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魔王殺しの殺戮兵器<マーダーウェポン>  作者: 角富士
第三章:あの日見た夢
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27【手を取り合う者たち】

 不本意ながら、グラハム()は次の日にここへとやってきた。

 エルフたちの暮らす集落へとやってくると、門番は俺を見るとなんだか眉をひそめつつ通す。そりゃそうだろう客人と言えど話を聞く限りはエルフと人間はいまいち上手くやれていないだろうし……。

 昨日見たばかりの道、そう言えばアーニャの住んでいる家などの話は聞いていないが、とりあえず村長の家へと向かって扉をノックする。

 すぐに扉の向こうから音が聞こえ、扉は開く。


 出てきたのはもちろん村長―――じゃなく、アーニャだった。


 鎧ではなく薄着のアーニャに少し心を乱されるが、それを表に出さないでおく。

 俺と目を合わせるとすぐに羞恥心から顔を赤くして扉が閉められた。

 とりあえず駄、目的はここに来ることである依頼を達成することだ。“目標ターゲット”を倒すこと、つまりは戦いに勝利することに意義がある。


 待っていると扉が開き、中から現れるのはアーニャだった。

 いつも通りの鎧に身を包んだアーニャ、そして追加で現れた村長と呼ばれた女、二人が先に歩き俺もそのあとをついて歩く。

 ただ歩いていると、村長の方が歩く速度を下げて俺の隣で歩き出す。


「なぁ村長」

「なぁに?」


 甘ったるい言葉の出し方に、さすがに顔をしかめるのを止められなかった。

 一瞬だが間違いなく、顔に出していただろう。


 ―――歳を考えろ、と。


 何歳かなんて知らないが、そこそこの年齢は言っているだろうし見かけは良い歳だ。

 ならそんなことを思うのも些か仕方ないというものである。

 まぁフィーネが言ったら可愛いなとは思う。うむ、俺は悪くない。


「失礼なこと考えてないかしら?」

「気のせいだ。それより試合というのは俺が圧勝しても良いのか?」

「構わないけど、できるならね……一応、賭けなんかも行われてるから」


 楽しそうに笑う村長を見れば、その女が賭けに参加しているのは明白だ。


「なら勝たせてやろう」

「あら、言うわね……あっちも自分たちの集落の中から一番の強者を出してくるわよ?」


「集落で一番強い奴が俺より強いとは限らんさ」


 そう言ってやると、村長はブルーの瞳を細める。

 俺はそちらを一瞥してすぐに前を向きなおした。


「そこまで言うなら、賭けちゃいましょうか」

「ああ、存分に稼がせてやる」




◇◇◇◇◇◇




 それから十分ほど、グラハムは現在、柵の中にいた。

 広く円を描くように建てられた柵の中、グラハムは背中に剣、腰に刀を差したいつものスタイル―――ではない。

 グラハムは木製の剣一本でその場に立っている。

 右手で持ったそれを数度、空に振るえば風切り音が聞こえた。


「ふむ、こんなもんだろ……」


 そして、数メートル離れた正面にはエルフ族と親善試合をする相手であるオーク。

 大きな鼻から息を吐きつつ肩に木製の斧をかつぐ。

 オーク側はずいぶんざわついている。


 柵の外の村長が、台の上に立った。


「今回は私たちはエルフの代表は。ここ最近親睦を深めた人間のグラハムです」


 おっとりとそう言う村長を見てグラハムは笑みを浮かべる。

 村長と同じく台の上に立つのは緑色の肌のオーク、だが女性のように見えた。つけている宝石やスカートから見ても女性なのだろうと理解する。

 オークの女性、おそらく代表であろう向こうの村長が片手を上げ、宣言。


「では恒例の、親善試合を開始します」

「みんな、大いに盛り上がりましょう……では」



 ―――開始ィッ!!



