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魔王殺しの殺戮兵器<マーダーウェポン>  作者: 角富士
第一章:知るべきはその世界
7/29

7【その街の姿】

 あれから三日が経った。

 エリスと模擬選をした日が丁度一週間であり、魔王が許可したのは『一週間の自由行動』だったのだが、エリスとの戦闘での怪我の療養ということもあったのでさらに五日の自由行動を許されたのだ。

 それはサシャが魔王に交渉してくれたのだが、魔王はなぜ自分に自由行動を与えてくれているのかがわからない。

 グラハム自身、ここ三日は魔王と会っていないから余計である。

 なにはともあれ、自由行動が許されているのはあと二日だ。


 だが、考えていても仕方がないのでグラハムはこの世界アルジェリドについて調べることとした。

 時間の単位や距離の単位はグラハムが昔居た世界と変わらなかった。

 というより単位やらなんやらは特に変わりなく、グラハムが僅かな時間でこの世界を理解できたのもそこのおかげと行っても良いだろう。

 そして現在、矢蔵刃睦月ことグラハムはここでの生活に慣れるために街を歩いていた。

 魔族たちの街『ナヴィ』、オルトたちとの戦闘に参加するときに一度転移してきた街だ。


 場所はどこであれ、今日も今日とてサシャと共に歩くグラハム。


「はじめてのおつかいってとこだな、安全のために人がついてくるのも含めて完全再現とは……」

「どうしたんです、グラハム様?」

「気になることが山ほどある」


 両手をポケットに入れながらグラハムはそう答えた。


「たとえば?」

「君のスリーサイズとか」

「すりー、さいず?」


 なんでもないと、グラハムは答えてからクスリと笑う

 まったく仕方がないと道を歩いていると、少しばかり気になる店を見つけた。

 感覚的に気になるその店を見るグラハム。


「あそこは、酒場か?」

「そうですね。傭兵たちが仕事を取ったりもしますし基本的に酒屋はギルドも併用してますので、お仕事が欲しい時はあそこを使うのが良いでしょう」

「仕事というと、やはり戦闘か」

「まぁ危険な魔物の討伐依頼や戦闘依頼、物探しやその他もろもろと依頼は山ほどあります」


 おもしろいかもしれないと思い、グラハムはそちらへと足を進めた。

 特に何も言わずに足を進めるグラハムに文句の一つも言うことなく、サシャは後をついて行く。

 ドアを開いてその酒場へと入ると、周囲の眼が自分へと集まるのを感じた。


「グラハム様、どうです?」

「中は男女半々か……」


 酒場に座っている男や女、綺麗な格好をした者から、鎧を着こんだ者まで、さらにはウェアウルフのような狼頭の者から爬虫類のようなトカゲ頭の者までいる。

 戦う者からそれを癒す者まで、千差万別、数多の魔族たちがここには集っていた。

 そしてグラハムは、多くの紙が貼ってある板の前へと立つ。


「なるほど、これが依頼書か」

「そうですけどグラハムさんはギルドメンバーとして登録していないので、受けれても報酬がもらえる保障はありませんし、名前も上がりませんよ?」

「登録というのはしても問題ないのか?」

「はい、登録した後にもらえるギルドカードはそのまま身分証にもなるので便利ですよ」


 それを聞いてから、頷いたグラハムは『ギルド』と書かれた看板が吊るされているカウンターへと向かい受付の女性と話をする。

 理由は、言うまでもなく登録するためだろう。


「この紙に記入お願いします」

「うむ」


 名前はもちろん矢蔵刃睦月を、この世界の文字で書く。

 カタカナにどこか似たこの世界の文字を書くと、グラハムはその紙を返す。

 受付嬢は胸元のポケットにあるペンのようなものを取ると空に何かを描いた。それは緑色の魔法陣となりグラハムの前へと浮かんでおり、それを不思議そうに見るグラハム。

 受付嬢が微笑むと、そのペンのようなものでグラハムが名前を書いた紙に同じ魔法陣を書く。


「ではこちらの式を見てください」

「ん、これのことか」


 魔法陣の方を見ると、一瞬だけ輝いて消える。

