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魔王殺しの殺戮兵器<マーダーウェポン>  作者: 角富士
第一章:知るべきはその世界
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6【四天王-風の王-】

 メシスと会った翌日、グラハムは城の中の大きな部屋へとやってきていた。

 周囲には木刀やらの木で作成された武器がおいてありそこがどんなことに仕様する部屋なのかは大体の察しがつき、サシャと共にグラハムは部屋を見てみる。

 そしてグラハムがサシャの方を向くと、サシャもどうしてここに呼ばれたかわからないという表情だ。


「どうだ、魔王城自慢の訓練施設……と言っても広くて頑丈ということ意外に自慢なんてないんだがな」


 苦笑しながら入ってくる魔王。

 そしてその後ろにはオルトとカロドナとメシスがいた。


「四天王が三人も揃うなんて相当な状況なんじゃないか?」

「はい、凄く珍しい光景ですね」


 何事かと思うも、それを聞く前にメシスが楽しそうに笑うとグラハムの肩を軽く叩く。


「楽しみにしてろって言ったじゃん?」

「言われたが、実に府が落ちんのだがこの訓練施設で俺は戦わされるのか戦いを見せられるのかが気になるところだな」

「もちろん戦う、じゃなくて訓練するのはグラハム君だよ!」


 メシスの言葉にため息をつくオルト。 

 そんな風なオルトを見れば自分がこの後面倒なことに巻き込まれるのは必然なわけであり、カロドナはクスクスと笑うのみ。

 そう、状況を見て理解できるのはもう一人の四天王がここに現れるということだ。


「で、その人間か?」


 魔王たちの背後からの声に、魔王やオルトはスッとグラハムとその声の主までの道を開く。

 不機嫌そうな表情をした短い赤い髪の少女がそこには立っており、厚い旅人風な服の上から灰色のローブを着こんでいるし手には皮手袋をしているせいでまったく体つきや種族などはわからない。

 グラハムとしては非常に残念であるが、つきたくなるため息を飲み込むと魔王から借りている服の襟を正してネクタイをしっかりとしめる。


「魔王城唯一の人間、矢蔵刃睦月……気軽にグラハムと」


 軽く礼をして頭を上げるが、少女がそんなグラハムに敬意を払うこともない。


「私は四天王、風の王エリス」

「可愛らしい名前ですね」

「……斬るぞ」


 苛立ちを露わにして背中の“刀”に手をかけるエリス。

 グラハムは苦笑しながら両手を上げてその気はないという雰囲気をアピールする。

 誰も止めないことをみるとこうなることを予測していて、自分が斬られないということも確かなのだろうと思う。


「申し訳ない……だがしかし、他の三人と違い普通の魔人に見えるな」


 そう言うと他の四天王も魔王もサシャも顔を逸らす。

 自分風情に言うことは今の段階では無いのだろうと理解して、グラハムは頷くと左手に持った剣を軽く前に突き出す。

 柄尻を向けられているエリスは相変わらずな不愉快そうな顔をしている。


「殺傷性のある武器だが、これで挑んでも構わないのか?」

「じゃないと訓練にならないからね」


 メシスの言葉に、数度頷くグラハム。


「しかし、怪我の心配は―――」

「貴様如きが私の心配か、それよりも自分の心配をしろ……私は手加減する気はない」

「俺も女相手だからといって手を抜くつもりはない」


 睨みあう二人、売り言葉に買い言葉で一触即発の雰囲気の中、まぁ一触即発の雰囲気と行ってもエリスが一方的に敵意をあらわにしているだけなのだが、戦闘になりそうという雰囲気は否めない。