 村長とオークの女性、そして周囲からの声によりオークとグラハムは同時に地を蹴った。


 いつものグラハムの戦いは、エリスから受け取った刀の力により身体強化があってこそだ。そして身体強化した持ち主に応えて刀は強くなる。

 だが今回はわけが違う、刀も剣も後ろに置いてあり、現在のグラハムは木刀一本。

 身体強化はなされておらず、そのままのグラハムだった。


 だがそれでも、こちらに来た頃とは違う。いや来た頃でさえ“なぜかエリスと剣術にて互角”だったグラハムだ。何十もの戦場を超え、一敗である。

 そしてその敗北を二度と味合わぬように強くなろうと誓い、守るべきものを守ろうと誓い、強くなるためにひたすらに励んだ。

 そんなグラハムが、並のオーク一体に負けるわけもない。


「ふっ!」

「むおっ!」


 グラハムが右手だけで持った木刀を、振るう。

 それをオークが斧で凌ぐが、グラハムは素早く手を引いた。オークが斧を振るおうとするも、グラハムは素早く下がり斧での攻撃を回避。

 後ろへと跳んでから着地する瞬間に前に足を出して、そのまま真っ直ぐ跳ぶ。


 そして、右手の木刀を突きだすがその剣先をオークは斧の腹で受ける。


「ほう、止めたか……!」

「……!」


 顔をしかめるオークを相手に、グラハムは笑みを浮かべるのみ。

 だが力でオークに勝てないのは種族として仕方がないというものだ。


 故に―――力比べは極力避ける。


 素早く木刀を引くグラハムに対してオークが斧を横向きに振るう。

 軽く頭を下げてその斬撃を回避すると、グラハムは木刀を真下から振るった。

 オークも素早く後ろに下がってその斬撃をギリギリ回避するも、真下から真上にあげそのまま振り切ったグラハムはそのままオークの胴体に蹴りを打つ。


「ぐぬぁっ」

「まず一撃!」


 後ろへと下がったオーク、その隙を逃すことなくグラハムは地を蹴って跳ぶと、右手の木刀を逆手持ちにして振るう。

 だが対するオークは斧を縦に振るう、素早い判断力にグラハムは心の中で『どうせ里内一』などと舐めていたことを謝罪する。

 だが、それだけで……ただ判断が早いだけで勝てるほどグラハムも弱くはない。


「確かに良い素質がある……」

「なにっ!?」


 横に跳んで転がると、グラハムはコートを翻しつつ静かに立ち、体の埃を片手で払う。

 右手で木刀を持ち、静かに笑みを浮かべる。オークもグラハムに合わせるように両手で木製の斧を持った。

 そして、グラハムは走り出す。


「だが、素質なんてものは開花させてもののこそだなッ!」


 素早く右手で木刀を振るう。今までよりも素早いそれを斧で凌ぐがグラハムはさらに木刀を振るう。

 力で勝てないならば数、数で勝てないならば頭、頭で勝てないなら、それらを凌ぐほどの力。

 だが現状で有利なのは“数”だ。


「判断力も、パワーも、速度も、悪くはない……だが足りない。なによりも……経験がな!」

「なにをぉ!」


 何度も振るわれる木刀に、慣れてきたオークが合わせていくが、グラハムは静かに息を吐く。


「だが、実戦経験なんざ無い方が良いか……!」


 そう呟くと、木刀を上に投げる。

 驚愕するオークと観衆たち、そんな驚愕をよそにグラハムは素早く軽く跳んで回転して蹴りを放つ。所謂ソバット、オークがよろめき後ろに下がるがグラハムは攻めを止めない。

 先ほど投げた木刀が落ちてきたところで持つと、そのまま切っ先をオークの鼻先に突きつける。


 一切の手加減はない。だが寸止めはこの戦いが殺し合いでないというグラハムの理解故の判断。

 その判断は正しいし、怪我をするよりよほど良い。

 だからこその寸止めだ、相手のオークは大人しく武器を落として両手を上げた。



 ―――そこまで!



