつけてきたら困るだろ。」


すぐには、彼から返答が返ってきたとは気付けなかった。

言葉に詰まる私をよそに、また笑っている彼を見て思った言葉を我慢して飲み込んだ。


(自分は変ではないと・・・そうとうな曲者。)


そう思いながら、後ずさりして少し距離を取った。


「し・・・心配しなくても大丈夫です。あ、あなたも自分の家に帰ってください。」


少しうつむき言った。ようやく察したのか、彼は別れの言葉を口にする。


「わかった。気をつけて。・・・綾乃あやの。」

(え・・・なんで私の名前・・・?)


すかさず目を向けたがすでに彼の姿はなかった。


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