 だからこそ、そんな二人の間に魔王が間に入る。


「二人ともここで始められても困る、そっちでやってくれ」


 魔王が指差した方向には、一段高くなっている石造りの闘技場。

 苦笑するグラハムがそこに上がって石畳を軽く足で叩く。

 正面を見据えればそこには背中の刀に右手を伸ばし、柄をしっかりと掴んでいるエリス。


「ところで、その武器は他の剣とは違うが……どういう経緯で?」

「貴様が知る意味は無い、意義もな」

「冷たいな」


 ため息をつくグラハム。


「喋っている暇があるのかッ!」


 走り出すエリスが背中の鞘から刀を引き抜き横薙ぎに振るうが、グラハムは軽く地面を蹴って振られた剣を避けるとエリスの真後ろに着地し、振り返ると同時に抜刀。

 引き抜かれた剣がエリスを襲おうとするが振り返り様にエリスの刀により剣が防がれる。

 寸止めするつもりだったが、それよりも早く防がれてしまったことにより本気で切りに行く感覚でなくては勝てないと悟った。


「中々動けるな人間」

「グラハムと呼んでく……れッ!」


 右手の剣でエリスの右手の刀と鍔競り合う中、グラハムは片足でエリスを蹴ろうとするがすぐにエリスは地を蹴って後ろに下がる。

 エリスの鉄靴がガチャッと音を立て、その重さを理解させた。

 さすがに四天王と思わされながら、初めて剣を合わせた四天王に高揚感も隠せない。


「たまらんな!」


 走り出すグラハムに、エリスは右手の剣を振るう。

 だがそれを予測していたグラハムは左手の鞘にてその剣を受け止めた。

 少しばかり眼を見開くエリス。

 もちろんそれはいつの間にか増えていたギャラリーの兵士たちや魔王とサシャと他四天王も同じであり、グラハムの数日間で上がった戦闘能力に驚きを隠せずにいた。


「そこだッ!」


 グラハムは右手の剣を横薙ぎに振るう。

 だがエリスはグラハムと同じように刀の鞘を左手で持ち、その斬撃を止める。

 両手で鍔競り合う二人が、笑みを浮かべた。


「中々……いや、良くやるな人間!」

「光栄だよ、風の王! だがそうか、力だけで言えばそれほどレベルは変わらないか、問題は魔術の類だなッ!」

「今は単純な肉弾戦だからな、こうなるのも必然かッ……だが、だからこそ趣というものはある!」

「同感だッ!」


 競り合う二人が同時に頭を引き、やはり同時に頭を前方に向けて振る。

 結果はお互いがヘッドバッドをしたような状況になり、お互いの額がぶつかり合う。

 鈍い音がその訓練所には響き、それを見て痛そうという顔をするオルトとカロドナを除いたギャラリーたち。


「ッ!」

「ぐッ!」


 グラハムとエリスの二人が軽くふらつき後ろに下がることによって鍔競り合いの状態が解かれる。

 だがそこを見過ごす二人ではなく、不安定な姿勢のままお互いがお互い剣を振るう。

 ぶつかり合った剣が弾かれ、お互いの武器が弾き跳ぶ。

 グラハムから見て、剣が左で刀が右へと刺さるが、お互いがお互い武器を取りに行けるような状態ではなく、隙を見せたら不味いということがわかる。


「シャラッ!」

「ズェアッ!」


 グラハムとエリスの声―――それと共に、お互いが左手に持っている鞘を投擲し、二人の鞘が回転しながら空中を舞い、それぞれの剣と刀の場所へと落ちる。

 無手となった状態でお互いが視線を合わせた。

 二人の視線が重なり、その唇には自然と笑みが浮かぶ。


 グラハムが素早く身を翻して右足を振るうと、エリスもローブのままみを翻して右足を振るう。

 お互いの足がぶつかるが、お互い痛みを耐える顔などしない。

 アドレナリンの活性による痛覚麻痺。


「ハハッ! 人間など有象無象と思っていたが中々やる!」

「それはありがたい……なッ!」


 グラハムは素早く右足を下げるとすぐに右拳をエリスの顔に向けて振るう。

 女を殴るのは趣味じゃないが、それでも目の前の“戦士”を相手に手を抜くほどグラハムとて無礼な人間はないのだ。

 だがそんなグラハムの攻撃もエリスは自らの左腕で受け流す。

 すぐに腕を引くグラハムはエリスが放った右拳を左腕で受け流した。