 下を見てみると、自分の名前の書いた紙に自分の顔が描かれていた。

 新手の魔法だということを察すると、受付嬢が微笑んで『少々お待ちください』と言ってからその紙を持って店の裏へと下がって行く。

 背をカウンターに預けて、言われた通りにグラハムが待っていると一人の男がやってきた。


「あんな式をジロジロ見てたら田舎者ってことバレてるぞ兄ちゃん、不思議な服着てる時点でわかるけどな」

「む、どちらかというと都会にいたのだがな……?」


 自らの服はやはり最初に着ていた学生服を洗ったものだ。

 ワイシャツとスラックス、靴こそは違えど着ているものに違いはなし、追記するならばこの前の拳の件故にプロテクター代わりのオープンフィンガーの手袋をつけている。

 どうせならアクセサリーとかもつけたかったのだが、そんなことまで言うほど図々しくもない。

 そんなグラハムの身形のことは今はどうでも良いだろう。

 問題としては、男が絡んできたと言うことだ。


「いるんだよなぁ、自分で自分が都会の人間だと思っちゃう奴」

「うむ、そう言うやつを見てきたから俺もわかるぞ」


 なんだかすかした雰囲気のグラハムに、苛立ちを覚える男。

 挑発をしているのにそれを意にも介さずに、表情一つ変えずにそう言いながらただ淡々と返してくる。

 だがここで、男が絡むのもかっこ悪いなと思った。


「グラハム様、どうしたんですか?」


 そんな時、挑発されていたグラハムの元へと歩み寄る魔族の少女。


 綺麗なその少女を見て男はなんだか非常に寂しい気分になり、もう目の前のグラハムと呼ばれた者に絡むのをやめようと思った。

 ここで絡めば本当にかっこ悪いなと思い退散して男は最初に座っていた椅子へと座る。


 そしてそんな男を全く気にせずに、グラハムはサシャと話をする


「ん、登録してみた」

「なるほど、今は登録待ちですか?」


 グラハムが頷くと、サシャも頷いて一緒に待つことにした。

 そんな時に先ほどの男とは別の、3人の男がグラハムとサシャの前に立つ。

 身長であればグラハムと同じぐらいの170後半であり、顔には傷があり銀色の薄い鎧を着ていて剣を持っているところを見れば、傭兵か何かなのは確かだ。

 オルトからもらった剣を持っていない今、あまり関わりたくないグラハムだった。


「なぁ、そんな田舎者より俺たちと一緒にこれから討伐依頼いかない?」

「一緒に行くだけで良いよー、飯も奢るしさ、青い肌ってことはそれなりの魔力持ってる家系だろ?」

「ほぉ、そうだったのか……だが残念ながらその子は俺のツレでな」

「だからお前みたいな田舎者は」

「黙れゲス共が」


 あまり関わりたくなかったグラハムだが、自分のものを取られるとなると話は別だ。

 関わらないという選択肢は消滅し関わらざるをえなくなってしまう。

 苛立ったような表情を浮かべ、グラハムは鋭い目つきで男たちを睨む。


「貴様ら人のツレに手を出すなと言っている……」

「なんだよ、君こいつの彼女?」

「あ、いえ」

「何度も言わすな貴様ら、俺の女になに勝手に手を出そうとしている?」


「うるせぇって!」


 男がグラハムに向かって拳を振るうが、グラハムはそんな攻撃をあっさり避けてその男の足に軽く足を掛けて転ばせる。

 派手にこけた男は顔面から床に落ちて悶える。

 ため息をついたグラハム。


「人に絡んでおいて油断しっぱなしとは、嘆かわしいな……それよりも早くこいつを連れて帰れ」

「テメェなにを勝手に!」


 男の仲間である男二人が腰に差した剣を取る。

 周囲がざわつくのを感じたグラハムがため息をついてワイシャツの袖を捲って、男二人を睨みつけた。

 男二人と睨みあうグラハム、サシャはと言うと止めようとグラハムの右腕を掴む。


「大丈夫だ、伊達にエリスとやりあったわけじゃない」

「でもあれは!」

「あまり侮ってくれるな……さて、はじめようか」


 グラハムが笑みを浮かべると、男二人は剣を腰の鞘に差すと拳を構えた。

 さすがにプライドが何も持っていない男一人に斬りかかることをさせなかったのだろう……だが、その判断は間違っていたとすぐに男二人が思い知らされる。