 声が聞こえるとグラハムも木刀を下げる。

 木刀を肩にかついで笑みを浮かべるグラハム。理由としては勝てたことと、自分が刀無しでも十分に動けたと言うことの二つからだ。

 そうしていると目の前のオークと目が合う。斧を既に拾ったオークは爽やかに笑みを浮かべていた。


「俺の負けだ、凄いなお前」

「伊達に妙な異名を持ってないさ」

「異名?」


「気にするな」


 そう言ってからグラハムは木刀を持ったまま自分が入ってきた方へと向かう。


 木刀を棚にかけてから背中に剣、腰に刀を携えると、村長がそこにはいた。

 いつの間に降りてきたのかと思っていると手を伸ばされ、その差し出された手に手を重ねてグラハムは誘導のままにさきほど村長とオークの女性が上っていた場所の裏に来る。

 そこには台へと上がるための階段、そしてオークの女性。


「彼女は集落の長」


 オークの女性、長と呼ばれた彼女が静かに頭を下げるのでグラハムも同じく頭を下げる。

 グラハムは静かに片手を上げると、軽く髪をかきあげた。別に髪型が変わるわけでもないが、そうしてから二人の言葉を待つ。

 すると村長と長の二人は顔を見合わせて頷いた。


「グラハムくん、どうぞ上って?」


 村長の言葉に頷くと、階段を上がって台の上。そこからは闘技場とギャラリーたちを一望できた。

 所謂“なんとかは高い所が好き”ではないが、グラハム自身は高いところは嫌いでは無い。周囲を見渡せるというのは実に気持ちが良いことだ。

 ギャラリーたちから拍手喝采が飛ぶと、グラハムは微笑を浮かべつつ片腕を上げてそれに応える。


 ―――エンターテイメントの心得ぐらいあるさ。


「あら、思いのほか愛想が良いのね」

「エンターテイナーと言え」

「え、えんたーていなー?」


「なんでもない、役者ということだ」

「ああ、そうね……あなたの言葉遣いっていちいち演技臭いものね」


 笑いながらいう村長に、グラハムは微笑を浮かべると手を下げた。

 エルフやオークたちが話をしているのを見ると親睦試合というのも無駄ではなかったなと思う。グラハム自身、自分の実力を大体知れたのだから全てが全て無駄というわけではなかったのだろう。

 だがそれとエルフやオーク全体にとって無駄ではない、というのは大きく違う。


 その後、台から降りることなくグラハムは村長とオークの長から報奨金を受け取った。

 二人がなにか小難しいことを言い終えると、三人で台を降りて、裏でグラハムは背を伸ばす。

 首を回せばポキポキと音を慣らした。


「さて、この後は?」

「そりゃ親睦試合の勝者なんだからみんなの前に出てもらうわよ、それなりに話はしてもらわないと」

「うげぇ」


 さすがにこれにはグラハムもいぶかしげな表情で、嫌そうな声を出す。

 村長はニコニコ笑いながらグラハムの前を歩く。

 しかたがないので“わざと深いため息をついて”グラハムは彼女の後をついていった。


 観衆の前に出れば大声で戦いを讃えられる。


「良い戦いだったぜ!」

「すげぇ綺麗な動きしてたぞ!」

「凄い強いんだなあんた!」


 そんな沢山の声にグラハムは軽く片手を上げて応えた。

 面倒ながらもそんなことをしていると、グラハムにとってはもっと面倒なものがやってくる。

 すっかり見覚えができてしまった。名前と見かけが一致してしまう相手、だが溜息を吐くこともできずにグラハムは待つ。

 目の前で止まった彼女、アーニャはニコっと笑みを浮かべる。


「強いじゃないか貴様!」

「あ、ああ」


 正直グラハムは、少しどころか、かなり動揺した。いつも顔を合わせれば槍を向けてきた女がたった数日でここまで変わる者かと思ったが、悪いことではない。

 とりあえず心の中で無理矢理、目の前にいる“清々しく笑顔を浮かべる気持ち悪い”アーニャの存在を納得。

 まずは、軽く頷く。


「なに、伊達にお前に勝っていないさ」


 なんたって集落で四番目に強い女だ。その上三人と接戦だとしたら、彼女に圧勝できて先のオークに負ける可能性の方が低いだろう。

 ニコニコとしているアーニャをよそに、村長の方へと目を向けた。一つだけ気になることがあったからだ。

 だがそれより、アーニャが肩を叩く。


「ん?」

「うむ、お前は強い、さすが私が目を付けただけあるな!」


 どの口が言う。と思いたくもあるけどとりあえずグラハムは村長へと接近した。

 村長が丁度振り向いて眼が合うと、何を言いたいのか察してクスリと微笑を浮かべる。


「儲けは?」

「上々ね、案外割れたのよ……伊達に助っ人じゃないわね」


「助っ人外人に期待するようなもんか、使えなかったら袋叩きの……」


「な、なんの話?」

「なんでもない」


 そう言うと顎に手を当ててグラハムは数度頷く。

 とりあえず今回の依頼はこれで終了ということで、売上に貢献したのだから多少は報酬をふっかけても許されるというものだろう。


 グラハムは軽く笑いながら村長に話を始める。

 彼の話が続いていくにつれて額に汗を浮かべる村長、最終的に肩を落としてガックリとうなだれて頷いた時には、グラハムは嬉しそうに、不敵に笑みをこぼした。

 つまりは交渉成立、その後も上機嫌のまま親睦試合後の余韻に浸る。



 ―――せっかくだし土産でも買って帰ろう。




あとがき


あけましておめでとうございますー

新年初投降ってことで、もう2月になっちまいますが


なんでもないような普通の依頼の話、だったり!

キャラ掘り下げ回みたいなもんですかね

とりあえず次回はまた久しぶりな感じのキャラが、覚えてるかな?


ではまたー



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