 同時に腕を引くとお互いが右拳を放ち、拳をぶつけ合う。


 ギャラリーである兵士たちや魔王、サシャやメシス、オルトとカロドナすらも生唾を飲んでその戦いを見る。


 二人は何度も拳をぶつけ合う。

 目の前の戦いに夢中になっているグラハムにはわからないのだろうけれど、両の拳から血が滴る。

 皮手袋で隠れているせいでわからないがエリスの手からもきっと血が流れているだろう。

 このままでは決着がつかないと察したのは二人同時だった。


 お互いが右足を振るいお互いの体を蹴る。

 攻撃を食らった本人から見て右へと飛び、地面を転がる二人はすぐに体勢を整えて近場にある武器を取った。

 グラハムが取ったのはエリスの刀と鞘で、エリスが取ったのはグラハムの剣と鞘。


 お互いがお互いの武器を持ち、構える。

 グラハムは刀を左手で持った鞘に納めて腰を落とすと、エリスはグラハムの剣の鞘を腰に付けて剣を両手で中段に持つ。

 お互いがお互いの武器で、持ち主とは別の構えを取る。


「行くぞ風の王!」

「言葉は不要!」


 グラハムとエリスは走り出し、お互いの敵が攻撃範囲に入ると同時に武器を振るう。

 エリスが縦に剣を振るうとグラハムは抜刀し引き抜いた刀で剣を受け止める。


「ッ!」


 刀の力点をずらして剣を受け流すと同時に刀を上から真下に振り下ろす。

 直撃コースだったのにも関わらず、エリスは受け流されてからの姿勢のまま片足で地面を蹴っただけで素早く後ろへと下がった。

 獲物を切ることの無かった刀を素早く鞘に納めなおすとグラハムがその顔に笑みを浮かべた。


「そうか、とうとう使ってきたな……風の魔術か?」

「その通りだ。だが肉弾戦では私の負けということが明確になった……」

「だからどうした、風の王ならばそれが当然だ。むしろようやく本気が見れるのかと嬉しいよ……武器は違うがな」


 グラハムの言葉に、不敵な笑みを浮かべるエリスが剣を軽く空で振るう。

 それと共に風が刃となってグラハムへと奔る。

 驚愕しながらもグラハムは風の刃が自らを刻む前に抜刀し風の刃を切り裂く。


「なるほど、風の刃自体はそれほど耐久力がないか」

「だが体に当たればただではすまないがな!」


 エリスが剣を振るうたびに風の刃がグラハムへと飛び、グラハムはそれを刀で切りながらも近づいて行く。

 風の刃がグラハムに効かないと思ったのかそれとも別の意味があってか、エリスは風の刃での攻撃を止めて剣を両手で持ち走る。

 だがスピードは先ほどの比ではなく、エリスはほぼ一瞬んでグラハムへと近づいて剣を振るう。


「なっ!?」


 グラハムは驚愕しながらも刀を引き抜いて剣を受け止める。


「一撃でも受け止めた。それだけで十分だろう……」


 その一言を受けたと思った瞬間、エリスが先ほどよりも素早く剣を引いてグラハムの右手を蹴る。

 その手から刀が落ち、もう一度持とうと思った時にはすでに遅く、グラハムの首には剣が添えられていた。

 すでに、実戦ならば命を落としているであろう状況に、グラハムはため息をついて刀を拾い鞘に納めるとエリスへと差し出す。

 エリスも剣を鞘に納めるとグラハムへと差し出し、お互いが差し出された武器を受け取った。


「四天王の力、しっかりと拝見した」

「なに、魔王様が貴様を気に入った理由がどこかわかった気がするよ。お前は面白い男だ」


 笑いながらそう言うエリスの言葉を上手く理解できずに、グラハムが頭に疑問符を浮かべる。


「ともかく、お前への認識は改めよう、これから魔王軍のために頑張ってくれ」

「いやその気はないが?」

「……なに?」


 和やかだった気がした雰囲気が一気に一遍。

 エリスから怒気のような覇気のようなものがあふれ出るのが目でわかって、魔王は頭を抱えてため息をつく。

 エリスのことをわかりながら、グラハムが誤解を生むようなことを平然という人間だと理解しているからだろう……グラハムを知るのには数日で十分だった。


「俺は魔王軍のために頑張るんじゃない、ただこの世界をこの目で見たいだけだ……あと帰れるなら元の世界に帰りたい」

「……そうか、ならどちらにしろお前はすぐに魔王軍につく」