 足元で転がっている男の頭を軽くグラハムが蹴ると同時に、男二人がグラハムへと拳を振りかぶる。




「お待たせしま……」


 受付嬢がグラハムの登録を済まして戻ってきた時、カウンターに向かって立っていた青年が、倒れている男三人に片足を乗せて立っていた。

 唖然としていた受付嬢を見ると、グラハムは先ほどと同じような表情で同じようにカウンター前に立つ。

 若干引きながら、受付嬢は営業スマイルを浮かべてグラハムにカードを差し出す。


「これがギルドカードになります。依頼を受ける際はこのカードと依頼書を持ってカウンターまでお越しください」

「了解した」


 グラハムはカードを受け取るとそのカードが向こうの世界で言うプラスチックに似ているなと思いながらそれをポケットにいれる。

 名前と顔が書かれたそのカードはグラハムが元居た世界とそれほど変わりない。

 それで説明も終わりなのだと察したグラハムは男二人を踏み越えて、酒場を出ていく。


 そして最初にグラハムに絡もうとした男は、倒れている男三人を見て心底『絡まなくて良かった』と思わされるのだった。




 酒場を出たグラハムは次はどこに行こうかと歩く。

 もちろん、そんなグラハムの後ろにはサシャが着いてきているが、やはりサシャは一目に着くなとグラハムは思う。

 だがグラハムとしてはそんな目立つサシャを後ろに着けて歩いているということは優越感に浸れることであり、妙な快感を覚えていた。

 だがそんな時、また気になる建物を見つける。


「あれは?」

「あれですか、あれは武器や鎧などを売っている武具屋ですね」

「ほぅ、まぁ俺には武器があるし、鎧をつけて動きを制限するのも良くないな。軽くて動きの制限も無ければ良いのだが…」


 サシャの苦笑いが『そんなもの無い』と言うのを理解させ、グラハムは肩をすくめた。

 ともかく、グラハムは足を進めて道を見ていく。

 屋台が出ていたりもして、そこでは果物や野菜やらが売っている。


「前に来たときも思ったが、活気があるな。近場に戦場があったとはまるで思えん」

「ナヴィは砦がしっかりと作られているので不安を感じる人も少ないんですよ、傭兵やギルドメンバーともなると結構ピリピリしていたりしますけど、衛兵などはずいぶん気楽にやっています」

「まったく、困ったものだな」

「そうですね……あ、グラハム様そちらはあまりお勧めしません」

「む?」


 グラハムが進む道を止めるサシャ。

 道の先は先ほどの場所よりもずいぶんと静かであり、なんだか妙な雰囲気がしたのも事実でありグラハムの好奇心が掻き立てられるも……下手な好奇心が己を殺すこともあると立ち止まる。

 足は進めないが、サシャの方を見て聞く。


「この先はどういった場所だ?」

「えっと、歓楽街です……治安が良くないということもありますし……その、あまり良くないお店も」


 顔を赤くしてそむけるサシャに、内心かなり興奮するグラハムだがそんな気持ちを抑える。

 邪な思いを抑えながら、グラハムは踵を返すこととした。

 目的地はそれほど考えていないが、とりあえず歓楽街から離れることとする。


「さて、サシャ嬢のおすすめの場所などはあるか?」

「私のですか?」

「あぁ」

「そうですね、アクセサリショップなんておすすめですね、色々あって楽しいですよ」


 実に女の子らしいなと思いながらも、魔王からもらった金にはあまり手を出したくはないと思い行くことをやめておいた。

 もう夕方だ。

 帰って図書館の方を見てこようと、グラハムは帰路へとつく。


 向こうの世界と変わることは無い夕焼けを見て、グラハムは向こうの世界に残してきたものがちょっとだけ気になり、感傷的な気分になった。


「では帰りましょうかグラハム様」

「あぁ!」


 だが、すぐ忘れた。


あとがき

プロローグもようやくラストが近づいてきました…というより、次がプロローグの最後となりますな

では、次回もお楽しみいただければまさに僥倖!

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