「ん?」


 エリスからの不穏な雰囲気が無くなったことに気づいたグラハムが再び疑問符を浮かべる。


「いずれわかるさ」


 それだけ言うとエリスは訓練所から出て行った。

 ギャラリーたちが一斉に拍手をはじめて一瞬驚いたグラハムだったが、すぐに笑みを浮かべて満更でもない表情を浮かべながら魔王たちの元へと歩く。

 剣を腰に下げるとメシスの前へと立つ。


「どうだった?」

「いやぁ、ビックリだったよ! あそこまでやるなんてねー!」

「気に入ったようでなによりだよメシス、ところでなんかご褒美とか無いのか?」

「えーしょうがないから私の命を上げよう! って死んでるから上げられないっつうの!」


 一人ノリツッコミをしているメシスを放っておくことにしたグラハムはサシャの方を向いて笑みを浮かべたが、サシャはグラハムから視線を逸らした。

 それに違和感を覚えるグラハム。


「こら、無視はいけないよグラハム君!」


 メシスの言葉にそちらを見る。


「まぁ結構みんな驚いてるよ、兵士たちもオルトさんも、ねぇ?」

「あぁ私も驚かされたな、グラハムがここまでやれるとは思ってもみなかったのでな。さて私も仕事に戻るとしよう」


 さっさとオルトは訓練所を去る。


「オルトさんも驚いてたんだろうね、まぁなにをとってもオルトさんみたいにはいかないからねあたしたちは」

「ん、そんなにか?」

「そりゃオルト様は四天王最強だから、肉弾戦でも魔術戦でもねぇ」

「ほぉ」


 四天王の『火』『水』『土』『風』の四人を並べてみてもグラハムとしてはオルトはあまり強そうには思えなかったのだが、メシスがそう言うのだからそうなのだろうと頷く。

 ならば一番敵に回してはいけないのはオルトで、一番最初に殺すべきはオルトなのだろうと頭の中ですぐに答えを出した。

 魔王の方を見る。


「まぁオルトは先々代魔王、御爺様が魔王だった時からの四天王だから当然と言っていい」

「それに魔王様の魔術の師匠でもあります」

「うむ」


 そこまで凄いのかと、少しばかりオルトへの認識を改めるグラハム。

 冷たいだけの狼かと思ったがそうでも無いようであり、今度会ったときはもうちょっと話もできるだろうと思う。

 だがそれにしても、自分が男と話してみたいと思うなんてと、グラハム自身が自分に驚く。


 ただの人間、男とは違うからこそかもしれないとグラハムは笑う。


「さて、今日は書庫で本を漁るとするかな」

「あ、待ってくださいグラハム様!」


 訓練所を出ていくグラハムと、それを追うサシャ。

 残った魔王が微笑してグラハムの去って行った方を見る。


「できれば、敵にならないでくれグラハム……私たちの、私のためにも」


 何かを含んだような言い方をしてから、魔王はドレスについた埃を払ってグラハムたちが出て行った方とは違う方の道へと歩いて行くのだった。


 矢蔵刃睦月は、こうして四天王との邂逅を果たした。

 いずれどうなるか、敵となるか味方となるかわらかない者たちとグラハム。

 だが彼自身、魔王軍が、魔族たちが普通の人間たちと変わらないことを知っている。


 まだこの世界の人間たちのことをほとんど知らない彼だが、これからどういう道を行くのか……。




「やっぱり次元干渉系の召喚魔術の書物はほとんどありませんね、魔王様から借りた本も読みつくしましたし」

「うむ、呼ぶ方法だけで帰らせる方法が無いな、こうなれば本当にハーレムルートしか……」


 彼の頭には、元の世界に帰るかこの世界でハーレムを築くかの二択しか頭に無かった。

 ちなみにこの直後、グラハムはエリスとの戦闘で怪我をした拳を含め体中の痛みがぶり返してきて悶えることとなる。




あとがき

これにて四天王は終了です

ちなみに風の王は本文の通り手を抜いています

ただ矢蔵刃睦月ことグラハムが強いことも確かな感じで、次回からは四天王編ではなく、この世界で歩いたり戦ったりになります

では、次回もお楽しみいただければまさに僥倖!

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